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スグルの歴史発見

社会科教員をやっているスグルの歴史エッセイ。おもに中学生から高校生向きの内容ですが、大人でも楽しめると思います。

「羊が人を食う??」ユートピアと資本主義

2005年03月01日 18時33分13秒 | 名言シリーズ
 トマス・モアの著書「ユートピア」の中に、「私たちの国では羊が人を食う」という有名な語句がある。
 これは、16世紀のイギリスでさかんに行われた「囲い込み」を皮肉ったものだ。「囲い込み」というのは、土地の所有者たちが、当時需要が高まり価格も高騰していた羊毛を生産するために、農地を囲い込んで牧草地にしたことをいう。それまで農地で働いていた農民たちは、農地を失ってしまった。だから、「羊が人を食う」と言ったのだ。人間の農地が、羊の牧草地に取って代わられるという意味だ。
 ヒューマニストだったトマス・モアは、人道的な観点からこの有様を非難した。
 さて、ユートピアは日本語で「理想郷」なんて訳されることもあるが、これはギリシャ語で「存在しない土地」という意味である。ピーターパンに出てくるネバーランドと似ている。トマス・モアは、現実を批判しながら、理想郷などないと冷ややかに言いたかったのかもしれない。
 ところでこの「羊が人を食う」には後日談がある。
 ヒューマニストだったトマス・モアは気づいていなかったかもしれないが、この「羊が人を食う」現象は資本主義の芽生えであったのだ。羊を売って利益を上げた人々は資本家となり、羊によって農地を追われた人々は都市に出て労働者となった。資本家の財力と労働者の労働力が、産業革命の原動力になったことは言うまでもない。
 のちにイギリスの経済学者アダム・スミスは、「神の見えざる手」すなわち需要と供給の関係にまかせておけばすべてうまくいくと言ったが、彼ならば羊の需要があるときには羊を育てるのが理にかなうと考えただろう。
 アダム・スミスならば「羊が資本を産み落とす」とでも言っただろうか。