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首都圏9音大選抜オケの「ブルックナー」コンサート

2022年04月01日 | 展覧会・コンサート

3月26日(土)午後、ミューザ川崎で「音楽大学フェスティバルオーケストラ」のコンサートを聴いた。
  

このオケは、上野学園、国立、昭和、洗足学園、東京音大、藝大、東邦、桐朋、武蔵野首都圏9音大選抜メンバーで構成されている。メンバー表をみるとたとえばヴァイオリンでは1st、2nd各14人で、9大学各2人で17人(東邦のみ1人)、そのほか、桐朋3、武蔵野3、上野、国立、東京、藝大、昭和各1人、コントラバスは8人だが上野学園を除く各1人と、大学間のバランスに配慮しているようだ。在籍者数でみると、東邦や上野学園のように1学年50人台から洗足学園の600人台、国立の300人台と規模がさまざまなので、なかなか大変だと思われる。演奏者だけでなく、実行委員が各大学から4-6人、ライブラリアンや舞台スタッフも各大学から参加している。 
ただ、演奏指導者5人と練習会場提供は今回は東京音大だった。おそらく回り持ちかと考えられる
指揮は下野竜也さん、桐朋学園やイタリアのキジアーナ音楽院で指揮を学び、28歳より大阪フィル・朝比奈隆のもとで研鑚を積み、31歳でブザンソン国際指揮者コンクール優勝、2017年から広島交響楽団音楽総監督、京都市立芸術大学音楽学部教授という経歴の方だ。わたしが生で聴くのは初めてだ。
曲目は三善晃「祝典序曲」、ブルックナーの交響曲4番「ロマンティック」ハース版の2曲。
三善晃「祝典序曲」はまったく知らない曲だった。1970年3月の大阪万博用につくられ、しかももともと野外演奏(万博のお祭り広場)のつもりで作曲された。
4分ほどの短い作品だが、トランペット6本、ホルン6本、打楽器8人と、かなり派手な曲だった。木琴とティンパニーが大活躍、ラチェットも出てきた。曲が終わってから気づいたが、ハープ、ピアノまで入っていた。
演奏後、下野マエストロの指名賞賛奏者のトップはティンパニーの女性だった。

1曲目と2曲目のあいだに、管・打楽器メンバーが全員入れ替わるため5分ほど間があり、その時間を利用して下野マイスターから解説があった。このコンサートは新型コロナパンデミックで2回中止になった。日本の音大なのに、戦後有名になった日本人作曲家の曲があまり演奏されないので、今回は三善晃の曲にすることにした。当初、交響四部作の最後、「焉歌・波摘み」をセレクトしたが、4曲演奏のプログラムで進めていたのにコロナのため2曲に絞り、かつ休憩なしへと変更になった。ある程度大規模編成ということで「祝典序曲」を演奏することにした。
この曲は三善晃先生が37歳のときの曲で、パリ帰りの先生だが、歌舞伎の音楽や相撲の柝の音(きのね)などジャポニズムのエッセンスも織り込まれている。
マーラーやR.シュトラウスのアルプス交響曲は取り上げられたが、ブルックナーは初めてだ。それどころか下野マエストロが学生に「初めてブルックナーを演奏した人」と、手を上げさせると半分以上のメンバーが手を上げた。団員数が大きいアマオケでもマーラーと並び、ときおり演奏されるので意外だった。
マイスターは「ブルックナーというと、朝比奈隆オイゲン・ヨッフムのようなおじいさん指揮者の曲というイメージがある」「わたしは今年53歳になるが、50代は指揮者としてはまだハナ垂れ」と謙遜し「しかし若い指揮者、若い演奏家のブルックナーの『旅』をするのもよいのではないか」と考えたという。指揮者本人直々にコメントを聴けるとは、得した思いがした。

さてブルックナーの1楽章、冒頭ホルンがとても安定したソロを吹いた。トランペットもうまい。チューバの響きもすばらしい。フルートも安定した演奏だった。
2楽章は、コントラバスのピチカートやダイナミックな演奏が印象に残った。木管の掛け合いや、ヴィオラの澄んだ音もよかった。わたしは1階の6列目、舞台に向かってやや左に座っていたので、ヴィオラの音が耳にまっすぐに飛び込んでくる。弦のハーモニーをつくるうえでこんな重要な役割を担っていることをはじめて体感した。
ホルンのソロにクラリネットやヴィオラがかぶさる部分も聴きごたえがあった。
3楽章のホルンとトランペットにもシビれた。
4楽章は弦のトレモロ、ティンパニーの連打、ヴィオラのさわやかな合奏、管のハーモニー、そしてホルンがこの楽章でも、やはりすばらしかった。
1時間以上の大曲だが、あきることなく、音楽に酔いしれた。
プログラムに「次代を担う若い音楽家のドリームチーム」と書かれていた。性格上、この2日間のために編成された「一期一会」の特別なチームだと思う。何度くらい全体合奏できたのかわからないが、管打分奏指導の水野信行さん(東京音楽大学教授)はじめ、分奏指導の5人の先生方の力が大きかったのかもしれない。
下野さんは、立っているとき周囲の弦楽器の女性たちと比べても小柄な方で、上半身がしっかりし下半身が細く小さかった。指揮台での立ち姿がとても「絵」になる方だった。端正な指揮だが、鋭いところはとても鋭く、統率力が優れている。いまでも有名人だが、今後10年、20年、ますます期待したくなる指揮者であると思った。
終演後、拍手が鳴りやまなかった。歓声は上げられないが、2階席で「Bravo」の横断幕を掲げ振っている人がいた。カーテンコールも何度あったかわからない。指名賞賛奏者1番は予想どおりホルンのトップの女性だった。
祝典序曲もブルックナーも女性、ヴァイオリンのトップ、コンサートミストレスも女性、というかどのパートも7-9割は女性メンバーだった。まあ、そういう時代なのだろう。
日本のオーケストラの今後は明るい、と感じるコンサートだった。

ミューザ川崎の通路
このフェスは1999年にスタート、一時中断を経て2009年再開、今回は第11回だった。会場のミューザ川崎は2004年7月オープン、約2000席のホールで、サントリーホールのように舞台を360度取り囲む客席になっている。3階や4階はともかく、下の座席の音響はとてもよかった。パイプオルガンも設置されている。通路の壁の高いところに加工した写真が何枚か展示されている。おそらく、かつての川崎の風景だと思われる。どこかに解説板がありそうなので、次回来たときに探してみよう。

☆帰りに、東口・京急川崎駅から5分ほどの「立飲み 天下」に立ち寄った。ミューザの帰りはこの店へという定番ルートができてしまった。
マスターがたいへん低姿勢 「ごめんなさい」が枕詞のようにつく。こちらも自然に穏やかな気持ちになる。立飲みだが、けんちん汁(310円)、しゅうまい(250円)といった料理もある。酒と白ワインを2杯のみ、いい気持ちになった。
客は男性ばかり5人くらい。テレビでは巨人―中日戦の中継中で、8回ちょうど巨人が大量5点を取り、逆転しているところだった。そのまま試合が終了すると、大相撲14日目に切り換えられた。  
わたしは浜田さんのブログで知ったみせだが、たしかにいい店だ。

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