ボージョン病院の時計台の鐘が十二時半を告げる陰気な音を響かせたとき、彼ははっと我に返った。闇の中から「起きなさい、時間ですよ」という声が聞こえたように思った。よろめきながら立ち上がった彼は自分の脚がへなへなと頽れそうになるのを感じたが、ド・シャルース邸の庭に通じる小門まで何とか近づいていった。不思議にもすぐに戸が開き、マダム・レオンが出てきた。ああ、パスカルが待っていたその人ではなかった。心に強い願いがあるとそれが予感のように感じられることがあるものだが、可哀想にパスカルは『マルグリット自身がやって来る』という己の願望のこだまを聞いていたのだ。そして不幸に見舞われた者のばか正直さで、彼はそのことをマダム・レオンに言ってしまった。しかしマダム・レオンはその考えを聞くや、警戒心も露わに後ずさりし、非難の口調で言った。
「なんということをお考えなのですか! マルグリットお嬢さまがお父様の御遺体を放っておいて逢引きに馳せ参じるとでも! まぁもう少し分別を働かせてくださいまし。お嬢様を何だと思っておられるのですか!」
パスカルは深くため息を吐いた。それから殆ど聞き取れないような声で尋ねた。
「少なくともお返事は下さったのですね?」
「はい……私の方はおかげで大変な思いをしましたけれど、お手紙をお持ちしました……さぁ、これです……それでは私はこれで……召使たちが私のいないことに気づいたら、どんなことになるやら……私がたった一人で出るところでも見られていたら……」
彼女は戻ろうとしたが、パスカルは彼女を引き留めた。
「どうかお願いです」彼は懇願した。「彼女の手紙を読むまで待って貰えませんか。彼女に知らせたいことがあるかもしれませんので」
マダム・レオンは従ったが、大層ふくれっ面をして、再三「お急ぎください」を繰り返していた。パスカルはそれを読むために街灯の下まで走っていった。それはマルグリット嬢からの手紙というよりクシャクシャの紙切れに走り書きされたメモで、四つに折りたたまれ封蝋もされていなかった。鉛筆で書かれてあり、筆跡も乱れていた。ガス灯のゆらめく明りのもとでパスカルは読んだ。
『拝啓……』
この最初の言葉にパスカルはぞっと身震いした。拝啓とは!これは一体何を意味するのであろう! もう長い間、マルグリット嬢が彼に手紙を書くときにはいつも『親愛なるパスカル』とか『愛しい人へ』という書き出しで始まっていたのに。ともあれ、彼は先を読んだ。12.4
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます