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ヒント1:必須アミノ酸を含む良質なたんぱく質を5~7gプラス
体重1kg当たり0.1gたんぱく質をプラスするだけで、2~3カ月で筋肉量が390gほど増えるという(写真はイメージ=123RF)
宮地さんと明治の研究で分かった最も注目すべき事実は、「体重1kg当たり0.1gたんぱく質を、いまの摂取量にプラスするだけで、2~3カ月で筋肉量が390gほど増加する」ということ。体重50kgの人なら5g、60kgの人は6g、70kgの人は7g、今よりたんぱく質をプラスすれば、ある一定量までは運動なしでも筋肉量を増やせるわけだ。
ただ、5~7gのたんぱく質といわれても、どんな食品をどのくらいの量食べたときにその量がとれるのか、すぐにイメージできない人も多いだろう。
「例えば、パンとコーヒーで朝食を済ませている人は、コーヒーの代わりに牛乳をコップ1杯(200mL)飲めば、6.8gたんぱく質が補えます。カフェラテで150mL牛乳を入れればたんぱく質は5gです。白飯を卵かけご飯にしたり鮭フレークを足したりしてもよいでしょう。サラダチキンや納豆なども、簡単にたんぱく質をプラスできる食品です」と宮地さん。例えば、セブン‐イレブンの「サラダチキンバープレーン」(60g)には13.4g、ローソンの「国産サラダチキンプレーン」(115g)には22.8g、納豆40gには6.6gのたんぱく質が含まれる。
たんぱく質には、肉、魚、乳製品などの動物性と豆、大豆製品などの植物性があるが、筋肉を効率よく増やすにはどちらがいいのか。
「筋肉を増やすうえでは、動物性、植物性どちらのたんぱく質でも差はありませんが、体内で合成できない必須アミノ酸がバランスよく含まれている食品をとることが重要です。そして、肉、魚、卵、乳製品、豆、大豆製品は基本的に必須アミノ酸が含まれている良質なたんぱく源なので、どの食品をプラスしてもよいです」(宮地さん)
ヒント2:朝食のたんぱく質が筋肉の合成を促す
必須アミノ酸の中で、たんぱく質や糖の代謝を調節する機能が注目されているのがロイシンだ。「ロイシンは筋肉の材料になる必須アミノ酸ですが、たんぱく質の取り込みにスイッチを入れる働きをします。ロイシンの血中濃度が増えると筋肉の合成スピードが上がり、減ると合成スピードが遅くなるのです。眠っている間にロイシンの血中濃度が下がりますから、筋肉の合成を高めるためには、朝食にたんぱく質が豊富な食品をしっかりとることが重要です」と宮地さんは強調する。
必須アミノ酸は蓄えておくことができない。もしも朝食を抜けば、1日の半分以上をロイシンの血中濃度が低い、つまり、筋肉の合成にスイッチが入らない状態で過ごすことになる。朝食をとらなかったり、スムージーだけだったり、パンかおにぎり1個で済ませたりし、夕食に、肉や魚、豆などたんぱく質が豊富な食品をとって帳尻を合わせようとする食事パターンの人は多いのではないだろうか。
1日のたんぱく質の総摂取量が同じであっても、朝昼夕3食均等に食べたほうが、夕食のみに偏って多くとるよりも、筋肉の合成率が高いとの研究結果も報告されている。プラス5~7gのたんぱく質を追加するなら朝がいいわけだ。
【図1】朝昼夕3食均等に食べたほうが、夕食のみに偏って多くとるよりも、筋肉の合成率が高い
Mamerow MM, et al. J Nutr. 2014;144(6):876-880.を基に改変
ヒント3:サプリではなく食品から摂取を
宮地さんらの研究で分かったのは、体重1kg当たり1.3gまでは、運動をしなくてもたんぱく質をとればとるほど筋肉量は右肩上がりに増えることだ。今より筋肉を増やすためにも、まずは、1日のたんぱく質摂取量の合計が体重1kg当たり1.3gになるように食生活を見直したい(※)。そして、定期的に運動をしている人は、さらにたんぱく質摂取が必要になる。
※なお、腎機能が低下している人は医師からたんぱく質摂取を制限するように指導を受けているケースもある。該当する人は医師と管理栄養士に相談しながら摂取量を決めていくことが望ましい。
ただし、「プラスするたんぱく質は、たんぱく質を抽出したプロテインサプリメントではなく、肉、魚、乳製品、豆、大豆製品など動植物由来の食品からとるのがお勧めです。動植物由来の食品にはたんぱく質だけでなく、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラルなど、人間が生きていくうえで欠かせない他の栄養素も含まれるからです」と宮地さん。
たんぱく質は筋肉を作るだけではなく、臓器、毛髪、皮膚、爪、細胞、血液、ホルモンなどの材料となっている。たんぱく質を効率よく体に取り込み、健康を保つためには、実は動植物由来の食品に含まれているたんぱく質以外の栄養素の働きも重要で、「それらはプロテインサプリメントだけをとっていたのでは補えない」(宮地さん)のだ。
ヒント4:「たんぱく質強化食品」を活用する手も
ただ、忙しい現代人にとって、毎日、朝食にたんぱく質をたった5~7gでも加え続けるのは容易ではない。朝からたくさんの量を食べられないという人もいるだろう。「一度にたくさん食べられない人は、たんぱく質含有量を一般的な製品より増やした強化食品を活用する方法もあります。最近は、ヨーグルトやチョコレート、大豆菓子などのたんぱく質強化食品の種類が増えています。特に、たんぱく質強化ヨーグルトは、複数のメーカーがさまざまな種類のものを販売しているので、利用しやすいのではないでしょうか」と宮地さん。
仕事中や残業の際に間食をするときもたんぱく質強化食品、ナッツ類、サラダチキンなど、意識してたんぱく食材を食べれば、たんぱく質摂取量を増やせる。最近では、コンビニやスーパーで、ゆで卵と鶏胸肉のサラダなど、たんぱく質が簡単にとれるように工夫した商品の品ぞろえが増えており、そうした商品を利用してもいい。
ヒント5:運動を加えれば、より効果的に“質の高い強い”筋肉が育つ
「筋肉を増やすために運動をしなくてもいい」という意味ではないので、ご注意を!(写真はイメージ=123RF)
宮地さんらの研究で分かったのは、運動をしなくても、体重1kg当たり0.1gたんぱく質を増やすだけで一定レベルまでは筋肉量が増えるということ。しかし、「質の高い強い筋肉を増やして、身体機能を維持し、代謝を高めるためには、やはり従来から言われているように、筋トレなどの運動をセットにすることは変わらず重要です。私たちの今回の研究結果が、“筋肉を増やすために運動をしなくてもいい”という意味に誤解されないよう望んでいます」と宮地さんはくぎを刺す。
今回の研究から言えることをまとめると次のようになる。
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現代人の多くはたんぱく質が足りておらず、そんな人は、運動をしなくても、たんぱく質の摂取量を増やすだけでも筋肉の量は増える。
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しかし、体重1g当たり1.3g以上のたんぱく質をとるなら、筋トレなどを組み合わせないと筋肉量の増加はなだらかになる。
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たんぱく質摂取と筋トレを組み合わせると、効率的に筋肉量が増え、筋肉の質も改善する。
今日からは、朝食にたんぱく食品をプラス5~7g加えつつ、階段の上り下り、スクワットなど、簡単にできる筋トレも習慣にしたい。いい筋肉を増やして、好きなことを長く楽しめる人生を目指したいものだ。
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「高齢者はたんぱく質の合成能力が落ちるから、筋肉量が減りやすい」はホント?
「高齢になると筋肉が減りやすいのは、合成する力が弱くなったり分解が速まったりするから」という解説をよく耳にする。これは本当だろうか。
「加齢でたんぱく質の合成能力が落ちるからではなく、食が細くなったり、食の嗜好が変わったりしてたんぱく質摂取量が減りやすいためです。加齢に伴い、運動や身体活動量が減ってしまうことも影響しています。私たちの研究で分かったのは、しっかりたんぱく質をとって体を動かせば、高齢者でも若い人と同じように、たんぱく質摂取量に応じて筋肉量が増加するということです。筋肉が減ることで転倒して大腿骨を骨折し、介護が必要になるといった悪循環を起こさないためには、特に高齢者は、たんぱく質を今より5~7gでもいいから、上乗せすることが大事です」と宮地さん。
(図版:増田真一/構成:黒住紗織(日経BP総研 ヘルシー・マザリング・プロジェクト))
宮地元彦(みやち もとひこ)さん
医薬基盤・健康・栄養研究所国立健康・栄養研究所身体活動部長/栄養・代謝研究部長、早稲田大学スポーツ科学学術院教授
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