the Saber Panther (サーベル・パンサー)

トラディショナル&オリジナルの絵画芸術、化石哺乳類復元画、英語等について気ままに書いている、手書き絵師&リサーチブログ

『バトル・ビヨンド・エポック』  其の七 古代アフリカの3エポック:時代ごとの獣王(メギストテリウム、アグリオテリウム、ナトドメリライオン)

2022年04月09日 | バトル・ビヨンド・エポック

Battle Beyond Epochs Part 7
'The Cenozoic Africa : Three Epochs, Three Kings'





©the Saber Panther (All rights reserved)


左:
メギストテリウム属最大種 (Megistotherium osteothlastes)
デイノテリウム科の中型種、プロデイノテリウム(Prodeinotherium hobleyi)の下腿遠位部に噛みついて襲う場面

右上:
アフリカショートフェイスベア (the African Short-faced bear / Agriotherium africanum)
鮮新世のシロサイ、Ceratotherium praecoxに襲いかかる場面

右下:
ナトドメリライオン (the Natodomeri lion / Panthera leo, sensu lato)
ジャイアントアフリカバッファロー(Pelorovis antiquus)を成功裏に仕留めたナトドメリライオンのプライド


今回のバトル・ビヨンド・エポックでは、アフリカ大陸東部という、新生代を通じて世界規模で見ても屈指のメガファウナ密度を保持してきた地域において、直近の三エポックそれぞれを代表する最強の大型肉食獣をフィーチャーしてみました。すなわち、中新世の「メギストテリウム属最大」、鮮新世の「アフリカショートフェイスベア」、そして更新世の「ナトドメリライオン」各種であります。

 
以下、各種についての比較的詳細な説明をイラストに付するとともに、個人的な見解のもとに「能力チャート」ごときものを数値化してみたので、それも併せて記載してみます。勿論、この能力チャートは学問的根拠を欠く興味本位の戯れ事に等しい試みであって、何らの資料的価値を有するものではありません。ただ、各種の形態要素に関する理解に幾らか与するところは、あるかと思います。
 


メギストテリウム属最大種について

陸棲肉食哺乳類の進化史上、アンドルーサルクス属最大種と並んで最大級の頭骨サイズ(頭骨全長約66cm)の持ち主。現生の食肉目とは進化系統の異なる肉食獣群、「肉歯目」(ヒアエノドン科・ヒアイナイロウロス亜科)の史上最大種として夙に認知されています。
 
メギストテリウム属最大種は、2019年4月に同じヒアエノドン科の近縁種で既知の肉歯目史上二番目に大きい標本(学名シンバクブワ・kutokaafrika と命名された)が新発見されたことで、いわば間接的に、昔日以来の再脚光を浴びることとなった経緯があります。

というのも、シンバクブワ属種の発見と記載に携わったBorths et al.(2019)の試算によれば、同種の推定体重は1.5トン前後に達したことが示されており、形態的に酷似するメギストテリウム属最大種のサイズはそれをさらに凌駕して、なんと体重3トン前後にもなったはずだというのです。

これが事実であれば文句なしに新生代の陸棲肉食動物史上、最大種の座に位置づけられますが、これらの数字の信憑性には疑義を挟む余地があるといわざるを得ません。

ヒアエノドン科の大型種(シンバクブワ、ヒアイナイロウロス、メギストテリウム)の推定体重値を得るために、Borths et al.(2019)はVan Valkenburgh(1990)が第三臼歯(裂肉歯)の大きさに基づいて化石ネコ科種の推定体重を算出した回帰分析の方程式を採用しているのですが、本人らも論文で言及しているように、この採用を巡っては複数の問題点があります。

しかし最大の難点と考えられるのは(そしてこの点についてBorths et al.(2019)は一切言及していないのですが)、一般に肉歯目の種類は体長に占める頭骨長の比率が食肉類の場合よりも大きい、つまり前者は後者に比べて相対的に頭部(および歯)が顕著に大きかったという特徴があり、前述の試算においてはその点が度外視され調整が加えられていないという事実でしょう。

メギストテリウム属最大種がいかに大型であったにしても、体重3トン前後というのは一見してアノマリーな数字だと言わざるを得ないし、Van Valkenburghの方程式をヒアエノドン科大型種のサイズ算出に適応することの不具合が、数字に如実に表れているように思います。

ヒアエノドン科大型種のより現実的な(と考えられる)サイズについては、幸いにTurner & Anton(2002), Agusti & Anton(2004)が、シンバクブワ属種と形態、サイズともに酷似するヒアイナイロウロス属種と、そのコンテンポラリーであったベアドッグ最大種(アンフィキオン giganteus)との形態比較を通じて考察を加えています。

いわく、ヒアイナイロウロス属種の頭骨寸法はべアドッグのそれを顕著に上回るにもかかわらず、ポストクラニアルのサイズは頭骨から推察されるよりも意外に小さく、ベアドッグと同程度か、僅かに下回っていたということです。ベアドッグ最大種の推定体重としてはFigueirido(2011)が540kg前後と算出しているので、ヒアイナイロウロス属種およびシンバクブワ属種の実際的な体重もその程度であったと解釈するのが妥当かもしれません。

メギストテリウム属最大種はそれら(ヒアイナイロウロス属種とシンバクブワ属種)よりも少し大型ですが、形態的にはやはり酷似していたとされているので、果たして実際的な体重(ポストクラニアルのサイズ)は如何ほどであったのか、大いに興味を惹かれるところです。

しかし、推定体重がどうであれ、メギストテリウム属最大種の頭骨サイズが古今のあらゆる大型食肉類のそれを凌駕していたことは明らかですし、ポストクラニアルのサイズにしても、鰭脚類を除けば現生食肉類で匹敵できる種類は皆無でしょう。

実際、本種はまさに畏怖すべき恐ろしい肉食獣だったと思います。ヒアエノドン科の動物は、四肢が相対的に短く半蹠行性、胴が伸長していたなどの相違点もあるものの、ポストクラニアル形態(及び形態機能)は概ね大型のモロサス犬種によく似ていたといわれています。譬えてみれば超巨大なピットブル犬といった風情で、しかも頭骨サイズは大型クロコダイルのそれにもひけをとらぬという具合です。

私はヒアエノドン科大型種の咬筋力を調べた研究にお目にかかったことがないですが、かつてナショナルジオグラフィック・チャンネルの番組内(2007)でWroeが体重70kg未満の中型種、ヒアエノドン horridusの咬筋力について言及し、雄の成獣アフリカライオンのそれに匹敵すると断じていたものです。その真偽のほどはともかく、メギストテリウム属最大種は体重でいえばH. horridus を恐らく10~15倍近くも上回っていましたし、咬筋力たるや陸生哺乳類史上最強かそれに準ずる位だったのではないか。

吻部の大きさと相まって、ただ一噛みするだけでも相手に与えるダメージは甚大たるものがあったはず。
 
前述のシンバクブワ属種の吻部など中新世の長鼻類、ゴンフォテリウム科中型種の脚の遠位部周囲を覆ってしまうほど大きいので、Borths et al.(2019)は、実際に脚の遠位部に食らいつく手段で原始的な長鼻類やサイの仲間を狩っていた可能性に言及しています※。
 
本復元画では、メギストテリウムがゴンフォテリウムではなく、同時代コンテンポラリーのプロデイノテリウム(デイノテリウム科の中型種。肩高2.2mほどで、現生アジアゾウより少し小さい)の下腿遠位部に噛みついて襲う場面を描いています

ただ、ヒアエノドン科の動物は前脚の構造上、回内・回外運動性に乏しくグラップリング力を欠いていましたし、加えて過剰なまでに大柄な体格を考慮すると、いかに頭骨そのものを駆使した絶対的な殺傷力を有していたとしても、純然たる捕食性のハンターであったとする解釈には難点もあるのではないか。

そのことと関連して、上で紹介したヒアエノドン科の大型種はいずれもヒアイナイロウロス亜科に下位分類されますが、ヒアイナイロウロス亜科の種類は他のヒアエノドン科種に比べて、臼歯の骨砕き機能が高度に発達していたのであり、驚異的な体格と併せて、クレプトパラサイト系スカヴェンジャーとしても有能であったと考えられるのです。
 
その実態は、臨機応変に狩猟とクレプトパラサイティズムを使い分けていたのでしょうが、現代とは比較にならない肉食獣競合の過密さ、死骸数、さらには狩猟エネルギー収支の効率といった観点からみれば、クレプトパラサイティズムにより比重がかかっていたと考える方が自然だと思います。
 
果たして、ヒアエノドン科の複数の大型種が長大な中新世の大部分、およそ1500万年という長期にわたり存続していた事実は、ハンターであったにせよスカヴェンジャーであったにせよ、あるいはその双方に優れたバーサタイル系であったにせよ、彼らが有能な肉食獣であったことを雄弁に物語っています。
 
 
アフリカショートフェイスベア(アグリオテリウム属最大種)について
史上有数の大型クマ科動物。推定体重は優に500kgを超えます(Sorkin, 2006)。中新世後期の頃にヨーロッパに分布していた古風なクマ、インダルクトス属の一部から分化したとみられ、ウルサヴス亜科に分類されていますが、その進化系統については諸説ありいまだに不明瞭な状態です(例えば、祖先たるインダルクトス属自体はパンダ亜科に含まれる場合がある)。
 
クマ亜科の種類と比べると、比較的に短吻、骨砕き適応の頬歯、前脚が伸長しているなど、驚異的に大柄な体躯と併せて、更新世アメリカ大陸のジャイアントショートフェイスベア群との形質上の類似が色濃い。このため、英語文献においてアグリオテリウム属種も縷々ショートフェイスベア(short faced bear)の通称で表記される例が見受けられます。
 
アグリオテリウム属種とメガネグマ亜科の種類とでは生息年代、分布、進化系統のいずれにも隔たりがあるとされているにもかかわらず、この類似の度合いは注目に値すると思います。もっとも、メガネグマ亜科のショートフェイスベア群と比べると、アグリオテリウム属種の歯形にはイヌ科的な特徴が残存していたといいます(Kurten, 1968)。
 
恐らくは摂食生態(feeding ecology)も似通っていたことが考えられますが、頭蓋‐歯形(craniodental)の形態機能や微細歯質咬耗の分析を通じてアグリオテリウム属最大種(Agriotherium africanum 以下、アフリカショートフェイスベアと表記)の摂食生態を調べた研究は複数あり、その主張も雑食性とする仮説(Sorkin, 2006)や、草食の可能性を除外しないまでも、摂食に占める割合は小さかったことを示唆するもの(Wroe et. al., 2013)までまちまちです。
 
最近では、Stynder et al.(2019)が計6個の下顎第2大臼歯を対象とした微細歯質咬耗の分析結果から、アフリカショートフェイスベアの摂食は主に脊椎動物の肉および骨で占められていたとする結論を出しました。

ただし、クマ科は種類によって食性が多様であることや、イヌ科やネコ科などと比較して、頭蓋‐歯形の形態及び形態機能と、摂食行為(dietary behavior)との関連性が明瞭ではないという特質があるため、この場合も脊椎動物の摂食が主にスカヴェンジングによるのかハンティングによるのか判然としないとのこと(Stynder et al., 2019)。
 
しかし、この問題についていわば白黒つける必要などないと思います。やはりアメリカ大陸のジャイアントショートフェイスベア群と同様に、アフリカショートフェイスベアもまた、狩猟、クレプトパラサイティズム、時に植物食というように、臨機応変に摂食手段を切り替えていたというのが実態なのではないでしょうか。

とまれ、最後に付け加えると、アフリカショートフェイスベアは類稀な顎の力の持ち主でした。肉食獣の咬筋力の一連の研究で著名なWroe(2013)によると、肉歯類やエンテロドン科種を含まずに食肉類のみに限定した場合、彼が分析に携わった中で咬筋力最強はアフリカショートフェイスベアだったということです。まさしく、鮮新世で最強クラスの肉食獣の座にあった存在でしょう。
 

ナトドメリライオンについて
2018年にアフリカ東部、ケニヤ北西部に位置するナトドメリの更新世地層で新発見された、巨大なライオンの古亜種。アフリカ東部で発見された最古のライオンの化石で、生息年代はおよそ20万年前、更新世中期-後期境界の頃と推定されています(Werdelin et al., 2018)。
 
ナトドメリライオンは、まず以下の二つの点で驚くべき存在だといえます。第一にその大き
発見された頭蓋骨は矢状陵を欠くなど欠損部位が大きいながらも、基部直径(basal skull length)38cmを超えており、もし欠損部位を補った場合、その頭骨全長は氷期ホラアナライオン(Panthera spelaea)の既知の全ての頭骨標本を凌駕し、更新世北米のアメリカライオン(Panthera atrox)と比べてみても、僅かに二体の標本を除く全ての頭骨よりも大きくなります(Werdelin et al., 2018)。
 
アフリカ大陸で見つかっている純正なライオン(Panthera leo)の最古の化石年代は、およそ200万年前にまで遡ります。複数の古亜種が派生しましたが、その間、形態的にもサイズ的にも、現生ライオンと比較してほとんど目立った差異が生じることはなかった(Yamaguchi et al., 2004)といいますから、本標本の例外ぶりがうかがえます。
 
ホラアナライオン系統の種類(Panthera fossilis、Panthera spelaea、Panthera youngi、Panthera atrox)は純正ライオンよりも総じて大柄ですが、そうかといって、本標本がホラアナライオン系統に分類されるべき妥当性は、Werdelin et al.(2018)によれば、限りなく低いということです。 本標本と現生ライオンの頭骨との間に形態学的差異が認められないことに加えて、これまでにアフリカ大陸にホラアナライオン系統の種類が分布していた形跡は全く知られていないからです。
 
つまり、そしてこれが注目すべき二番目の点ですが、ナトドメリライオンは純正ライオンの、これまで存在が知られていなかった特大サイズの古亜種とする仮説が、現段階では最も信憑性が高い(Werdelin et al., 2018)ということ。氷期ホラアナライオン(Panthera spelaea)よりも大きく、アメリカライオン(Panthera atrox)や間氷期ホラアナライオン(Panthera fossilis)に肩を並べる大きさの、純正ライオンの古亜種が存在していたということになります。
 
野生動物一般において、いわゆる「平均的サイズ範囲」を逸脱するような大型個体は、その絶対数自体が極めて僅少であるといえます。ナトドメリライオンを既知のライオン古亜種と同一視するならば、例外的特大個体の発見という見方も不可能ではないでしょうが、未知の巨大古亜種としての特異性を鑑みれば、ナトドメリライオンの標本サンプル数はまだ絶対的に乏しいということになりますし、本標本は高い確率で(ナトドメリライオンという巨大古亜種の)平均範囲内のサイズの個体であったとみてよいでしょう。それでいて既知の最大級のアメリカライオンに匹敵していたというのですから、確かにこの大きさは驚きに値すると思います。

それでは、純粋補食肉食性(ハイパーカーニヴォリー)のライオンが、これほどのサイズ(因みに、アメリカライオンはハイブリッドのライガーよりも大きいですから、本当に最大級のアメリカライオンに匹敵するとなれば、体重400kg超程にもなったのでしょうか)を実際に維持し得ていた要因としては、何が考えられるか、ということになりますが、Werdelin et al.(2018)によれば、それはやはり第一にメガファウナ(大型動物相)の豊饒さということに尽きるようです。
 
更新世中期から後期境界の頃のアフリカ東部地域はジャイアントアフリカバッファロー(ペロロヴィス属種)やキリンに近縁な巨大シヴァテリウム属種、今日よりも多種多様なレイヨウ類の存在など、巨大な純粋肉食獣の繁栄を賄うに足るほどに豊饒なメガファウナが、展開していたということでしょう。実際、ナトドメリライオンが現生ライオンと等しくプライドを形成していたとすれば、襲える獲物の種類の範囲は極めて広かったはずです。
 
イラストと本文 by ©the Saber Panther(Jagroar) (All rights reserved)
 

「10段階能力チャート」

Left :
Megistotherium osteothlastes (predating on Prodeinotherium hobleyi)
Bodymass(male)= over 1 tonne?

-Ability Stats(*not scientifically based at all)-
Body mass 10
Jaw dimensions 10
Bite force 10
Brute Strength 8
Damage inflicting power 8
Killing technique 4
Agility 7
Speed 7
Explosiveness 6
Grappling 3
Striking 3
Tackling 9
Leaping 6
Flexibility 4
Defense 6
Endurance 6
Aggressiveness 10
Toughness 10
Intelligence 4



Up right:
Agriotherium africanum (attacking Ceratotherium praecox)
Bodymass(male)= 550 kg

-Ability Stats(*not scientifically based at all)-
Body mass 8
Jaw dimensions 7
Bite force 8
Brute Strength 10
Damage inflicting power 8
Killing technique 6
Agility 6
Speed 6
Explosiveness 7
Grappling 10
Striking 10
Tackling 8
Leaping 3
Flexibility 7
Defense 9
Endurance 9
Aggressiveness 7
Toughness 10
Intelligence 8



Bottom right:
Panthera leo sensu lato. 'the Natodomeri Lion' (devouring Pelorovis antiquus)
Bodymass(male)= 400 kg?

-Ability Stats(*not scientifically based at all)-
Body mass 6
Jaw dimensions 6
Bite force 6
Brute Strength 7
Damage inflicting power 8
Killing technique 10
Agility 10
Speed 9
Explosiveness 10
Grappling 7
Striking 8
Tackling 5
Leaping 10
Flexibility 9
Defense 5
Endurance 5
Aggressiveness 9
Toughness 7
Intelligence 7

 

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