イラスト、テキスト ⓒthe saber panther サーベル・パンサー
Wt. 400kg~
キタヨーロッパ・シミターネコ(ホモテリウム最大種) Homotherium crenatidens
「化石大型ネコ科ランク第5位」
2008年に、ブリテン島とヨーロッパ本土の狭間にある北海の海底から、トロール船の魚網にかかっ
て大きなネコ科動物の上腕骨が引き上げられた。オランダとドイツの研究グループによって、シミタ
ーネコ・ホモテリウム属種の骨格であること、また、骨内の石灰化の進行具合から、その年代は前
期・更新世(260万~85万年前)に属することが確認された。
非常にへヴィービルトで大型の個体であり(ウマと同程度の大きさとも表現される)、Mol & Van
Logchem(2008)によって、後期・鮮新世~前期・更新世のホモテリウム属種、H. crenatidens に
帰属されている。恐らくは雄の骨格であるという。更新世のヨーロッパには、しばしばシミターネコの
典型的なモーフォタイプとされる、スレンダーなH. latidens も広汎に分布していた。
ホモテリウムはホラアナライオンとの競合が語られることが多いのであるが、モスバッハ・ホラアナラ
イオンがヨーロッパに出現したのは本種が絶滅した後のことだと見られており(ホモテリウムlatidens
は後期・更新世に及ぶまで存続していたが)、両雄がヨーロッパの地でしのぎを削っていた可能性
は低い。ヨーロッパの二大猛獣が相見え一戦交えるようなことがあったならば、かのスミロドン
fatalis 対 ユーラシア・ホラアナライオンの想定(『人類はいつから強くなったか』)を超える、血沸き
肉躍る見ものとなったはずである。
シミターネコの形態について。
(ホモテリウムlatidens(本種とは別種)と現生アフリカライオンの頭骨を比較したもの)
マカイロドゥス属種同様に、シミターネコであるホモテリウムの頭骨には著しい特徴が複数
ある。形態学的な詳細は割愛するが、一見して上顎骨から頭頂部、長大な矢状稜にかけてが
ほぼ直線的である。「下顎フランジ」はメガンテレオンやバルボウロフェリスほどではない
にしても、現生ネコやスミロドンと比べると顕著に発達している。また、顔面部、吻部が長
く、眼窩が小さかったので、かなりネコ科離れした容貌になっていたと思われる。
体型についても一言付すると、ホモテリウムはハイエナとのアナロジーがやや強調されすぎ
るきらいがあるが、H. serumのような後期の種であっても(ホモテリウム属に特徴的なフォ
ルムは、後期の種に至るほど顕著になる)後肢はライオンやトラと比べて短縮していたわけ
ではない(Jordi Agusti)。
私の単純な見立てを言うと、初期のホモテリウム種の巨大さはとりもなおさず、祖先た
るマカイロドゥスの後期種からの直接的遺産と見るべきではないだろうか。以降、四脚
遠位部の伸長(いわゆる、cursorial化)や胴の短縮といったシミターネコの特有形態が際
立つにつれて、全体的にも軽量化していったのである。
以下に、H. crenatidens を含む Listverse / Science and Nature: 『化石大型ネコ科猛獣
TOP10』を、http://listverse.com/2010/12/02/10-huge-prehistoric-cats/ に準拠して掲示する。
10 Giant Cheetah
"At around 120-150 kgs (265-331lbs)"
9 Giant Jaguar
8 European jaguar
"Weighing up to 210 kgs (463lbs) or more"
7 Xenosmilus hodsonae
6 Eurasian Cave lion
5 Homotherium crenatidens
4Machairodus kabir
"Weighing up to 490 (1080lbs) or perhaps 500 kgs (1102lbs), and
being'the size of a horse' ".
3 Panthera atrox
"Weighing up to 470 (1036lbs), perhaps even 500 kgs (1102lbs)※"
※よく知られるAnyonge ("Body mass in large extant and extinct carnivores", 1993) によるP.atroxの
推定体重値は、344-523kg。Anyongeの数字を過大と見る向きもあるが、この研究は多数の文
献で引用されており、一定の評価を得てもいる。
(メキシコの動物スカルプター、De La Rosa 氏制作による北米化石猛獣の比較図。ホモテリウムは
H. serumである。)
2 Pleistocene Tiger
(体重400kg超の雄シベリアトラ、'Thor'(Vergeron's Animal Sanctuaryの飼育個体))
1 Smilodon necator / Smilodon populator
"Reaching up to 500 kgs (1102lbs) when fully grown※"
※上述のAnyonge(1993)の算出(上腕骨と大腿骨のサイズに基づく)では、北米産の
Smilodon fatalisでも推定平均体重347-442kg に達する(S.populatorはその北米種の1.5倍近く
大きかった)。ウルグアイで発見されたという大型個体は、平均的なSmilodon populatorよりも
著しく大きく(肩高1.6m、全長3.7m?)、Smilodon necatorの名で独立の種とみなす考えもある
ようだが(http://www.angellis.net/Web/PDfiles/carnivs.pdf)、市民権を得るには至っていないだろ
う。南米スミロドン属の新たな巨大種の可能性に関しては、今後の研究の進展を待ちたい。
~サーベル・パンサー
サイズについては断片的な情報頼りではありますが、
モスバッハライオンはPanthera atroxに似通った大き
さであったろうと推測しています。もっとも、個人に
よるこの手のランキングや大きさ比較の多くと同様、
私がここで掲示したものも資料的な価値はありません
から、ごく参考程度にしてくださるようお願いします。
私は最近ある仕事に携わらせていただいた関係から、
こうしたヨーロッパの古豪ネコ達にはかなり愛着が出
てきていますね。^^
大した返信ではありませんが、大変遅れてしまい、ご
めんなさい。
コメントをありがとうございます。ヨーロッパのホモ
テリウムにも同様の狩猟習性を示す例があるのか否か
は、私には分かりません。
フリーゼンハーン洞窟の証拠から窺えることは、その
地のホモテリウム属種がコロンビアマンモスの幼獣を
専門的に襲っていたらしいこと、また犠牲になってい
たのは、主に2歳から4歳の「幼象」であったことです
(「赤ちゃん象」は、常的に母親の強固な保護下にあ
る)。北米のコロンビアマンモスは幼象といえども大
型で皮膚も強固だったろうし、体の構造上、窒息を狙
う仕留め方も難しい。その点、シミター犬歯がスラッ
シュバイトで厚い皮膚を切り裂き多量の失血を起こす
ことができたならば、大きな利点だったろうというこ
とです。以前紹介したクッキーカッターネコ(この名
称つぼ)の話題においても、同様の殺傷法の可能性が
示唆されていました。
更新世のヨーロッパで、パレオロクソドンantiquus
の群れとホモテリウムcrenatidens との間にしばしば
接触があったとすると、それはそれで興味深いことで
すけどね。
北米のserum種はマンモスキラーで有名ですが、この巨大シミターはゾウに立ち向かったこと可能性はあるのでしょうか