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天網恢々プロジェクト・レビュー

クラシック音楽、ミステリ、時代小説、ノンフィクション・・・・好みのコンテンツ・レビュー

鑑定士と顔のない依頼人

2013年12月24日 10時07分21秒 | ネタバレ注意のミステリ

これは「スパイ大作戦」だ。いちおう悲劇だが、遊び心がいっぱい。主人公の名前が「童貞老人」だし。
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スマイリーと仲間たち

2012年07月08日 14時32分30秒 | ネタバレ注意のミステリ

「TTSS」「スクールボーイ閣下」に続くスマイリー三部作の最終篇。
前作で宿敵カーラに大打撃を与えたにもかかわらず、英国政府の権力闘争のおかげで再び引退状態となったスマイリーだが、ある時英国工作員であるエストニアの老亡命者が殺された事件の後始末を依頼される。彼は死の直前に、スマイリーに重要なメッセージを残していた。ほとんど単身で彼の足どりをたどるスマイリー。その姿に派手さはなく、ひたすら暗くて孤独でしかも心細い。

サラリーマン社会でたとえると、政争に距離を置いてきたため職を追われた実力派専門職のOB社員が、何の見返りも期待せず、己が信念と目的に向かって、黙々と会社のために(?)思索をめぐらし、執拗な行動を続けるようなものだ。そこにはサスペンスはさることながら、ヒロイズムは皆無で、ひたすらリアルで地味で、悲哀すら漂う。しかしなんとなくカッコよくて、英国的男の美学があって、あこがれを感じてしまうなあ。
聞けば1982年にBBCでTVドラマ化されており、スマイリー役は名優アレック・ギネス(オビ=ワン・ケノービ)とのこと。イメージぴったり! う~ん見てみたい。映画版ができるならでゲイリー・オールドマンにも期待したいな。

最後に気になるカーラの末路だが、本書の解説文(池澤夏樹氏)の一部引用で締めくくろう。
「カーラの無謬の職業的人格が身内がらみという大変に人間らしい弱点によって崩壊し・・・この巨人たちの確執の決着がつく」

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スクールボーイ閣下

2012年06月23日 14時09分50秒 | ネタバレ注意のミステリ

ジョン・ル・カレの「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」の続編。1985年刊のハードカバーをamazonで購入して読破。2段組五百ページ以上の大作だが全然長さを感じさせない、味わい深い最高峰のスパイ小説。
70年代後半、KGBカーラの策謀により壊滅的打撃を受けたMI6。その長官スマイリーによる反撃の物語。映画化するならタイトルは「サーカスの逆襲」かな。
スマイリーらがMI6の膨大な記録を分析したところ、パリから東南アジアへの極秘送金ルートを発見。そこでスマイリーは臨時工作員ウェスタビーを香港に派遣する。 
「カーラの資金を受け取る香港の大実業家ドレイク・コウ。彼の弟ネルソンは中国情報機関の中枢に送り込まれたカーラの二重スパイだった。そして今、ウェスタビーの調査でドレイクが重大な計画を企てていることが判明した。スマイリーは、それを利用して秘密作戦を開始する。が、ウェスタビーが指揮下を離れ、独自に行動していたとは知るよしもなかった・・・」
この程度までネタばらししたほうが理解しやすいかも。
当時の中ソ対立や第二次インドシナ戦争などの史実を背景に、香港やインドシナ半島の実態がリアルに描かれ、そこで活躍する登場人物のほとんどが「キャラが立って」いる。特に実質的な主人公ウェスタビーが、危険な探索行をすすめていくうちに自分自身をを追い詰めていく姿がとても哀しい。
また英国エスタブリッシュメントたちの保身とナアナアぶりや、盟友CIAのドライな粗雑さなどの舞台装置も前作と同様興味深い。間に立って困難かつ大胆な秘密作戦を完遂させるスマイリーの不言実行ぶりは前作以上に頼もしい。

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二流小説家

2012年02月25日 16時49分05秒 | ネタバレ注意のミステリ

売れない中年の二流作家が、連続殺人犯である死刑囚から自伝の執筆を依頼される。聞けば死刑囚はその作家の書いたポルノ小説のファンだと言う。

こりゃベストセラー間違いなしのいい話だと思ったが、それには交換条件があった。その死刑囚をカリスマと崇める女性ファンたちに直接接触して、それをネタにして新たなポルノ小説を書いてほしいというものだ。つまり手紙でしかやりとりできない彼女たちを素材にした、自分のためだけのオリジナル小説を、死刑執行まで読んで過ごしたいということらしい。

ところがその女性たちが次々に惨殺される。その手口はその死刑囚がやったとされる事件とまったく同じ方法だった。これは冤罪か?真犯人は他にいるのか?

これだけ書くと荒唐無稽のシリアルキラーものだし、じっさい真相についてもそんなに現実的ではない。しかしこの作品を楽しく一気に最後まで読ませる魅力の根源は、売れない作家としての生態描写が、アイロニーや楽屋落ちに満ちてじつに面白いことだ。まるでいっとき流行ったユーモアミステリみたい。翻訳もGoodです。

食うためにいろんなジャンルの小説を複数のペンネームで書いており、そのうち何篇かが突然、本筋とはほとんど関係なく、一部挿入されるのだがこれが結構読ませる。個人的にはヴァンパイアものよりSFが良かった。しかしこれだけ書けるのであればもっと売れてもいいのになあ・・・・。

「このミステリーがすごい!」、「週刊文春ミステリーベスト10」、「ミステリが読みたい!」の海外部門ランキングですべてベストワンの三冠達成! 

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背後の足音

2011年10月25日 20時20分41秒 | ネタバレ注意のミステリ


もはやスウェーデンミステリーの代表格とも言える「クルト・ヴァランダー」シリーズの第7作。それでも1997年作なので、とても新作とは言えない。現に、ANXミステリーでは英BBC版「刑事ヴァランダー」シリーズ第3話「友の足跡」(2008年製作)としてすでに放映済みである! 仕方がないので録画はしたものの、本作を読破するまで観ないでガマンしました。(結末はだいぶ違っておりましたが)
このシリーズは第5作「目くらましの道」で英国推理作家協会CWA賞ゴールド・ダガー賞を受賞して以来絶好調。いずれも連続殺人モノなのだが、それぞれがスウェーデン社会の病巣を背景としている。今回は同性愛とニート?
被害者は「楽しそうな若者たち」だが、彼らの失踪を単独で追跡していたらしいイースタ警察の同僚スヴェードベリ刑事も犠牲になってしまう。これまで主人公とともに活躍していたレギュラーが冒頭から殉職してしまうのだからかなりショッキングだ。まもなく五十歳をむかえるヴァランダーのくよくよ、イジイジはいつも以上。おまけにこれまでの不摂生がたたって糖尿病の症状が出てきて昏倒するありさま。みんなも気をつけてね~。
例によってヴァランダーのぼわっとしたインスピレーションは、読者に対するヒントとしてもなかなか面白い。親友でもあったスヴェードベリ刑事の私生活の秘密、被害者である若者の親たちとの関わり、自己顕示欲の強い検事との確執など主人公とともにいろいろストレスを感じますが、なんと言っても今回の犯人は格別に異常ですな。
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五番目の女

2010年11月10日 07時19分19秒 | ネタバレ注意のミステリ

翻訳の遅いスウェーデンの警察小説「クルト・ヴァランダー」シリーズの新作。「目くらましの道」に続く第6作だが、1996年作なので、既に14年の歳月が経過。
このシリーズで邦訳がまだ出ていないのはあと4作。そのうち1998年作の「ファイアウォール」と1999年作の「ピラミッド(邦題:苦い過去)」は、TVシリーズ「スウェーデン警察 クルト・ヴァランダー」(スウェーデン製作)で最近放映され、面白くてうかつにも最後まで見てしまった。数年後邦訳が出た時に読む楽しみを失ってしまった~。
主人公はスウェーデン南部イースタ警察のオッサン刑事。1992年作「リガの犬たち」で知り合ったラトヴィアの未亡人にしょっちゅう電話している寂しがりやの中年男。使命感も強く、集中力もあるのだが、捜査中もずっと自らの人生について、くよくよ、イジイジ。身につまされる~。
今回もまた連続殺人事件。被害者はアフリカで傭兵の経験がある。その殺し方がこれ見よがしで尋常ではなく、犯人(制服の女性?)の強い復讐心を感じとることができる。
例によってヴァランダーの捜査は、細い手がかりとぼわっとしたインスピレーションだけが頼りなのでなかなか進まない。不眠不休で、地道に、チームで行動するところはとても日本的。
本筋とはあまり関係ない過激な市民自警団のエピソードと犯人の動機とが重なり合うところは、スウェーデン社会の崩壊に対する警鐘とも取れなくはない。

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帝都衛星軌道

2008年08月11日 18時14分59秒 | ネタバレ注意のミステリ
 (講談社ノベルス シC- 24)
島田 荘司
講談社

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発端は中学生の誘拐事件。犯人は身代金を受け取るため母親に山手線に乗るように命じグルグル引き回す。身代金は15万円と安いし、連絡方法は今時珍しいトランシーバーだ。携帯電話と違って4~5キロしか電波が届かないので警察は前後の電車を含めて車両を徹底捜索するが容疑者は見つからない。そのうち子供は無事に帰ってきたものの今度は母親が離婚届を残して失踪する。どうも変だゾ。実はその背後には過去の陰惨な事件の存在があった。
これは実際に九州で起こった殺人事件をモデルにしている。間違いない。舞台を東京に移し、設定も若干変えてはいるが。著者の作品のなかでは「天に昇った男」「光る鶴」と同系統だ。従ってこれはミステリであることには間違いないが、冤罪告発、司法制度批判といったメッセージを強く含んでいる。
さらに本書の中央部分には著者のデビュー前の作品だという「ジャングルの虫たち」という中編が挟み込まれており、これがまた詐話師のテクニックを紹介しながら貧困問題を鋭く指摘している。
本編とこの中編を架け橋のようにつないでいるテーマが東京の地下施設の存在だ。東京の地下鉄はなぜ他の都市のように格子状に走っていないのか。それは中心に皇居があるのでそれを避けて通っているためだというが、実は本土決戦準備と大いに関係があり、真実は国民には何十年間も伏せられたままだ。
個人としての登場人物を見守る眼はあくまで温かく、権力による個人の迫害には厳しい島荘らしい作品のひとつと言えよう。

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死亡推定時刻

2008年02月04日 22時12分35秒 | ネタバレ注意のミステリ
死亡推定時刻 (光文社文庫)
朔立木
光文社

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政財界の有力者である建設会社社長の中学生の娘が誘拐される。警察主導による身代金の受け渡しは無残にも失敗し、少女は死体となって発見される。死体の第一 発見者で、被害者の財布から金を盗んだ青年が犯人として逮捕され、一審で死刑判決が出る。ここまでが前半。ポイントは、県警本部長がその社長と癒着している手前、どんなことがあっても死亡推定時刻は誘拐直後にしろと、部下にその改ざんを 指示していることだ。
実際の死亡時刻は身代金受け渡し直後であるし、青年はもちろん犯人ではない。また真犯人らしき人物が早い時期にちらりと登場する。従って読者は真実を把握している神の立場で、恐ろしい冤罪が生み出されていく過程をこと細かく読み進んでいくことになり、暗澹たる気持ちになってしまう。ここに登場する人権蹂躙刑事、無責任弁護士、官僚主義的裁判官のどれをとっても善玉皆無で、この絶望感はなかなかフツ~の小説では味わえない。ある意味ここはノンフィクション的で出色。
後半、控訴審に至ってようやくヒーローっぽい人権派弁護士が登場してリーガル・サスペンスらしくなる。ちょっと安心。あとは予想どおり死亡推定時刻の改ざんを鋭く指摘して、被害者の親である社長やその妻の内面にも鋭く切り込んで真相に迫り、あとはお決まりの無罪判決&真犯人逮捕で、気分よくハッピーエンドと思いきや、なんと控訴審判決は無期懲役(!)で小説もジ・エンド・・・・。
おいおい、後味悪い~。前半の恐怖が再びよみがえる。モデルは「狭山事件」か? 島田荘司「犬坊里美の冒険」と同様、冤罪をテーマにしていますが、作者が実際の法律家であるぶん、こっちのほうがリアルで怖いです。
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警官の血

2007年12月09日 09時41分06秒 | ネタバレ注意のミステリ
佐々木 譲
新潮社

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まず感じたのは、スチュアート・ウッズの傑作「警察署長」(1981年)に構成がそっくり! こちらはジョージア州の架空の田舎町における1920年代から60年代にわたる親子三代の保安官の物語。1985年にチャールトン・ヘストン主演でTVムービー化されている。タテ軸(背骨)に何十年も解決しない大きな謎があって、ヨコ軸にそれぞれの時代を反映したいろんな事件(アバラ骨)が発生するというパターンだ。
「警察の血」の主人公たちはみんな警視庁警官。初代は1948年、復員者大量採用の時代の一人で谷中の駐在所勤務。上野公園の男娼殺しなどの真相を追っていたが、1957年の谷中天王寺五重塔焼失事件(実際にあった)の日に謎の転落死を遂げる。
二代目がたいへんユニークだ。最も読み応えのある部分と言えよう。巡査拝命後、公安の対ソ連要員としての育成のため北海道大学に入学する。そこで図らずも赤軍派にスパイとして潜入することとなり、1969年の大菩薩峠事件(軍事訓練中の赤軍派潜伏先に警察が踏み込み、53人を逮捕した)の功労者となる。しかしPTSDによりDVするほど精神が病み、やはり父と同じ駐在所勤務を希望する。そこで父の死の真相に迫る直前、人質犯に射殺されてしまう(1993年)。
三代目は警視庁捜査四課勤務でありながら警視庁警務部(警察の中の警察)の手先としてある刑事をマーク(2001年)。ここは同じ作者の「笑う警官」のモデルとなった北海道警察の「稲葉事件」を連想させる悪徳刑事が登場。この刑事の部下として行動を共にする三代目の姿は、デンゼル・ワシントンの怪演が光る映画「トレーニング・デイ」(2001年)を彷彿とさせる。
ラストにやっと数十年前の事件の真相が明らかになるのだが、それに伴って初代、二代目が抱えていた秘密も明らかになっていく。それらはすべて「正義」というものの解釈に関して、警察組織と警官そして市民の三者の間にズレがあることに起因している。初代、二代目は根が生真面目な性格だったためにそうしたジレンマに押し潰されて非業の死を遂げることになるが、現代(2007年)の警視庁捜査二課のエースとなった三代目はちょっと違うようだゾ。
それぞれの時代を反映する虚実さまざまな事件をおりまぜながら展開していくストーリーはテンポよく、主人公たちのキャラクターも哀愁が漂い印象に残る。小さな伏線も数多く、組織と個人の対立という警察独特のテーマも健在で、これまでの作者の警察小説の集大成と言える。しかしここまでネタを出し尽くしてしまって次回作が心配になっちゃうなあ。
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このミステリーがすごい! 2008年版

2007年12月08日 16時56分04秒 | ネタバレ注意のミステリ

このミステリーがすごい!編集部
宝島社

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2008版「このミス」は20年目だそうだ。早いものですねぇ。20年前は何してたかなあ。
さて当ブログで紹介してきた作品は、2007年のミステリー&エンターテインメントランキングでは果たして何位だったでしょうか?

まず国内編
第1位「警官の血」180点、読了済ですがまだブログ化していません。ゴメン・・・。
第2位「赤朽葉家の伝説」179点
第19位「片眼の猿」37点
あと21位以下では、
青に候」25点、「吉原手引草」23点、「警察庁から来た男」16点
以上でした。上位2点を押さえたのでよしとしましょう。

海外編は、
第7位「狂人の部屋」70点
第9位「目くらましの道」68点
第11位「大鴉の啼く冬」65点
第15位「双生児」53点
21位以下では、
リヴァイアサン号殺人事件」29点、「アキレス将軍暗殺事件」18点
まあまあだな。

今後の予定ですが、海外編第3位「TOKYO YEAR ZERO」を購入済で現在とっかかり中です。

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大鴉の啼く冬

2007年09月01日 22時17分09秒 | ネタバレ注意のミステリ
 (創元推理文庫 M ク 13-1)
アン・クリーヴス,玉木 亨
東京創元社

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むかし実家でシェトランド・シープドッグを飼っていた。コリーをふたまわりほど小さくしたその犬の原産地は英国・シェトランド諸島。北海の北端、ノルウェー寄りのその島々は人口二万人と少し。「誰かに知られずにはおならもできない土地」だそうである。
舞台はこの島にある架空の集落。この横溝ミステリのような閉塞された空間で、1月5日の凍てつく夜、女子高生が絞殺される。容疑者は付近に住む知的障害のある老人。証拠はないがこの人物は8年前の幼女行方不明事件の容疑者でもあった。地元警察の警部が聞き込みをしていくと、地域に住むいくつかの家族が抱えるいろんな問題が浮かび上がる。また被害者の女子高生はドキュメンタリー映画の自主製作に執念を燃やしており、島内の風景や習俗、人間の生き様などをカメラで撮りに撮りまくっていた。しかしその映像データは何者かに持ち去られていた。そしてヴァイキングの火祭りの夜、三人目の少女の行方がわからなくなる・・・・。
この本の特徴は四人の登場人物によるそれぞれの視点からの記述で構成されていることだ。まず知的障害のある老人。数年前に母親が亡くなり一人暮らし。8年前の事件以来、近所から警戒されている。次に死体の発見者でもあるシングルマザー。以前、地元の金持ちの放蕩児と結婚したが程なく離婚。しばらくロンドンに住んでいたが最近また幼い娘と島に戻ってきた。三人目は被害者の親友の女子高生。教師の娘であるがゆえに永く「いじめ」を受けていた。そして探偵役の警部。出身はシェトランド諸島のなかでも更に遠い小さな島。祖先は漂流してきたスペイン人。離婚経験があり、人生にある種の諦観を抱いている。
これら「疎外された人々」によるこの閉塞空間を呪う愚痴が満ち満ちているために、全体的に凹みムードに支配されており、正直読むのがしんどい。結局犯人の動機もこの疎外感からの逃避というものであった。そうは言っても陳腐なトリックや安易なサイコパスキャラに頼らず、登場人物の性格やとりまく社会環境に事件の遠因を設定したという点では、たいへん真面目でリアルなミステリであるといえる。
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片眼の猿 One‐eyed monkeys

2007年07月20日 23時10分50秒 | ネタバレ注意のミステリ
道尾 秀介
新潮社

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ミステリは真犯人や動機やトリックは何かで読者を結末まで引っ張るのがほとんどだが、最近は読者のイマジネーションをわざとミスディレクションして最後に真実の姿を明らかにして驚かすという手品のような作品が増えてきた。最近文庫化されて再び話題になっている「葉桜の季節に君を想うということ」(このミス2004国内編第1位)などがその典型だ。いずれも映画「シックス・センス」(1999年)のようなファンタジーでなければほとんどは映像化は不可能だ。
さてこの「片眼の猿」もそうした作品の一つ。盗聴を得意とする私立探偵三梨(みなしと読みます:これが既に伏線)が、楽器メーカーによるデザイン盗用の調査を行ううちに殺人事件に遭遇する。
ミステリの素材としてはこの殺人事件の真犯人、偶然雇い入れた冬絵という女の謎、7年前まで一緒に暮らしていた秋絵の自殺の真相、大手悪徳探偵社の陰謀、主人公が住むアパートの住人たちの正体など盛りだくさんであり、なかなか波乱万丈だ。登場人物の特徴をトランプでシンボライズさせるなど、全編これ伏線だらけと言っても過言でない。
しかしケータイ小説という制約のせいか書き込みが不足しているために、「信用できない書き手」(主人公の一人称)という印象が最後まで払拭できず、どうも主人公に感情移入できない。ラストについても、様々な理由によってマイノリティとなった人々が差別や偏見を克服していくという重いテーマで締めくくられるのだが、当初からの胡散臭さが災いしてか、いまひとつ共鳴できない。惜しいね。
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赤朽葉家の伝説

2007年07月09日 21時42分35秒 | ネタバレ注意のミステリ

東京創元社

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鳥取県のある村に生きる人々の戦後の年代記(1953年~現在)。中身が濃厚で、しかも緻密に計算されつくした傑作だ。久々に一気読みしてしまった。
全3部に分かれ、現代に生きるニート娘赤朽葉瞳子による記述という形で、第1部は祖母の万葉(旧家の奥様)について、第2部は母親の毛鞠(レディース、漫画家)を中心にして語られる。瞳子は祖母に育てられたため、第1部と第2部の前半については万葉が語る昔話をそのまま書いたという設定にしている。従って第1部は「千里眼奥様」と呼ばれた万葉の幻視シーンがいっぱい登場するので、最初これはファンタジーかと思ってしまった。
しかし一方でそれぞれの時代を象徴する世相(高度成長、石油ショック、バブル崩壊など)や風俗などが数多くちりばめてあり、それが舞台となる製鉄会社の経営や地方都市の様相に大きな影響を与えたり、人々の生活を翻弄しているさまを描いているところから、これはやはり大河小説なのだろうと思い直した。
時代と人物が織りなす細かい事件・エピソードが次から次へと出てくる。それらがリアルで手際よく語られるので、話は決してだれることはない。そうした大小のエピソードが集積して旧家の興亡という大きな流れを作っている。登場人物の個性は極端に強いが、基本的に家族は互いをいたわりあい、概ねよくまとまっている。旧家モノによくありがちなドロドロした怨念や財産をめぐるいさかいなどは、皆無ではないがほとんど目立たない。
ところが第3部に入ってまもなく、突然ミステリの要素が浮上する。60年以上にわたる家族史だから、老衰、事故死、自殺などで10人ほどの死者が出てくるのだが、これまで淡々と語られてきたそのどれかが殺人事件である可能性が出てきたのだ。60年分の記述は長い前フリだったか? そしてこれまで幻視としてしか語られなかったひとつの真実が明らかになる・・・・・・。
しかしラストは、真相がわかったというカタルシスよりは、祖母や母の生き方と自分の生き方を対比し、未来に向かってがんばっていこうとする瞳子の成長した姿のほうが印象的であり、そういう意味ではさわやかなノスタルジックに満ちている。
というわけでこの作品は、新しい時代の、ジャンルを超えた、微妙にバランスのとれた良い作品だと思う。しかしいろんな読み方ができるので、「思い込み」によってどれかのジャンルに重きを置く読者は中途半端だと感じるかも知れないなあ。
なお作者も鳥取県出身の女性です。しかし今の若いコにとって昭和30年代はもう伝説の時代なのね・・・・・。
ちなみに第137回直木賞候補作だって。

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狂人の部屋

2007年07月07日 16時00分53秒 | ネタバレ注意のミステリ

                                           早川書房

                                 このアイテムの詳細を見る
フランス人作家の手による1930年代イギリスを舞台にしたかなり古風なミステリ。これでも1990年の作品だ。イギリス南部にある大富豪の古い邸宅。そこに住むこととなった当主ハリス夫妻、妻の両親と兄夫妻、ハリスの弟ブライアン。実はこの館では百年前に兄弟の大叔父にあたる人物が怪死しているのだ。この人物には予知能力があったらしい。以来、彼が使っていた部屋はずっとあかずの間となっていたが、ハリスは強引にこれを開けてしまう。弟ブライアンは不吉なことが起こると反対する。彼にも予知能力が備わっているようだ・・・。やがてある日、ハリスが書斎にしていた例の部屋から墜落死し、次いでその部屋をのぞきこんだ彼の妻もなぜか卒倒してしまう。更に1年ほどたって今度はその妻がやはりブライアンの占いどおり心臓麻痺で死亡し、ブライアンも失踪する。そして館の周辺では死んだはずのハリスの目撃情報が・・・・・。
いやぁ、怪奇ムードに満ちあふれているなあ。これら超常現象と見えるものが、最後に極めて科学的、論理的に解決されるところはミステリの古典であるディクスン・カーの作品を想起させる。
特徴としては登場する若い男女の恋愛関係が、まるで「男女7人夏物語」(古い!)みたいに複雑なことだ。ここでの嫉妬や不倫などの愛憎関係は、犯罪の動機とは直接関係しないが、真相を一段と分かりにくしている。また登場人物のなかに「真相に気づきながらもある事情によって告白できない」人物が一人いて、これが犯人や捜査陣とは別に勝手な行動をとるのだが、これもまた怪奇ムードを一層盛り上げる結果となっている。
ただこうした作品につきものの不自然な偶然の集積については、エピローグにおいて名探偵ツイスト博士が自らを嘲笑する場面があって、これは作者自身による自虐的なイイワケにも聞こえて面白い。
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リヴァイアサン号殺人事件

2007年07月05日 21時03分16秒 | ネタバレ注意のミステリ


岩波書店

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アキレス将軍暗殺事件」より前に書かれた「ファンドーリンの捜査ファイル」第三弾。19世紀末のロシアン・ミステリ。といっても今回はイギリスからインドへ向かう豪華客船が舞台なので登場人物も英・仏・印・日・露と多彩。アガサ・クリスティばりのグランド・ミステリだ。
パリの富豪宅で起こった帝銀事件を思わせる大量毒殺事件。事件の背景にはインドの「消えた秘宝」のありかを示すスカーフがあるらしい。手がかりは豪華客船リヴァイアサン号の乗船バッジ。これを持っていない乗客が容疑者だとばかりパリ市警の俗物刑事が船に乗り込む。そのバッジなし乗客5人(日本に向かう途中のファンドーリンを含む)に船医長や航海士らを加えた9人が主な登場人物だ。犯人は誰か? そして秘宝のありかは?
ユニークなのはそれぞれの登場人物からの視点での記述が行われていることだ。それは三人称であったり手紙であったり日記であったりする。従って探偵役のファンドーリンの行動や発言は常に客観的に描かれる。それによって登場人物の内面を掘り下げ、ひとつの事象を複眼的に見られるという効果がある。文学的に高度なテクニックだ。しかしそれがかえって本筋とは直接関係ないエピソード(登場人物が抱える秘密など)を必要以上に際立たせることとなり、真相を早く知りたい読み手にはやや歯がゆいかも。
文章はユーモアとアイロニーに富んで魅力的だし、容疑者が次々に入れ替わるなど展開は意外だしどんでん返しもきちんとしている。しかし前半の途中で大量毒殺事件の背後にいる女詐欺師の存在が説明され、その恐るべき生い立ちが特に丁寧に語られるが、その時点で気の早い読者(ワタシのような)は犯人に目星をつけることができるだろう。また犯人は根っからの犯罪者のようだし、動機も単純なもので、結末に余韻や深みがない。
それにヨーロッパ人による日本人の描き方(カラテ、ハラキリ、恥の文化など)は、例によって類型的で鼻白む。

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