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チューリップス・シスター第8話

2016-08-08 04:07:44 | 小説チューリップス-シスター



チューリップス・シスター第8話 美咲の求めるもの

経験豊富でフリーの精神科医は、美咲の絵画の保管部屋で数週間泊り込みで、残さず美咲の絵画を分析し総合的な判断と診断結果をまとめ神父に伝えた。伝えた内容とはスケッチブックにはナンバーが記され4年間で305冊、NoからNo305まで、他には1枚の画用紙103枚があった。しかし、ナンバー1からナンバー13までのスケッチブックと画用紙103枚には何も描かれてなかった。画用紙103枚には、見た目では何も描かれてなかったが、一瞬だけ薄らと浮かび上がる絵画であり、見えたり見えなかったりの繰り返し。クレヨンを使用せず心の中の心の眼でイメージしたものが描かれていたはず、しかしクレヨンを使用し描くようになってから13冊に描かれた絵は消えた。
「不思議な出来事だったが、科学や物理を超えた現象もあり得るのかもしれない」
世界を回り奇妙で不思議な出来事を知り見てきた経験豊富である精神科医は驚く事なく否定も肯定もせず冷静に判断をしていたが、幻覚の世界観なのか幻想の世界観なのか考えていた。精神科医から伝えられた神父は、ただ茫然として静かに聞きながら、言霊からの伝令の映像を思い出す。現在の科学や物理の方程式では証明できない事もあることを念頭に精神科医は考えたのだろう。
「奇妙で不思議な事だが仮説としては幻覚でも幻想でもなく次元を超えた何かしらの能力が備わっているのではないだろうか」
フリーの精神科医と神父は、同じように思い考えていた。
真理は苦難を乗り越え現実の世界を導いていくが美咲は誰も叶わなかった壮大な夢を時をかけて叶えていくのだと神父は思った。神父は気付く事で心の中での大きな重圧から解き離れたようである。神父は、イエスを通し精霊と天使の伝令の交信と精神科医の診断結果で、これまでの接し方と導き方が知る術もなく気付かなかった、薄らと幻の様にぼんやりとした光景がはっきりと見えるようになると全てが繋がり確信となった。はっきりと確信した時、イエスからの直接的な伝心があった。
「友よ、アース神族の元に使える者へ伝えよ、世界中に広がる魔性の死神と戦う態勢を整えよ、そなたの心の中にいる者へ伝えよ」
神父の心の中にいる者とは15歳でイエスからの洗礼を受け若年でありながら18歳で神父となり、甥は持っている神父以上の能力がある事によって神父として選ばれた人物である。神父となった21歳の甥は、18歳から日本を離れた場所にいた。迷信と仮説だらけの奇妙で不思議な出来事が多い地域をまわり、見て話を聞きながら世界中を飛び回っていた。
歴史上でも迷信や伝説があるガンダーラ、インチベット、トランシルバニア、エルサイム、バチカン、メキシコ、グアテマラ、ベリーズ、インディアナ等を行き来していた。神父の遺言はイエスの伝令であり祈り続ける神父を動かし、トランシルバニアにいる甥に手紙を送る事、そして日本へ戻るよう伝えていた。トランシルバニアにいるという事は、神イエスからの直接的な伝心の中にあった。神父の手紙がトランシルバニアに届くまでは数日または数か月かかる、その間、神父は食事を摂らず、ずっと教会の中で祈りと睡眠を繰り返した。
「友よ、目覚めよ、心の神に変わるものが、そなたの伝心を手にした」
神イエスからの直接的な伝心が神父に届いた、そして神父は普段の生活に戻る。
手紙が届いたのは数カ月後だった。
伝心があった時、更に神父は臨床心理士の知人で臨床心理士資格を持ち経験豊富で専門的知識のある臨床心理士からも電話を受けた。
電話に出た神父は、美咲の能力とは無限にある能力であって科学的物理的には証明はできない、稀に見る能力である事を知らせた。そして、経験豊富で専門的知識のある臨床心理士は、美咲の様な子供をカウンセリングをした事があるようだった。さらに神父は電話を受ける。
経験豊富であるフリーの精神科医での判断は科学的根拠がない為、一人の精神科医では判断してはならないという理由で、もう一人専門の病院の精神科医は美咲の絵画を見せてもらいたいという。 そして、美咲に一度会って見たいという事だった。神父は、是非、会ってもらいたいと伝える。美咲は、年1回の誕生日だけ外出するが、施設から一歩も外に出ることはない、声かけしても返事すらする事もない。精神科医と臨床心理士によって、良い治療ができ、専門の医師であれば、神父は美咲が変ってくれるかもしれないと思っていた。数日後、医師と臨床心理士の方が施設へ来たのだが、美咲は、いつも通り、部屋へ閉じこもったまま、静かに絵を描くだけだった。まず、セラピストが声をかけてみる、次に臨床心理士が声をかけてみるが、ただ絵画に集中し没頭していた。
美咲を見ながら声をかけるとセラピストと臨床心理士は不思議と自分が美咲の部屋にいるという意識が薄らいでいくのを感じていた。セラピストと臨床心理士は、同じ感覚で心の中で思い見つめ合った。
「私達は、ここには居ないの、この子を見ている私自身の存在が薄れていくようだ」
セラピストと臨床心理士の「魂」が消えたり薄らと見え隠れしていたのだ。
そして身体の力が抜けていくのを感じ、その場から離れた。
「先生、私達には無理です、声をかける事はしましたが、それ以外の事は全く出来ません」
セラピストと臨床心理士の報告を受けた病院の精神科医は、これまでの気になる絵を見せてもらえるよう神父に言った。
神父は、スケッチブックを2冊をもって、病院の精神科医と経験豊富な臨床心理士のもとへ向かう。
「何という絵なんだ、まだ幼い子が描く絵ではない、何故だ信じられない」
「私にも信じられませんが、何かを訴えているような感覚になります」
病院の精神科医と臨床心理士は現実のもののように鮮明に描かれている絵を見て驚きを隠せなかった。長く接していたセラピストから美咲の事を聞いていた臨床心理士は、精神科医へ言った。
「私は、もうあの部屋にはいけません、あの部屋に入ると何故か力が抜けるような感じがして」
「そんな事が、あるはずがないだろ、一般的な症状を持つ幼い子供だろ」
精神科医師は、ゆっくり美咲のもとへ行き、声をかけた。
「こんにちは君の名前は美咲さんと言ったね君の描く絵は現実にあるものではないのかな」
精神科医の言葉は美咲の絵を描く手を止めさせ美咲は顔を医師に向ける。輝きのない沈んだ瞳を見た医師は瞳をあわせ、じっと見つめると金縛りのように動く事が出来ない。本当の美咲を知る者は、イエスと神父以外に誰もいない。美咲は何かを求めていると感じた医師ではあったが、それ以上の事は何もわからなかった知る事も気付く事もない。医師は他に言葉をかける事は出来ず美咲の部屋をあとにした。瞳を見つめあうと臨床心理士が言っていたように、身体の力が抜けていく感じを受けていたからだ。美咲の部屋をあとにした精神科医は、臨床心理士と神父と共に、教会へ向かい教会の中に入った。教会へはいった、精神科医と臨床心理士は深く深呼吸を何度もしていた美咲と会ってから息苦しさを感じていた。美咲の部屋へ入ってからというもの出ていくまで呼吸が止まるような感じを受けていた。
「どうなさいました」
神父はセラピストと臨床心理士2人に声をかけたが、どちらも言葉を失っているかのようだった。美咲の過去の生い立ち全て(両親との別れと育ち方)を神父は、医師達にも話をする。そのあとで、ある精神科医は言うのだ。
美咲が今、求めているものは「死」かもしれない、あるいは美咲の瞳は散大し「死人の眼」のようになっている。美咲の瞳の中には何かが浮かんでいるような、だからこそ、あれほどの絵を描く事が出来るのかもしれない。
「しかし、まさか、そんな不思議な事があるはずはない」
専門的な精神科の医師が発する言葉が、気になる神父だった。
「なぜ、死という言葉を使ったのか、何かに動かされているようだ」
病院の精神科医達は、薬物療法や精神療法の治療が必要なのかどうか議論をして必要かもしれないと判断した。フリーの精神科医師を含む7人が美咲を分析し診療したが2人の医師は対症療法と判断したが、5人の医師達は精神治療(精神療法と薬物療法)が必要だと判断された為、精神治療をする事になった。ただ脳の働きが活発で脳が敏感に反応してる、あまりにも脳を使いすぎる少し眠らせた方がいいという科学的根拠はない見た目だけの理由だった。薬を服用した3日後、眠りについていた美咲は、瞳を大きく開きベットの上で起き上がる。下向き加減の美咲であったが、ベットから離れ窓を開け、空を見上げながら大きな声で叫ぶ。
「私の邪魔をしないで、悪の邪気は消えてしまえ!」
美咲は、はじめて自分の意思を大きな怒鳴り声の言葉で、禁断症状ではなく自分自身を表現していたのだ。美咲に薬を1週間分処方し服用させたのは逆効果となっていた。
美咲の本当の心に気づく事がない科学的診断で医師達の判断では、美咲の治療が出来ない事を知った時であり、美咲の能力の現実を知った時だった。美咲に精神治療を止めようとした精神科医2人は現実の世界に残存し、精神治療を進めたメンタルクリニックを運営する5人の精神科医は、現実の世界から行方をくらまし抹消された。
「もしかしたら美咲の求めるものとは、私達いる現実の世界と仮想空間次元の違う現実の世界を創り出し、世界中の人類に選択肢を与えようとしているのではないか」
美咲の絵画からの価値観と世界観、そして本当の能力に気付いた神父は心の中でイエスや精霊と天使の言霊で感じながら思った。しかし神父には見える美咲への思いを医師達には伝える事なく神父の心の中に留められた。


チューリップス・シスター第7話

2016-08-03 07:40:39 | 小説チューリップス-シスター



チューリップス・シスター第7話 真理と美咲の共通点 

真理と美咲が自分で気づく事によって、苦しみを弱め、苦痛を伴わずにいられる、しかしそれは真理と美咲の境遇は一緒だが、生活環境によって成長と共に起こる苦痛の強さが変わり能力の強度も変わる。教会には、常に数人の人影が立ち寄ってくるが姿があるが神父は見えずにいた。もしかしたらだ、その人影は人ではなかったのかもしれない、次元の違う世界に住む人の影だったのかもしれない。
立ち寄ってくれる人々の中には、臨床心理士をしている人もいた。その臨床心理士は、時々ボランティアで、施設の子供達と会話をし、心の悩みを聞いていた。そのおかげで、施設の中で美咲以外の子供達は、いつも元気で活発に遊ぶ、そして学習をしていく。神父は、美咲の事を臨床心理士に話すべきか考えていたが心の中に留めていた。ある日の事だ、神父はその臨床心理士の方にお願いし、これまでの美咲の人物の印象と描いた絵を見てもらう事になる。神父の心の中にいる言霊が、天使からの伝令として神父を動かしたのかもしれない。
臨床心理士が言うには、はっきりとしないが「引きこもり」と「自閉」という言葉を使い障害について可能性が高いとの事だった。
ただ、美咲の描く絵には魅力があり、どこか不思議なものを感じるとの事であった。明るい絵を描いているのだが、何か言葉では言い表す事のできない奥深い何かがあると言う。そういう事は、良くある事だとも言っていた。臨床心理士は、専門の精神科医を知っているという事で、数枚の絵を見てもらえれば何かがわかるかもしれないと言い、気になる10枚の絵を持ち帰った。
叔父夫婦は、気になる真理の姿の事で神父のもとへ訪れ、普段の真理の生活状況の話をした。
「海(自由)と湖(孤独)水脈で繋がっている、どういう理由で繋がっているのか」
真理の生活状況の違いを聞いて、離れ離れになっている姉妹の共通点を、神父は考えはじめる。
「遅くなり申し訳ありません神父さん、医師が絵を見て分析し判断した結果を、お伝えに参りました」
神父は考えはじめると、臨床心理士が教会へ訪れた。伝令を待っていた神父は一瞬だけイエスからの伝令?と思ったが、臨床心理士の顔を見て心を落ち着かせ、思い違いに気付く。

「10枚の絵画から今後の現実を表現しているのではないか、稀にある事なのですが予知するかのような感覚です、単なる障害ではないと考えられます」
臨床心理士は、絵を見て分析し判断した結果と言ったが、絵画から精神科医が導き出した答えは、診断と判断ではなかった、あくまでも可能性としてだった。
神父は、現実を予知し、次元の違う現実と共にある世界を美咲は心の中で表しているのではないかと、可能性ではあるが、神父は心で見た光景と精神科医の可能性から今後の美咲の行く末を思い浮かべた。しかし、それが可能性と仮説であり、言葉で表現し話せるものではなく、美咲への見守り方の視点を変えていく。神父は、真理について叔父夫婦の話しを聞き、魅力ある女性になっていくようだと思った。美咲の不思議なものと同じようなものを感じた神父である。真理は現実の世界で人と結びつき自分自身の魅力を表現している。美咲は、たった独りで描く絵画で、自分自身の魅力を表現しているようだった。しかし神父の思いの中で二人の共通点を感じるが、それが何か、まだ確信に至る事がなかった。生活の環境が全く別々なのに二人に感じられるものは同じものと何故かそう思えた。
人間は「怒り、苦痛、憎悪」を心に隠し「哀れみ、喜び、楽しさ」を表現して生きているのが殆んどである。
神父は、姉妹の感受性についても考えていた。
幼き頃は、感受性の強さによって、外界から心に受けるものが違ってくる。叔父は、嬉しそうに真理は将来、医師になるという目標を持ったらしい事を神父に伝えた。
しかし、どうしても、真理の不思議な生活ぶりが、叔父は気になりはじめ、神父に一度みてもらいたいという。神父は、言われるがまま、内科医の叔父の自宅と診療所で、真理の日常生活の姿を見る事にした。美咲は笑顔をみせる事がない微笑さえみせる事もない。施設内では、部屋に閉じこもり絵を描きながら何かを呟き囁いている。真理は、笑顔をふりまき人との交流を楽しんで社交性に富んでいる。学校でも会話上手で人に優しい子供で勉強も良くできた、いわゆる優等生である。
神父は、様々な本を読み返していた時期の記憶を思い出す。双子には特別な関連するものがあり、特別な絆を持っていると言われる。それは、科学では判断がつかない事が多すぎるようで、色々と様々な仮説があるらしい。真理と美咲の性格は、見た目では正反対で共通するものはわからない。テレパシーの様なもので共通する場合としない場合があるらしい。
内科医の叔父夫婦によれば、真理は一度だけ学校で、別人のように怒りを表わにした事があったという。
真理は、もしかすると「哀れみ、喜び、楽しさ」を表現しているが、影の部分では「怒り、苦痛、憎悪」を美咲よりも強く持っているのではないか。一方、美咲は、怒り、苦痛、憎悪を弱める為に、静かな生活をしているのではないかと、神父は思えてならなかった。
「本当に水脈で繋がっているのだろうか?」神父は迷いつつも信じようとする。
真理の心の中の闇は、美咲よりも大きく、心のコントロールが出来なくなってきているのではないかと感じた神父だった。何とかしなければならないと神父が思った時である。
神父は目に見えない、囁く言霊が聞こえてくるようになっていた。その声は、何も言わず何もせず、見守るように、そして、そのまま自由にしておく事と囁かれた。神父の心に響く言霊は自身のある能力を使い精霊や天使ではなく眼や心に見えぬものからの囁きを聞いていた。
「このままにしていては姉妹という絆をなくしてしまうのではないのか」
神父は姉妹の今後の人生ついての答えに気づき得るものは出来なかった。セラピストと臨床心理士や精神科医とも相談し話し合いで、同じ思いで気になる事があった。気になるのは、真理の部屋の壁画と美咲の絵画の保管場所は彫刻された部屋の同じ構図になっている事だ。
「これが、真理と美咲の共通点なのかもしれない」と、神父は思った。
真理の部屋は壁画が描かれ、美咲の絵画の保管場所は彫刻が施されいる。真理と美咲の部屋には違いがあった。真理の部屋は生活感があり図鑑などを置く本棚があり、ぬいぐるみや趣味で集めた物、叔父夫婦からのプレゼント等がある。美咲の部屋は生活感が無く机と椅子、ベッド、机の上には聖母マリアの彫刻された木像と十字架の置物だけである。神父の持つ能力は、その能力を使う事によって寿命を失っていくものであった。眼と心に見えない言霊は、聞こえては来なかった。
心の神は返事を返す事で、神父の寿命は更に早くなり失う事になる事を知っていた。この言霊の主は、まだ、これからも神父としての役割がある為、寿命を失わせる事は出来なかった。囁く言霊は、神父に伝令する手段を変えた。神父の机にある、記録帳にその言葉を残す事にした。
神父が新しい記録帳を開くと、そこには神父の寿命と能力の事が書かれていた。記録帳を見て、神父は自分自身を知った時だった。神父は、真理と美咲が、心の中で接すること学ぶことである能力が与えられるという事を知った時でもあった。そして、これから先の後継者を、その能力で探し出す事を遺言を残しておく事を、言霊は神父に伝えていた。遺言の内容は、眼に見えぬものが全てではない、未来に起こりうる出来事に関わる事への対応を書き上げられていた。神父は、その内容を読まされ、心が導かれるまま書き残す、そして遺言を渡す為に誰が相応しいのか考えた。宗教、霊能力、魔法、魔術などに好奇心と興味を抱く、甥の姿を浮かび上がらせた。神父は甥に宛てに遺言を残した、そして数日間、食事を摂る事なく教会の中で、双子の姉妹の為に膝まつき真理と美咲の共通点を思いながら祈り続けていた。真理と美咲の共通点を思う事で、教会の中で光が差し込み変化がおきる。
教会で瞳を閉じて十字架を両手で持ち、祈りを捧げる神父は何かを感じ瞳を開き、眼の前のイエスの十字架と聖母マリアの姿を見る。
「神と精霊、天使のもと、双子の姉妹の命を導く事、覚悟を持って祈り誓うか、答えよ」
イエスの伝令が精霊と天使によって、神父の心に響く。
「神と精霊、天使のもと、双子の姉妹の命を導く事、私の生命を持って祈り誓います」
神父は、イエスの伝令に自分の生命という覚悟を持って祈りと誓いを立てる。


チューリップス・シスター第6話

2016-07-29 08:03:25 | 小説チューリップス-シスター



チューリップス・シスター第6話 美咲の生活

美咲は教会が運営する施設での生活は、7才になっても相変わらず会話もとろうとしない。真理と同じ小学生だが、入学式後は修道院の部屋に閉じこもったままだった。神父、修道院の修道僧、孤児施設の職員が、声をかけても表情は全く変わらない、眼を合わせる事もしない。ただ声をかけると顔を見上げるだけで言葉での返事はない、微笑みや笑顔もない。
美咲の眼は、ただ一点だけに集中し下向き加減で、床を見ているだけで、すぐに部屋に閉じ込もってしまう。部屋から出るのはトイレに行く、食堂で食事をとるだけである。食堂では決められた時間で食事が出されるが、美咲の場合は食道に誰も居なくなってからであった。そして、食道で美咲と一緒に居られるのは、美咲の心を開かせようとするセラピストだけであった。
しかし、その時間は限られ、美咲の行動に合わせる事が精一杯のセラピストである。ただ美咲は、徐々にセラピストの顔を見て、眼を合わせる時が稀にあった。眼を合わせる時の美咲は、以前は神父に渡していたが、カウンセラーに渡す事もあった。美咲の絵を見たセラピストは、構図や色彩を見ながら徐々に美咲を分析する事が出来る様になる。セラピストは、美咲の心にあるものに、魅了されながら、ある事に気づき始めていた、しかしそれは仮説の段階であり神父には伝える事はなかった、良きタイミングを見計っていた様だ。
「神父様、過去の美咲さんの絵を見せてもらえないでしょうか」
「はい、美咲様の絵は、こちらの部屋にあります、何か感じるものがありましたか?」
「いいえ、申し訳ありません、今はまだ何もわかりません」
「そうでしたか、今後も美咲様を宜しくお願いします」
神父とセラピストの会話である。
その部屋は特に広い部屋ではなく美咲だけの絵画を置くだけの保管する部屋である。神父はセラピストに過去からのスケッチブックを机の上に置き、その場から静かに去っていく。セラピストは部屋の雰囲気に何かを感じたのか、周囲を見回していた。
「何故、この部屋なのだろう?」
床以外の天井や壁に花々や海や森など自然の風景に天使、イエスキリスト、聖母マリアの彫刻が施されている。セラピストは、美咲は孤独という障害を持って生きてるのではなく、富や繁栄の愛情に恵まれた人生を送っているのではないかと思い感じていた。神父は、時々叔父夫婦に連絡をとり真理の様子を聞いていた。二人の姿は教会にいたとおり、正反対の性格を持っているのかもしれないと神父は一時的に考えた。
「私の今の考え方は本当に正しいのでしょうか」
神父は教会の十字架の前で何度も神へ問いかけ、囁きの言霊を待つ事にした。
しばらくの間の時間に古文書や聖書などを、読み返す神父は、ある事に気がついた。
神父の心の中に、常に囁く言霊は、神の伝令の代理をする精霊と天使の声であった。
「天国と地獄」の存在があるのなら「光と影」がある。
真理は「光りの陽」の存在として生き、美咲は「影の陰」の存在として生きている。

古来日本には「巫女」や「陰陽師」の存在を信じる習慣があったが、現実では、寺や神宮へ皆は、足を運び願掛けをするだけである。願う気持ちで、前を向いていける、夢や希望が叶うのは、偶然に一部の人間のみである。教会では願うだけではない瞑想し左右の手を合わせ握りながら誓いや祈り、多くのカトリック教徒が椅子に座り、ミサを歌いながら心を潤し神によって導かれていく。美咲はセラピストとの出逢い、そして時が過ぎ、稀だが施設内の広い遊び部屋で子供達の中にいたが、離れた場所で決して一緒に遊ぶ事もない。完全に部屋の中での閉じ込もりではなく いつも一人で見えない相手と呟き話しながら、はじめてクレヨンを使い絵を描き続けるようになる。部屋の中に閉じ込もっていた時には、クレヨンは一切使う事はなかったが、神父とセラピストは驚きを隠せなかった。
「神父様、何故でしょう」
「私にも、今は解らないのです、ただクレヨンを使い始めてから何かが変わったのかもしれませんね」
この会話の後、神父の心の中で囁いてきた言霊は、天使「エンジェル」からであった。
「天使である事を悟られず自分自身を隠す為に…」
この言霊から、神父は一瞬だけであったが、教会での真理の姿を思い出していた。
「天使、エンジェル?イコール真理、美咲と真理は間違いなく地下の水脈で繋がっている」
神父は、真理と美咲を重ね合わせ一時的に確信に至るが、迷いも少しはあった。現実にあるものなのか、仮想空間なのか、次元の違う世界なのか、視点の捉え方に迷う神父である。神父は、美咲の絵を4年間、見続けたが絵から、何も気づく事や理解する事が出来なかった。しかし、神父は美咲が描くもの、外の風景の絵や人物の後姿の絵、植物の絵などを鮮明に描いている事が気になっていた。絵を描いている時の美咲の瞳には、はっきりと風景や人物が映し出されている。神父は、美咲の心に持つものとは何かは解らないが美咲を見守りつつ能力の存在を感じる事になる。
数百数千年前に起きた出来事の事である。
時代が過ぎると共に人類が忘れてしまった能力を美咲は、幼いながら心と体で気づきはじめようとしていたが、この頃の美咲は自分自身に何も気づいていない。絵画を通して、美咲は本当の自分を表現している事を神父は気づいていた。しかし、その能力は、教えられるのではなく、美咲が自分自身で確信しなければならなかった。その為、神父は注意深く、修道院の修道僧や孤児施設職員で美咲を見守る事にした。


チューリップス・シスター第5話

2016-07-26 07:52:23 | 小説チューリップス-シスター



チューリップス・シスター第5話 真理の生活

真理の生活では、姉としての自覚や知恵他に何かが生まれていた。どんな人に対しても、優しさや思いやりを笑顔で表現していたようだが、相手の心理が見えるような笑顔にも見える。しかし、静かな眼差しで優しさや思いやりの温かさに癒されるが、別の能力もあるようだったが表情に出す事も表現する事も出来なかった。何よりも、人の心を癒す真理の微笑には、誰もが、微笑を返し、挨拶を交わしていた。叔父夫婦は、悩みや不安と苦しみというものとは、無縁のように思えていた。真理には、何か人を引きつけるものが感じられた。小学2年生になった真理には、多くの友達ができた、常に真理の周囲には女子生徒達がいた。多くの互いに助け合える友達が出来ると、努力を惜しまない、勤勉さも備わったようだ。真理は、色々な花や観葉植物を好み、毎日のように、植物図鑑を開いて見ていた。図鑑の中で、真理が最も興味を示していたのは主に「HERBS図鑑」であった。その図鑑には、ハーブの花や葉の形、育て方、薬効、歴史などが記載されていた。その中で、特に興味を持ったのは、数百数千年前からの歴史であった。ハーブの歴史は、時代ごとに常に受け告げられ、様々な書物や図鑑に残されている。常に新しいハーブがあれば、その書物には次々と記載されていた。

真理にとって幾つもある、HERBSの書物は、次々と叔父夫婦は新しい書物や図鑑を購入していく。真理に大切なもの欠かせないものは、真理を思う叔父夫婦にも欠かせないものになる。叔母は、ハーブの苗を手に入れ、真理に与えると、笑顔で受けとり、庭の数箇所に植えた。毎日のように、水やりをする真理の姿は、まるで、自分の子供を育てるように、声をかけていた。そんな真理に、叔父夫婦は、真理へあふれんばかりの愛情を注いだ。内科医の叔父の診療所には、笑顔の真理の笑顔が、不可欠になっていく。いつまでも笑顔を絶やさないようにと、診療所には他の子供達も預かる保育場所を新たに設けた。他には、遊び場として庭の改築もおこなった。テラスや花壇、他の遊具などを置き、そこには、多くの子供達の笑う姿があった。徐々に、多くの子供達が集まりはじめ、笑顔の耐えない診療所として、評判も良くなっていった。真理は、集まる子供達を暖かく包み込むように、宝物を見つけたように大切にした。
叔父夫婦は、誕生日ではないのに行事など、事あるごとにプレゼントを贈った。真理の笑顔や喜びのため、あらゆる環境を作り、真理の為だけに全てを与えた。7才になった真理には個性的でモラルもあり、患者や看護婦に可愛がられた。真理を養女として向かい入れてからは、診療所での待ち時間も診療されてるような気分になるという。「小さな天使さん」と呼ばれ、真理の笑顔はまさに「リトルエンジェル」そのままであった。皆、心を癒され、不思議な魅力を感じていた。

真理は何も教える事なく礼儀作法をわきまえていた。診療所に来る誰にでも包み込むように暖かく接していく。まるで向き合う相手の事を知り尽くしたかのような、叔父はそう思い神父にも伝えていた。待合室では、真理がいる時は、不思議な魅力に吸い込まれていくように、患者、看護師、事務員、皆が笑顔になった。叔父夫婦は、美咲の状況も常に、神父から聞いていた。叔父夫婦は「これでいいのだろうか」と思っていたが、それは真理の成長と共に徐々にその思いは薄らいでいく。叔父夫婦にとっての真理は我が子、美咲への気持ちは徐々に遠ざかっていく。真理の笑顔は叔父夫婦の心を魅了し潤していくのだ。目に映る真理は、現実には成長しているといえるが、真理の人間的成長は真理の中に有る備わっている能力の成長を遅らせる事になる。本当の真理の姿は誰も知る事の出来ないものであった海と湖の水脈で繋がっている妹の美咲の存在が関わっていたからだ。真理と美咲は離れていても同じ能力で誰にも悟られないように神父は何かを感じていたが、それが何か知るよしもなかった。
真理の表面的な笑顔は、まさに天使だ、誰もが癒される天使。しかし、心の中にある能力に、気づく事が遅れるようになっていく。その遅れが成長と共に、真理の苦しみを増大させ、苦痛を伴う事になるとは、誰も知る事はなかった。


チューリップス・シスター第4話

2016-07-21 11:59:53 | 小説チューリップス-シスター



チューリップス・シスター第4話 姉妹の誕生日祝い

施設で美咲の為だけに与えられた部屋に入り、まるで隔離室に自らを閉じ込めたようでもあり、精神科医の叔父が週に1回精神療法で約15分程に時間を叔父と美咲は過ごした。徐々に精神療法によって、神父や修道院施設の職員との距離は近づいていくように見えたが、挨拶だけの距離でしかなかった。真理は内科医の叔父夫婦に預けられ、愛情に恵まれた生活を送っていたが、時には気分がすぐれないような様子を見せていた。しかし気分がすぐれないのではなく、美咲との交信によって、真理は集中して美咲が描く絵を見ているのだろう。
それに気付いたのは、神父ではなく精神科医の叔父で確認後、しばらくして神父にはあとで伝えられていた。当初の神父は半信半疑だった光景が、精神科医から伝えられた神父は心に見えた光景が間違ってはいないと思った。

神父が心の中で見えた光景とは、真理は水平線の見える海、美咲は森の中にある湖、そして海と湖は見えない地下深くの水脈で繋がっていて、真理は自由に海原を飛び回り、美咲は静かな森の中で何かを待っているという現実である。この光景は精霊からの伝心であり、神父の心の中では精霊の言霊であると信じるようになる。真理と美咲は、教会での行動から、神父の提案によって、全く別々の人生を送る事になった。神父が心の中での光景を信じる事になると、その後唯一、姉妹として会えるのは6月29日の誕生日だけである。
神父は、心の中で囁く言霊の指示に従い、内科医と精神科医の叔父夫婦に話し了解を得た。この頃、叔父夫婦は、神父が話す事を信じるようにしていた。内科医の叔父夫婦の自宅に神父は美咲を連れて行き、叔父夫婦を含め5人での誕生日のお祝いだった。自宅から離れようとしなかった美咲は施設の部屋の中に閉じこもっていたが、美咲自身への唯一の信頼できると思い感じ、神父のいう言葉を聞くようになっていた。美咲は、何も言わず黙ってスケッチブックを与えてくれる神父を信頼をするようになったのだろう。施設での美咲は、毎日のようにスケッチブックを大切にして、絵を心の中で描いていた。しかし、神父との信頼関係はあったが、全く表情が変わる事はなかった。

3才になる、6月29日の誕生日の出来事である。叔父夫婦は、二人に同じプレゼントを贈るが、真理は手を出してくるが、美咲は手を出す事はない。
「お誕生日おめでとう」
神父は、真理と美咲に声をかけながらケーキには1本のロウソクを立てた。いくらか、嬉しそうな表情を浮かべながら、真理と美咲は、ローソクを見つめていた。真理は、もらったプレゼントを開けはじめるが、美咲は、ローソクの炎をじっと見つめていた。1本のロウソクは、2人がいつまでも双子の姉妹ある事を示していた。そして、神父は、真理と美咲を見て、ある事に気がついた。
美咲が、炎を見つめている時、その瞳には、炎ではなく、別なものが映し出されていた。この気づきが、神父に囁く言霊の囁きからの答えである事を、神父は知った。神父には、ある能力があったが、美咲にも、同じ能力が備わっているのではないかと思いはじめる。もし、美咲にも、ある能力があるとするなら、美咲自信で気づくよう導かなければならない。
神父としての役目であった。神父は、数多くの未知の力が、この世に存在していることを知っている。真理は、ローソクよりも、プレゼントの方が気になっているようだった。真理には、美咲のように、瞳に映るものは、そのプレゼントであった。神父は、美咲だけかと思っていたが、双子なのに「なぜ?」という思いがあった。
一卵性の双子であれば、同じ素質などが備わっているはずなのに、真理は、そのような姿を見せてはいない。また1年後に、確認する事を神父は考えていた。真理と美咲は、2人でその1本のロウソクの火を吹き消すと顔を寄せ合い、目と目を合わせ微笑をみせている。会話ははずんでいるようだが、真理は笑顔で笑い飛ばす。その姿を見る美咲は微笑を浮かべるだけで会話する事はなかった。美咲が、表情を変える時は、この6月29日の誕生日だけであるが、美咲も喜んでいたのだろうか?
感情を表に出さない美咲を内科医の叔父夫婦は気にしていた。この頃の美咲は、この微笑が精一杯の喜びの表現だったのかもしれない。こんな誕生会が4回続いたが、真理は、美咲と同じ素質を見せる事はなかった。真理と美咲の輝きに満ちた憂いさ、喜びに、神父や叔父夫婦は心が潤される思いだった。時は過ぎのは早く、真理と美咲は7才になったが、小さなマリア像を持ち、真理は自ら色々な事を学んでいた。神父は、真理は3才当時から「自覚」というものを持ち合わせていたように感じていた。真理に自覚があれば、様々な環境の中で装う事も学習する事も出来ると、神父は思った。美咲は、7才になっても変化はなく、施設にいても「友」と呼べる存在はないに等しかった。まわりに他の子供達がいても、ひとり小さな声で、何かを囁き、目に見えているかのように風景の絵を描きはじめ、クレヨンは机の上そのままに。これから先に、その絵がある出来事に重大な絵画となる。美咲の絵は、現実にあるものを描いていた事に気づくのは、先の話になる。