
グレッグ・レイクも昨年末に亡くなっちゃったね。有名どころのプログレバンドの中でEL&Pだけはどうしても体が受け付けなかった僕は彼の大ファンというほどではないが、キングクリムゾンの歴史を作り上げた立役者の一人として謹んで追悼したい気分。
とは言え僕のクリムゾンの評価は「『宮殿』『太陽と戦慄』『暗黒の世界』『レッド』の4枚はとびきり素晴らしいが、中間の3作は凡作、更に80年代以降は蛇足」という極々オーソドックスなもの。90年代以降、当時のライブ音源が蔵出しされたときも、4枚組の「The Great Deceiver」は気に入って聴きこんだものの、その後も続々と小出しにリリースされた作品群には付き合いきれなかった。プログレファンの中でもクリムゾン好きのマニア濃度が高いことは言うまでもないことだが、そんなマニア心理の弱味につけこむロバート・フリップの商売は実にあざとい。近年は更にエスカレートして20数枚組のボックスセットが次々とリリースされている。それにお付き合いしてそれぞれの音源の違いを聴き分ける人達には頭が下がるが、僕にはそんな金も時間も根性もない。
蔵出しライブと並行してベスト盤もいくつか出ているけど、オーソドックスな入門編としては70年代までの曲だけで構成された、2枚組LPのこのアルバムが最良じゃないか。
Side A
1. Epitaph (エピタフ)
2. Cadence And Cascade (ケイデンスとカスケイド)
3. Ladies Of The Road (レディーズ・オブ・ザ・ロード)
4. I Talk To The Wind (風に語りて)*Previously Unreleased Version
Side B
1. Red (レッド)
2, Starless (暗黒)
Side C
1. The Night Watch (夜を支配する人々)
2. Book Of Saturday (土曜日の本)
3. Peace - A Theme (平和/テーマ)
4. Cat Food (キャット・フード)
5. Groon (グルーン)
6. Coda From Larks' Tongues In Aspic, Part I (太陽と戦慄パート1)
Side D
1. Moonchild (ムーンチャイルド)
2. Trio (トリオ)
3. In The Court Of The Crimson King (クリムゾン・キングの宮殿)
発売当時に話題となったのは、まだクリムゾンを名乗る前に録音されイアン・マクドナルドの恋人だったジュディ・ダイブルがボーカルを取る「風に語りて」が収録されたことだった。確かにレアものだが曲としての完成度はレイクのオリジナル版には敵わない。「グルーン」もアルバム初収録だが、ここではシングルでカップリングされた「キャット・フード」とのメドレー風になっている。「ケイデンスとカスケイド」はオリジナルより1分ほど短くフェードアウト。「ムーンチャイルド」も後半のインプロヴィゼイションがばっさりカットされているが、ボーカル部のみの短縮版は、当時カセットテープでマイベストを作るときには重宝したなあ。
「リザード」を除いて各アルバムから選曲されているが、やはり「宮殿」からの曲が多い。但し「21世紀の精神異常者」が入っていないのは何故か。「太陽と戦慄」もパート1の最終の2分少々のみだし「突破口」も収録されておらず、アグレッシブな代表曲は意図的に外された印象だ。これに関するロバート・フリップの難解で思わせぶりなコメントは読んだことはないけれど、おそらくは入門編として敢えてエレガントでコマーシャルな曲を中心に選曲したのだろうな。「エピタフ」でドラマティックに始まるA面はメロディアスなナンバーを中心に選曲、B面では一転して「レッド」の重要レパートリーを配し、C面はコマーシャルな小品が並ぶ。そしてD面では再び荘厳で叙情的な「宮殿」の世界に戻る。色んな時期の曲を散りばめているけれど通して聴くと、これは「宮殿」のイメージを踏襲しつつ拡大することを企図した作品集であることが判る。
1976年にクリムゾン初のベスト盤としてリリースされたこのアルバムは一時期を除いて未だにCD化されていない。聞くところによると近年のクリムゾン作品のリリースはフリップの制御下にあるそうで、その生殺与奪は完全に彼のロジック(純粋な哲学なのか商売上の打算なのかは知らないけど)に委ねられているので、今後このアルバムが再び日の目を見るかどうかはわからない。未収録音源はその後、別のかたちでリリースされ、音源マニアにとってはこのアルバムの価値はなくなったそうだが、その一点だけでこのアルバムを評価するのもつまらない。幻想的ながらちょっと不気味なジャケットも好ましいし、当時のフリップの美意識を反映したこのアルバムは、単なるベストものに収まらない秀作じゃないか?
(かみ)
(2017/2/15追記)
上記の稿を書いたのは1月31日だったが、その日に今度はジョン・ウェットンが亡くなっていたたことを半月遅れで知った。クリムゾンの黄金時代を担った二大ボーカリスト/ベーシストが相次いで亡くなってダブルショック・・・合掌。