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パステルイラスト:ジェンナ ミシェル 婦人の横顔

2019-01-19 09:49:25 | イラスト

パステル:イラストレーション
「ジェンナ ミシェル 婦人の横顔」



今後、再編集をする予定の小説の
「兄妹の秘密(仮名)」に出てくるイメージした女性の名前


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セイネンキ・ゼロ・君は独りじゃない<後編>

2019-01-06 11:35:36 | セイネンキ・ゼロ/君は独りじゃない


直也は、ただチャンピオンになるだけが役割ではない。彼は直也の本当の姿を想像し気づいていたのだ。彼は直也とのスパーリングの中で、直也がどんな思いで何を考えているのかに気づいていた。
「私ってダメだわ、大馬鹿だわ」と由子は思った。
出来ない約束はしない直也だった。そんな直也が私の呟いた一言の言葉に微笑みながら約束してくれた。
直也は試合の事など、どうでも良かったのだ、ただ目の前の壁と叩き潰すだけ、コツコツと1つずつ自分の役割を果たそうとしている。
大きな直也の存在感はチャンピオンになったら周囲から見られる目が変わると信じていたに違いない。直也だけじゃない、周りにいる仲間君達もジムの練習生達も皆同じ思いを感じていたんだ。
環境を変えなきゃ何も変わらない、約束をした言葉に直也は答えを出そうとしてたんだ。
直也を信じる思いの揺らぎは由子の心から消えた。
もしも本当に環境が変わったら暴力は消えるのかな?由子の心に光を灯し、それは新たな希望に生まれ変わっていく。
「直也、やっつけてね!」と、直也と見つめ合う由子の瞳は輝いていた。
「おお!」小さな声で笑みを浮かべ少し驚いたような直也。由子の思いは少しずつ再び直也の心に届いていた、つかの間の時間である。
なぜ直也の父とは母は試合会場にいないのか。それは親子の愛情が今の直也には逆行させてしまうと考えていたのだろうか。
それゆえに華やかしい試合会場に来なかった。自分の子供の成長を信じて試練を与える事になるが、これこそ親としての愛情であったのかもしれない。黙々と仕事に集中する直也の父と母の思いは心配だらけだったと思う、けどそれは親子だからこそ、直也の成長の為にそうしたのだと思う。
そして由子の希望の光は新たな輝きを増し突っ走る時、直也の戦いが始まる。

「カーン!」見てろよ由子!
2ラウンド目のゴングが鳴ると直也がとった行動は、相手にパンチを出来る限り打たせるという行動だった。あえて隙を見せガードを深く、ガードによってパンチ力を見ると同時に相手のボクサーとしての癖を見つけていくのだ。まさかここまで、中学生では恐怖を感じるところだが、直也は腕でガードをする中で相手を見つめながら笑っていた。
「来い!来い!来い!来い!来い!」
直也の胸の中では囁きながら、この二ラウンドは相手のパンチ力、ボクサーとしての癖を知る事と体力を奪う策略だった。プロテスト前の彼はプロとしての策略を直也に話していたのだ。中学生で初心者が出来る策略ではなかったが直也をプロテスト前の彼は認めていた。
「直也ー!直也ー!直也ー!・・・」
「ジャブ、ジャブ、ジャブ、ボディ、ボディ、ボディだ」
応援する観客は、打たれっぱなしの直也の応援を始める。これも策略の一つだった。この声援を聞けば相手の選手は焦る事もありノックアウトを狙いに来る。
しかし、そう簡単に策略にはまる選手でもなかった。ずっと打たれ続ける姿を見れば、何かがあると考えるだろう。しかし、目的の為なら直也は冷静に打たれ続けた。

相手がパンチを出さなければ、隙を突きながら軽いパンチを相手に当てるのだ。相手の選手は冷静にパンチを出す直也に、まんまと策略にはまっていく。
しかし、この策略は直也にとってもリスクがあったのだ。直也の体力は保持されるが身体のどこかを痛める可能性がある。
中学生の直也は、そんな事はどうでも良かった。
「勝ちたい、優勝したい」
この思いだけで直也は打たれ強いタイプとみられたかったのだ。
なぜか?それは前回優勝者に勝ち、優勝トロフィーを由子に渡したい思いがあった。直也が、この二ラウンドで何を求めていたのかと言えば最終の四回戦だけであったのだ。
この思いが闘争心に変わり直也に力を与えていたが、この思いは直也の奥深くの心にあった、まだ本当の直也自身は気づく事はなかった。
「直也ー!直也ー!直也ー!・・・」
久美子のような由子の声援が直也を石に変え、いや岩となりサンドバックのように殴られ続けていたのだ。
二ラウンド二分を過ぎると直也の姿勢に変化が起きた。初心者の直也にとってメリットよりもリスクが大きかった。
直也の姿勢は、やや下に下がりガードも甘くなっていった。
「やばいか!」
リンサイドにいるコーチは、次の試合は無くなると思い始める。コーチは会長の顔を見ながら首を縦にふりうなずいていた。
二ラウンドは、もう数十秒で終わる。三ラウンドで、もし直也の姿勢が崩れる事あればタオルを投げる指示を会長は出していた。
あと十秒、九秒、八秒、七秒、六秒、五秒、四秒、三秒、二秒、一秒。
「十、九、八、七、六、五・・・・・」観客がタイムカウントを口ずさむ。
きっと、観客達は興奮した応援のあまり叫び始めたのだろう。
直也が立っていられるかどうか?と・・・
そして・・・
「カーン!」二ラウンド終了のゴングが鳴った。

二ラウンドのゴングが鳴り直也はリングサイドの椅子へ戻ろうとするが、直也の足運びと歩く平衡感覚に変化が見られた。直也の身体は左に傾きやや疲れた感じ、リングの床を見ながらリングサイドの椅子に座った。
「どうした、直也?」
「え? なんで?」
「お前まさか、左腕を見せてみろ」
「はい」
「直也お前、左腕を痛めたな」
相手のパンチを打たれ続けた事で腕は赤くなり左腕はしびれ、直也は息を荒くしていた。
相手の選手は直也と同じ右利き、それだけに左腕にパンチが集中していた。ノックアウトKO勝ちを相手の選手は狙っていたのだ。
勝利の為の左腕を痛めた直也にコーチは、次のラウンドで動きが止まればタオルを投げると、直也に告げていた。
しかし、直也は、
「コーチ、タオルを投げるのは、次の試合にしてください」
「お前の身体の事、考えるのがコーチの仕事だ!」
「わかってます、でも俺は勝ちたいんです」
「このままだと、次のラウンドはもたないぞ」
「俺は、必ず勝ちます」
コーチと直也の会話を聞いていた、プロテスト前の彼は直也の持つ潜在的能力を考えている。
「直也、右腕はどうだ?」
「右腕は、問題ないです」
「なら、相手は体力をかなり消耗してる、見てみろアイツを」
「苦しい感じですね」
「そんな時は、左ストレートをフェイントして、右でボディだけを狙え」
コーチとは正反対に彼は直也の気持ちを優先させた。彼はプロテスト前だ、勝利と言うものを考えるのは当たり前だった。
「これからが本番だ」
直也の気持ちを良く理解していた彼だ。由子は直也の傍に行き涙目で笑う。
「直也なら、勝てるよ、絶対に勝てるから」
由子の言葉は直也の心に強く響くものがあった。
会長やコーチは一分の間、三人の間での会話を聞いていて直也なら勝てるか?と、そんな思いを持つようになる。
「直也、勝ちたいのなら、コイツの言う通り、ボディだ」
「もう、勝ちに行くしかないぞ、判定では相手が有利だ」
「そうですね、相手もそのことを充分理解してるはずですから」
「わかりました、やってみます」
いよいよ三ラウンドのゴングが鳴る。
「カーン!」
両者ともに勢い良く走り出しリングの中央で戦いは始まった。

両者ともに必死な戦いが始まり、負け劣らずパンチを出し合う。
ジャブ、ジャブ、ジャブ、フック、ボディー!
下がれ、下がれ、右だ
ジャブ、ジャブ、ジャブ、フック、ボディー!
左に回れ、左に回れ
ジャブ、ジャブ、ジャブ、フック、ボディー!まるでリズムを打つメトロノームになっているかのようだった。
繰り返されるパンチの連打、十秒が過ぎた頃、直也の右ボディが炸裂した。
相手は、一瞬、嫌な顔をし後ろに下がり足を動かし直也から離れる。
「直也のボディが確実に効いたぞ!よし!」
「直也ー!ボディボディボディー!」
直也のリングコーナーから大きな声が聞こえる。観客達は皆立ち上がり、リング上の二人の選手を見つめていた。
声援は一瞬だけ消え去り、しばらくすると大きな声援が始まる。この繰り返しだ。
直也は相手を追い詰めていく、どこまでも。
「チャンス到来か?」
直也の脳裏に、この言葉がよぎった。
「いける、いける、いける!」
直也が近づくと、相手はすぐにクリンチをするようになる。そして、相手のクリンチが多くなっていく。直也はクリンチをする相手を冷静によく見ていた。
相手のクリンチの瞬間を直也は見逃す事はなかった。徐々にクリンチをして来る間隔があいて来る。
直也は相手を追い詰めていく、どこまでも。
このクリンチは、ムエタイではクリンチ状態から頭や首を制して肘打ちや膝蹴りを放つ技術であるが、ボクシングでは相手に抱きつき動きを止める事である。
相手がクリンチする瞬間、直也のボディが炸裂する。相手はボディを打たれても必死にクリンチで逃れようとする。
直也はクリンチされる時、相手の息づかいを聞き、三ラウンド二分が経過した後だった。
直也は相手に対しクリンチさせず、ボディボディボディ!の連打。
「ボディボディボディ!ボディボディボディ!」
リングサイドからも、ボディボディボディ!の声ばかりが聞こえる。
ボディボディボディ!の声援で、直也は右アッパーのように必死にボディ。直也のボディが炸裂すると、相手の選手は無防備状態になりボディボディボディ!の連打によって、相手の選手はリング床に膝まついた。
ダウン・ダウン・ダウン・ダウン・ダウンだ!ダウンを奪いカウントダウンだ!
「ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス・・・」
相手の選手は首を振りマウスピースを吐き出し、相手のリングコーナーからタオルが投げられた。
この三回戦三ラウンド、激戦の末、直也の手が挙げられた。

直也の三回戦目の勝利、手が挙げられた時、直也の瞳には涙が浮かぶ。リングサイドに向かう直也は、もうろうとしながら歩いていた。
「おれ、限界かな」と、弱気になる直也だった。痛みからの苦しみは直也にとって初めての事だった。
こんな思いに駆られながらリング下に降りる。
四回戦目までは、休憩は十分だけ。しかし、レフリーや審判員達は何かを話し合い主催者側と協議を行っていた。
直也がリング下の椅子に座った時だった。
「四回戦、優勝決定戦は、三十分後に行います」
「どういうことだ?」と、誰もが思った。
優勝決定戦には協議の結果、充分ではないが三十分の休息。これまでにない試合が行われ、直也をドクターに診てもらう事だった。審判員は、このまま直也が試合を続けられるか気にかけていたのだ。
直也達は控室に行き、ドクターの診察を受ける事になる。
「君は、なぜ、あそこまで・・・」
「先生、俺は勝たなきゃならないんです」
「なぜ? 教えてもらえないか?」
「相手に勝つ為だけにボクシングはしてないんです」
直也はドクターと話をしながら診察を受けた。ドクターが言うには三ラウンドは無理だと、会長に話したが会長は反論する。
「先生、私は直也の問題と考え、試合に出場させたんですよ」
「もしもの事があったら、だれが責任を・・・」
「私が責任を取り、ボクシングジムを閉鎖します、保証も」
「会長!」
「なあ、直也、お前の気持ち充分感じたぞ、やれるか?」
「・・・はい、できます」
ドクターは、しばらく考え直也の左腕にテーピングを巻いた。そして条件が付けられた。
もしも、左腕が下がりガードも出来ない状況になった時、タオルを投げるようドクターは指示を出した。
その指示に会長達は従うという事で試合続行が認められた。
直也は筋肉質の身体だが誰が見ても左腕の腫れはわかる。相手の選手は必ず直也の左腕を見ながら戦うだろう。
もう、どんなに策をこうじても、左腕が動かなくなれば勝利はない。
「俺は、必ず勝ちます、どんな事をしても勝ちたい!」
「何故、そこまでして勝つ事に拘る?」
「この試合の勝利は、俺自身の勝利なんです」
「自分自身に勝ちたいという意味か?」

直也の中には、友の死によって抱いてはならないものがあった。怒りと憎しみ、憎しみが憎悪となる事が直也は怖かった。思春期の直也は自分の心と向き合う事も怖かった。
捉われた感情から逃れたい、逃れたいといつも思っていた。仲間がいても直也の抱いた思いは、仲間達には判らない。ただ漠然と感じるだけの仲間達、それだけに直也は孤独だった。
ボクシングを学ぶ事で直也は知った事があった。スパーリングで倒され、意識を失った時の涙が直也のありのままの心だったのだ。涙を流す事で負けを認めると、直也の持つ感情を大きくしてしまう。
直也は決して負ける事を認めるわけにはいかなかった。そして、強い自分をいつも寄り添ってくれた由子に見せたかった。
由子が直也に対する思いは伝わっていたものの、久美子の死が由子への思いを打ち消してしまうのだ。由子は直也の本当の心を知っていた。直也と由子の関係は幼なじみであり由子の片思い。
由子は久美子に渡された、久美子が作っていた大切なアクセサリーを直也がリング上で戦っている時、ドリームキャッチャーを握りしめていた。
直也はリング上で戦い由子はリング下で自分の気持ちと戦っていたのだ。
由子の直也への思いは、十二年もの間、変わってはいなかった。
「時間だ、そろそろ行くぞ、直也」
「絶対に勝つって、約束してよ、直也」
「え?おまえ・・・」
由子の思いは直也を思うだけでなく勝利への導きであった。由子の思いを受け入れる事の出来ない直也にとって、この試合だけは由子の希望通り勝利しかないと思う直也だった。
控室を出て廊下を歩きながら直也は自分が出来る事を考える。これまでの三回戦で何を学んできたのか?
直也には試合で学んだ事を生かせる事が出来れば必ず勝てる自身があったが、それは後々の直也に襲い掛かるものでもあった。
直也は一回戦目からをさかのぼって考えた事がある。それは、パンチを繰り出す時のバランスとパンチ後の引き際である。このタイミングを逃すと相手の策略にはまる。
四回戦の相手は前回プロ並みの選手、そして優勝を勝ち取った。直也と相手の選手の身長差や腕のリーチ幅に大差はなく、試合を見る限りパンチ力は直也以上とみられる。ただ違いと言えば足の5センチほどの長さだ。
この差が直也のフットワークに活かられれば、相手のパンチ力へのリスクを有利に変える事が出来るとリングサイドでは考えていた。
直也は、引き際のタイミングだけで勝負を挑む事を考える。しかし直也の左腕が耐えられるかどうか。
「あのフットワーク、どう引いたらいいのか・・・」
直也が引き際の事を考えていると、プロテスト前の彼は直也に何かを察知したのだろう。
「直也、引き際の時、パンチを受けながら弾く事が出来るか?」
「先輩、どういうことですか?」
「相手のパンチを受けている事が、相手にとって不安材料になる」
「不安材料ですか?」
「相手はパンチが当たってると思い始めるはずだが相手はパンチ力に自信を持っているんだ、それを逆手にとれ」
直也は彼の言葉を信じてみようと思った。しかし、どうしたらそんな事が出来るのか?直也はボクシングを始めて約四カ月の素人と一緒だ。
「試合の中で、学ぶしかないか?」
直也は不安とプレッシャーの中、試合会場へと向かった。

直也と前回優勝者の相手が会場へ入ると、観客席から拍手が湧いた。直也は周囲の観客達を見つめると何故かファイトが沸いて来た。
左腕の痛みは観客達の声援と拍手によって少しは和らぎ消え去っていく。
「なんなんだ、これってなんなんだ」
直也は、声援によって不安もプレッシャーも軽くなるという事は初めてだった。思春期の直也は、それが何故なのか知らなかった。
思いもよらぬ感情に捉われていた感情が消えていく事が信じられない。
試合開始まで、あと五分、椅子に座り何度も深呼吸をする直也。その直也の肩や首をマッサージするコーチ。由子は強く強くドリームキャッチャーを握りしめ直也の勝利を祈っていた。
「久美ちゃん、直也に力を与えてね」
直也は軽く体を動かしながらリングの上の椅子に座った。プロテスト前の彼は、直也の耳元で同じ事を囁く。
「引き際のタイミング、相手のパンチ力を弱くしろ・・・」
直也は、彼の声にうなずきながら時計を見るとあと一分後、直也の口の中にマウスピースがはめられた。
そして、あと十五秒後「両者、リングの中央に・・・」
レフリーからの言葉によりリング中央に歩き出す二人の選手。直也と相手の選手は見つめ合い首を縦に振り挨拶を交わす。
四回戦目「カーン!」ゴングが鳴った。

ゴングと共に両者ともに軽いフットワークで距離を測りはじめた。そして、直也の左腕を気にしながら相手の選手はジャプを打ち始める。
そのジャブは軽いもので相手の選手は何かしらの策を講じていると直也は思い、その策略にのってみようとする。
右利き同士の対戦だ、コーナーからは動け動き回れの指示。
直也は、その指示を無視し相手に向かっていく。
「直也は馬鹿か、それとも変人か?」
それもそのはずハンディのある直也はフットワークで相手を追い詰めている。追い詰められる相手は嫌な顔も見せず左ジャブで距離を計る。
「来いよ!来い、来いよ!」
優勝経験のある相手は余裕で直也に声を掛ける。一ラウンド二分を過ぎた時、相手の右ボディ、直也は左腕で受けた。
相手の右ボディーの連打、直也は左腕でカバーをする。
「やばいか、まずいぞ!、直也ー!離れろ!」と、コーナーサイドでは叫び、ボディの軽い瞬間に直也は左腕で受けながら右に動いていた。
「軽い、軽いぞ、パンチが軽い、このタイミングか」
直也は一瞬の瞬発力で相手のパンチ力を弱める事を知った。相手の選手は、この一ラウンドでダウンを奪おうと考えていたが、ダウンを奪う事が出来ない事で、相手選手の胸の内に直也は何かを植え付けていた。
「次は、顔面か?それとも、ボディか?」
直也は左腕に軽いパンチを受けて続けていたが、あえて左腕を下げ次のパンチはどんなものかを試す。直也が左腕を下げると相手は右フックを直也の頬に打って来た。
まともに受けてしまった直也は、よろけるがロープに助けられダウンと観られる事はなかった。一瞬の隙で相手の右フックの強さを感じる直也であった。
「まともに受けるのは、まずいな」
直也はロープに助けられた時、相手のパンチ力の強さを知った。
「どうする?どうする?俺」
「カーン!」
相手は直也の身体がよろけた瞬間、ロープからのカウンターを狙ってきたが直也は相手にクリンチで逃げクリンチ後、一ラウンドのゴングで直也は助かった。
直也は自分のコーナーへ戻らず、もうろうとしていた。相手のフックをまともに受けたせいか自分のコーナーを一時見失った。
「直也ー!、こっちだー!」
コーナーサイドからのコーチの声で、息を荒くしながらコーナーへと戻った。
「直也、大丈夫か?左腕が下がってるぞ」
「すみません・・・」
「左腕は、きついか?いたみは?」
「腕は、下げてみたんです、何かを見つけないと勝てない」
「左腕は、大丈夫なんだな」
「はい、問題ないです、ただ、相手のパンチ力は凄いです」
コーチと直也の会話を聞きながら会話が終わると、プロテスト前の彼は囁いた。
「直也、お前何か、見つけたか?」
「なんとなくですけど、どうしたらいいのか解らないです」
「なら、あたりにいき、当たった瞬間後ろに下がる事が出来るか?」
「え?あたりにいくんですか?」
直也はボディを受けた時の事を考えていた。相手のパンチが顔面を打って来た時も、ボディの時と同じように当たりながら後ろに下がる事が出来れば、相手のパンチ力を軽く出来ると直也は思った。
二ラウンド目、直也は実行に移す事を考える。
「フェイントで隙を作り、あたりにいく、か・・・」
直也は深呼吸をした時「カーン!」二ラウンド目のゴングが鳴った。

ゴングが鳴った時、直也はすぐに立ち上がろうとはしなかった。一ラウンド最終の時の相手のパンチでよろけ、直也の体力は落ち気力はあっても身体が動かなかった。
直也が立ち上がらない・・・観客達はざわめきだした時、直也は焦るかのように立ち上がりリングの中央に向かう。
体力だけでなく、直也の足にも何かしらの影響があったのだ。この二ラウンド、直也のフットワークは限界に達していたのか。
相手の選手は直也の動きを見ながら、おそらくノックアウトKO勝ちを狙っている。
直也も一ラウンドでノックアウト勝ちを狙い、パンチの数は多く体力も落ちていたが、軽いフットワークは減少する事はなかった。
直也は、相手からの軽いジャブに圧されピンチの状態が続く。
「大島!直也!、大島!直也!、大島!直也!・・・」
観客の声援が直也の応援に変わっていくが直也の動きは完全に相手のペースによって崩され、相手のパンチは相手の思い通りに直也の顔面をとらえていた。
「やばい!やばい!やばいぞ!」
「直也ー!離れろ!直也ー!離れろ!直也ー!離れろ!」
コーナーの声は、もう直也の耳に入る事なく直也の左腕は下がりつつありガードは右腕しかない。
「よーし!行けー!行けー!行けー!」
相手サイドからの声だけが聞こえてくる。直也は、どこまで耐えられるのか?このまま続けるか?直也の左腕のガードは下がりつつあった。
会長はコーチの肩をたたき、コーチはタオルを握る。
「もう無理だ、立っているだけで、もう直也には無理だ」
プロテストの彼も首を振り、もう直也には無理だと言っているようだ。
コーチがタオルを投げようとした時、由子はコーチのタオルを握る。
「なんだお前、もう終わりだ!無理だ」
「直也は、何かしようとしてるんだと思う」
「あれを見てみろ!もう無理だ!殺す気か!」
「もう直也は死んでるわ、きっと戻って来るから」
「女のお前に何がわかる?」
「女の私だから、わかるのよ!」
由子は、コーチだけでなく会長からもプロテストの彼からも全てのタオルを強引に手で取りあげる。
「タオル投げるなら、私が投げるから」
「お前は、直也を殺す気かー!?」
殴られ続ける直也、相手は思い通りにジャブにフック、ボディ。それでも倒れない直也。ノックアウトを狙う相手。
しかし、直也は倒れるような様子ではなかった。会長やコーチは焦る事から直也の様子を冷静に見始める。
「あいつ、まさか・・・死ぬ気か?」

直也は喧嘩をしていた時の事、仲間達の顔を思い、そして直也の中にある怒りや憎しみの感情を打たれ続けている中で思い出していたのだ。
「打てよ、打てよ、打てよ、打てよ、打てー!」
直也は心の中で打たれる痛みよりも、失った苦痛の方が何よりも痛みを感じていたのだ。そして、直也自ら相手のパンチに頭突きをするように直也は気づかないうちに打たれ強い自分を相手にも周囲の観客にもレフリーや審判員にも印象付けていたのだ。
直也は何時しか何も考える事なく本能だけで戦っていた。
「もっと打てよ、もっと打てよ、もっと打てよ・・・」
このまま時間が流れ、判定まで持ち込んでも勝利はない。この二ラウンドは、直也にとってこれまでより苦しい戦いだった。
それでも、体が倒れそうでも打たれ続ける直也だが、相手はノックアウトに焦り始めパンチが当たっているのに、どんなにパンチを打っても直也は立ち続けてる事に、どんどん焦り始め直也への恐怖心を持つようになっていく。
「ダッシュ!ダッシュ!ダッシュ!ダッシュだー!」
相手のコーナーからの声が直也には良く聞こえるようになる。
「もっと打てよ、もっと打てよ、もっと打てよ・・・」
直也の心は研ぎ澄まされていく、もろい刃が鋼鉄の刃に。
「直也ー!離れろー!直也ー!離れろー!」
直也のコーナーのコーチ達の声も聞こえるようになると、直也は何かに取りつかれたように打たれる事に笑みを見せる。
「来いよ!殺してみろよ!来いー!来いー!来いー!」
直也は、もう自分が見えなくなっていく、もうボクシングじゃない。この二ラウンドは直也を無心にし直也の持つ素質が育ち始めていたのだ。
「もう無理だー!直也ー!やめさせろー!」
誰がどんなに叫んでいても、直也の耳に入る事がなくなった。
「俺なんか、生きてても仕方がないよな、クーコ、春樹よ」
直也の中にある思いが、久美子の命、春樹の命を蘇えらせようとしていた。
そんな時だった「カーン!」2ラウンド目の終了のゴングが鳴った。
直也は、よろけながらでも笑みを浮かべながら何かに取りつかれたように、真っ直ぐ自分のコーナーの椅子へ足を向ける。
「直也!聞こえるか!」
「へへへ、へへへ、はい、次です、次ですよ、俺が死ぬのは」
二ラウンド終了後、直也は狂ってしまったのだろうか?会長やコーチは直也の脳へのダメージを考える。プロテスト前の彼は、直也の前に立ち直也の瞳を見つめる。
「おまえ、まだやるつもりか?マジで勝つもりか?」
「はい、俺は勝つ、必ず俺は勝つ、おれは必ず・・・勝つ」
プロテスト前の彼は、直也の頬を軽く叩き声を掛ける。そして、直也の瞳を見つめている。
直也の眼つきは、死んではいない、むしろ輝くような瞳だった。
「直也、思い通りに戦え、戦って優勝を勝ち取れ!」
プロテスト前の彼と由子だけは、直也の本当の姿を見ていたような気がしていた。
「直也なら、どんな事をしても勝てる、優勝は目の前だ」
由子は、久美子の渡されたドリームキャッチャーを強く握りしめる。
「神様、お願い」
「カーン!」
ラストチャンスの3ラウンドスタートの鐘が鳴る。

疲れきっているのは直也だけではない相手の選手も同じだ。ラストチャンスへ向けて両者リングの中央に走る。
その時、リングの中央で起きた出来事は誰もが予期せぬ事だった。
息を荒くしガードの下がった直也の顔面に相手の選手は右ストレートを放ち、直也はまともにパンチを受けてしまう。
「ダウン!ダウン!ダウン!ダウン!ダウン!」
直也の力は抜けロープの前で膝まつき、全て終わりかのようにリングの上に直也は倒れこんでしまった。
カウントダウンの声だけが直也に聞こえてくる。観客達や関係者などは総立ちとなり直也の経過を見守る。
そんな時だった。
「直也ー!見てよ!こっち向いてー見てよー!」
由子の必死な声は直也の眼を開けさせ由子が直也に見せていたのは、久美子が仲間達に残し思いを託したドリームキャッチャーであった。
「直也は死なない、こんなとこで倒れてる場合じゃないでしょ!」
由子の叫びと反対に会長やコーチ達は、直也に大声で叫んでいた。
「もう無理だ、直也!立つんじゃない!」
由子の声掛けで直也はレフリーのカウントダウンの声が消えた。
時間が止まったように、直也は由子のドリームキャッチャーを見ながら幼き頃の事を思い出していた。
春樹と久美子、直也の三人で小さな輝く蛍の群れを見ている。三人は輝く蛍の灯火を見て驚きながら笑顔で見ている。蛍の群れの後に見ているものは夜の海辺で見る月明かりだった。
月は海に明かりを灯し、その灯火は3人の歩いて行く道のように一本の線だった。灯された一本の線が消え去ると、そこには海の中に蛍の灯火。ホタルイカの大群は海の中で輝きを見せる。
まるで夢世界の中にいるかのような直也だった。

その夢の中で春樹と久美子を見つめた直也は、由子が手を伸ばしドリームキャッチャーを直也に近づけると、直也は荒い息をつきながらヨロヨロよろけながら立ち上がろうとしていた。
「ガンバだよ!ガンバ!ガンバ!」と、由子は叫ぶ。由子の声に合わせて周囲からもガンバの声援。
この時、これは「頑張れ!」の意味ではなかった。幼い頃の直也と久美子はガンバの冒険というアニメを見て久美子が気に入っていた言葉だ。
ガンバの冒険というアニメは、久美子にとって元気になれる番組であった。
「なんでだよ由子、なんでお前が知ってるんだ」と、直也は思った。
由子は幼い頃から久美子のお気に入りだった言葉を口にせず、久美子が消えてからガンバの言葉は由子が受け継がれていた。
ガンバの意味を知らない観客たちも、由子の声に合わせて、ガンバ!ガンバ!ガンバ!…。
ガンバの言葉が大きく大きく大きな声援となり、崩れかける直也の心に再び戦いの炎を与える。
そして、ふらつきながら直也は眼を大きく開き立ち上がり、レフリーにやれるぞという意志を伝えていた。
「ファイブ、シックス、エイト・・・」
直也は立ち上がりレフリーに腕を上げ試合は続行と知らせる。レフリーは審判員達や直也のコーナーを見て試合続行を伝えていた。
「なんだアイツ、何で立ちやがるんだ!ハァーハァー」
直也が立ち上がると相手の選手は息を荒くし首を振り虚ろな目つきで直也を見つめ、ゆっくりとリングの中央まで歩き直也を待っていた。
「大島直也ー大島直也ー立ちましたー」

このアナウンスが観客達は聞くと今までで最大の声援が起きた。椅子に座る観客達は、誰一人おらず立ちながらの声援だった。
その声援によって残り二分、直也はどう戦うのか?直也にとって最終ラウンド、判定負けになるのか?
直也は永遠の別れとなった春樹と久美子の姿を見た時、そして由子が見せてくれたドリームキャッチャーによって、直也の気力は復活し本能のままボクシングが進められた。
おそらく相手の選手は、そんな直也を見て判定勝ちを狙っていたのだろう。
直也は無心の中、そんな相手を見て軽いフットワークで軽いジャブを出している相手を見逃す事はなかった。
「おれは、おれは、俺は勝つ!」
直也は限界を超えていたが、一瞬の瞬発力で相手の懐へ入る。
相手は嫌がりクリンチで時間を稼ごうとする。前回の試合で学んだタイミングを武器として何度も繰り返し相手の懐へ何度も入り込む。
偶然なのかわからないが直也のボディ一発が相手の動きを止めた。
残り一分をきったところで・・・
直也のボディが炸裂し相手は逃げるが阿修羅のような直也は逃がさない。
「イケー!直也ー!ボディー!ボディー!ボディー!」
直也のコーナーサイドからの声に合わせるかのように、直也のボディーは相手の選手の全てを奪いリング上に沈めた。
レフリーのカウントダウンが始まった時だった、相手のコーナーサイドからタオルが投げられた。相手のコーナー下では皆首を振っていた。
「大島!直也!大島!直也!大島!直也!大島!直也!」
そして観客達は直也に向けての声援一色になった。

「勝ったぞー!」直也の耳に入るのは、この言葉だけである。

試合後から2週間ほど静養した直也が戻ってきた。
「直也、プロになって見ないか?」
「いいえ、俺は約束を果たしたし、高校決めなきゃ」
「ねえ、直也の約束って何?」
「さあね、俺だけの約束かなあ」
薄暗いジムのリングの上で直也と由子、会長の3人で話をした。直也の約束は久美子と春樹の為、そして由子へのの約束。直也は由子に話す事はなかった。
このボクシングでの体験は直也の心を成長させた。心のもろさ、心の強さ、このバランスを持たなければ、これからの直也が消えてしまう事を学んだ。
しばらく時が流れると直也はもう中学三年生だ。もう直也の通う中学校では、暴力的なものはほとんどなくなった。
「静かなもんだなあー」

もう苦しむ事もない直也。この一年間だけは…。

あとは今後の進路の事だけだ。両親や仲間達と相談し合いながら三者面談、模擬試験、進学への道を直也と仲間達は歩いていた。
直也は、地元の公立高校と春樹のいた街にある私立高校を受験する。誰もが直也と同じ地元の公立高校へ通えると思っていたが、直也は春樹のいた街へ地元から2時間かかる私立高校を選んだ。
直也の父と春樹の父は兄弟である。直也は三年間で失った命の思い出がある地元に残る事が出来なかった。
由子は、直也に告白したが直也は受け入れる事はなかった。

由子は「好きだ」という気持ちを直也に告白したが、彼は由子の思いを受け入れる事はなかった。
本当の気持ちは「好きだよ」と言いたかった。でも今の状況では直也は無理だったのだ。

「しばらく時間が欲しいんだ」
「ちゃんと考えておいてね」
直也の進路の行方によって、由子との会話は全てシャットダウンされるかもしれない。

卒業前の事、直也の竹馬の友と言える暴走族の特攻隊長の宇冶木大地とある約束をした。
大地は、直也のボクシングトーナメントを壁に寄り添い見ていたのだ。
直也が試合中もうろうとした時、見つめていたヤツであった。
「お前は俺とは違う、お前は強く、俺の誇りだな」
「何言ってんだ、俺なんかどうでもいいだろ」
「試合見たよ、お前は強く優しい、仲間が慕うのがわかるぜ」
「俺はもう、地元に残るつもりはないよ」
「そういうと思ってたよ、苦しかったろ直也、でもただ約束してくれ」
「約束なんかするかよ」
「俺は、これから年少に入るが、お前の拳は凶器だ、絶対使うな」
「年少かー、大地も覚悟してたんだよな」
「ああ、お前と同じ、覚悟して生きて来て苦しんだかな」
「たまには会いに行くよ、お前の馬鹿顔見にな、近くなるから」
「お前、春樹の所行くんか?」
「さあな、お前に話しても意味なし、年少入れば、お前は静かになるよな」
「長い付き合いだよな、お前との約束守るよ」
「これー久美子が、俺のところに持ってきたよ」
「久美子のドリームキャッチャーか、それが無かったら勝てなかったよ」
「そうか、良かったな」
「なあ大地、お前にはお前に向いた仲間がいるだろ、俺にもお前の仲間と違う仲間がいるんだよ」
直也は、いつかきっと本当の自分自身を見つける冒険に出かけようとしていた。

「僕も君達も独りぼっちじゃないんだ!」
卒業式が終わるとクラスのまとめ役である由子の代わりに直也が叫び言った。
中学校最後の直也の言葉だった。
きっと誰もが中学校という現実に苦しめられていたのだと思う。
教室の雰囲気が一瞬にして急変しクラスの生徒達は静かになり、中学時代の何かを思い出していたのだろうか。
涙目になる生徒、泣く事を我慢する生徒、手を強く握る生徒、窓の外を見つめる生徒、あっけに捉われる生徒、生徒には様々なドラマがあったのだろう。
教室内の雰囲気を見てクラス担任教師は何も話す言葉はなかった。
その教師も話したかったのだろうが、直也の直球のような言葉で何も言えなかったのだ。
教師の間接的な言い方で話は長くなるだろう、しかし直也は教師が言わんとする事をたった一言で伝えていたのかもしれない。
「卒業おめでとう」
中学最後に一言だけ担任教師は言った。この教師は初めて担任を任された教師で僕らは初めての卒業生になる。
涙を流しなら、みんなありがとう、と何度も繰り返し涙を流していた。
クラスメイトからは、泣き虫先生と良く言われていた。でも担任教師は初めての卒業生を持ち教え子を持った事が嬉しかったのだろうな。
その後は卒業アルバムに、みんなで笑顔になりメッセージを書いていた。
そして直也のアルバムのメッセージには「ありがとう」という言葉が多く書かれていたが、直也はアルバムのページを開く事はなかった。
いつの日か中学のアルバムを開きメッセージを読む直也の姿はどんなものだろう。

直也は大地の思いを受け入れ約束し地元から春樹の街へ向かう。高校へは春樹の自宅から通う事になる。

引っ越しの準備をする母、2、3日で準備が終わった。
直也が引越しをする前日の夜に直也は由子の夢を見る。
「また会おうよ、いつでも会えるよね」という由子の言葉から始まり、由子のメッセージが夢の中で語られた。

私が「恋する乙女」になれたのは「恋」って、こういうものだと教えてくれたのは直也のおかげだったかも。
私と直也は保育園から中学まで一緒だった。保育園の時「金子清美(かねこきよみ)」さんも一緒にいて、直也は清美の事を好きだったと思う。女の直感かな。清美も同じ思いで行事が無い時は、いつも二人で一緒に遊具で遊んでいたから。
直也を見てると何故か安心感があって、幼い時の事だからあまり覚えてないけど、駄菓子屋さんの店の前で良く直也たちは遊んでいて、仲間に入れてもらえなかったのを良く覚えてる。
でも清美は違った。清美は毎日じゃなかったけど、行けば仲間になるというのか、直也が喜んでる姿をみせて仲間のように遊んでた事を思い出します。

私は清美がうらやましかったな。幼い頃から嫉妬していたみたい。
直也と近くにいて清美のお迎えが来るのが遅くなると、直也のお迎えがあっても直也は清美のそばにいて一緒に遊んでた。
清美は親の仕事上で引越しをするということ聞いたのは、一年ほどたってからだったかな。
引越しのあと1カ月頃、直也と清美は、いつもよりも笑顔で寄り添いながら遊んでた。私は幼いながらに嫉妬して、わざと直也の下駄箱にゴミを入れてやった。
「最悪だったわ。でも・・・」
直也の事をその時、好きか嫌いかなんて考えた事はなかった。自分でも良くわからなかった。ただ嫌だった。
清美の引越し前日、保育園が終わると保育園の門のところで2人きりで何かを話していましたね。
少し離れた所で直也と清美のお迎えさんも何かを話しながら、2人の話が終わるのを待ってたような気がします。

清美がいなくなってからの事、直也はクラス全体が仲間のようにして遊んでた。きっと寂しさを笑う事でまぎわらしていたのかも。
保育士さんも大変だったろうなと思ってた。そして、小学校に入る頃には色々な感情が生まれて好きか嫌いかなんて話も出来るようになってた。
小学校では同じクラスになる事はなかったけど、直也の噂話はよく聞いてた。
「女の子に泣かされてるって」私は噂が気になって様子を見に行ってた。
休憩時間や自由時間の時、直也の事を見にいったんだけど、結構、掃除用具でやられてたな。
もう一つの噂は「わざと泣かないと、終わらないんだ」と言う事。
あの子「井上」さんて言ってたと思うけど、直也の事が「好き」だったのかもしれない。

小学校の高学年になると、そんな噂もおさまり中学生になりました。地元以外に転校する子もいたけど殆どが顔見知りだった。
中学に入って直也と同じクラスになれてクラス委員を頼まれ、いつも直也の事が気になってしょうがなかった。話をすると以前とあまり変わらず、ただの幼なじみの会話かな。
私の一番好きな授業は音楽でした。
音楽の授業は週に2回あって席は自由席で、直也はいつも1人一番後ろ、私と友達は2人で直也の前に座ってた。この授業の時だけは誰にも席取りは負けられなかった。
この時ぐらいしか直也と話が出来る時がなかった。
直也の周りには友達が集まっていて、 私はその風景を見る事がすごく嫌でした。
私にも親友と呼べる1人の友達が出来たんだけど、2人で直也の事を見てた。
「えーっ!」
その親友は直也の事が好きだという事を私に告白してきたわ。小学校の時と一緒だって思った。
直也は中学生になってから他のクラスの子からも手紙をもらったりしてた。
でも直也がどんな思いで中学を卒業したか、良く知ってるのは私だと思うようにしてました。
小さい頃からずーっと一緒だったんだもの。本当に苦しくて泣いてる直也の姿を見たのは私だけだったもの。
私は直也と一緒に苦しんでいきたいって思いました。

そんな思いで中学卒業式が終わってから、私は直也に「好きです」という告白をしたけど遠くへ行っちゃった。
私から見た直也は「優しさか思いやりか・・・」なんて思った。直也は、きっと一緒に苦しめたくなかったんだと思う。
直也の内面には暖かさや優しさ、思いやりの心を持っていたもの。
私は、そのあと自宅へ帰って缶の箱の中を見てみると、直也と一緒に描いた絵が1枚だけを出して良く見てると涙が止まらなくなりました。
その絵の中に描かれたものは、直也と私が結婚式を挙げている絵だったからです。
小学校入学前に描いた絵だったと思う。
直也と私には秘密が一つだけあったかな。 怒りや憎しみをどうしていいか考えていて私の叔父が持つボクシングジムへ通っていたこと。
直也の練習をベンチに座って、ずっと見ていたの。直也は本当に苦しかったんだと思う。

ジムに入って直也は変わった。いいえ、そうじゃないのかも、アマチュアボクシングのチャンピオンになってから変わった。顔つきも考え方も全てが変わったみたいだった。でも、忘れられない事からの悲しみだけは直也を苦しめていたかな。直也の事を真一君へ手紙で報告したわ。また何処かで出会う事があるかもしれないと思ってね。出会う事がなくても直也が元気でいる事で、きっと真一君も元気になれると思ってね。
返信はなくて届いたかどうかはわからなかった。
でも私の役割かなって思ったから。

高校の3年間一度も直也には会いませんでした。もしかしたら私を見ると昔の苦しみが、再び直也に表れてしまうのではないかと思ったからです。
私は、この三年間で少しずつ大人になったような気がして直也の事は忘れようとも思いました。でも忘れる事がどうしてもできなかった。
大学への進学を決めた私は直也の両親のもとへ行き、直也の居場所を聞き一度だけ会いに行きました。直也はラーメン屋さんの後継ぎになり、声をかけようとした時 「直也」と呼ぶ女性と会いました。2人の関係は女の直感ですぐにわかりました。
中学の時の直也を思い出すと今の直也と違う事を感じました。
声をかけていたら、もしかしたら後ろから追いかけてきてくれる、なんて思いながら。
私は大学へ進学してサークルに入り直也の事は忘れず、直也の気持ちも良い思い出として残す事にしました。
直也は今、何をしてるのでしょう。
きっと仲の良いお仲間さん達と毎日を生きているのでしょうか。彼女と仲良くしてるのかな。正直に言うと、あの時声をかけておけば良かったと後悔する時があります。
またラーメンを食べに行けばいいのかな。私は18年の間で一番良い思い出を直也からもらった気がします。

なんなんだよ未来を創造するなよ由子、と思うと同時に直也は飛び起き窓のカーテンを開ける。
息苦しさを感じていた直也だったが、窓を開けると太陽の光は眩しく、少し肌寒い風は彼の心の中を一瞬にしてすり抜けて行った。
夢を見るのは当たり前だと思っていた直也だが、これで過去と未来の2人目の彼女の思いを感じると戸惑いうばかりであった。
しかし、その戸惑いは春樹のいた新天地へ車での引越し中に薄れていったが、心の隅の引き出しに直也は置いていた。
久美子とは肩で寄り添い永遠に心に残る関係、由子はひざ掛け毛布のように暖かい温もりをくれる関係だったのかもしれない。

何故、久美子は魔除けのアクセサリーを選んだのだろうか。
「そうか、だからドリーム・キャッチャーだったからか」
直也は幻の夢を観る事の意味を由子の2度目の夢で久美子の「糸」がわかったような気がした。でも偶然だったのか?
しかし、久美子からもらった仲間達はドリームキャッチャーの意味を考えた事があるのだろうか。

ありがとう、いつまでも、ありがとう、忘れないで・・・。
君達は孤独じゃないってこと。

運命とは言い切れないが・・・
高校へ通う直也に再び襲い掛かるものがある。出逢いと別れの繰り返し、またもや暴力との戦い、直也の時計は空回りする。が・・・。
中学同様、悲しみ苦しみ重い荷物を背負う直也は、高校を卒業していけるのだろうか。

久美子の思いや願いは、なぜか後にも新たな出会いの中で受け継がれていく。
直也が中学を卒業するまでの間に、直也の母と若年で永眠した春樹の母はある相談をしていた。
直也には弟が2人いた。春樹の母は子供が生まれてくる体ではなかった。それだけに春樹を愛していた。
直也の父や春樹の父は、母達の相談事は知っていたのかもしれない。
春樹の母の思いがそこにあったのだろう。
子を失った悲しみは、いつしか救済を求めていた。
直也は母達の秘密の約束事は、何も知らされず、父達や母達の思いも知らず、気づく事もなく中学を卒業していく。
卒業と同時に、大島直也の環境全ての転換期の訪れである。

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2019H31:明けましておめでとうごさいます

2019-01-01 13:52:34 | イラスト

明けましておめでとうごさいます
本年も宜しくお願いします



今年は平成から変わり2019H31は元年となりますね
年号はまだわかりませんが新しい元号となり新しい日本の始まりです
皆様、新しい出会いや新しい事へのチャレンジが出来るよう願っています
お体を大切に、体調不良になりませんしょうに


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水彩画イラスト:バッドボーイズ<2>メリークリスマス

2018-12-14 12:33:06 | イラスト

水彩画イラスト:バッドボーイズ<2>カラーバージョン
メリークリスマス


アザラシなどをテーマにした水彩画キャラクターイラストレーションです

モノクロ:イラスト:バットボーイズ

いよいよ寒くなってきましたね
皆さんインフルエンザに気を付けて体調に気を付けて
メリークリスマス
良いお年を、お過ごしください



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ペンキ:エアーブラシイラスト:壁画

2018-12-09 10:08:54 | イラスト

ペンキ:エアーブラシイラストレーション:壁画

中央の壁画


右側の壁画


左側の壁画


20代半ばの頃に描いた駐車場の壁画です。
ペンキを使用してエアーブラシで作成しました。
高さ約3メートル、中央約8メートル、右側、左側

入り口の壁の壁画


現在:駐車場は取り壊され建物はありませんが駐車場にはなっています



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