作物病害 メモ帳 主に畑作物に寄生するネコブカビ類

作物の病害に関するメモ #コムギ #テンサイ #バレイショ #マメ類 #ソルガム #Polymyxa

テンサイのSyndrome Basses RichessesとRubbery Taproot Disease

2024-08-01 18:22:37 | 病害メモ

EUでは今シーズンのテンサイによる砂糖生産が厳しい状況であると、独立行政法人農畜産振興機構がホームページで伝えている(1)。その原因は古くから発生があったウイルスによる萎黄性病害とともにバクテリア様微生物(Bacterium-like organism)による糖含量低下症(Syndrome Basses Richesses、略してSBR)とファイトプラズマによるRubbery Taproot Disease(略してRTD)の発生も影響しているとしている。これらSBRとRTDについて筆者は初めて知った病害だったので、Webサイトや文献からメモを作成しました。

1.糖含量低下症(Syndrome Basses Richesses)
 英名のBasses Richessesは、”low sugar content”の意味のようである(2)。
・病原
 ‘Candidatus Arsenophonus phytopathogenicus’
 バクテリア様微生物(Bacteria-like organism、BLO)。なお「Candidatus」は暫定種の意味で特定の「科」などを示していない。バクテリア様微生物については、田中(2006)のイチゴ葉縁退緑病の解説に詳しい(3)。この病原体はバレイショにも感染し、葉の黄化症状やゴム状の塊茎を生じさせる(4)。

・ベクター
 Cixiidae Pentastiridius leporinus(ヒシウンカ科の昆虫)
 
・症状
 葉の黄化、奇形、維管束の褐変、糖分の減少。
 ※見やすい写真が載っているパンフレットは下記のWebサイトの「Technical Sheet」を参照してください↓
https://www.sesvanderhave.com/our-research-and-innovations/breeding-for-you/pests-and-diseases/sbr

・主な発生地域
 フランス、ドイツ、スイス

2.Rubbery Taproot Disease(和名不明)
・病原
 ‘Candidatus Phytoplasma solani’
 ファイトプラズマ(5)。

・ベクター
  Hyalesthes obsoletus、Reptalus quinquecostatus
R. cuspidatusも伝搬するが頻度が低く主要なベクターではないとされる (6)

・症状
 最初は気温が高い時間に葉がしおれる。その後、葉の黄化、古い葉の周囲からの壊死、最終的には葉の全体の壊死する。主根はしなびてゴムのようになり根系を欠いたものになる。主根の切片は健全のものと変わらず変色もない。主根の中には収穫まで至らないものもあり、腐りやすい。

・発生地域
 セルビア、恐らくブルガリア、ルーマニア

・reservoir plants(暫定的)(6)
 C . arvensis、Ambrosia artemisiifolia、Datura stramonium、Amaranthus retroflexus、Solanum nigrum、Chenopodium album、Sorghum halepense

引用文献等

(1) 独立行政法人 農畜産業振興機構 ホームページ
国際情報コーナー・海外情報(砂糖)
「欧州てん菜生産者団体、24/25年度の生産環境は厳しいものと予想(EU)」
https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003824.html
最終確認日:2024年6月5日
(2) Alberto Bressan & Federica Terlizzi & Rino Credi Independent Origins of Vectored Plant Pathogenic Bacteria from Arthropod-Associated Arsenophonus Endosymbionts Microb Ecol (2012) 63:628–638
https://link.springer.com/article/10.1007/s00248-011-9933-5
(3) 田中 穣 バクテリア様微生物によるイチゴ葉縁退緑病(新称)の発生 植物防疫60:579-582(2006)
(4) Sarah Christin Behrmann , André Rinklef , Christian Lang , Andreas Vilcinskas  and Kwang-Zin Lee Potato (Solanum tuberosum) as a New Host for Pentastiridius leporinus (Hemiptera: Cixiidae) and Candidatus Arsenophonus Phytopathogenicus.  Insects 14, 281 (2023)
(5) Živko Ćurčić, Jelena Stepanović, Christina Zübert, Ksenija Taški-Ajduković, Andrea Kosovac, Emil Rekanović, Michael Kube, and Bojan Duduk  Rubbery Taproot Disease of Sugar Beet in Serbia Associated with ‘Candidatus Phytoplasma solani’ Plant Disease 105:255-263 (2021)
(6) Andrea Kosovac , Živko Ćurčić , Jelena Stepanović, Emil Rekanović & Bojan Duduk  Epidemiological role of novel and already known ‘Ca. P. solani’ cixiid vectors in rubbery taproot disease of sugar beet in Serbia.  Scientific Reports 13:1433 (2023)

 


コムギ根内のPolymyxa graminis休眠胞子塊の観察方法

2024-05-28 22:50:02 | 実験法

I.材料の入手

・圃場の材料の採集時期(盛岡市と帯広市の場合)

 大藤・石黒(2004)が盛岡市の圃場で栽培したコムギの根を観察したところ、休眠胞子塊は4月中旬にはわずかしか検出されず、7月上旬には大量に検出された。これらのことから盛岡市では4月中旬以降に感染・増殖が活発化するとしている。

 この研究では調査が4月11日と7月8日しか行われていないため、いつから休眠胞子塊が頻繁に観察されるのかがわからないが、人工気象器(13℃)を用いた砂耕栽培試験(佐山2009)では出芽後6週目以降に多くの休眠胞子塊が観察されたことから、4月中旬から感染がはじまるとすれば、その6週後以降に根の採集を行うのが一つの目安になると思われる。

 単純に気温の条件を北海道帯広市に当てはめると、盛岡市の4月11日からの半旬平均値の平年値である8.1℃に近いのは、4月21日からの半旬の7.5℃と4月26日からの8.8℃である。盛岡市より2週間程度遅く感染が活発化するとすれば、6月上旬以降に採集するのが目安になる。

 

・人工気象器などで栽培する場合の採集方法

 栽培温度については、コムギ根へのP. graminisの侵入、増殖は地温が8℃以上で観察され、13~17℃で最も活発である(大藤・石黒2004)。Littlefieldら(1998)は、コムギを15~20℃で栽培した場合、定植後12~13日で変形体や未熟な遊走子のう、18~30日で遊走子のうや遊走子、25~30日で休眠胞子塊が普通に観察されるとしている。またLegreveら(1998)は、オオムギを使用した試験で15~18℃が感染に適しており、接種後46日以降に安定して観察されたとしている。

 これらの情報から、人工気象器でP. graminisの生育に適した条件で栽培する場合には、病土への定植後1ヵ月以上栽培後に採集するのが目安になると思われる。栽培条件としては、出芽するまでは作物の発芽に適した20℃程度に設定し、出芽が概ね揃ったのちは、13~15℃に変更する。同程度の温度でコムギ縞萎縮ウイルスも増殖できるが、症状は再現されないことが多い。

 砂耕栽培あるいは土壌と石英砂の混合土壌での栽培の場合には、潅水に水耕液を用いる。組成は阿部・玉田(1988)のテンサイそう根病の媒介者としてのP. betaeの増殖に用いた方法に準じる。この組成はテンサイそう根病の病徴が見やすいように主にNを減らしているが、私はコムギに用いる場合にはこの処方よりKNO3を若干多めにして作成している。砂耕栽培に用いる石英砂は最初に使用する前に酸で洗浄する必要があり、希塩酸(3%)で洗い、十分に水洗する。私は希塩酸に一晩漬けた後に水洗している。

 また、石英砂は発がん物質に指定されているので、扱うときにはマスクを着用し、作業後には手を洗う。

 

II.観察方法

作業の流れ

・お湯を沸かしておく(あればウオーターバスで90℃、なければなべ)

・固定液を作る

・根をきる

・根を固定液に入れる

・熱を加えて固定

・観察

 

1.根の切り方

(1) Polymyxaの存在を確認するだけのとき

 根を1cm程度の長さに切り、できるだけ根のあちこちからまんべんなく根を拾い、チューブに入れる。根を何本観察したか記録して、合計何cm分観察したか論文などに記載できるようにしておく。

 

(2) ある程度定量的に観察するとき

 植物が小さいときは、根の全量を約2mmに切り、全量をチューブに入れる。

 やや大きい時は、根を同様に切り、蒸留水を入れた50mLまたは100mLビーカーに入れる。この液をかき混ぜてから、必要量をピンセットでつまみ、チューブに入れる。

 圃場から採集したようなコムギの根の時は、労力に合わせて一部の根を2mmに切り、上記のように混合してからピンセットでつまんでチューブに入れる。

 

2.固定

〇固定液

ラクトグリセロール

乳酸875ml、グリセロール63ml

 水を加えて1Lとする。

※面倒くさい時は乳酸のみでも可

 

染色しないで観察するときは、上記のラクトグリセロールに漬けてから加熱して固定するか、急がないときは数日室温に置いて固定します。

よほど褐変がひどくない限りは、休眠胞子塊は無染色でも見えます。

微分干渉顕微鏡を使うと、見えやすいこともあります。

※加熱方法 チューブのふたを軽くして、90℃程度の湯せんで10分以上熱する。

 

形態を詳しく観察したい場合などに、染色して見る場合はラクトグリセロールに下記の色素のいずれか(好みで)を混合して染色液を作り、上記の処理を行います。ただし、染色液の濃度や時間に気を付けないと植物組織もろとも染まりすぎて、かえって見えにくくなることがあります。また、余裕があれば、染色処理後に色素が入っていないラクトグリセロールに入れ替えます。そのままだと植物組織もどんどん染まっていき、見えにくくなるためです。

・コットンブルー(1~0.5g/1L) 

・酸性フクシン(1g/1L)、

・トリパンブルー 1%水溶液を作り、乳酸またはラクトグリセロールで20倍に希釈する(0.05%液にする)。

 褐変がひどい場合は前処理として10%KOHに100℃で1時間加熱→水洗→1~2%塩酸に室温で数分間→水洗するなどを行うことによりある程度脱色させることもできますが、面倒です。

 

参考文献

阿部秀夫・玉田哲男 Polymyxa betae Keskin(テンサイそう根病のウイルス媒介者)の簡易接種・増殖法.てん菜研究会報29:34-38(1988)

Anne Legreve, Philippe Delfosse, Brigitte Vanpee, Andre Goffin and Henri Maraite

Differences in temperature requirements between Polymyxa sp. of Indian origin and Polymyxa graminis and Polymyxa betae from temperate areas.

European Journal of Plant Pathology 104: 195–205, (1998)

 

J. Littlefield, J. H. Whallon, P. J. Doss, Z. M. Hassan

Postinfection Development of Polymyxa graminis in Roots of Triticum aestivum

Mycologia, Vol. 90, No. 5 (Sep. - Oct., 1998), pp. 869-882 (14 pages)

 

大藤 泰雄・ 石黒 潔

コムギ縞萎縮ウイルス(WYMV)を保毒するPolymyxa graminis休眠胞子が圃場で増加する時期の推定

北日本病害虫研究会報55:59-63(2004)

 

佐山 充

試験管育苗法のコムギ縞萎縮病ベクターPolymyxa graminisへの応用

北日本病害虫研究会報60:30-34 (2009)


マメ科植物のウイルス病 ― Polymyxa graminisが媒介していると思われるピーナッツクランプ病、ダイズ縮葉モザイク病、ソラマメえそモザイク病の類似点、相違点(1)

2023-06-27 22:44:49 | 文献概要

0.はじめに
 植物に寄生する原生動物であるPolymyxa属には、P. graminisとP. betaeの2種があり、それぞれ主にイネ科とヒユ科(主にアカザ亜科)に感染し、植物病原ウイルスを媒介する。これらの概要は玉田・近藤(2014)にまとめられている。Polymyxaには、マメ科植物に感染するタイプがあり、ピーナッツクランプ病を媒介するものが良く知られているが、わが国での本病の発生の報告は無いと思われる。しかし、農林水産省は本病の病原ウイルスのうちIndian peanut clump virusが日本に侵入した場合には、宿主であるラッカセイ、トウモロコシ、コムギが広く栽培されていることから経済的な被害が想定されるとしている(農林水産省横浜防疫所 2020)。一方、近年、日本でマメ科植物のダイズとソラマメに発生したウイルス病の媒介にPolymyxaが関与している可能性が示されている(Kuroda et al. 2010、冨高ら 2014)。そのため、ピーナッツクランプ病とダイズやソラマメの病害の類似点、相違点について、Polymyxaの関与を中心に文献調査を行った。

 

1.ピーナッツクランプ病
 ピーナッツクランプ病は、1967年頃に西アフリカ(Thouvenelら1976、(Thouvenelら1974が最初の報告だがフランス語のために未読))、1977年にインド(Reddyら1979)で発生が報告され、それらの地域で発生しているウイルス病である。
西アフリカとインド亜大陸で発生しているピーナッツクランプ病の病原ウイルスは異なり、西アフリカのものはPeanut clump virus(PCV)(Thouvenelら 1976)、インド亜大陸のものはIndian peanut clump virus(IPCV)(Reddyら 1983)で、この2種でPecluvirus属を構成している。このあたりのウイルスの分類や性質については、玉田・近藤(2014)に詳しい。

 

1-1 PCVによるピーナッツクランプ病
 PCVは土壌(Thouvenel et al. 1976)および種子伝染(Thouvenel and Fauquet 1981)する。PCVはラッカセイ以外にgreat millet(S. arundinaceum)、コムギにも土壌伝染した(Thouvenel and Fauquet 1981)。
発生土壌に栽培されたSorghum cernuum (S. bicolor(ソルガム)のシノニム)、パンコムギ、デュラムコムギなどイネ科作物もPCVに感染し、感染植物の根にはP. graminisの休眠胞子が観察されたが、 ラッカセイの根には観察されなかった(Thouvenel and Fauquet 1981)。さらに発生土壌で栽培したgreat milletの根を洗浄したのち滅菌土壌に移植し、同じ土壌にラッカセイまたはgreat milletを播種した場合、両者ともPCVに感染した。逆に発生土壌で栽培したラッカセイを移植した土壌に、ラッカセイまたはgreat milletを播種した場合は両者とも感染しなかった。PCVに感染したgreat milletの根にはP. graminisが観察された。また、汁液接種したラッカセイを植えたコンテナに健全ラッカセイを栽培しても、健全ラッカセイはPCVに感染しなかった。さらにPCVに感染したラッカセイの葉を混合した土壌にラッカセイを栽培しても感染しなかった。これらの結果から、ラッカセイではウイルスを保毒したP. graminisはウイルスを伝搬するが、P. graminis自身は十分な生育ができず、休眠胞子が生成されない可能性があると考察している。ウイルスに関してもDieryckら(2009)は、PCVを含むpecluvirusは、本来ラッカセイのウイルスではなく、イネ科のウイルスでありラッカセイには日和見感染をしていると考えている。


 結局、Thouvenel and Fauquet (1981)の論文ではラッカセイの根にP. graminisが観察されておらず、ラッカセイに感染したP. graminisによる接種試験もできないため、ラッカセイへのPCV感染に対するP. graminisの関与は十分には証明されていない。現在では分子生物学的な手法によるP. graminisの検出が可能なので、そういった方法によってラッカセイから検出できるかもしれないし、私は把握していないが、それらの方法で検出した研究結果が発表されている可能性もある。直接的な証明にはならないが、ラッカセイ根へのP. graminis遊走子の着生の観察も行ってみたいところである。
 そもそもP. graminisがウイルスを媒介することをきちんと証明できている病害はそれほど多くはないらしい(Dieryckら2011)。P. graminisの遊走子を接種源としてウイルス伝搬を再現できたのはBarley yellow mosaic virusとsoilborne wheat mosaic virusのみとのことである。そのほかいろいろな方法、レベルでベクターとウイルスの関係が調べられているとのこと。

 

 

 


保存中の高温はインド由来のPolymyxa graminisの休眠胞子の感染ポテンシャルにとって好ましい

2022-07-03 12:00:19 | 文献概要

[マメ科に感染するPolymyxa属菌と媒介するウイルスに関する文献リスト(9)]

High temperature during storage favours infection potential of resting spores of

Polymyxa graminis of Indian origin

A LEGREVE, B VANPEE, P DELFOSSE and H MARAITE

Ann. appl. Biol. 134: 163-169 (1999)

 

☆ひとことメモ☆

 Polymyxa属菌は多くの土壌ウイルスを媒介しますが(少なくとも21種)、この媒介者であるPolymyxa属菌は、休眠胞子の状態で、土壌中で宿主が無い状態でも数年以上生存できます。そのため輪作などの耕種的手法による防除効果があまり期待できません。殺菌剤も土壌消毒をするタイプのものはありますが、土壌全体に処理する必要があるためコストがかかります。この論文では、土壌中のPolymyxaの検出感度を上げることに加え、生態的な防除法を開発するうえで基礎的なデータとなる休眠胞子の発芽に焦点をあて、捕捉植物を用いたバイオアッセイによる方法で保存中の温度による胞子の発芽への影響を調べています。その結果、熱帯地域で分離されたPolymyxaの休眠胞子は、低温より高温で保存したほうが発芽しやすくなることが明らかになりました。

 

summary

Indian peanut clump virus (IPCV) の伝搬に関与するPolymyxa graminisの休眠胞子塊の感染ポテンシャルを、種々の濃度の懸濁液を捕捉植物にさらし、感染した植物数を測定することにより評価した。風乾した接種源を30℃で保存した場合は、15℃や20℃で保存した休眠胞子塊よりも感染ポテンシャルが増大した。対照的に、休眠胞子塊を-20℃や凍結乾燥した場合は、感染ポテンシャルは減少した。これらの結果は、IPCVの伝搬に関与しているP.graminisは熱帯地域の環境に適応していることを裏付けた。保存温度のIndian peanut clump virusの発生生態への影響と、土壌中の媒介者の感染ポテンシャルの評価について論じられた。

 

イントロダクション

Polymyxa graminis Ledinghamは、インドと西アフリカのクランプ病の原因であるIndian peanut clump virus(IPCV)とPeanut clump virus(PCV)の土壌中の媒介者と考えられている。この絶対寄生性の根部内部寄生者は、イネ科の10種のウイルスの媒介者である。この種は形態的にはPolymyxa betaeと同じであるが、P. betaeはテンサイのウイルスの媒介者であり、宿主域が異なる。クランプ病の分布と重要性はここ20年で増加している。クランプ病の拡がりの理由はウイルスと媒介者の拡散と生存に関する研究によって調べることができる。PolymyxaはPlasmodiophorales(ネコブカビ目)に属し、宿主植物の根に形成され根が分解されたのちに土壌中に放出されるsporosori(休眠胞子塊)で土壌中に生存する。Polymyxaの胞子は堅い細胞壁を持ち微生物による分解、酵素処理、乾燥やその他の不利な条件に高い耐性を持っている。それらの(宿主植物不在条件下であっても)土壌中で長い持続性を示すことは、Polymyxaが伝搬するウイルスに起因する病害の発生生態において重要な役割を演じている。ウイルスのいくらかは媒介者の中で15年以上生存できる。クランプ病に関与するP.graminisは、発芽に特異的な刺激を必要とすることが示されている。インドにおいて、雨期の後に生育するラッカセイのクランプ病は、イネ科の作物に十分感染する感染源があったとしても無視できる。広い範囲の温度においてIPCVの汁液接種は病害を引き起こすことができる。雨期の後のシーズンの環境条件は媒介者によるラッカセイの感染を引き起こす傾向にはないと考えられ、ラッカセイはP.graminisの偶然の宿主であると考えられた。制御された条件において、PCVとIPCVの汚染土壌のP.graminisの感染ポテンシャルを評価しようとの試みは、捕捉植物の感染率が非常に低かったために、失敗した。さらに、P.graminisの単休眠胞子塊系統の作出の成功率はかなり低い。そのために休眠胞子の発芽を制御している因子の知識はP.graminisの検出、定量、増殖のために有用で、発生生態の研究や防除戦略の開発に必要である。

 ウイルス病の発生生態において重要であるにもかかわらず、休眠胞子塊の成熟と休眠胞子の発芽に関する実験は少ない。数人の著者がネコブカビ類の休眠胞子の発芽力と感染力への特異的な条件や処理について報告している。Plasmodiophora brassicae(根こぶ病菌)の胞子を希釈懸濁液にして4℃で維持した場合、発芽能力が減少した。Spongospora subterraneanについては、保存時間が増加するに従い土壌の感染力は減少した。Beemster & De Heij (1987)は、ウオーターバス中40℃30分処理は、P.betaeの休眠胞子の発芽を刺激したと報告した。Tuitert(1993)は、汚染土壌の保存状態がP.betaeのテンサイへの感染に与える効果を比較し、湿潤な土壌処理に比べて乾燥処理では感染性が低下し、室温の乾燥条件下で保存した土壌中の休眠胞子の発芽は湿潤で冷涼な条件で保存したものに比べて遅れた。IPCVの汚染地域では、ピーナッツクランプ病が最も厳しい7月から10月の雨季の前の、4月から6月の夏季の間は非常な干ばつと気温にさらされる。西アフリカのPCVの場合も同様に、干ばつは媒介者の発生生態に重要な役割を果たしていると思われる。象牙海岸では、Thouvenel & Fauquet(1980)が観察したように、P.graminisの増殖に最も適しているのは12月と7月で、乾燥した風が優勢なことによる気候条件の時である。P.graminisの感染ポテンシャルに及ぼす熱と干ばつの影響と、それらがこの病気の発生生態(epidemiology)をいかに調節しているか究明することは重要である。本論文では、IPCV発生地域から得られたP.graminisの休眠胞子塊の感染ポテンシャルに及ぼす保存温度の影響を決定するために行われた実験を報告する。

 

材料と方法

graminis strains 単休眠胞子塊分離系統11-1と11-20はインドのIPCV発生地域のソルガム根から分離され、ソルガムで増殖された、室温で乾燥した。

Storage conditions and preparation of the inoculum Exp 1では、11-20を室温と40℃で静置した。部分純化した休眠胞子塊の懸濁液を用いた。Exp 2では、11-20を2か月間室温で風乾したのち、20℃と45℃のインキュベーターに置いた。Exp 3では11-1を室温で15日間静置したのち、凍結乾燥後に室温保存、15℃、30℃、37℃、45℃、-20℃で75日間保存したのち、接種源として使用した。

Assessment of infection potential of sporosori 休眠胞子塊の感染ポテンシャルの測定は、Beemster & De Heij(1987)のP. betaeの検出方法に準じ、感染個体率によった。捕捉植物を休眠胞子塊懸濁液に浸し、27℃暗黒下で24-72時間遊走子に感染させた。この苗を砂耕栽培で25-30℃、5週間以上栽培後に顕微鏡で寄生を調査した。同様にMaraite, Goffart & Bastin(1988)の感染ポテンシャルを調査する方法も用いた。

Calculations and statistical analyses ペトリ皿中でのバイオアッセイでは、50%が感染する休眠胞子塊の濃度で感染ポテンシャルを示した。これは、休眠胞子塊の濃度と感染率から計算された。culture tube bioassayでは、最確値法で求めた感染単位で示した。

結果

Expt 1 I1-20系統を室温で12日間保存したのちに、植物根を休眠胞子塊の懸濁液に浸した場合は、24時間処理が最も感染率が高くなり、それ以降は低下した。休眠胞子塊濃度は高い方が感染率が高くなった。また、追加で25日間、40℃で保存した場合は、室温保存よりも高い感染率を示した。

Expt 2 この試験では同系統を8日目の苗に40時間接触させた。45℃で50日保存した休眠胞子塊は20℃の場合よりも感染ポテンシャルが高くなった。

 同じバッチの休眠胞子塊を20℃または45℃で35日間置いたものを5週間検定植物の根に接触させた。この場合も45℃の感染ポテンシャルが高くなった。

Expt 3 I1-1系統について30℃、37℃、45℃で75日間保存した休眠胞子塊を40時間検定植物に処理した場合は、15℃、-20℃よりも感染率が高くなった。-20℃は15℃よりも感染率が低くなった。凍結乾燥したのちに20℃で保存した場合は、さらに感染率が低くなった。

考察

 保存条件に関わらず検定植物をP. graminisの休眠胞子塊に24時間接触させた場合に確実で十分な感染が示された。このことから乾燥した休眠胞子塊の発芽プロセスと一次遊走子による根細胞への感染(少なくとも根細胞への着生)には24時間以下の湿潤条件が必要であった。これはTuitert(1993)が、検定植物は湿潤な汚染土壌に12―24時間暴露されることによりP. betaeの感染が生ずると報告していることと一致している。検定植物のソルガムへのP. graminisの短時間の接種にもかかわらず、感染した検定植物の割合は接種源の量に比較してかなり低かった。Tuitert &Bollen(1993)は同様に、P. betaeの接種源用の休眠胞子塊について感染性の休眠胞子の割合の低さを報告している。これは以下のように説明される、休眠胞子の成熟期によっては発芽する休眠胞子の割合が低いことや、遊走子による感染の効率が低いことなどである。一方で休眠胞子の発芽は3日以上の湿潤条件で広まる。感染ポテンシャルは植物が5週間休眠胞子にさらされると明らかに高くなった。これは、休眠胞子の発芽が時間とともに広がることを示している。休眠胞子の休眠状態あるいは成熟度合いは感染根の同じバッチ内においても異なっていた。Chen et al.(1998)らの、オオムギ根内のP. graminisの休眠胞子の発達の微細構造の研究では、休眠胞子塊のそれぞれの休眠胞子が異なるステージにあることは珍しいことではないと報告している。休眠が内因性か外因性の事象のどちらによって制御されているのかは分かっていない。しかし休眠胞子のageのような因子は、休眠胞子の成熟に影響することが報告されている。Macfarlane(1970)はPlasmodiophora brassicaeの休眠胞子において、損傷を受けていないこぶの若いものより腐敗した古いものの方がより早く発芽することを報告している。Expt 1の結果から、同じバッチの休眠胞子塊の25日間隔の調査で、追加で25日間室温で保存した場合は、感染ポテンシャルがやや減少した。この減少が活力(vitality)の喪失によるものか、休眠の増大によるものかをはっきりさせるために、さらなる実験が必要である。対照的に45℃で25日間の保存は、休眠胞子塊の感染ポテンシャルを増加させた。

 保存中の熱処理による感染ポテンシャルの増加は単純な休眠胞子の成熟の同期よりは成熟した胞子の割合の増加の結果と思われる。実際、熱処理の効果はExpt2において長い捕捉期間であっても明らかであった。インドのP. graminis分離株の休眠の打破と発芽の効果は、このPolymyxaの熱帯起源と関連付けることができた。われわれはすでにソルガム根由来のインドからのP. graminis系統は発達するために23℃以上の温度が必要で、27-30℃が最適であることを示している。これらの系統が分離されたエリアは半乾燥熱帯にあり、そこは日中の地温の平均が年間を通じて変化し(18℃~36℃)、雨期の前の3ヵ月は比較的高くなっている(26℃~36℃)。この時期の最も日が照る時間帯には、恐らく地温は45℃(40-50℃)に達している。病気が起こるのは主にこの暑く乾燥する時期の後の雨季に播種されたときで、一方雨季のあとの比較的低い気温(18-26℃)の潅漑で生育している時は無視できる程度の発生となる。クランプ病の発生生態はベクターの生態的な要求と関連している。高い保存温度は本当に熱帯分離株に対する特異的な効果なのか?Polymyxaの温帯分離株の休眠胞子の発芽に対する、比較的高い温度での保存の影響についてはほとんど知られていない。Beemster &De Heij(1987)は、土壌のウオーターバス中での40℃30分処理が、P. betaeの休眠胞子の発芽を刺激することを報告している。Tuitert(1993)は、5℃または-18℃で42週間保存した保毒休眠胞子を48時間捕捉植物のテンサイに接種すると、そう根病ウイルスに感染したことを示した。ベルギーのbarley yellow mosaic virus(オオムギ縞萎縮ウイルス)を保毒しているP. graminisの感染ポテンシャルについて、試験前に汚染土壌を4℃または18℃で保存し、60℃の乾熱処理20時間を実施またはしない場合において、有意な差が無いことが観察された。以前の研究において、フランスで分離されオオムギで増殖したP. graminisの保存温度による発芽への影響の調査では、休眠胞子を1週間にわたって、-18℃、22℃、37℃、50℃保存し、96時間植物に接種した場合に、すべての植物は感染した。これらのすべてのデータは、インドのP. graminis分離株と同様に、より涼しい地域のP. graminisやP. betae分離株は、それらが生育に必要な温度を越えてインキュベートしても、発芽が可能であることを示した。しかし、インド株とは対照的に、これらのP. graminisとP. betae株は低温で保存した後でも捕捉植物に感染可能であった。熱帯から分離されたP. graminisの低温と凍結乾燥への感受性を示唆している。種々の地域からの多数のPolymyxa分離株について、このような見地からの研究の必要性がある。乾燥状態での保存は、生存に対して土壌中の微生物の影響を最小化した。温度は、休眠胞子のタンパク質や脂質、酵素の触媒作用の立体配座の変化を誘導することが示されている。一方、Ciafardini & Marotta(1988、1989)とChen et al.(1988)は、P. betaeとP. graminisの休眠胞子の成熟中の細胞壁には形態的な変化が起こることを明らかにし、それは休眠胞子の発芽に影響を与えると推察した。これらの変化は温度によって影響を受ける。休眠胞子の生理的、形態的な変化についてはこの研究の範囲を越えているが、Polymyxa sppの休眠胞子の休眠と発芽の間に生じるプロセスを理解するために研究することが必要である。

 熱帯土壌のP. graminisとIPCVの感染ポテンシャルの評価に関連して、われわれが得た結果は、1か月間30℃の土壌の培養によって捕捉法は改善されうることを示した。インドにおける先の測定では、IPCV汚染土壌の連続した希釈物で栽培した捕捉植物のソルガムを用いて、室温(約25℃)で保存したサンプルより38℃で6週間保存したものの方が高い水準で検出されることが示された。今後の測定は、土壌中のウイルスとベクターの感染ポテンシャルの定量方法を改良し、土壌の感染ポテンシャルの測定における暖かい温度での土壌の保存の効果を確認する。

 

 

 


総説 二つのピーナッツクランプ病の病原ウイルス、媒介生物、防除法などについての概説

2022-04-19 21:00:48 | 文献概要

[マメ科に感染するPolymyxa属菌と媒介するウイルスに関する文献リスト(8)]
Title: Seed, soil and vegetative transmission contribute to the spread of pecluviruses in Western Africa and the Indian sub-continent
Author: B. Dieryck, G. Otto, D. Doucet, A. Legrève, P. Delfosse, C. Bragard
Journal: Virus Research 141 (2009) 184–189

★ひとこと★
 ピーナッツクランプ病に関する総説である。西アフリカやインドでラッカセイに発生しているピーナッツクランプ病(日本では発生していないとされている)の本来の宿主はラッカセイではなくイネ科植物であり、ラッカセイには日和見感染をしていると推察している。この病害は土壌伝染の他に種子伝染もするため拡散しやすく持続的な病害である。汚染種子の使用や農業機械の利用による汚染圃場の拡大を防ぐことが必要である。
 
Summary
 peanut clump と sugarcane red leaf mottle diseasesは、Pecluviurs属に属するウイルスが病原である。Indian peanut clump virusはインド亜大陸で、Peanut clump virusは西アフリカで発生している。これらのウイルスの特徴は、種子と土壌で伝染することである。どちらの方法も長期間の持続と圃場への拡がりに貢献している。
pearl millet(トウジンビエ)の種子伝染のデータ、植物中のウイルス移行、RNA-1の部分的なシークエンスによるウイルスの多様性が示された。この研究が強調するのは、pecluvirusがソルガムとpearl milletに感染する穀類のウイルスでもあり、これらの作物の栽培とウイルスの分布との相関である。pecluvirusとそのベクターのPolymyxa graminisの防除の方法として、ウイルスの伝搬経路を考慮することを提案した。

Introduction
Peanut clump とsugarcane red leaf mottleは、西アフリカとインド亜大陸で発生している地域特有の病害である。アフリカで発生しているPeanut clump virusとインドで発生しているIndian peanut clump virusは近縁種でPecluviurs属に所属する。clumpもred leaf mottle病も1920年代から知られており、原因となるウイルスについてはここ30年で詳しく特徴が調べられている。
Peanut clump 病は、多様な症状のため、たびたびGroundnut rosette assistor virusやGroundnut rosette virusによるgroundnut rosette病と混同された。濃い緑色を伴うクランプ(茂み)症状から、退緑斑、すじ、葉脈黄化、モットル(まだら)、明るいモザイクなどの症状が生じるが、植物の生育に伴い減少することもしないこともある。ウイルスはたびたび無病徴の植物にも存在する。microprecipitation(微量沈降試験)、ISEM(免疫捕捉電子顕微鏡法)、DAS-ELISA法を用いたウイルスの検出と同定のためにモノクローナルとポリクローナル抗体が開発された。この方法によって、アフリカとインドにおいて異なる血清型や血清グループが区別された。pecluvirusの宿主範囲はラッカセイとサトウキビ以外に広く存在する。さらに、穀類の種子伝染は、土壌中の伝染源の増大における重要性において、原生動物伝搬性の土壌伝染性ウイルスのユニークな特徴となっている。clump病はベクターのPolymyxa graminisの長期間の生存と宿主植物の抵抗性の欠如を別にすれば、生産者にとって深刻なことにはなっていない。最近の報告や調査ではこの病害の経済的な重要性は局地的に残っていることを強調している。
 この研究では、ウイルスの多様性、宿主植物における伝搬と移行に関するデータと新しい知見に基づいて、流行を助長する条件に関して種子と土壌伝染の役割を分析した。病害の拡散を防ぐシンプルな手段を提案した。

2. Pecluviruses
 peanut clump virusesは、Pecluvirus属に属しているが、かつては広義のFurovirusに属すると考えられていた。pecluvirusを他のウイルスと識別する基準は種子伝染、高いコートプロテインの多様性、読み過ごしタンパク質の欠如である。pecluvirusesのゲノムは分節しており、二つのpositive-sense(プラス鎖)、一本鎖のRNAから構成されている。RNA-1は6000 nt長でhelicaseとpolymeraseの機能をコードし、さらに恐らく種子伝染に関与する、転写後のジーンサイレンシングサプレッサーとして働く小型のシステインリッチタンパク質もコードする。P15タンパク質は、サブゲノムRNAによって発現される。RNA-2は4200n長で、コートプロテイン遺伝子、P. graminisによる伝搬に関与していると考えられているP39タンパク質、ウイルスの細胞間移行に関与しているtriple gene block(TGB)などのような構造タンパク質と非構造タンパク質をコードしている。P39は開始コドンの読みすごしによって発現され、サブゲノムRNAはTGBタンパク質の発現のために産生される。
 どちらのRNAも非翻訳領域が配置されている。3’末端の非翻訳領域はT-RNA様の構造を形成し、どちらのRNAにも保存されている。これは、複製を含むウイルスの機能に関与し、先端の「valylatability」の多様化によって示されている。2種のclump virusはコートプロテイン遺伝子の違いによって区別される。コートプロテインの知られている配列には高い多様性があり、それはいくつかの血清型による識別によっても確認されている。

3. Soil-borne transmission by Polymyxa graminis
 IPCVとPCVはPlasmodiophorales(ネコブカビ目)に分類される根への内部寄生性の絶対寄生性生物である。P.graminisは、Benyvirus、Bymovirus、Furovirus、Pecluvirus属の少なくとも15種のウイルスを伝搬する。P.graminisの5種の分化型が、ベルギー、カナダ、コロンビア、中国、フランス、ドイツ、インド、パキスタン、セネガル、英国の分離株のITS領域の塩基配列によって識別されている。これらの分化型は特徴的な生態的な特性と地理的な分布によっても特徴付けられている。
 pecluvirusesを媒介する分化型は、P.graminis f. sp. tropicalisとP.graminis f. sp. subtropicalisで、pearl millet、ソルガム、サトウキビの根に重い感染を引き起こす。これらの単子葉植物の種はベクターと保持するウイルスの増殖に良く適応しており、それらの作物がPCVやIPCV汚染土壌で栽培されると、ウイルスの感染源が増加する。対照的にラッカセイはそのような増殖をサポートしておらず、Polymyxaにとって不十分な宿主になっている。感染したときに多くのpearl milletやソルガム品種が無症状なのは、他のPolymyxa媒介ウイルスのようにはイノキュラムの増強が明らかではないことを意味している。
土壌中のP.graminis休眠胞子の生存能力は、汚染土壌のウイルスの生存を確実にし、宿主植物が存在しない土壌での長期間の感染源の持続を許している。さらに耕うんや灌漑による拡散と同様に、土壌中での生存能力がpeanut clump病の圃場での拡散に貢献している。これはBeet necrotic yellow vein virusを含む他のPolymyxa媒介ウイルスにも明らかで、好適な条件下では、長い期間をかけて土壌中の感染源を蓄積させていく。P.graminisのイノキュラムポテンシャルは、適温(23-30℃)、土壌水分、適した宿主(pearl millet、ソルガム)との組み合わせにより増加する。
P.graminisによるウイルスの獲得と伝搬についてはほとんど分かっていない。ウイルスフリーのP.graminis f sp. tropicalisを種子感染したpearl milletに接種し、制御環境下でPCV-Niの獲得と伝搬を証明した。

4. Seed transmission and vegetative propagation
 いくつかのマメ科のウイルスを含む例外があるが、植物ウイルスの種子伝染はまれである。イネ科のウイルスの種子伝染については、Barley stripe masaic virusを除けば、種子伝染率はやや低い。IPCVとPCVは種子で伝搬される。伝搬率は感染時のラッカセイの品種、感染の状況、齢によって異なる。伝搬率は土壌中からの伝搬では24%以下で、種子を通じては50%を超える。種子を通した伝搬は、植物の生育シーズンの前半に感染した場合に比べて、後半に感染した植物の場合は低い。イネ科の作物(pearl millet, finger millet, foxtail millet, トウモロコシ、コムギ)は、2%未満とかなり低く、伝搬を証明するのは難しい。それでも低率であってもウイルスの拡散に意味のある貢献がある。興味深いことに、ソルガム品種は根から芽へのウイルスの移動に抵抗性を示す。今まで、ソルガムでは種子伝染は証明されていない。
 12系統のpearl milletのPCVの種子伝染を、自然条件と制御条件下で評価したところ、16208の種子のうちわずか127(0.8%)がPCV-Nで陽性だった。この研究は以前にIPCVで示されたことを、PCVのpearl milletにおける種子伝染でも確認した。調査した品種の伝搬率の大きな変異が明らかにされ、種子伝染における抵抗性の選抜の余地が示唆された。これらの結果は、Pea seed-borne mosaic virusやBSMVを含む種子伝染性ウイルスから得られたことと同様であった。とりわけpearl millet品種BCP-16のPCVへの種子伝染抵抗性は、IPCVに対しても確認されれば、両ウイルスに対する種子伝染を阻止することができるpearl milletの育種に利用できるだろう。植物内のウイルスの分布の研究が示したのは、観察された抵抗性は他のイネ科の植物のといくぶん似ており、植物内の長期間のウイルスの移動に影響し、とりわけ花序が作られる成長点の頂部への移行に影響していることである。PCVは種子伝染で苗の根端部の92.8%から検出され、ウイルスの拡散への役割への懸念を高めた。種子伝染率の0~4.3%という範囲が記録され、系統による差は有意であった。
 種子伝染した植物において、PCVは有意な伝搬率の変化なしに次の世代に伝搬させる。これは、ウイルスの感染源は、P.graminisが存在しなくても、種子内のストックとして数シーズンのあいだ低レベルではあるが維持されることを示唆している。pearl milletの品種ICMH9804の8の花序から得られた1600の苗の試験により、花序の中の種子の位置によって伝搬率に有意な違いがあることが認められた。種子伝染率は花序の上部2/3が1.2%と1.0%、下部の1/3はわずか0.1%で有意に異なり、花序の構造が種子中のウイルスの分布に影響している可能性が推察された。

5 Virus distribution
 Peanut clump viruses(PCV)は、西アフリカとインド亜大陸に広く分布している。IPCVは、パキスタンとインドの4州で発生しており、少なくとも3の異なる血清型が存在している。IPCVは西アフリカの9の国でも発生しており、5の血清型が存在する。もっぱらこの病害は地域に特有で、通常、ラッカセイやサトウキビ圃場で部分的なパッチ状に発生している。
 pecluvirusの利用できるRNA-1とRNA-2の塩基配列に基づいた系統発生学的解析によれば、クラスターは地理的な起源になっている。IPCVの血清型または系統は、クラスターになっている。西アフリカにおいては、二つのはっきりとしたクラスターが見られる。一つのグループは主にマリの系統からなり、ニジェール系統の注目すべき例外を含んでいる。二つめは、RNA-1のP-15とRNA-2のシークエンスを統合して解析したときに明らかとなる、セネガルとブルキナファソで収集された系統からなる。
 pearl milletとソルガムが生育している地域とpeanut clumpが見いだされる地域の地図を重ね合わせると、明瞭な合致が明らかになる。そのようなデータはアフリカやインドにおいて長期間にわたりこれらのイネ科植物とウイルスが結びついているとの考え方を支持する。流行が生じるためには、ベクターのP.graminisが存在し、若い植物から植物への分散が促進される十分な水分が圃場に存在するか、病原を高率でコンタミをしているラッカセイの種子を用いるかを含む、好適な条件が同時に生じる必要がある。ウイルスとベクターにとって好適な宿主の相対的な寄与については、Delfosse(2000)とLegreve et al.(1996、2000)で強調されており、Fig. 5に要約されている。

6 Disease management
 IPCVとPCVの情報はここ30年でかなり増加している。今、明らかになったことはpecluvirusesはラッカセイのウイルスではなく、イネ科のウイルスでありラッカセイには日和見感染をしていると考えらることである。これらのウイルスの防除が難しいのは、種子でも土壌でも伝搬でき、切断されたサトウキビ茎(さし木用)やイネ科雑草の地下茎で無性的に増殖できるためである。それぞれの宿主植物に対する両方法の伝搬の機作を正確に理解することは、病害の正確な管理と防除に導くものである。機械による整地や灌漑の増加は、pecluvirusesの伝染病の進展に寄与する因子であり、P.graminisとウイルスによる圃場における病害の影響と拡がりを強める。そのため、すでに発生している圃場では、それらの使用は制限するべきである。もしコストのかかる種子の健全化プログラムを設立するなら、代わりに種子伝染に対して抵抗性のpearl milletの育成、ラッカセイの種子やサトウキビの挿し木用の茎の生産を病害が発生していない地域で行うことなどがこの病害の進展や拡散を軽減すると考えられる。pearl milletのP.graminisに対する抵抗性のスクリーニングは、品種による違いを示し、Legreveら2000で報告されたソルガムの場合と同様であった。花序の下部1/3からpearl milletの種子を採種するという農家に対するシンプルなアドバイスと、PCV汚染区画からのラッカセイの種子の採種を避けることは有益である。
 病害の拡散を防ぐそれらの方法は理想的には、Delfosse 2000で提案されているように代替作物と組み合わせるべきである。それにはおとり作物の栽培とPolymyxaの宿主以外のヒマワリやカラシナなどによる適切な輪作を含む。イネ科植物による長期の休閑栽培の土壌中のイノキュラムの増大への寄与は、病害の循環におけるその正確な役割の評価のために研究されなければならない