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S&R shudo's life

ロック、旅、小説、なんでもありだ!
人生はバクチだぜ!!!!

真冬の狂想曲17-4

2006-10-12 16:02:09 | 真冬の狂想曲
 俺は現金をコートのポケットに押し込み、それ以外の物は持ってきたショルダーバッグに押し込んだ。そしてベッドに仰向けに転がった。
「ほんで、今どんなふうになっちょん?」
寝たまま松に聞いた。
「どんなふうになっちょんっちやっちゃん、こんなふうよ。とりあえず明後日中村を生け捕ってからの話よ。中村達のバックが何やらごそごそ動きよるらしいけど、向こうが先にヤクザ出してきてくれたらこっちの勝ちやけ。こっちのほうに筋があるけ、先にヤクザ出したほうの負けよ。」
 俺はまだ天井を見続けている。結局大きな話になっていってるんだななんて思いながら。
「ほんでやっちゃん、中村生け捕るときに人が足りんけ、誰か呼んでくれん?誰かおるやろ?」
松はいつもこうだ。金儲けの才能はあるが、人望はあまりない。選挙事なんかのときでも、人に頼まれて人数を集めようとするが、結局集まらず俺に頼みにくる。うんざりしているが仕方がない。これが腐れ縁ってやつだ。
「どんなんでもいいん?」
「どんなんでもいいけど、じぇんならんヤツはダメよ。逃げ出すようなヤツは困るけ。」
 俺は少し考えてから、最近知り合ったヤツを呼ぶ事にした。
「おるおる、いいのが。最近兄弟になった下関のヤツがおるわ。キップが出ちょんヤツやけどいい?」
「いいけど、何でキップ出ちょんの、そいつ?」
「傷害やったか殺人未遂やったかやったわー。前はポン中やったみたいやけど、大丈夫やと思うぜ。」
「いい!そんなヤツの方がいいわ。やっちゃんそれ呼んで。」
「分かったけど、小遣いやってくれよ。」

真冬の狂想曲17-3

2006-10-11 07:49:29 | 真冬の狂想曲
 ノブと一緒に1211号室の中に入った。かなり広めのツインルームだ。窓のそばのテーブルに松と平井が向かいあって座っている。俺は東京にいるときに、こそっと松の金で買ったショルダーバッグをベッドに投げ捨て、ベッドに腰を下ろした。
「松、俺はどうしたらいいん?」
「そうなんよ、やっちゃん。ノブはそろそろ仕事に戻さんと正明がうるさいし、俺もこっちに帰ってきたら用事がいっぱい入って身動き出来んけ、コイツが逃げんように一緒におってくれん?頼むわ。」
 正明ってのは、俺と一緒でガキの頃から松と腐れ縁の幼馴染だ。今は松の会社の一つの人員派遣会社を任されている。ノブはその正明の部下だ。
「何日ぐらいかかるん?」
「中村が明後日飯塚に入るらしいけ、とりあえず中村を生け捕るまでかな。そうそう、平井が俺達の手に落ちたの中村はまだ知らんけ、平井の電話気を付けちょって。」
 そう言って平井の鞄をベッドに投げた。
「それはいいけど、俺金持ってないけ、飯代ぐらい置いていけよ。」
「平井の鞄に金が入っちょんけ、それ使って。通帳やら印鑑やらカードも入っちょんけ、それもやっちゃんが管理しちょってよ。」
 俺は平井の鞄をひっくり返した。現金の入った袋とそれ以外が入った袋が2つ出てきた。松が整理していたのだろう。金は50万程しか入ってない。この前に見たときよりも少なくなっている。松が使ったんだろう。平井には使う時間などなかったはずだ。

真冬の狂想曲17-2

2006-10-10 07:31:06 | 真冬の狂想曲
 改札を抜け、コートのポケットから携帯電話を取り出した。
「首藤やけど、どこに行ったらいい?何号室?」
「やっちゃーん、待っちょったよー。1211号室におるけ上がってきて。」
 松が猫撫で声を出すときは気を付けなくてはならない。必ず嫌な頼み事だ。それを断りきれない俺も俺だが。アイツの声には魔力じみた力が宿っている。アイツに何か頼まれるとどうしても断れない。周りの連中に聞いても、みんな断りづらいそうだ。ガキの頃からアイツのおかげで嫌というほど苦労させられてきたものだ。
 駅の構内を伊勢丹があるほうに歩くとすぐ、「ステーションホテル」の2Fエレベーターホールに辿り着いた。初めて「ステーションホテル」に入るが、ここは駅の下が1Fフロントになってるが、フロントを通らずに各階に行けるようになっているらしい。俺はエレベーターのボタンを押して、上りエレベーターを待った。
「首藤さん!」
 突然の聞き慣れた声に俺は振り返った。そこにはコンビニのビニール袋を持ったノブが立っていた。
「お前もおったんか。お前もいい迷惑やのー。」
「そうですよ、でも首藤さんが来たんで俺は帰れますから助かりました。」
「嘘やろ!お前の代わりに呼ばれたんか?冗談やろ!?」
「だって俺仕事がありますもん。」
 ノブはニッコリ笑ってエレベーターのドアを押さえて、俺を先にエレベーターに乗せた。

真冬の狂想曲17-1

2006-10-07 10:25:46 | 真冬の狂想曲
 俺があの暴力的で退廃的な日々から解放されて一晩経ったとき、シド・ヴィシャスが歌いだした。
「やっちゃーん、何しよん?暇やろ?」
 松と別れてから1日しか経ってない。正確には19時間しか経ってない。
「もうかよ!あとは大丈夫やったんやないんか!」
「そんなん言わんでいいやん、ちょっと人が足りんけ今から小倉まで来てくれん?ステーションホテルにおるけ。」
「分かった分かった、ほんなら飯食ってからすぐ行くわ。」
「やっぱ、やっちゃんやのー!待っちょくわ。ホテル着いたら電話して。」
 俺は子供を抱きしめ溜息をついた。
「また、しばらく帰ってこれんの?」
 女房は昼食を作りながら、諦め気味に言った。
「たぶん、そうなるやろうの。まー、これで終わりやろうけ我慢しとってくれ。それから明日給料日やけ、みんなに給料やっちょって。給料計算は終わっちょんけ、頼むわ」

 機嫌の悪い女房に、駅まで送ってくれとは頼めず、俺は駅までの10分程の道のりをてくてくと歩いた。12月も半ばになると、さすがに九州も寒さが厳しい。俺はマフラーを巻き直し駅までの道を急ぎ足で歩いた。
 5分程待ってホームに到着した電車に乗り込んだ。電車の中は暖房がよく効いている。マフラーを外し、いつものコートのボタンを外し、筋肉と脳みそを弛緩させた。30分程で小倉駅に着く。それまでは何も考えずにおこう。

真冬の狂想曲16-2

2006-10-06 14:00:36 | 真冬の狂想曲
 タクシーを降り、松のカードでグリーン車の切符を買い、のぞみ号に乗り込みグリーン車のシートに身体を沈めた。前の席で松と松木社長が何やらこれからの話をしていたが、家に帰れるであろう安堵感で俺は深い眠りに落ちた。
 目が覚めたときにはもう、のぞみ号が広島を出たところだった。あと30分程で小倉に着くだろう。そこからローカル線で30分も揺られたら、女房と可愛い我が子の待つ平穏な世界に帰れる。少しの間だが。
「やっちゃん、ありがとう。あとはこっちでなんとかするけ、もういいよ。また連絡するわ。」
「おう、分かった、またなんかあったら電話して。」
 本当はもう連絡して欲しくないのだが、ついこう言ってしまう自分が呪わしい。
 のぞみ号は小倉駅に到着した。俺は松達に気をつけるように言って松達と別れ、一人日豊線の下り電車に乗り込んだ。これでいつもの生活に戻れる。何事も無く家に帰れてホッとしている。後はシド・ヴィシャスが歌わない事を祈るだけだ。