先日、五輪真弓の「Mayumity」のことを書いたので、ついでにもうひとくさり。
70年代に銀河テレビ小説という、平日の夜に放映されていたNHKの連続ドラマ番組があった。「僕たちの失敗」というドラマは今調べてみると74年8月から9月の放映。原作は石川達三、主演が荻島真一と酒井和歌子、そして主題歌を五輪真弓が歌っていた。街中に沈む真っ赤な夕陽のタイトルバックにこの曲が流れていたのだが、ピアノだけの伴奏に彼女の艶やかなボーカルが重なり、雰囲気のあるとても良い歌だった。
どこまでも 果てを知らない 空の谷間に
惑いの心を投げすてた 日暮れの裏通り
忘れられた 静けさの中 口笛 高らかに吹けば
やせたのら犬たちの遠ぼえが
どこまでも 果てを知らない 空の谷間に こだまする
放映当時は無題の短い曲だったが、しばらくして「落日のテーマ」というタイトルが付けられてシングルで発売された。その際に2番の歌詞とストリングスの伴奏も追加されたが、僕は素朴でしみじみとした原曲のほうが好きだったな。今となっては入手不可能な音源だが。
「僕たちの失敗」は、ドライでニヒルな考えを持つ主人公の青年が束縛されることを嫌って実践した、三年間の契約結婚という試みとその顛末を綴った物語。このTVドラマの少し前に「青春の蹉跌」が映画化されたこともあり、ちょっとした石川達三ブームがあった。僕も当時、彼のペシミスティックで心を抉られるような世界に魅了されて主要な作品を読み漁ったものだった。
今回、40数年ぶりに再読してみた。戦後の石川達三は、急激な社会の変化とそれに伴なう価値観の変容、そして個人の道徳観の崩壊や制度の中に生きる葛藤をずっと描いてきた。発表されたのが昭和30年代半ばなので描写される世相や情景はさすがに時代がかっているが、この物語の根幹をなす、煩わしい人間関係を嫌う風潮は当時よりも現在のほうがずっと強まっているし、今や結婚という形式そのものが大きく変化している。「逃げ恥」なんてドラマの60年前にこういう作品が世に出ていたことは、よくよく考えると実に驚きだ。恐るべし慧眼、石川達三。
かく言う自分も、初めて読んだ高校生の頃の観念的な理解と、実際に結婚して家庭を築いた今とでは理解の深さと中味がまるで違った。来たるべき定年後の日々にその他の彼の著作も改めて読もう。
(かみ)
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