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S&R shudo's life

ロック、旅、小説、なんでもありだ!
人生はバクチだぜ!!!!

真冬の狂想曲19-1

2006-11-10 23:00:57 | 真冬の狂想曲
 ザキを駅近くの駐車場まで送り、ステーションホテルに戻った。平井の待つ部屋に戻るのは憂鬱だったが、戻らないわけにもいかない。俺はエレベーターを待つ間中ずっと憂鬱だった。
 1211号室にカードキーを挿してドアを開けた。かすかなアンモニア臭が鼻をつく。平井が俺に気付き恥ずかしさに震えだした。小便を垂れ流している。そういえば平井を縛ったまま置き去りにして3時間以上経っている。俺は隠そうともせず顔をしかめた。掃除して着替えさせないといけない。俺は平井の手足を縛っているロックタイを外そうとしたが、何か切るものがないと外すのは無理だった。
「平井、悪いの。これちょっと外れんけ、切る物買ってくるわ。しばらく辛抱しちょけよ」
 平井は目を瞑ったまま首を縦に動かした。俺は平井を置いてまた1211号室から出て行った。

真冬の狂想曲18-6

2006-11-06 16:06:34 | 真冬の狂想曲
 金は豊富にある。何でも好きな物が食えそうだ。恥ずかしながら50万もの大金を持って歩くことは始めてだった。俺もザキももともと貧乏人なんで、金のかかる食事なんてとったことがない。さんざん悩んだあげく、駅の近くの小汚い焼肉屋に入った。
 ホルモンとカルビをビールで流し込み、俺達は空腹を満たした。いくら金を持ってても食う物はいつもと変わらない。1時間程時間を潰し、焼肉屋を後にした。
「ザキ、お前帰ってていいぜ。ホテル帰ってもベッド2つしかないし、どうせする事もないしよー」
「兄さん、一人でしんどくないっすか?」
「全然大丈夫。あんヤツは縛ったままにしとくけ」
「そうですか、じゃーそうします。また明日起きてから出てきます」
「おー、そうしてくれ」
 ザキは頭を下げて、帰ろうとしている。
「ちょっと待て、まだ終電まで時間あるやろ?」
「兄さん、俺車っすよ」
「そうか、ほんならまだ時間いいよのー?」
「えー、まだいいですけど…」
「ちょっと遊んでいくか?金は持っとるけ」
 ザキの顔がだらしなく緩んだ。
 俺達は駅とは反対方向に歩いて、ソープ街へと足を踏み入れた。手前の安い店を通り過ぎて、今まで入った事もない高級ソープに入った。どうせ人の金だ。

真冬の狂想曲18-5

2006-11-01 16:18:30 | 真冬の狂想曲
 1211号室に戻ると、松と平井はルームサービスの夕食をとっていた。俺達の分はなさそうだ。俺はベッドの上に買ってきた下着を放り投げた。
「やっちゃんも何か食う?」
 松は悪びれなく聞いてきた。
「俺はまだいいや、後でザキと何か外に食いに行くわ。あの金使っていいんやろ?」
 使わないつもりはまったくないが、とりあえず言ってみた。
「いいよいいよ、この件片付くまでその金で飯やら何やら要る物に使って」
 平井の金なのにまるで自分の金のように話している。それを横で聞いている平井も何事もないような顔をしている。こいつら感覚がおかしい。金持ちと詐欺師の感覚は俺には理解し難い。
 それからしばらくして松は用事があるので後を頼むと言い残し、1211号室をあとにした。俺にはこれからの長い時間が残された。
「ザキ、ほんなら俺達も飯食いに行こうや」
「いいですけど、兄さん、コイツどうするんですか?連れていくんですか?」
 俺はベッドに放り投げた買い物袋の中からロックタイを取り出して振ってみせた。
「あー、そうゆう事ですね」
 ザキはすぐに理解した。
 俺とザキは手馴れた手つきで平井の手足をロックタイで縛り上げた。もちろん手は後ろ手だ。そして、その手と足首を縛っているロックタイどうしをロックタイで結束した。口には平井の持っていたハンカチを押し込み、その上からタオルで縛った。
「何も出来んやろうけど、おとなしくしとけよ平井」
 俺は笑いながらそう言い、部屋のカードキーをポケットに突っ込んだ。

真冬の狂想曲18-4

2006-10-30 21:06:39 | 真冬の狂想曲
 松と平井は小さなテーブルを挟んで何やら話し込んでいるが、俺はその内容に興味はない。ザキとくだらない話で時間を弄んでいた。
「やっちゃん、悪いけどみんなの着替えやら買ってきてくれん?俺のは要らんけ」
「いいよ、ここにおっても時間潰れんけ。金はこの金使っていいんやろ?」
「うん、これからいろいろ金かかるやろうけ、飯代やら交通費やら全部その金使って」
「分かった」
 俺はザキを連れて1211号室を出た。ホテルを出ると一気に12月の寒さが身にしみる。駅からの連絡通路を通りラフォーレ小倉に入った。男性用の下着を探し回ったが見当たらなかった。そのかわり5Fの古着屋で好みの皮のハーフコートを見つけた。少し迷ったが、ポケットの中には50万入っている。
 俺とザキはラフォーレ小倉を出て駅の近くのローソンに入った。ようやくそこで人数分の下着と靴下を手に入れた。
 ザキとホテルに戻る途中で買い忘れた物を思い出して、もう一度連絡通路を通りラフォーレ小倉のほうに歩いていった。ラフォーレ小倉を通り抜け、ベスト電器に行き、配線用のロックタイを買った。あのプラスチックの帯状の紐みたいなやつだ。そしてもう一度ラフォーレ小倉に入り、あのハーフコートを買った。もちろんあの50万でだ。

真冬の狂想曲18-3

2006-10-24 22:24:36 | 真冬の狂想曲
「平井ー、どうか?まだ中村をかばって俺達にこみいられるか?それとも中村を売って楽になるか?」
「いえ、私も知っている事は全部話します…。金は確かに中村が全額管理しているはずです」
 平井は静かにだがはっきりと中村について話しだした。
「私は会った事はないですが、中村には資金提供やトラブった時の処理をしてくれる人がバックに付いているはずです。ヤクザではないと思いますが、それに近い人だと思います」
「ほんで、そいつの名前は?」
「名前はよく憶えてないです」
「そうか…、お前の嫁さんはお前の博多の実家でお前のおふくろさんと一緒におるらしいのー、それから美和って女、ニュージーランドに行っとるらしいの、住所はどこやったっけ?まー、後でキムに電話して聞こう」
 松は平井の持ち物から韓国人達が調べ上げた情報を口にした。
「本当に名前は憶えていません!勘弁してください!」
「まーいいやろ、どうせ中村を捕まえたら出てくるやろう。ほんで、まだお前隠してる事があったら今のうちに言っちょけ、後でボロボロ出てきたり嘘ついとったりしたらお前だけやないでお前の周りの連中も全員しまやかすぞ!」
 平井はそのくたびれた顔に涙をボロボロ流して何度も首を縦に振った。完璧に心が折れている。