Prehistoric Safari The late Miocene Pan-Amazonia
●Species●
前景から遠景に向かって
中新世ボア科の大蛇(実は、ぺバス化石地層の動物相にボア科のヘビが含まれていたという報告はありません。とはいえ、ヘビの骨格は微細で化石化することが珍しいといわれます。ティタノボア(暁新世・コロンビア)や、コロンビア、ブラジルの中新世中期、後期の地層から出た古代アナコンダ属の例もそうですが、南米北部アマゾン帯には古第三紀初頭からボア科の分布が滔々と続いていた形跡が知られますし、実際は生息していたことが考えられるゆえ、あえて付加したもの)
ハパロップス属種 Hapalops (中型の地上生ナマケモノ)
プルスサウルス属種 Purussaurus sp.
中新世ノティオマストドン属種(a.k.a. アマフアカテリウム) The Miocene Notiomastodon (a.k.a. Amahuacatherium)
ボレオステマ属種 Boreostemma (中型のグリプトドン科の種類)
パラトリゴドン属種 Paratrigodon (一角のトクソドン科種)
●Description●
(以下は、2018年に私がアマフアカテリウムの謎について書いた英文記述
Will the Amahuacatherium mystery be settled?
'WilltheAmahuacatheriummysterybesettled?'Thecaseofamysteriou...
を、今回の復元画に添える目的で和訳、加筆したものです)
〈アマフアカテリウム〉
謎めいた南米の古代ゴンフォテリウム科の長鼻類、「アマフアカテリウム Amahuacatherium」の存在可否を巡っては、化石の発見以来、今も議論の的となっています。アマフアカテリウムの種の有効性や中新世後期という地質年代を認めるか否かで、学会は真っ二つに分かれてしまっているのです。
謎めいた南米の古代ゴンフォテリウム科の長鼻類、「アマフアカテリウム Amahuacatherium」の存在可否を巡っては、化石の発見以来、今も議論の的となっています。アマフアカテリウムの種の有効性や中新世後期という地質年代を認めるか否かで、学会は真っ二つに分かれてしまっているのです。
ぺルーのアマゾン帯でアマフアカテリウムと命名されたる長鼻類の化石が発見されるまで、北中米、南米大陸間の生物移動の事例は、鮮新世の the Great American Interchange「アメリカ大陸間大交差」以前にはなかったというのが定説ゆえ、一部の学者が中新世の南米ゴンフォテリウム科種の存在を承認しがたい(長鼻類であることに疑問の余地はないので、中新世後期という年代に疑義を呈している)というのも、無理からぬところでしょう。
下顎切歯歯槽の存在(即ち、下顎牙が有ったか否か)や、臼歯と下顎骨形質の特異性(diagnostic features)は頻繁に議論の的となっていますし、その地質年代については、アマフアカテリウム肯定派、否定派双方の層序学、岩相学、そして主に肯定派の手になりますが磁気地層学の各データに基づく調査にもかかわらず、コンセンサスが得られるまでには至っておりません。
アマフアカテリウム肯定派、否定派のどちらも説得力ある議論を論文で展開しており、専門の埒外にある一般の我々にしてみれば、どちらを奉ずべきか甚だ決め難いものがある。
この問題に関する直近の学術的見解としては、2017年に台湾で開かれた「第7回国際化石長鼻類会議(Ⅶth International Conference on Mammoths and their relatives)」でAvilla & Mothe et al. が、アマフアカテリウムの化石年代は「中新世後期のものに違いはない」が、上述のごとき「diagnostic featuresは承認できない」として、いわば折衷的な立場をとっています。
例えば件の下顎切歯歯槽については、第二大臼歯前根の痕跡に他ならないというのです。
結論として、その臼歯、下顎骨が更新世の Notiomastodon platensis の形質ヴァリエーションの範囲内に収まることから、本標本はノティオマストドン属※(Notiomastodon sp. indet)に同定されるに至っています。
(※南米固有のゴンフォテリウム科の長鼻類、ノティオマストドンについては、
をご覧になってください(かつてステゴマストドンと呼ばれていた種類です))
〈中新世の 'Mammal Immigration Pulse'〉
実は、中新世に(即ちアメリカ大陸間大交差以前に)アメリカ大陸間で哺乳類の往来があったらしいことを示す「証拠」は、アマフアカテリウムの件の他にも知られておりました。地上生ナマケモノやアライグマ科の種類が、この時期に大陸間を移動していた痕跡があるといいます。
実は、中新世に(即ちアメリカ大陸間大交差以前に)アメリカ大陸間で哺乳類の往来があったらしいことを示す「証拠」は、アマフアカテリウムの件の他にも知られておりました。地上生ナマケモノやアライグマ科の種類が、この時期に大陸間を移動していた痕跡があるといいます。
Avilla & Mothe et al.(2017) によれば、これらの事例が生じた時期は中新世中期の終盤に海水面が最も低くなった時期と一致するらしいのです。海水面が低かったこの時期に、水泳能力を有する生物の大陸間移動が促されたという考えで、「アマフアカテリウム」はその生物群に含まれていたのであると(ゾウは水泳能力を有しますから、古代の長鼻類にも同様の能力があったと仮定できそうですね)。
〈当復元画について〉
この復元画は、Avilla & Mothe et al.(2017) の仮説を採用し、「アマフアカテリウム」を中新世の南米ゴンフォテリウム科種として、しかしその形態はノティオマストドン(厳密にいうと、その祖先筋)として描写するとともに、当時の南米北部の生息地とコンテンポラリーの複数種(西部アマゾンのぺバス化石地層に特有の動物相)を描き添えたものです。
この復元画は、Avilla & Mothe et al.(2017) の仮説を採用し、「アマフアカテリウム」を中新世の南米ゴンフォテリウム科種として、しかしその形態はノティオマストドン(厳密にいうと、その祖先筋)として描写するとともに、当時の南米北部の生息地とコンテンポラリーの複数種(西部アマゾンのぺバス化石地層に特有の動物相)を描き添えたものです。
ご覧の通り、ここにはかの新生代最恐捕食者、怪物カイマンのプルスサウルスも共生しておったのです。北米から新天地へと移住を果たしたはいいが、長鼻類や大柄なアストラポテリウム科の種類とて身の安全の保障はない、 なんと危なっかしい場所であったことか。
しかし、この復元画には個人的な解釈に基づいて、「アマフアカテリウム」に下顎牙を加えてもいます。 上述のようにAvilla & Mothe et al.(2017) は下顎牙の存在を否定しているわけですが、臼歯・下顎骨形態に即したノティオマストドン系統説が妥当であるにしても、 中新世後期という早い進化段階において、ゴンフォテリウム科・ノティオマストドン属が下顎牙を有していたことは十分考えられようし、そのように解釈してもおかしくはないと思われるのです。これは全くの、私個人的な解釈となりますし、のちには下顎牙を消去する措置をとるかもしれません。
〈ノティオマストドンの進化系統史は?〉
そのことと関連して、私はノティオマストドンの進化史、その祖先系統について興味を新たにしています。なぜなら、この新説だと、同じく南米のゴンフォテリウム科種、「キュヴィエロ二ウスから更新世にノティオマストドンが分岐進化した」という従来説と、全く相容れないことになるから。
そのことと関連して、私はノティオマストドンの進化史、その祖先系統について興味を新たにしています。なぜなら、この新説だと、同じく南米のゴンフォテリウム科種、「キュヴィエロ二ウスから更新世にノティオマストドンが分岐進化した」という従来説と、全く相容れないことになるから。
上述の中新世中期終盤の mammal immigration pulseで南米に移入した'ancestor' というのは、可能性として、キュヴィエロ二ウスの祖先ともいわれるリンチョテリウム(中新世に北中米に分布した四本牙のゴンフォテリウム科種)のことでしょうか。
Avilla & Mothe et al.(2017)によれば、リンチョテリウムとキュヴィエロ二ウスはその形態の近しさから姉妹タクソン群を成しますが、一方ノティオマストドンは臼歯形態において二種の傾向とは明瞭に異なっているとのことで、リンチョテリウムをノティオマストドンの祖先と見做す説には難がありそうです(とまれ、「アマフアカテリウム」の推定のサイズは更新世のノティオマストドン(推定体重5~6トンにもなる)よりも小型だったことが窺われるので、体格的にはリンチョテリウムに近かったものと私は見ています)。
Avilla & Mothé は、前述の「リンチョテリウム+キュヴィエロ二ウス」の姉妹タクソン群にノティオマストドンとユーラシアのシノマストドンを加えた単系統群を措定しておりますが、シノマストドンはこれらの基底タクソンという位置づけです。よって、私見では、シノマストドン属と近縁な、しかし未だ化石記録の皆無な、いわゆる'ghost taxon'があって、それが南米に移住したのち、ノティオマストドンへと固有進化を遂げたのではないか、少なくともその可能性はありそうだ、とみております。
アマフアカテリウムの謎を含めて、南米ゴンフォテリウム科の進化系統に関する見解の推移については、今後も注視する必要があるでしょう。
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