「♫ 春よ来い、早く来い」と待ち構えているのに、
招かれざる厳しい寒さが老体にこたえます。
こんな時は、本を片手に引きこもり…
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この一冊に2つの短編が収められています。
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「泥の河」
宮本輝さん30歳の1977年、この作品で太宰治賞を受賞。
まだ戦争の傷跡の残る混乱期の大阪で、
安治川の河口に住む少年と、
川の対岸に停めた廓舟で母・姉と暮らす少年との、
短い交流を描いた作品。
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「蛍川」
1978年、芥川賞を受賞した作品。
「4月の大雪や!、4月の大雪や!」
4月に大雪が降ったら、その年こそ蛍狩りに行こうと、
銀蔵爺さんと約束を交わした小学4年生の竜夫。
「降るのよ蛍が。蛍の群れよ。
群れっちゅうより、塊りっちゅうほうがええがや。
とにかく、ものすごい数の蛍よ。
大雪みたいに、右に左に蛍が降るがや」
父の死や友の死を経験した竜夫が中学3年の夏、
5年間待ち焦がれた蛍狩りの日が訪れた。
北陸富山を舞台に、少年の淡い初恋を蛍の美しい輝きの中に描いた作品。