作物病害 メモ帳 主に畑作物に寄生するネコブカビ類

作物の病害に関するメモ #コムギ #テンサイ #バレイショ #マメ類 #ソルガム #Polymyxa

保存中の高温はインド由来のPolymyxa graminisの休眠胞子の感染ポテンシャルにとって好ましい

2022-07-03 12:00:19 | 文献概要

[マメ科に感染するPolymyxa属菌と媒介するウイルスに関する文献リスト(9)]

High temperature during storage favours infection potential of resting spores of

Polymyxa graminis of Indian origin

A LEGREVE, B VANPEE, P DELFOSSE and H MARAITE

Ann. appl. Biol. 134: 163-169 (1999)

 

☆ひとことメモ☆

 Polymyxa属菌は多くの土壌ウイルスを媒介しますが(少なくとも21種)、この媒介者であるPolymyxa属菌は、休眠胞子の状態で、土壌中で宿主が無い状態でも数年以上生存できます。そのため輪作などの耕種的手法による防除効果があまり期待できません。殺菌剤も土壌消毒をするタイプのものはありますが、土壌全体に処理する必要があるためコストがかかります。この論文では、土壌中のPolymyxaの検出感度を上げることに加え、生態的な防除法を開発するうえで基礎的なデータとなる休眠胞子の発芽に焦点をあて、捕捉植物を用いたバイオアッセイによる方法で保存中の温度による胞子の発芽への影響を調べています。その結果、熱帯地域で分離されたPolymyxaの休眠胞子は、低温より高温で保存したほうが発芽しやすくなることが明らかになりました。

 

summary

Indian peanut clump virus (IPCV) の伝搬に関与するPolymyxa graminisの休眠胞子塊の感染ポテンシャルを、種々の濃度の懸濁液を捕捉植物にさらし、感染した植物数を測定することにより評価した。風乾した接種源を30℃で保存した場合は、15℃や20℃で保存した休眠胞子塊よりも感染ポテンシャルが増大した。対照的に、休眠胞子塊を-20℃や凍結乾燥した場合は、感染ポテンシャルは減少した。これらの結果は、IPCVの伝搬に関与しているP.graminisは熱帯地域の環境に適応していることを裏付けた。保存温度のIndian peanut clump virusの発生生態への影響と、土壌中の媒介者の感染ポテンシャルの評価について論じられた。

 

イントロダクション

Polymyxa graminis Ledinghamは、インドと西アフリカのクランプ病の原因であるIndian peanut clump virus(IPCV)とPeanut clump virus(PCV)の土壌中の媒介者と考えられている。この絶対寄生性の根部内部寄生者は、イネ科の10種のウイルスの媒介者である。この種は形態的にはPolymyxa betaeと同じであるが、P. betaeはテンサイのウイルスの媒介者であり、宿主域が異なる。クランプ病の分布と重要性はここ20年で増加している。クランプ病の拡がりの理由はウイルスと媒介者の拡散と生存に関する研究によって調べることができる。PolymyxaはPlasmodiophorales(ネコブカビ目)に属し、宿主植物の根に形成され根が分解されたのちに土壌中に放出されるsporosori(休眠胞子塊)で土壌中に生存する。Polymyxaの胞子は堅い細胞壁を持ち微生物による分解、酵素処理、乾燥やその他の不利な条件に高い耐性を持っている。それらの(宿主植物不在条件下であっても)土壌中で長い持続性を示すことは、Polymyxaが伝搬するウイルスに起因する病害の発生生態において重要な役割を演じている。ウイルスのいくらかは媒介者の中で15年以上生存できる。クランプ病に関与するP.graminisは、発芽に特異的な刺激を必要とすることが示されている。インドにおいて、雨期の後に生育するラッカセイのクランプ病は、イネ科の作物に十分感染する感染源があったとしても無視できる。広い範囲の温度においてIPCVの汁液接種は病害を引き起こすことができる。雨期の後のシーズンの環境条件は媒介者によるラッカセイの感染を引き起こす傾向にはないと考えられ、ラッカセイはP.graminisの偶然の宿主であると考えられた。制御された条件において、PCVとIPCVの汚染土壌のP.graminisの感染ポテンシャルを評価しようとの試みは、捕捉植物の感染率が非常に低かったために、失敗した。さらに、P.graminisの単休眠胞子塊系統の作出の成功率はかなり低い。そのために休眠胞子の発芽を制御している因子の知識はP.graminisの検出、定量、増殖のために有用で、発生生態の研究や防除戦略の開発に必要である。

 ウイルス病の発生生態において重要であるにもかかわらず、休眠胞子塊の成熟と休眠胞子の発芽に関する実験は少ない。数人の著者がネコブカビ類の休眠胞子の発芽力と感染力への特異的な条件や処理について報告している。Plasmodiophora brassicae(根こぶ病菌)の胞子を希釈懸濁液にして4℃で維持した場合、発芽能力が減少した。Spongospora subterraneanについては、保存時間が増加するに従い土壌の感染力は減少した。Beemster & De Heij (1987)は、ウオーターバス中40℃30分処理は、P.betaeの休眠胞子の発芽を刺激したと報告した。Tuitert(1993)は、汚染土壌の保存状態がP.betaeのテンサイへの感染に与える効果を比較し、湿潤な土壌処理に比べて乾燥処理では感染性が低下し、室温の乾燥条件下で保存した土壌中の休眠胞子の発芽は湿潤で冷涼な条件で保存したものに比べて遅れた。IPCVの汚染地域では、ピーナッツクランプ病が最も厳しい7月から10月の雨季の前の、4月から6月の夏季の間は非常な干ばつと気温にさらされる。西アフリカのPCVの場合も同様に、干ばつは媒介者の発生生態に重要な役割を果たしていると思われる。象牙海岸では、Thouvenel & Fauquet(1980)が観察したように、P.graminisの増殖に最も適しているのは12月と7月で、乾燥した風が優勢なことによる気候条件の時である。P.graminisの感染ポテンシャルに及ぼす熱と干ばつの影響と、それらがこの病気の発生生態(epidemiology)をいかに調節しているか究明することは重要である。本論文では、IPCV発生地域から得られたP.graminisの休眠胞子塊の感染ポテンシャルに及ぼす保存温度の影響を決定するために行われた実験を報告する。

 

材料と方法

graminis strains 単休眠胞子塊分離系統11-1と11-20はインドのIPCV発生地域のソルガム根から分離され、ソルガムで増殖された、室温で乾燥した。

Storage conditions and preparation of the inoculum Exp 1では、11-20を室温と40℃で静置した。部分純化した休眠胞子塊の懸濁液を用いた。Exp 2では、11-20を2か月間室温で風乾したのち、20℃と45℃のインキュベーターに置いた。Exp 3では11-1を室温で15日間静置したのち、凍結乾燥後に室温保存、15℃、30℃、37℃、45℃、-20℃で75日間保存したのち、接種源として使用した。

Assessment of infection potential of sporosori 休眠胞子塊の感染ポテンシャルの測定は、Beemster & De Heij(1987)のP. betaeの検出方法に準じ、感染個体率によった。捕捉植物を休眠胞子塊懸濁液に浸し、27℃暗黒下で24-72時間遊走子に感染させた。この苗を砂耕栽培で25-30℃、5週間以上栽培後に顕微鏡で寄生を調査した。同様にMaraite, Goffart & Bastin(1988)の感染ポテンシャルを調査する方法も用いた。

Calculations and statistical analyses ペトリ皿中でのバイオアッセイでは、50%が感染する休眠胞子塊の濃度で感染ポテンシャルを示した。これは、休眠胞子塊の濃度と感染率から計算された。culture tube bioassayでは、最確値法で求めた感染単位で示した。

結果

Expt 1 I1-20系統を室温で12日間保存したのちに、植物根を休眠胞子塊の懸濁液に浸した場合は、24時間処理が最も感染率が高くなり、それ以降は低下した。休眠胞子塊濃度は高い方が感染率が高くなった。また、追加で25日間、40℃で保存した場合は、室温保存よりも高い感染率を示した。

Expt 2 この試験では同系統を8日目の苗に40時間接触させた。45℃で50日保存した休眠胞子塊は20℃の場合よりも感染ポテンシャルが高くなった。

 同じバッチの休眠胞子塊を20℃または45℃で35日間置いたものを5週間検定植物の根に接触させた。この場合も45℃の感染ポテンシャルが高くなった。

Expt 3 I1-1系統について30℃、37℃、45℃で75日間保存した休眠胞子塊を40時間検定植物に処理した場合は、15℃、-20℃よりも感染率が高くなった。-20℃は15℃よりも感染率が低くなった。凍結乾燥したのちに20℃で保存した場合は、さらに感染率が低くなった。

考察

 保存条件に関わらず検定植物をP. graminisの休眠胞子塊に24時間接触させた場合に確実で十分な感染が示された。このことから乾燥した休眠胞子塊の発芽プロセスと一次遊走子による根細胞への感染(少なくとも根細胞への着生)には24時間以下の湿潤条件が必要であった。これはTuitert(1993)が、検定植物は湿潤な汚染土壌に12―24時間暴露されることによりP. betaeの感染が生ずると報告していることと一致している。検定植物のソルガムへのP. graminisの短時間の接種にもかかわらず、感染した検定植物の割合は接種源の量に比較してかなり低かった。Tuitert &Bollen(1993)は同様に、P. betaeの接種源用の休眠胞子塊について感染性の休眠胞子の割合の低さを報告している。これは以下のように説明される、休眠胞子の成熟期によっては発芽する休眠胞子の割合が低いことや、遊走子による感染の効率が低いことなどである。一方で休眠胞子の発芽は3日以上の湿潤条件で広まる。感染ポテンシャルは植物が5週間休眠胞子にさらされると明らかに高くなった。これは、休眠胞子の発芽が時間とともに広がることを示している。休眠胞子の休眠状態あるいは成熟度合いは感染根の同じバッチ内においても異なっていた。Chen et al.(1998)らの、オオムギ根内のP. graminisの休眠胞子の発達の微細構造の研究では、休眠胞子塊のそれぞれの休眠胞子が異なるステージにあることは珍しいことではないと報告している。休眠が内因性か外因性の事象のどちらによって制御されているのかは分かっていない。しかし休眠胞子のageのような因子は、休眠胞子の成熟に影響することが報告されている。Macfarlane(1970)はPlasmodiophora brassicaeの休眠胞子において、損傷を受けていないこぶの若いものより腐敗した古いものの方がより早く発芽することを報告している。Expt 1の結果から、同じバッチの休眠胞子塊の25日間隔の調査で、追加で25日間室温で保存した場合は、感染ポテンシャルがやや減少した。この減少が活力(vitality)の喪失によるものか、休眠の増大によるものかをはっきりさせるために、さらなる実験が必要である。対照的に45℃で25日間の保存は、休眠胞子塊の感染ポテンシャルを増加させた。

 保存中の熱処理による感染ポテンシャルの増加は単純な休眠胞子の成熟の同期よりは成熟した胞子の割合の増加の結果と思われる。実際、熱処理の効果はExpt2において長い捕捉期間であっても明らかであった。インドのP. graminis分離株の休眠の打破と発芽の効果は、このPolymyxaの熱帯起源と関連付けることができた。われわれはすでにソルガム根由来のインドからのP. graminis系統は発達するために23℃以上の温度が必要で、27-30℃が最適であることを示している。これらの系統が分離されたエリアは半乾燥熱帯にあり、そこは日中の地温の平均が年間を通じて変化し(18℃~36℃)、雨期の前の3ヵ月は比較的高くなっている(26℃~36℃)。この時期の最も日が照る時間帯には、恐らく地温は45℃(40-50℃)に達している。病気が起こるのは主にこの暑く乾燥する時期の後の雨季に播種されたときで、一方雨季のあとの比較的低い気温(18-26℃)の潅漑で生育している時は無視できる程度の発生となる。クランプ病の発生生態はベクターの生態的な要求と関連している。高い保存温度は本当に熱帯分離株に対する特異的な効果なのか?Polymyxaの温帯分離株の休眠胞子の発芽に対する、比較的高い温度での保存の影響についてはほとんど知られていない。Beemster &De Heij(1987)は、土壌のウオーターバス中での40℃30分処理が、P. betaeの休眠胞子の発芽を刺激することを報告している。Tuitert(1993)は、5℃または-18℃で42週間保存した保毒休眠胞子を48時間捕捉植物のテンサイに接種すると、そう根病ウイルスに感染したことを示した。ベルギーのbarley yellow mosaic virus(オオムギ縞萎縮ウイルス)を保毒しているP. graminisの感染ポテンシャルについて、試験前に汚染土壌を4℃または18℃で保存し、60℃の乾熱処理20時間を実施またはしない場合において、有意な差が無いことが観察された。以前の研究において、フランスで分離されオオムギで増殖したP. graminisの保存温度による発芽への影響の調査では、休眠胞子を1週間にわたって、-18℃、22℃、37℃、50℃保存し、96時間植物に接種した場合に、すべての植物は感染した。これらのすべてのデータは、インドのP. graminis分離株と同様に、より涼しい地域のP. graminisやP. betae分離株は、それらが生育に必要な温度を越えてインキュベートしても、発芽が可能であることを示した。しかし、インド株とは対照的に、これらのP. graminisとP. betae株は低温で保存した後でも捕捉植物に感染可能であった。熱帯から分離されたP. graminisの低温と凍結乾燥への感受性を示唆している。種々の地域からの多数のPolymyxa分離株について、このような見地からの研究の必要性がある。乾燥状態での保存は、生存に対して土壌中の微生物の影響を最小化した。温度は、休眠胞子のタンパク質や脂質、酵素の触媒作用の立体配座の変化を誘導することが示されている。一方、Ciafardini & Marotta(1988、1989)とChen et al.(1988)は、P. betaeとP. graminisの休眠胞子の成熟中の細胞壁には形態的な変化が起こることを明らかにし、それは休眠胞子の発芽に影響を与えると推察した。これらの変化は温度によって影響を受ける。休眠胞子の生理的、形態的な変化についてはこの研究の範囲を越えているが、Polymyxa sppの休眠胞子の休眠と発芽の間に生じるプロセスを理解するために研究することが必要である。

 熱帯土壌のP. graminisとIPCVの感染ポテンシャルの評価に関連して、われわれが得た結果は、1か月間30℃の土壌の培養によって捕捉法は改善されうることを示した。インドにおける先の測定では、IPCV汚染土壌の連続した希釈物で栽培した捕捉植物のソルガムを用いて、室温(約25℃)で保存したサンプルより38℃で6週間保存したものの方が高い水準で検出されることが示された。今後の測定は、土壌中のウイルスとベクターの感染ポテンシャルの定量方法を改良し、土壌の感染ポテンシャルの測定における暖かい温度での土壌の保存の効果を確認する。