S多面体

集会報告、読書記録、観劇記録などの「ときどき日記」のショート版

暖かさを感じさせる築地のやまだや

2022年02月23日 | 銭湯・居酒屋

築地駅の南東600mほどにある、やまだやを訪れた。8階建てマンションの1階にあり、外観はやや高級な喫茶店のような感じだ。
この店を知ったのはずいぶん前のことで浜田信郎さんのブログだったが、太田和彦さんも「ひとりで、居酒屋の旅へ」で推薦しているそうだ。店に問い合わせると、5000円のコースのみだが追加注文はできる、しかも予約が多いようで1か月前から受け付けているとのことで、敷居が高そうに感じ、それでなかなか足を向けられなかった。

たまたま行けそうなチャンスがあり、1か月ほど前、再度問い合わせると、いまは6000円(税別)とのことだったが、今後もなかなか伺えそうにないので、思い切って予約し行ってみた。カウンターが6席ほどと4人掛けテーブル4つの店で、間隔を広く取りゆったりしていた。わたしは1人なので、カウンターのはずれに通された。
まず飲み物のオーダーからで、やはり日本酒にした。メニューの銘柄は、陸奥八仙田酒、風の森、「本日の日本酒」だった。風の森は知らない酒だったので頼もうかと思うと「シュワシュワと発泡系なので、料理の初めからはよくないだろう」とのこと。すっきりした感じなら宮城の日高見がお勧め、とのことだったのでアドバイスに従った。普通は冷だが燗もできるとのことだったが、どんな料理かわからないので、まず冷にした。あとでHPで見ると石巻の酒、店の方のお言葉どおりすっきりした味だった。
コースは前菜に始まり、デザートまで6種類、以下料理の説明である。
まず前菜は蓮根餅と車海老、胡麻豆腐の桜味風、白魚と天豆合えものの3種、いずれも薄味だった。寒い日だったので、蓮根餅が温かく、救われた気がした。桜味風の桜の葉は、早く春が来てくれるとよいのだが、と思わせる香りがした。

刺身は宮城の活〆星カレイ、福岡のわら炙りブリ、茨城のヒゲソリ鯛漬けの3種。ヒゲソリ鯛はスズキの仲間で漁獲量が少ない。もちろんわさび醤油も付いているが、店の方の説明でわら炙りブリは塩で食べるとよく、ヒゲソリ鯛は辛子が合うといわれた。たしかにその通りだった。刺身に辛子は変な気もしたが、漬けなので味が濃いので、いい組み合わせで、わたしにはひとつの発見だった。

旬と定番は、タカマッシュ、ギバサ、ホタテ貝のクリームコロッケ、野菜の炊き合わせ、酒のつまみ、大きなカキフライ、ブリ大根、鮟鱇の彦三、濃厚イワシのつみれの9種から2種を選ぶ。何なのかわからないものもあった。たとえば「ギバサとは何か」と問うと、藻の料理だそうだ。わたしはホタテ貝と野菜の炊き合わせにした。野菜の炊き合わせは何か、と思ったが、サツマイモ、小松菜、かぼちゃ、シメジ、にんじんなど素朴な野菜で、赤く丸いのは何かと思い聞くと、プチトマトとのことだった。かぼちゃは一見、ブリか鮭にみえた。普通の野菜ばかりだが、出汁が特殊なようでうまかった。もしかすると、産地が特別な所という可能性もあるが。基本的に薄味だが、関西の薄味とはちょっと違う気がした。

主菜は、目鯛のうに焼きか石焼・和牛モモ肉で、わたしは牛モモにした。いい色に焼けていた。付け合わせの野菜はパプリカだった。ソースはタマネギベースの醤油のようだったが、うまいソースだった。好みで、ゆずコショウをともいわれた。ここで酒を焼酎お湯割りに切り換えた。銘柄は千亀女の芋、これもわたしは知らない銘柄だった。ネット検索すると鹿児島・志布志の若潮酒造の商品で、クセのないすっきりした飲み口だった。
焼酎は千亀女以外に黒ぢょかがメニューに書かれていたが、そのほかに「本日の本格焼酎」があり、いろいろセレクトして出しているようだ。

最後に、わら炙りサバごはんが出てくる(メニューには「カキごはんもあります」と書かれていた)これがうまかった。サバだけでなくごぼう、にんじん、などが入っている。おそらくこれも炊き込みに使った出汁がうまいのだろうと思う。サバごはんは器の底のほうに、少し入っているだけだったので「エッ、これだけ」と思ったら、写真右奥に少し写っている黒い土鍋があり、一杯目の2.5倍くらいの量が入っていて、わたくしは完食した。たしかに何品もおかずが出たのでそれで十分とか、酒をたくさん飲みごはんは入らないという客もいるのだろう。
そしてあら汁が付いているが、わたしは今日のコースのなかでいちばん満足した逸品だった。島根の干したノリを入れてあるとの解説があった。薄く切った大根とにんじんの浅漬けが香の物として付いている。これも上品な味だった。
デザートはガトーショコラ、黒糖ラムレーズンアイス、クリームチーズのみそ漬けから1品選ぶ。まだ焼酎が少し残っていたので、わたしはクリームチーズにした。濃厚な味なので、酒のつまみによかった。ここで温かいお茶を出してくれる。これも落ち着けてよかった。
飲み物はビール、ワイン、日本酒、焼酎、ウィスキー、ソフトドリンクのほか、梅酒とハイボールまであった。

価格からすると接待用かとも思ったが、この日の客はわたし以外に、アベック1組、3-4人連れのグループ3組だった。女性客が半分くらいでアルコール付きの店としては比率が高かったが、これは料理がうまい証拠だと思う。
また、上記の飲み物の選び方や香辛料に見られるよう、客への心遣いがすばらしい。文字だけ読むと押し付けがましいと解釈されるかもしれないが、実際の印象はまったく違う。気遣い、心配りが肌で伝わる。「親切」なのだ。そういえば酒を頼んだとき、出したあとしばらくして「お水も置いておきます」とコップを出しててくれた。チェイサーという意味だろう。水が1/3くらいに減ると、何も言わないのにつぎ足してくれた。
じつはこの店は6品の品が出てくる間隔が平均25分とかなり長い。その間にときどき水を含むと酔いが冷めるが、その繰り返しが結構心地よい。店によっては待たされるとイライラすることもあるが、この店はいろいろ見るところがあって飽きなかった。座った場所がカウンター席で、2人の料理人の立ち居がよく見える。けして悠々とした動きでなく、キビキビ働いておられる。それでいてぶつかったりすることはない。分担がしっかりしているからだろう。客席はカウンター内部より20cmほど低いようで、手元までは見えないのでどんな作業をされているのかはわからない。
正面の壁に料理道具の棚がある。フライパン各種、鍋各種の右に竹筒のようなものがたくさん置かれている。いったいどんな調理道具なのか、しばらく考えてもわからないので、思いきって聞いてみた。これは10月末から2月ころまで鮟鱇の包み揚げのメニューがあることもあり、そのときこの竹筒を2つ割りにしたものではさむための道具とのことだった。これは聞いてみないとわからないし、じつのところ食べてみないとどんな料理なのかわからない。四季折々出てくるメニューも変わるのだろう。

客への応対に加え、器やインテリアも素朴で暖かい 。焼き物の知識などまったくないので産地の見当がつかないが、備前焼や美濃焼のようにざらざらした質感で、彩度低めというのかくすんだ温かみがある色だ。また屋内の壁や机、カウンターも白黒が基調なのだが、同じように白でも真っ白でなく少しベージュがかり、黒も真っ黒でなくくすんだ黒でやはり温かさを感じさせる。店主の人柄が出ているのかとも思われる。
料理にも、客にも、心遣いが細やかで暖かいのがこの店の一番の特色なのかもしれない。
最後にこの店の創業をお聞きすると、今年で23年、ずっとこの場所で続いているそうだ。調べると、マンションの新築当時というわけではなく15-16年たったころからのようだった。かつて故・山岡久乃さんがこのマンションの上のほうの階に住んでおられたそうだ。
なかなか来られない店と思ったが、「いまはアラカルトも出しているので、ちょっと飲みにいらっしゃって」と言われた。酒と料理一品とあのサバごはんもいいかもしれない、と思った。珍しいものをいろいろ食し、心が温まった夜だった。

やまだや
電話:03-3544-4789
住所:東京都中央区築地7-16-3 クラウン築地
営業:18:00~23:00(コロナ禍の間は17時から21時ころと、時間が変わる)
   日曜・祝日休み

●アンダーラインの語句にはリンクを貼ってあります。


オミクロン禍のさなか馬場管99回定期を聴く

2022年02月04日 | 展覧会・コンサート

1月30日(日)オミクロン禍で、連日感染者数全国7万人を超えるさなか、埼玉会館高田馬場管弦楽団第99回定期演奏会を聴きにいった。昨年夏、同じ会場で98回定期が行われたときは、大宮の手前だから京浜東北に乗ればよいと思ったら意外に遠く、1曲目を聞き逃したので、今回は開場時間より10分ほど早めにいった。わたしより早い方もいたが、10-20席あるロビーのイスに座って待っておられ、並んだのはわたくしが1番だった。前回はコロナで指定席だったが、今回は自由席ということもあり、通常なら早い人は1時間くらい前に並び始めるからだ。さすがに時期が時期なので、いつもは満席の会場が1階の前のほうはガラガラ、全体を見渡すと5割くらいの入りかと思われる。ということはコロナ禍ではちょうどよいくらいの混み具合だ。
曲目は、ドヴォルザークの序曲「謝肉祭」プーランクの「シンフォニエッタ」、メインがチャイコフスキーの交響曲第5番の3つだった。
指揮は石橋真弥奈さん。プログラムによれば1986年生まれで今年36歳、東京音大出身、2017年ニーノ・ロータ国際指揮者コンクールでニーノ・ロータ賞受賞(優勝)、これまでに読響、新日本フィル、東響、日本フィル、ぱんだウインドオーケストラなどと共演という、プロフィールの方だ。わたくしが聴くのはもちろん初めてだった。

序曲「謝肉祭」は10分くらいのボヘミア風の彩を帯びた軽快な小曲で、きびきびした明快な指揮だった。コール・アングレとヴァイオリン・ソロが美しかった。最終部ではピッコロがよく鳴っていた。久しぶりにクラシック生演奏を聴いたので、曲のタイトルどおりお祭り気分で、心が浮き浮きしていい気分だった。
2曲目シンフォニエッタは、4楽章形式で25分ほどの曲、小編成で金管はトランペット2本のみだった。わたしは初めて聴く曲、ただ4楽章のフィナーレはFMで聴いたような気もした。ウィットに富むいわゆるフランス調の曲だった
2楽章ではオーボエとフルートが活躍した。この曲は1947年の作品だが、4楽章フィナーレは、いかにも20世紀の現代都市で生き、活動する人間を表現するような曲だった。
プーランクはミヨー、オネゲルらフランス6人組の1人で、高校生のころ好きな作曲家だった。ただ管楽器を含む室内楽曲ばかり聞いておりオケの曲は初めてだった。2015年のラ・フォルジュルネで1人だけのちょっと不思議なオペラ「人間の声(演奏会形式 ソプラノ中村まゆ美、ピアノ大島義影)を聴いたことを思い出した。
最後は、有名なチャイコフスキーの5番だった。
1楽章アンダンテは軽快に進みいい感じだった。2楽章アンダンテカンタービレは明快だが詠嘆調ではない指揮だった。3楽章ワルツ アレグロモデラートは、あまりメリハリや効果を付けない演奏だった。さて期待した4楽章フィナーレだ。トロンボーンなど金管楽器はよく鳴っていたが、盛り上がりがない。したがって演奏後の感動がなかった。
指揮者にもいろんなタイプがある。聴衆も、端正な指揮が好きな人もいると思う。人それぞれであることは、よくわかっている。
ただ馬場管のひとつの魅力は、フィナーレに向かう盛り上げ方の緻密な計算と、終演後の感動だとわたしは思っていた。そういう観衆の一人としては、今回は肩透かしだった。
浦和のことは何も知らないので、帰りに少し歩いてみた。浦和は、江戸時代に中山道の日本橋から3つめの宿場町となり、明治以降、さいたま市誕生まで長く県庁所在地だった。
埼玉会館は浦和駅西口から県庁通りを歩いて500mくらい、会館の先250mくらいに県庁がある。だからここが浦和のメインストリートかと思った ところが近辺は5-6階建ての低層ビルが多い。金融機関やスターバックス、ワシントンホテルなど全国ブランドの店があるのはどの町も同じだが、ときどき染物屋や邦楽器店がありちょっと不思議な感覚がする。駅前に伊勢丹、イトーヨーカドー、コルソといった商業施設があるが、あまり賑やかな感じはなかった。もしかすると東口がメインかと駅の裏側にも回ってみたが、パルコがあるもののその気配はなかった。よく言えば落ち着きのある街だ。西口には県庁の向かいにさいたま地裁があるので弁護士事務所の袖看板が多いのと、街灯に「サッカーのまち浦和」の赤いフラッグがなびいているのが、特徴といえば特徴だ。
東京都はじめ全国でコロナ感染者数が爆発的に増えていくなか、いつ中止のお知らせがアップされるかと、毎日のように馬場管のHPを冷や冷やしながら見にいっていたので、なにはともあれコンサートが無事に開催され、聴くことができたのが幸運だった。
次回は7月18日練馬文化センターで、記念すべき100回定期演奏会だ。森山さんの指揮でドヴォルザーク・交響曲8番、エルガー・エニグマ変奏曲などの予定なので、心が騒ぐ。そのころには新型コロナの流行が収束(または下火)になっていることを祈る

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