働き方改革関連法ノート

労働政策審議会(厚生労働大臣諮問機関)や厚生労働省労働基準局などが開催する検討会の資料・議事録に関する雑記帳

「発信者情報開示の在り方に関する研究会」検討課題

2020年06月10日 | プロバイダ責任制限法
発信者情報開示の在り方に関する研究会(総務省)
プロバイダ責任制限法における発信者情報開示の在り方等について検討するため「発信者情報開示の在り方に関する研究会」を総務省は立ち上げ、第1回会合を2020年4月30日に、第2回会合を2020年6月4日に開催した。

研究会構成員
上沼紫野・虎ノ門南法律事務所弁護士
大谷和子・株式会社日本総合研究所執行役員法務部長
垣内秀介・東京大学大学院法学政治学研究科教授
北澤一樹・英知法律事務所弁護士
栗田昌裕・名古屋大学大学院法学研究科教授
鎮目征樹・学習院大学法学部教授(座長代理)
曽我部真裕・京都大学大学院法学研究科教授(座長)
前田健・神戸大学大学院法学研究科准教授
丸橋透・明治大学法学部教授
若江雅子・株式会社読売新聞東京本社編集委員

第2回 発信者情報開示の在り方に関する研究会
発信者情報開示の在り方に関する研究会(第2回)は、2020年6月4日(木)午前10時0~、WEB会議により開催された。議題は「事務局説明」「意見交換」、また傍聴については「申込者に送付予定のメールに記載する方法により、WEB会議(音声のみ)での傍聴」。

発信者情報開示の在り方に関する研究会「主な検討課題(案)」
1 議論の前提としての確認事項(発信者情報開示請求に係る制度によって確保を図ろうとする法益等)
・発信者情報開示請求に係る制度の見直しに当たっては、発信者情報開示請求権によって確保を図ろうとする法益は何か、を確認した上で、その実現のための具体的な方策の在り方について検討を深めることが適当ではないか。

・発信者情報開示請求に係る制度の趣旨は、権利侵害を受けたとする者(「被害者」)の救済がいかに円滑に図られるようにするか、という点(被害者救済という法益)と、適法な情報発信を行っている者の プライバシー・通信の秘密をいかに確保するか、という点(表現の自由の確保という法益)の両者の法益を適切に確保することにあると考えられるが、どうか。

・円滑な被害者救済を図る観点から、法第4条の発信者情報開示請求権の開示要件である「権利侵害の明白性」について、より緩やかな要件とすべきとの考え方について、どう考えるか。(「権利侵害の明白性」とは、「権利の侵害がなされたことが明白であるという趣旨であり、不法行為等の成立を阻却する事由の存在をうかがわせるような事情が存しないことまでを意味する。」(総務省総合通信基盤局消費者行政第二課著「改訂増補第2版プロバイダ責任制限法」79頁)

2 現行の省令に定められている発信者情報開示の対象のみでは、発信者を特定することが技術的に困難な場面が増加
・電話番号の追加を検討するのは、どうか。その場合の課題等は何か。

・ログイン時のIPアドレスなど、投稿時以外のIPアドレスについてはどうか。開示対象に追加することの 有用性・必要性・相当性や、法律の委任範囲との関係で、どのような課題があるか。

3 権利侵害が明白と思われる場合であっても、発信者情報が裁判外で(任意に)開示されないケースが多い
・任意開示が少ない理由は何か、プロバイダ等が権利侵害の明白性を判断することが難しいケースが多いためと考えられるのではないか。権利侵害が明白な場合に任意開示を促進する方策を講じること は、円滑な被害者救済の観点から、どのような効果があると見込まれるか。

・任意開示を促進する方策を講じる場合、逆に行き過ぎた任意開示を防止するための方策や、発信者 情報開示請求権の悪用を防止するための方策も併せて必要か。

4 裁判外で開示がなされない場合、発信者の特定のための裁判手続に時間・コストがかかり(特に海外プロバ イダを相手として訴訟提起する場合は、訴状の送達手続に多くの時間を要している。)、救済を求める被害者にとって負担
・発信者に対する損害賠償等の請求の前に、発信者を特定するために複数回の裁判手続が必要となっている現状を踏まえて、どのような方策が考えられるかについて検討が必要ではないか。

・(仮に電話番号について訴訟手続によることが必要な場合)海外への訴状の送達手続に時間を要することが予想されることなどを踏まえて、どのような方策が考えられるかについて検討が必要ではないか。

・任意開示が少ない理由が、プロバイダ等が権利侵害の明白性を判断することが困難であるためであると すると、権利侵害の明白性の判断を迅速に行うことができるようにする手続が必要と考えられるが、どうか。 また、その場合、具体的にはどのような措置が考えられるか。(第2回「発信者情報開示の在り方に関する研究会」配布資料より)

第1回会合における構成員からの主な意見
1 開示対象に関 する意見
・コンテンツプロバイダ側はユーザの情報がビジネスに直結するので、削除でも発信者情報開示にしても訴訟で真剣に争うが、アクセスプロバイダはコンテンツプロバイダに比べ、ユーザ情報がそれほどビジネスに直結するものではない。それにも関わらず、コンテンツプロバイダへの開示請求は仮処分で認められ、他方でアクセスプロバイダへの開示請求について は本案訴訟が必要というのは結構大変である。その意味で電話番号(SMSのメールアドレス)を開示対象に追加 することは有効な措置ではないか。(上沼構成員)

・発信者情報を開示すべきという判断が下った場合に、電話番号やSMSアドレス、ログイン時IPアドレス等、どの情報までの開示を認めるかということは、発信者特定のための必要性とプライバシー、表現の自由、通信の秘密等との衡量 問題になるため、それぞれの要素についてどの程度重みづけをするかということが具体的に問題になってくる。(栗田構成員)

・開示が妥当だと判断された以上は、発信者の特定のために合理的に様々な情報を開示することは重要であり、省令 を見直すことについては賛成。そもそもプロ責法が発信者情報の範囲を省令で定めることとした理由は、通信技術やサービスが急速に変化すること を予想し、法律では書き切れないため省令を随時見直していこうという判断だったと思うので、技術やサービスに対応してより頻繁に見直しを行うべき。(若江構成員)

・現状、技術的な問題からアクセスプロバイダにおいて発信者を特定しにくい状況にあり、その特定を確実にするには省 令事項以外の情報(接続先IPアドレス)を要求されるという実務になっているが、この問題に対する抜本的対策としては、1段階目のSNS事業者への開示対象となる情報を限定列挙ではなく幅広く認めてしまう方がよいのではないか。(丸橋構成員)

2 任意開示の促進に関する意見
・権利侵害の明白性についてアクセスプロバイダが判断して、その判断結果について責任追及のリスクを負い続けるということは、判断基準があったとしても厳しいと思う。プロバイダが権利侵害が明白であると判断するための検討を行ったことについて疎明すれば免責という方法以外の方策についても今後検討していくべき。(大谷構成員)

・発信者情報の任意開示の促進の方法について、実体的な免責要件を設ける手もあるし、手続的な観点からは ADRの仕組みが上手く使えるような工夫ができないかという点も考えてみたい。(垣内構成員)

・任意開示については、民事及び刑事の免責を認めるかという問題とともに、企業のレピュテーションの問題やインセン ティブの問題があるため、弁護士会照会についても、例えば銀行とは単位会で協定を結ぶことによって弁護士会照会 に応じてもらいやすい仕組みを作っている。どのような方策をとればプロバイダが任意開示に応じやすくなるかということはオープンに議論していくべき。(栗田構成員)

・匿名の表現者にとって身元を明かされることは致命的であり、判断を誤って開示してしまうと取り返しがつかないというこ とで発信者情報の開示については、明白な権利侵害がある場合と軽過失免責のみということで、削除よりも敷居を高くしているが、これは維持すべき。 ただ、慎重な判断を要することと判断を回避することは別なので、悲惨なプライバシー侵害等に苦しむ人の救済が難し くなっている現状を考えれば、プロバイダに対し任意開示に真摯に向き合うことを求める必要はあるものの、権利侵害 の明白性や軽過失免責の規定に手を入れることについては慎重に検討すべき。(若江構成員)

3 コンテンツプロバイダとアクセスプロバイダの役割分担に関する意見
・コンテンツプロバイダは、自社のサービスの投稿が問題になっているのである程度仮処分で争うインセンティブが高いことが多いが、発信者の氏名や住所を持っているケースは少ないので発信者に対して意見照会できないケースも多い。一 方、アクセスプロバイダは自社のサービスが直接問題となっているわけではないため、自主的に訴訟で争うインセンティブ は低いが、発信者の氏名や住所を保有しているため、発信者への意見照会の結果反論が返ってくることも多い。最近では発信者側に代理人がつくケースも珍しくなくなってきているので、その点も含めどうバランスをとるのかが重要。(北澤構成員)

・SNS事業者等の上位レイヤのサービスとアクセスプロバイダとの発信者情報開示に関する役割分担をどのように設計していくかが非常に重要。どちらも開示関係役務提供者だが全く意味づけが違うところ、どう解決していくかという点で ADRをもう一度考え直すことや、任意開示のガイドラインを充実させていくということも一つの方法だと思う。(丸橋構成員)

4 開示請求制度の悪用に関 する意見
・ここ数年、発信者情報開示制度を悪用していると思われるケースが増えており、実際に表現が萎縮する場面も見られるため、匿名性を悪用している誹謗中傷と、発信者情報開示制度を悪用しているケースとのバランスをどうとっていくかを考えながら検討する必要がある。(北澤構成員)

・特に、名誉毀損の場合には公共性が重要なポイントとなるが、著作権侵害の場合には公共性がなくとも、より容易にスラップ訴訟に悪用されかねないという不安もあるため、その点も考慮して検討すべき。(若江構成員)

5 手続上の課 題に関する意見
・プロ責法3条では、公職選挙法に関する特例が織り込まれている。発信者情報開示手続に時間がかかるために被 害者が泣き寝入りするということを避けるために手続に無駄な時間をかけないことの合理性があると思うので、プロ責法の中で民事訴訟法の一般的なルールに対する特例を作り込んでいくことも是認されてもよいのではないか。(大谷構成員)

・現状、発信者情報開示には訴訟が2~3回必要であり、非常に負担が重いということは大きな問題。できる範囲で解決できるような工夫をしていくことは非常に重要。ただし、発信者情報開示請求権は実体法上の請求権として 認められているので、一般的には訴訟手続の保障が必要であり、他方で、表現の自由等に密接に関連する重要な 権利であることから慎重な手続に対する要請もあるため、どこで線引きをするかについては、手続法制だけでなく実体 権としての発信者情報開示請求権をどのように位置づけるかという問題との関連で考えていく必要がある。(垣内構成員)

6 その他に関する意見
・通信の秘密侵害罪という刑事罰もあるため、免責要件正当化事由などを設けるとしたらどのようなものがあり得るかということは、通信の秘密やプライバシー、表現の自由等の諸利益の効用のバランスの問題になる。(鎮目座長代理)

・権利侵害抑制の実効性を高めるためには、権利侵害が明白なケースにおいてはなるべく発信者の特定に資する情報は多く開示した方がよい一方、通信の秘密や発信者の表現の自由の問題もあるため慎重に衡量する必要があり、この点今後詳しく議論して詰めていく必要がある。(前田構成員)

発信者情報開示の在り方に関する研究会(第2回)配布資料(総務省)


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