歯ブラシ

洗面台の前、歯ブラシを眺めて。
あなたが見える。
いつも強く磨きすぎるあなたが見える。
いつまでも貧乏性なあなたが見える。
はじめて先細を使って驚いたあなたが見える。
自分のことより私を想ってくれるあなたが見える。
かわいらしい歯茎を見せ笑うあなたが見える。
一生懸命何かを話すあなたが見える。
おっかない眉間のしわをもつあなたが見える。
ドラマを見て号泣するあなたが見える。
家事をするあなたが見える。
あの日の寂しそうな背中のあなたが見える。
私ずっとあなたを見ている。
ありがとうの言葉はまだぶっきら棒だけど、
歯ブラシはあなたを見ている私を鏡に映す。

ナンナンナント

何度笑えば至福が永続するだろうか。
何度痛みを味わえば繰り返さずに済むだろうか。
何度失敗すれば完璧になれるだろうか。

なんと自分は都合のいい考えを持っているのだろう。
なんとたくさんのことに気づけないのだろう。
なんと生きることって恥かきなのだろう。

何だ反省をしていないのではないのか。
何だ努力が足りないだけではないのか。
何だかもうその通り何も言い返せません。
何か言い返すつもりもないです、この通り。