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湘南でゆるゆら暮らしココロ赴く先へガシガシ出かけるライター山秋真が更新。updated by Shin Yamaaki

原子力問題と知事:祝島沖・上関/珠洲/福島の場合

2011-06-17 10:19:44 | 祝島沖・上関原発計画:埋立免許

なんとも言えないニュースがはいってきた。

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【速報】工事免許延長の判断困難 上関原発計画で山口知事
 '11/6/16 中国新聞
中国電力が山口県上関町で計画中の上関原発をめぐり、
同県の二井関成知事は16日、記者会見で、
予定地の公有水面埋め立て免許延長の可否判断について
「知事の裁量でどこまで可能なのか。国の明確な基準が示されないと、
県としての方向性を出すのは難しい」と話した。…
(続きはこちらからどうぞ)

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山口・上関原発の免許裁量権 知事、方向性先送り示唆
  2011/6/17 0:06 日本経済新聞
山口県の二井関成知事は16日の定例記者会見で、
上関原子力発電所(上関町)建設予定地の埋め立て免許に関する
県の裁量権に関し「国が解釈を示さない」と述べ、22日開会の
6月議会定例会で方向性を示すとしていた、失効や延長などに関する
表明を先送りする可能性を示唆した。

知事は、期限内に準備工事が完了できない事態をにらみ、
2012年10月を期限に中国電力に付与した公有水面埋め立て免許について、
事実上、6月議会で方向性を示すとしてきた。

しかし、正当な事由がある場合に期間の延長ができるという
公有水面埋立法の規定の解釈を巡り、県の裁量権の有無を
国土交通省に確認したが、現時点で返事はないという。

二井知事は「6月議会では現時点での判断を示す」とし、最終判断を
中国電から延長申請が出た段階に先送りする可能性に言及した。
「県の裁量権の範囲が確認できない以上、上関原発埋め立てへの判断は、
22日の知事議案の説明には盛り込まない」とし、27日以降の本会議の
質問に答える形で、考え方を示すにとどめるとした。…
(続きはこちらからどうぞ)
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県知事といえば、原子力問題では重要な存在だ。
この機会にすこしふりかえっておこう。
たとえば、
2003年に凍結となった石川県の珠洲原発計画ではどうだったか?

1991年から珠洲原発反対ネットワークが県議会に送っていた
北野進さんの著書『珠洲原発・阻止へのあゆみ』(2005)から
関連する個所を引用してご紹介。

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 事態ここにいたりようやく県が収拾策に乗り出してきたのである。
 (引用者注:1989年)6月22日、
 杉山栄太郎副知事がまず珠洲入りし、高屋住民と話しあいの
 場をもつことになった。杉山副知事は、8期31年という中西県政を
 陰で支えた腹心である。集落全体の移転をともなった県の大事業である
 手取ダム建設では、反対派住民を説得し、地域をまとめあげた。…

 直前までマスコミ等に伝えられていた会場は…直前に
 市内の商工会議所に変更された。反対派の抗議行動を
 警戒してのことであった。
 しかし、杉山副知事が商工会議所に到着したときには、
 すでに反対派住民は抗議の声を浴びせようと待ちかまえていた。

 このとき杉山副知事に浴びせられた「人殺しコール」は、
 かずかずの難局を打開してきた杉山副知事に大きな衝撃を与えた。

 …県が事態打開の勝負どころと考えたのは6月30日である。
 中西知事、杉山副知事の県政ナンバー1、ナンバー2が
 そろって高屋に入り、高屋住民と懇談をするという。

 …午後3時、中西知事、杉山副知事、そして林市長らが
 集会場のまわりを取り囲む反対派住民約200人の怒号のなか、
 高屋町集会場に入る。会場内では原発問題をめぐって知事、副知事と
 反対派住民の間で激しい応酬が繰りひろげられた。
 「何度もいうように可能性調査は、原発立地の調査とは違うんです」
 中西知事は身ぶり、手振りで可能性調査の意義を訴える。…(pp.27-30)
 *** *** ***

「人殺しコール」は、誰が音頭をとるわけでもないのに
手拍子つきで、とめどなくつづいた――
『鳥ではないから―現地主婦が見た珠洲原発』(1990)を書いた
泉滋子さんは、同書のなかでそう記している。

けっきょくこの時(1989年)、
事態を収拾しようとした県の思惑は成らず、調査は再開されなかった。
北野さんが県議会議員に初当選した1991年以降には
調査再開の動きも止んだという。

ふたたび調査再開の動きがはじまったのは1993年、
のちに最高裁で無効とされた不正選挙によって
原発を推進する現職候補が珠洲市長に再選されてからだった。
この時には、表面上のおおやけの動きだけでなく
「89年に調査が阻止行動にあった教訓から
高屋現地の作業員をいかにして守るか、市役所をいかにして守るかも
検討されていた。『暁の奇襲作戦』ともいうべき、夜明け前に
キャンピングカーを高屋現地に集合させ、ベースキャンプを張り、
周囲を機動隊が守る。調査を再開した勢いで一気に押しまくるという
作戦も検討されていたという」(北野2005,pp.158-159)。

いま読みかえしてみると、「暁の奇襲作戦」などまるで
2011年2月21日の中国電力による闇討ちの工事再開のようで、
その近似性に改めて目を見はる点も少なくない。

このように1993年の夏~秋~冬と調査再開をめぐって
珠洲市内で緊張が高まっていった記憶はわたし自身にもある。
だが、事態は思いがけない展開をみせていった。
1993年9月の県議会で、
中西陽一・県知事は答弁中に容体が悪くなり、議場から病院へ。
復帰することのないまま、翌1994年に2月に76歳で逝去したのだ。

当初のシナリオでは、1994年の1月末~2月あたまに
「中西知事のゴーサインを受けて調査を再開する予定だったという。
…関西電力が練りあげたシナリオを、みずからの死をもって
打ち砕くかのよう」(前掲書 pp.161-162)な幕切れにみえなくもない。

            ***

もうひとつ、
たとえば福島県の場合、県知事の存在感はどうか?

福島県出身の開沼博さんによる
「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生れたのか』(2011, 青土社)に
前の県知事だった佐藤栄佐久さんへのインタビューを軸とした
「地方」レベルでの現代の原子力ムラの分析があるので、
そこからすこし紹介しよう。

開沼さんによれば、
地方の反乱ともいうべき佐藤前知事による「中央」との対峙は、
保守本流であるが故の反原子力だった。

当初は、佐藤前知事の(原子力に関する)「保守本流」の態度は
1)中央が進めていること
2)地方でこれまでつづいてきたこと
を前提とするものだったのが、
「中央が進めていること」という前提が
「地方が進めるべきこと」という前提へと変化した。

これを、前知事は次のように語る。
「この戦後50年の縦割り行政の中で
『構造化されたパターナリズム』に陥ってしまったので、
我々地方も悪かったのです。国民も市町村も都道府県も
中央に任せておけばいいという体質で、きてしまったということです。
しかし今、これを変えなければならない時代に入ってきている」

そうして、前知事の当初の「保守本流」は、
原子力(特にプルサーマル実施)をめぐる中央とのやりとりの中で
中央にとっての「保守本流」から
地方にとっての「保守本流」へという変化を完成させた。
「国と県と市町村と住民というのは、イコールパートナーである」
という前知事の言葉に、それは端緒にあらわれている。

『「フクシマ」論』は開沼さんの
数年来の福島フィールドワークももとにした力作であり、
フクシマ出身の社会学者による当事者研究という面もありと、
いろいろな意味でお勧めしたい一冊。

発売になったばかりで、
研究会で意見や情報を交換する仲間の本なのに
わたし自身まだ書籍の現物を入手しておらず
前段階のプリントアウト原稿しか手元にないため、
引用箇所のページを記すことができなくて申し訳ない。

ちなみに、開沼さんは
「なぜ栄佐久県政において原子力はゆらいだのか」と問いをたて、
「電力自由化と55年体制の崩壊」と答えてもいる。

これは、中西県政のあと94年春以降の石川県政において
珠洲の原発計画が強行されず、2003年に計画凍結にいたったことの
主要因のひとつとしての社会背景に重なるとおもう。

ここから、いまは「菅(直人)さん頑張れ」という思いも強くする。
このさい潔さは一時の美徳にはなるかもしれないけれど
百年・千年・万年先を考えるとむしろ保身ではないかと思う。
できるかぎり粘って、とにかく発電と送電を分離し、電力を自由化してほしい。

「抵抗勢力」が多く大変かもしれないが、できないとは思わない。
戦時下の国家総動員体制でいまの電力体制のもとができるまで
自由競争のもと、自治体などの公共発電も民間の電力会社もありの、
いまとかなり違う電力体制でやってきた経験が、日本にはある。

            ***

山口県の原発計画にもどろう。

上関原発をめぐる衝突が激化するなか、
知事の存在感の希薄さがずっと不思議だった。
おそらく知事というのもたいへんな仕事なのだろう。
それでも、
二井知事には今こそ勇気をだしてほしいと願わずにはいられない。

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