さて、中庭の中央に葉巻を咥えて立っているのはトリゴー男爵であった。彼は人から勧められた二頭の馬を吟味している最中であったが、そこへフォンデージ夫人を乗せた馬車が玄関前の階段の前に停まったのだった。彼はこの夫人を嫌っていたので、いつもは彼女を避けていた。
しかし、今は『将軍』の犯罪のことを彼は知っていたし、パスカルの計画のこともあったので、ここは愛想よく迎えるのが駆け引きというものだと思い直した。馬車の風よけガラス越しにフォンデージ夫人がみえたので、彼はさっと歩みより、彼女が馬車を降りるのに手を貸した。
「昼食を御一緒してくださいますなら、まことにもって……」
言葉は途中で喉の中に呑み込まれた。彼は真っ赤になり、持っていた葉巻が手から離れて落ちた。マルグリット嬢の姿を認めたのであった。
彼が強い驚きを見せたことは、フォンデージ夫人の目にも留まらないではいられなかったが、それはマルグリット嬢の目をみはるような美しさの故であろうと彼女は思った。
「こちらのお嬢様は、ド・シャルース嬢ですわ、男爵。わたくし達の大切な友人、お亡くなりになったド・シャルース伯爵の娘さんです」
この若い娘が誰なのか、紹介される必要などなかった。彼は知りすぎるほど知っていたのだ。
青天の霹靂とも言うべき衝撃を受け、激しい復讐心が彼の脳裏を貫いた。このような機会を与えられたのは天の配剤とも思えた。耐え難く思いながらも、自分ではそれに決着をつける勇気のなかったこの状況を終わらせることができる……。
彼は強い意志の力で冷静さを取り戻し、フォンデージ夫人の先に立ち、彼の素晴らしい邸宅の中を案内しながら軽い口調で言った。
「妻は自分用のサロンに居ります。廊下の突き当りです。大喜びすることでしょう……。ところで、私は貴女に内密のお話がありましてね……。まずお嬢様を妻のところへお連れします。すぐ後で私たちも合流することにいたしましょう」
そう言うと、彼は返事も待たずにマルグリット嬢の腕を取り、廊下の突き当りまで引き摺るように連れて行った。ドアを開けると、からかうような口調で言った。
「マダム・トリゴー、ド・シャルース伯爵のお嬢様をお連れしたよ」
それから呆気に取られているマルグリット嬢を脇に引き寄せ、彼女の耳元で囁いた。
「貴女のお母上ですよ、お嬢さん」
それからドアを閉め、フォンデージ夫人のもとへ戻って行った。9.7
しかし、今は『将軍』の犯罪のことを彼は知っていたし、パスカルの計画のこともあったので、ここは愛想よく迎えるのが駆け引きというものだと思い直した。馬車の風よけガラス越しにフォンデージ夫人がみえたので、彼はさっと歩みより、彼女が馬車を降りるのに手を貸した。
「昼食を御一緒してくださいますなら、まことにもって……」
言葉は途中で喉の中に呑み込まれた。彼は真っ赤になり、持っていた葉巻が手から離れて落ちた。マルグリット嬢の姿を認めたのであった。
彼が強い驚きを見せたことは、フォンデージ夫人の目にも留まらないではいられなかったが、それはマルグリット嬢の目をみはるような美しさの故であろうと彼女は思った。
「こちらのお嬢様は、ド・シャルース嬢ですわ、男爵。わたくし達の大切な友人、お亡くなりになったド・シャルース伯爵の娘さんです」
この若い娘が誰なのか、紹介される必要などなかった。彼は知りすぎるほど知っていたのだ。
青天の霹靂とも言うべき衝撃を受け、激しい復讐心が彼の脳裏を貫いた。このような機会を与えられたのは天の配剤とも思えた。耐え難く思いながらも、自分ではそれに決着をつける勇気のなかったこの状況を終わらせることができる……。
彼は強い意志の力で冷静さを取り戻し、フォンデージ夫人の先に立ち、彼の素晴らしい邸宅の中を案内しながら軽い口調で言った。
「妻は自分用のサロンに居ります。廊下の突き当りです。大喜びすることでしょう……。ところで、私は貴女に内密のお話がありましてね……。まずお嬢様を妻のところへお連れします。すぐ後で私たちも合流することにいたしましょう」
そう言うと、彼は返事も待たずにマルグリット嬢の腕を取り、廊下の突き当りまで引き摺るように連れて行った。ドアを開けると、からかうような口調で言った。
「マダム・トリゴー、ド・シャルース伯爵のお嬢様をお連れしたよ」
それから呆気に取られているマルグリット嬢を脇に引き寄せ、彼女の耳元で囁いた。
「貴女のお母上ですよ、お嬢さん」
それからドアを閉め、フォンデージ夫人のもとへ戻って行った。9.7
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