お遍路さん。
この名を知らない人は少ないと思うが、実際にお遍路さんになった人はどのくらいいるのだろう。
宗教に大らかな私達日本人。
クリスマスを祝い、除夜の鐘を撞いたその足で神社に初詣。
そんな調子だから、お遍路さんもスタンプラリー感覚の旅行の類に捉えている人もいるのではないだろうか。
実際、私は「お遍路をスタンプラリーか何かと勘違いしてないか?」と、批判的に言われたことがある。
しかし、実際に通し打ちをされた方なら分ると思うが、そのような思いでは結願まで達するのは難しいし、
仮にそのような気持ちで巡っていたとしても般若心経を唱え続けて旅を続けて往く中で思いは変ってゆくだろう。
お遍路のスタイルも、現代では歩きに拘る必要はない。
団体バスツアーであろうが、自家用車であろうが、バイクや自転車であろうが構わない。
自分のスタイルで、自分のペースで思うように遍路道を往けば良い。
観光だろうが、信仰心からであろうが、同行二人、お大師さまと一緒なのは代わりはないからだ。
好むと好まざるとに係わらず取れてしまった纏まった時間。
若い独身の頃であれば喜んで日本一周にでも走り出しただろうが、そうも行かなかった。
再就職先も決まっておらず、情けない事に何をすれば良いかまったく頭に浮かばなかった。
ただ、漠然と何とかなる、大丈夫だ、と、根拠も無く自分に言い聞かせるしか術がなかった。
幸い、最後の最後で、有給を全て消化して良いとのことだったので、その期間だけ自分の思うように使おうと考えたのだ。
そして浮かんだのが四国八十八箇所を巡礼しよう、お遍路をしようと。
父と弟を亡くし、それまでの仕事で生物を扱っていたので、その供養の意味と、何よりもそれまでの過去と決別し、頭の中をリセットしたかったからである。
半月ほどの時間を、どのように使うか。
近所の書店で買い求めた書籍には行程1400kmだと書かれ、歩き遍路の費用目安を次のように書していた。
徳島発で49泊50日88ヶ所巡り、45万円程度。内訳、宿代39万2000円(1泊2食付8000円)、昼食費など5万円也。
【出典:2007年1月 昭文社 四国八十八ヶ所めぐり お大師さまと行く遍路18コース ISBN4-398-13331-3 16ページ】
このいい加減な試算でもこのくらいの費用と日数を必要とする。
この他に、お遍路さんのあの白装束一式や用品を揃え、歩き遍路ならば良い靴を選び、納経(ご本尊の墨書と朱印を戴く)するのに納経帳で一礼所毎300円×88ヶ所=26400円必要になる。
観光として捉えると、時間も経費も掛かる贅沢な旅といえる。
しかし、私にはそんな余裕はなかったし、何よりもオートバイを愛している。
バイク遍路の旅を選択するのは必然で、他の選択肢はその時考えられなかった。
出立を前にKLEのエンジンオイルとエレメントの交換をし、チェーンとタイヤをチェックした。
お遍路に使う白装束と用品一式はネット通販もいろいろ考えたが、現地調達が一番の方法で、現地入りするまでの荷物にもならない。価格や品揃えの心配をしていたが、実際現地で購入するにあたり心配するほどの差は無かった。歩き遍路ならば、靴のサイズなどの心配はあろうが、白衣に輪袈裟、菅笠、金剛杖、数珠に経本、頭陀袋、納札、ロウソク、線香、マッチかライター、納経するなら納経帳。基本的にたったこれだけである。現地で手に取り、好きなものを適当に選んだ方が手っ取り早い。
次に、バイク用の地図と言えば昭文社のツーリングマップルである。最新版の中国・四国ツーリングマップルと、同じ出版社のお遍路ガイド本を選んだ。この本を選んだ理由なんて何もない。ただ書店にあった適当な書籍がこれしかなかったからだ。1200円+TAXの割には薄く小さく情報もなんとなく他の書籍の流用っぽくチープな作りであったが、その薄さがタンクバックにツーリングマップルと一緒に携行するのには思いの外良かった。
また、今回は出来る限りテント泊で行こうと決め、パッキングはキャンプツーリング用のものにし、+αでドイターのバックパック、トランスアルパイン25を背負うことにした。タンクバック10リットル、リアバック45リットル、バックパック25リットル、計80リットル。
二週間ほどのキャンプツーリングならばこんなものだろう。
次に床屋に行って坊主にした。
行きつけの床屋の若大将は「え、本当に坊主にするんですか?」と、なかなか確り刈り込んでくれなかった。職場は長髪でもOKで、私も10代後半からずっと90年代の江口洋介のような長髪がトレードマークだった。故に若大将も何事かとなかなかハサミを使い難そうに何度も確認したのだろう。結局、希望する程の短さではないが、5mm程度の丸刈りにはしてくれた。
九州から四国へ渡るにはいくつかルートがあるが、今回は小倉⇔松山間を結ぶ関西汽船(2007年当時)に予約の電話をし、いよいよ出立の準備は整った。
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