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還暦おやじの洋楽日記

The Promise / Mike Pinder (Michael Pinder)

嗚呼、元ムーディーブルースのキーボード奏者であったマイク・ピンダーが4月末に亡くなった。享年82歳とのこと。デニー・レインも昨年亡くなっていて、これでムーディーブルースのオリジナルメンバーは全員鬼籍に入り、黄金時代のラインアップでも存命なのはジャスティン・ヘイワードとジョン・ロッジの二人だけになってしまった。
60年代後半から70年代前半にかけてのムーディーブルースの黄金時代は、ヘイワードとロッジという二人の優れたメロディメーカーに支えられたことも大きいが、あの幽玄にして荘厳なサウンドの核となっていたのは紛れもなくメロトロンを縦横無尽に操るピンダーだった。バンド自体は数年前に消滅してしまったが、彼の訃報は実に残念だ。
ムーディーブルース時代のピンダー作品は「Melancholy Man」に代表されるように陰鬱な曲が多かったが、ソロでは意外にも明るい楽曲で溢れていた。いつか彼のソロアルバムのレビュー記事を書こうと思っていたものの、そのギャップを持て余してしまい、これまで書けずじまい。でも生煮えであるかも知れないが、彼を偲んで感想を書いてみます。

1. Free As a Dove
2. You'll Make It Through
3. I Only Want to Love You
4. Someone to Believe In
5. Carry On
6. Air
7. Message
8. The Seed
9. The Promise

(Bonus Tracks Added in Reissue CD 1996)
10.One Step Into the Light
11.Island to Island

1974年に日本を含むワールドツアーを終えた後、ムーディーブルースは長い休眠期間に入った。その間、メンバー達はソロ活動に入り活発にソロアルバムをリリースし始めた。それまでのバンド活動でいちばん疲弊していたのはピンダーだったのだろう。彼は離婚問題も抱えており、それもあってか英国を離れカリフォルニアに移住する。ヘイワードとロッジが1975年に発表したジョイントアルバム中の1曲「My Brother」は、一人だけ海を渡って異国に去ってしまったピンダーのことを歌ったものだという。息を引き取った地もカリフォルニアだったから、それからずっと終の棲家としたのだろう。そんな彼が西海岸でこのソロアルバムをレコーディングして発表したのが1976年。メンバーの中ではしんがりだった。演奏陣は西海岸のミュージシャン達で、有名どころではストーンズと客演していたボビー・キーズが目を引く。

ムーディーブルース黄金時代の彼の楽曲のイメージで期待に胸を膨らませて購入したが、思いもよらぬ明るさに困惑したのは前述の通り。今から思うと、R&B時代のムーディーブルースでははっちゃけたナンバーをレインと共作していた人だし、黄金時代の陰鬱で重厚長大な楽曲は彼の一面にすぎなかったのだろう。そういう路線を続けることにフラストレーション溜めて疲れ果て、米国に渡ってリフレッシュした結果がこのアルバムと捉えれば合点がいく。
その明るい雰囲気は冒頭の「Free As a Dove」から全開。軽快なギターの音色にピンダーのボーカルが軽めに被さり、最後は女性コーラスで締め括られる。そんな感じの曲が3曲続いた後の「Someone to Believe In」はフルートやホーンをフィーチャーした、ちょっとメランコリックな曲。
アルバム後半の3曲は少しムーディーブルース調っぽくなっていて、BGMにのせてピンダーが詩を朗読する「The Seed」が最も象徴的。バックに流れる朗々とした音色は尺八だろうか。エンディングはアルバムタイトル曲の「The Promise」であるが、歌詞に散りばめられた心象風景がちょっと曼荼羅風なジャケットデザインのモチーフになったのかな。

このアルバムはその後CD化されて再発されたのだが、その際にボーナストラックが収録されており、その1曲がピンダーのムーディーブルースでの置き土産となった「One Step Into the Light」であった。アルバムクレジットにも記載がなかったので録音時期は不明だが、このアルバム録音時のアウトテイクかも知れない。
本作では彼の代名詞であるメロトロンはそれほど活躍していない。おそらくそういうサウンドとは少し距離を置きたかった時期だったんじゃなかろうか。でも、近年はメロトロンについて語るピンダーの映像も出回っていたし、彼が終生愛した楽器であったことは間違いなかろう。また一人プログレの立役者がいなくなってしまった。謹んで合掌。

(かみ)
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