the Saber Panther (サーベル・パンサー)

トラディショナル&オリジナルの絵画芸術、化石哺乳類復元画、英語等について気ままに書いている、手書き絵師&リサーチブログ

パラマカイロドゥス “リアル・サーベルパンサー”

2011年01月27日 | おすすめ エントリー

      Real Saber-toothed Panther in the Hood

 

Paramachairodus ogygya
Wt.50kg
(Anatomically accurate illustration)

パラマカイロドゥスogygya  Paramachairodus ogygya


1990年代にスペインはマドリッド近郊の後期・中新世の地層(the carnivore trap
Battalones-1)から多量の化石骨格が見つかり、一躍その詳細が知られることとなっ
た、マカイロドゥス亜科最古の種の一つである。本種の出現をもって、サーベルタイ
ガーに連なるスミロドン族の嚆矢とみなすのが、現在の主流である。


HEAD 頭部
「サーベルネコ」という俗称で一般に認知されるのは、スミロドンやホモテリウムなど「アドヴァンスな」グループに限定されるだろうが、これらの頭蓋・下顎には-ダーク型ネコかシミター型ネコかの違いもあるにせよ-共通して、現生大型ネコとは顕著に異なる複数の形態上の特徴が存する(Christiansen 2008)※。

1)上顎犬歯はフラットなナイフ形状で著しく長大化し、対照的に下顎犬歯は縮小している
2)乳様突起が肥大化し、前腹側(後頭関節丘に対して、より腹側に)に位置している
3)旁後頭骨突起が背側に位置している
4)下顎結合がほぼ垂直で、下顎筋突起が著しく短縮している

3と4は、より大きな角度で下顎を開くための適応形態であるとされる。また、サーベ
ルネコの上顎犬歯、および下顎骨の屈曲耐性は現生大型ネコとの差異が大きい
(Therrien 2005)。

(※アドヴァンスなサーベルネコであろうとも、“postcranial”、すなわち「頭骨以外の部位」では「ヒョウ属種」と似通っているということは、認識しておくべきだろう。 
"Although in many respects postcranially similar to extant pantherine cats (Merriam
and Stock 1932; Turner and Anton  1997; Christiansen and Adolfssen 2007), their
craniomandibular morphology showed a plethora of unusual adaptations for attaining 
a wide gape necessary for efficient biting with hypertrophied upper canines."  

P.Christiansen 2008)

パラマカイロドゥスogygyaの頭蓋・下顎には、こうしたアドヴァンスな変形はまだ顕われていないのだが、それでもいくつかの点を以って現生のヒョウ属種とは異質であ
る。Salesa et al. 2005 の主張では、わずかにナイフ形状の上顎犬歯と垂直な下顎結
合という二点は特に、パラマカイロドゥスのレヴェルにおいても、既に「スラッシュバイト」の捕殺テクニックが用いられていた可能性を示しているという。

現生のウンピョウ属の2種(特にボルネオ・ウンピョウ)が、他ならぬこのP.ogygya の頭骨と形態、機能的特性がオーヴァーラップしているという説(Christiansen 2008)※を先に紹介した。プリミティヴなサーベルネコがスラッシュバイトを常套手段としていたか否かは、ウンピョウ属種の捕食生態にある程度のヒントが求められると思われるが、野生下における彼らの殺傷法については、まだほとんど実態が分かっていない(Sunquist  2002)ようだ。 Rabinowitz et al. 1987 ; Grassman et al. 2005 らはしかし、大きな獲物を頸への噛みつき(nape bite)で速やかに仕留める様を報告している。

Turner 1997 はP.ogygyaの頭部について、鼻面が細長く、頭頂部、頬骨弓の幅が狭
いと記している。頭部の幅の狭さと鼻骨から矢状稜にかけてのラインが直線的なとこ
ろは、スミロドンに似ていると言えよう。


(※Slaterによる形態測定学的な研究(2008)では、ウンピョウ(Neofelis nubulosa)の上
顎犬歯はディニクティス(ニムラヴス科)に匹敵するほど長いとしながらも、その頭骨形態がヒョウ属種よりも一部のサーベルネコに近いとする考えは、否定されている
(ただし、ボルネオウンピョウ(Neofelis diardi)については言及されていない)。
上の研究では、Christiansen(2008)の場合よりも広範な頭骨サンプル(小型ネコ23種
と、ニムラヴス科、バルボウロフェリス科の“サーベルネコ”をも含む)が扱われている。)


PHYSIQUE
体型
P.ogygyaの体型をアドヴァンスなサーベルネコと比較してみると、明確な尾のサイズ
の違いを差し引いても、背骨と後脚の長さが際立っている。いずれも、プロポーショ
ン的には現生のヒョウよりも伸長していた(Turner 1997)のである。一方で、前脚形
態はプロポーション的にも頑健さからも、後のメガンテレオン属種の派生を予感させ
るものがある(上のイラストにみられるように、雄ジャガーの前肢のイメージに近かったろう)。

ホモテリウム属種やスミロドンpopulatorの立ち姿勢は(後肢が比較的に短いため)ハ
イエナに似ていたなどと表現されるが、以上の事実から、パラマカイロドゥスの立ち
姿勢はそれとは真逆、すなわち「前屈み気味(?)」であったことが窺えよう(Mauricio Anton 1997 による復元図でも、その点がすこぶる強調されている)。


(スミロドンpopulator)


サイズはヒョウよりも小ぶりだが、木登りにも走力にも優れ、柔軟なヴァーサタイル
(万能)のハンターであったと考えられる。

なお、P.ogygyaにみられる長い背骨は、最古のネコ科グループであるプロアイルル
スやプセウダエルルス属に具わっていたプリミティヴな形態の名残であり、例えば
マカイロドゥス属の初期の種にも共通して受け継がれた特徴である。したがって、現
生のウンピョウが遠い未来において真の剣歯型ネコへと進化すると仮定しても(先
ず、それまで存続できる可能性自体が、相当低いと考えざるを得ないのが実情だろ
うが)、頭骨以外の形質もP.ogygyaと著しく類似したものになっていくとは-アルカイックな形質に逆戻りする例はもちろん存在するが-考えにくいのではなかろうか。


絵、文責: サーベル・パンサー

 

 


最新の画像もっと見る

3 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown ()
2011-02-02 05:09:43
前足は太く、後ろ足が長いというのは…
ハンターとして、究極の体型のような気がしますね。

さしものpopulatorも長い後ろ足までは会得出来なかったか。
後ろ足が長いサーベルタイガーの最大種って何なんでしょうね?
気になります。

しかし相変わらず絵がお美しい。
眼福です。
返信する
Unknown (サーベルパンサー)
2011-02-04 00:39:33
どうもありがとうございます☆

ホモテリウムなどは、比較的に(relatively)という
表現をしましたが、後肢の長さ自体はトラ、ライオン
と比べて顕著に短くなってはいません。
ヒョウ属に体躯のプロポーションが特に似ていた大型
の種類ということで言えば、マカイロドゥス属種を挙
げるべきだと思います。M.kabir, M.giganteus,
M.irtyscensis(M.kabirのシノニム?)といった後期
の種はいずれも、現代のシベリア/ベンガルトラやア
フリカ南部産ライオンに匹敵するか上回るほどの、巨
大なサーベルネコだったようですね。
返信する
Unknown ()
2011-02-08 02:02:16
ありがとうございます。

マカイロドゥスですかー。
やはり長年の繁栄は伊達じゃないのですね♪
返信する

post a comment