6月のあたまに、ゴールドシアター第2回公演「95kgと97kgのあいだ」を観る機会を得た。わがまちの誇る劇場、さいたま芸術劇場の主催公演だ。全員が55歳以上という43名で構成されたこの劇団。彼らは日本はおろか海外からも受験し大変な倍率をかちとって世界の蜷川演出・指導の演劇へ夢をたくそうとしたシルバーたちだ。
ちょうど、この劇団を蜷川幸雄氏が発足させようという2年前、私はこの劇場の評価プロジェクトにかかわっていた。一緒に打ち合わせを行っていた劇場の担当者が興奮気味に、劇団参加希望者が全国はおろか世界から、怒涛のごとく押し寄せていること、その全員といま毎日面接審査を行ることなどを、興奮した様子で伝えていた。そのことばに、そこに何かのムーブメントがおきていることを、傍目にもかんじていた。
そもそも、高齢者が演劇に進出するという動きは、社会教育やその周辺世界では、一般的になっている。高齢期になって自分の歩みや存在の意味を確かめたいという願いが、「私を表現する」というかたちになって現れる。細かく言えば、「演劇」か「表現」かは違う。わたしが各地域でみてきたものは、おそらく、演劇というかたちをかりた「表現」に近い。もちろんそこには表現と「私」をとりもどしていく、大きな意味がある。けれど、世界のニナガワは「表現」ではおわらせないだろう。プロの「演劇」たるべく、どう挑戦していくのだろう。
小劇場のような大けいこ場が当日の舞台。入り口には黒Tをきたニナガワ氏がふつーにたたずんでいた。舞台には、さまざまな層の若者・おとなたちの待ち行列。それを乱そうとちょっかいを出すギターを背負った若者。そこからものがたりがはじまる。中盤にシルバーの行列が登場した。ストーリーは正直よくわからなかった。ただ妙に一瞬一瞬の「絵」が、わたしたちをとらえてはなさない。「砂袋、50kg!」「砂袋、90kg!」「砂袋、97kg!」という掛け声とともに、動きがかわっていくシルバーたち。倒れようとする人、たんたんと歩む人。動きが、表情が、妙に記憶に残っているのだ。なんだったんだろうなあ、これは。なにかよくわからない。わからないけど、新しい。
すべてがおわり、帰ろうとしたとき、舞台右手、観客からもよくみえるところに、当日舞台のセリフが壁にはりつけてあった。聞くところでは何がおこるかわからない事態をもともと想定して、こういうこともされているのだという。一見あたりまえのようにみえる舞台。でも素人が大舞台にたつ、そのためにかけられたはしごが、たくさんあるのだろう。43名のシルバーとニナガワ氏の、熾烈なぶつかりあいも介した、挑戦。迫力に背中をおされながら、帰途についた。