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S&R shudo's life

ロック、旅、小説、なんでもありだ!
人生はバクチだぜ!!!!

真冬の狂想曲18-2

2006-10-22 18:59:52 | 真冬の狂想曲
 突然平井の携帯電話が震えだした。平井は携帯電話の画面が表示した名前を確認して、松に中村からだと告げた。
「平井、何も知らんふりして上手に話せ」
 平井はうなずいて携帯電話の着信ボタンを押した。
「はい、平井です。」
「平井、お前大丈夫か?松崎がお前を生け捕るって息巻いてたぞ」
「そうですか。でも私を捕まえてもどうしようもないでしょ、お金も持ってないですし」
「バカ!そんな事あるか!お前が金持ってると思ってるからお前を探してるんだろう。とにかくしばらく身を隠しておけ。あとの事はこっちでなんとかするから。お前だけはどうにかして助けてやるから、今はすぐ逃げろ。」
 平井は受話器の向こうに聞こえないように溜息を漏らした。
「中村さんはどうするんですか?」
「俺は明後日どうしても仕事で九州に行かないといけないから、それが終わってから東京に戻る。それから川原さんに相談するつもりだ。お前の事もよく頼んでおくから」
「分かりました。じゃー、私はすぐ飛ぶようにします」
「そうしろ、どうも松崎のヤツ東京にいるみたいだからな」
「そうですか、中村さんも気をつけて下さい」
 佐々木がうまい事中村に偽の情報を流しているようだ。中村は俺達が東京にいると思い込んでいる。佐々木も平井も俺達の手に落ちているとは思ってもいないようだ。

真冬の狂想曲18-1

2006-10-20 17:16:29 | 真冬の狂想曲
 俺のいない間にどんな話になっているかは解らないが、松はいつもとは違う携帯電話で中村に電話をかけた。
「中村さん、今日も昨日話した件やけど、金さえ返してくれたら後は何もせんけ、黙って金返したらどうなんか。おたくのケツ持っとる人にも相談してみい」
 かすかだが携帯電話の向こうの声が聞こえる。
「松崎さん、昨日も話した通り、松崎さん達の金は平井が全部持ってるんですよ。私は一銭も貰ってませんし、何でこうなってるのか分かりません」
「ほう、じゃー平井はこっちで捕まえてもいいんやな?」
「…はい、私も平井がどこにいるのか分かりませんから。さっきも言ったように、私は何も分かりませんので」
「そうか、分かった。アンタも平井に連絡取れたら、俺に電話するように言ってくれ」
「はい、分かりました。連絡取れたら必ず連絡させます。」
 松は電話を切った。
「平井、今の話、聞こえたか?」
「はい、聞こえました」
「中村のヤツ、お前売って自分等は助かろうと思ってるぞ」
 平井は明らかに落胆している。その落胆した表情にみるみる怒りの色が広がっていく。人を騙して飯を食っている詐欺師でも、人に裏切られたら頭にくるらしい。

真冬の狂想曲17-7

2006-10-17 09:59:30 | 真冬の狂想曲
 「首藤さん。」
ノブがザキと他愛のない話にふけっている俺に話しかけた。
「どうした、ノブ?」
「そろそろ俺仕事に戻らせて貰います。正明さんがうるさいんで。」
「お前、指もないくせに堅気の仕事に行くんか、ここに俺残して。冷たいのー。」
 ノブはヤクザを辞めるときに小指を落としていた。きちんとケジメはつける男だ。
「やっちゃん、正明もうるせーし、ノブも働かせんと会社の利益にならんし、帰らせてやってくれ。やっちゃんが来たら帰っていいって言っちょったんよ。」
「ノブ、後でまた来るんやろうのー?待っちょくけの。」
「勘弁してくださいよ、首藤さん。」
「冗談よ。どっちお前もまた松に呼ばれるやろうけ、そん時の。」
 ノブは松に気付かれないように嫌な顔をした。俺もそれを見て同じような顔をした。
「それじゃー、すいません。先に帰らせて貰います。首藤さん今度ギター教えて下さいよ。」
「お前小指ねーのに無理っちゃ!」

真冬の狂想曲17-6

2006-10-16 10:36:27 | 真冬の狂想曲
 1時間を少しまわった頃、ザキは1211号室に現れた。ジージャンにジーンズ、ハードブーツにパーマのロン毛といういでたちだ。
「おう!ザキ、久しぶり。まだパクられてなかったか?悪いの久しぶりなんにこんな事で呼んで。」
「何言いよんすか、兄さん。何でも使うてください。」
 俺はザキを部屋の奥に招き入れ、松達に紹介した。ザキは深く頭を下げて松、そしてノブに挨拶をした。そして、平井にも頭を下げようとした。
「兄ちゃん、コイツは違うけヘラうたんでいいよ。コイツ等詐欺師やけ、コイツの仲間をこれから生け捕るけ、兄ちゃん悪いけどちょっと付き合ってくれや。とりあえずやっちゃんと二人でコイツ見張っちょってくれんか。」
「はい、分かりました。何でも言ってください。」
「ザキ、とりあえずまだする事もないけ、ゆっくりしちょき。その辺座れよ。」
 俺は俺が寝転がってたベッドの隣のもう一つのベッドにザキを座らせた。ザキはまだあまり状況を把握してないが、平井に敵意剥き出しの視線を向けていた。俺達みたいな種類の人間は簡単だ。同じ傘の下にいる者には徹底して擁護するが、その外にいる者には徹底して敵意を向ける。多くの説明は要らない。

真冬の狂想曲17-5

2006-10-14 11:25:13 | 真冬の狂想曲
 俺は2ヶ月前に小倉のライブの打ち上げで意気投合して兄弟分になったザキに電話を入れた。数回の呼び出し音で相手はでた。
「どうしたんすか兄さん。」
俺は挨拶も抜きにして用件を切り出した。
「ザキ、お前今暇か?」
「えぇ、暇ですけど、何かあったんすか?」
「今ちょっと、荒事で動きよって人が足りんのやわー。ザキ暇やったら手伝わんか?」
 ザキは少しの間も空けず返答した。
「いいっすよ、暇ですから。どこに行けばいいんすか?俺下関からっすけど、時間大丈夫っすか?」
「おう、全然大丈夫。俺達は小倉駅の上のステーションホテルにおるけ、そっからやったらゆっくり来ても1時間ぐらいやろ。1211号室におるけ、直接上がってきてくれ。」
「分かりました。女帰してすぐ行きます。」
 俺は携帯電話を切り、ベッドの上に置いた。松に1時間程でザキが来る事を告げて、また天井を見上げた。