PANTA&HALの演奏面を支えていた今剛さんは、1979年5月の日比谷野音のライブをもって、脱退します。
そして『日本のTOTO』とも言われたフュージョン系のスーパーグループ『パラシュート』を結成します。
実力があっただけに、自分のグループを持ちたいと思ったのは仕方ないでしょう。当時はまだ20歳ぐらいの若さでした。
喧嘩別れではなく、円満に脱退したようで、後のレコーディングにも顔を出したといいます。
これは、今剛さんと松原正樹さんのツインギターが素晴らしい曲です。
因みにプロレスラーの小橋建太さんのテーマ曲としても使われました。
メンバーもベースの村上元二さんも脱退、ギターに長尾行泰さんが加入。(後にイルカさんのサポートメンバーとして活躍)、
ARBのサンジも一時期加入しています。そして以後もPANTAのバックで活躍する中谷宏道さんがベースを任せられます。
(HAL解散後は、甲斐バンドのサポートに参加もしています)そんなメンバーチェンジもあって製作されたのが『1980X』です。
プロデューサーは前作から引き続き鈴木慶一さんです。
『1980X』は、『マラッカ』と並んで日本ロック史上の傑作のひとつと言われますが、印象は全然違います。
『マラッカ』が南の海を連想するような、情熱的で人間臭さを感じるようなイメージなのに対し、
『1980X』は、最初はX-DAYをテーマに考えていたような不穏な感じで、最終的には東京をテーマにした機械的でシャープなイメージです。
どちらのアルバムも、それぞれの良さは感じられます。
言ってみれば、『マラッカ』は柔道家時代の小川直也さん。少々ぽっちゃりした感じです。
対して『1980X』は肉体改造した総合格闘技時代の小川直也さんですね。体を絞って引き締まった感じです。わかりにくい例えですみません。
兎に角、『1980X』は、ソリッドでタイトな感じのアルバム。『モータードライブ』、『Audi80』、
『オートバイ』といった機械的なものを歌ったものが多いから、そう感じるかもしれません。
そして硬派な感じのものも。世界初の試験管ベビーをテーマにした『ルイーズ』の冒頭のギターのインパクトは凄いです。
『Audi80』は、雨の高速道路を走る車をイメージしていますが、ラストの方での『強風波浪注意報』のコーラスはPANTAらしいものです。
これをカッコよく歌うとは流石のセンスだと思いました。
『1980X』は東京をテーマとしていますが、この頃は何故か他のアーチストも東京を扱うものを演奏していたりします。
例えば遠藤賢司さんの『東京ワッショイ』、近田春夫&ハルヲフォンの『電撃的東京』、
フリクションやリザードが中心となっていたムーブメントである『東京ロッカーズ』等。
そして一番有名なのは、沢田研二さんの『TOKIO』ですね。
PANTA&HALも自分達を紹介する時には、『東京ローカルロックンロールバンド』と言っていました。
余談ですが、この時期のPANTAのアルバムのジャケット写真を撮影しているのは、世界的なカメラマンの鋤田正義さん。
日本のロックだけでなく、Tレックスのマーク・ボランの写真や
デヴィッド・ボウイのアルバム『ヒーローズ』のジャケット写真を撮影している人です。
鋤田さんのドキュメント映画が作られた時は、PANTAはトークセッションにも参加しています。
この当時は、こんな映画が作られているのを知りませんでした。スクリーンで見たかったなぁ。