F & F嫁の “FFree World”

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谷桃子バレエ団 「 ラ・バヤデール 」

2011年02月09日 | Ballet

F log







日曜日、F 嫁と東京文化会館に 谷桃子バレエ団 新春公演 「 ラ・バヤデール 」 を観に行った。

F だけ早く出発し、バレエ鑑賞の前に国立科学博物館で開催されている 「 空と宇宙博 」 を見たのだがそれはまた別の機会に。

開場時間少し前にやって来た F 嫁と合流してホールに入る。








座席は最前列上手側。

バヤを観るのにわざわざ一番前を取るヤツも珍しい。

「 影の王国 」 における一糸乱れぬコール・ドは、ある程度離れて全体を愛でるものだから。

とはいえ初めて観る有名な背景画をじっくり見たかったという理由が勝った。

オーチャードとは違い、最前列でもキッチリポワントの先まで見えるのはさすがに東京文化会館である。







GXR / GR LENS A12 28mm F2.5






谷桃子バレエ団の 「 ラ・バヤデール 」 は再演出、再振付ということで明示されていないが、メッセレル版を下敷きにしている。

特徴は第 1 幕の寺院前~宮殿~寺院内、第 2 幕の婚約式までを一気に見せることだ。

間に休憩をはさんで第 3 幕の影の王国でフィナーレとなる。

結婚式~寺院崩壊が省略されているのはパリオペと一緒かな。

前半はさすがにヴォリュームがあり長いが、演出が巧みでスピーディーなため退屈さはない。




全体的な印象は、端正でとても真面目なバレエだったということ。

演出も曖昧なところはないし、マイムもきっちりと語る。 

ただこのあたりはマイムは不必要と考える方も多く難しいところ。

個人的には雄弁なマイムは好きなのであるが。




ソロル の齊藤拓さんは上背こそ高くないものの、脚のラインがキレイで踊りもパワフル。

ニキヤ の永橋あゆみさんは楚々とした雰囲気のダンサーでニキアはよく似合う。

最前列でよく見えたが、顔の小ささは半端じゃない。

個人的にはもう少しだけメイクが薄い方が・・と思うが、後列からはそれでよいのかもしれない。




配役で印象的だったのは 大僧正バラモン の赤城圭さん。

2006 年以来、今回を含め 4 回の上演ですべてバラモンを演じている赤城さんの演技は確か。

権力ある壮年の男が醸す禍々しい情念。

ニキアを抱き寄せる物理的な手だけでなく、僧服を通してなお発散するイヤらしさを強烈に発している。

であればこそニキヤの拒絶ポーズも生きるし、後刻自分の注進がニキヤ暗殺計画に様変わりしたときの慌てようも説得力がある。

バラモンが若すぎたり、演技が薄かったりすると 「 寺院前 」 は映えない。

マイベストバラモンはサー・アンソニー・ダウエルだったが、赤城バラモンもかなり気に入った。

先月より谷桃子バレエ団の団長に就任されたそうで、後進の指導とともに今後の舞台活動にも期待が持てる。





領主ドゥグマンタの宮殿にて登場するもう一人の主役、ガムザッティ については残念ながらあまり好みではなかった。

ガムザッティという役に関しては、こんな記事を書くくらい たいへんな思い入れがある。

バヤがニキヤ、ソロル、ガムザッティの三角関係の話とするなら、主役のひとりと言ってもよいと思う。

F がガムザッティに求める要件のひとつは輝かしさ。

支配者の娘としてなに不自由なく育ってきた天真爛漫さと、登場しないがおそらく美女なのであろう母親譲りの美貌。

イタリアンフェッテとともにキラキラと周囲に飛び散るほどの幸福に包まれている生まれついての上流階級。

神に仕えるストイックなニキヤとの好対照が見物なのである。

ガムザッティの朝枝めぐみさんは技量を備えた素晴らしいダンサーだと思うが、ガムザッティとしての輝きがもう少し欲しかったと感じた。

緊張からなのか頻回に唇を湿らす所作も気になった。

もともとニキヤも踊れるダンサーであり、こんな素人の批評は不本意かもしれないが。





バラモンと父親であるドゥグマンタとの会話を盗み聞きしたガムザッティは、お付きの女性に命じてニキヤを呼び寄せる。

ここでのふたりの対決は 「 ラ・バヤデール 」 のキモであると、ガムザッティマニアの F は決めつけている。

メッセレル版を現芸術監督の望月則彦さんが行った再演出では、ガムザッティがニキヤを肖像画の前に押し出す以前に

「 今度婚約することになった 」 と伝えるマイムがある。

ニキヤは笑顔でお祝いを述べ、ガムザッティが 「 ついては婚約式で踊ってくれないか ? 」 と依頼しニキヤが快諾するシーンが挟まれる。

ニキヤが婚約式で踊ることになった経緯を示しているのだ。 端正と評した新演出の中でも象徴的に丁寧な場面だ。

この合意があったればこそ、その後の劇的に変化する音楽とともにふたりの対立軸が明確になっていく。




ただ、前半のマイムで時間が取られたのか、後半の対決シーンはあっさりでいまひとつ物足りなかった。

まぁ脳裏に焼きくこのシーンのデフォが、エリザベット・プラテルのガムザッティ/イザベル・ゲランのニキヤなのでいたし方なし。

このふたりが演じる対立は音楽 ( と完璧にシンクロする演技 ) 的に最高だからね。

果物ナイフでガムザッティに襲いかかったニキヤが我に返ってたじろぐと同時に、悲鳴を上げてうずくまったがこちらも我に返り

自分の威光を思い出したガムザッティが睨みつける場面は欲しかった。

ナイフを取り落としてすぐに逃走では決定的に対立することになったふたりの視線が交差しないままだ。

音楽の長さは決まっているので、前半からの工夫がもう少しだけ欲しい。

とはいえこの対決シーンはたいへん印象に残った。





逃走後のニキヤが描かれるのもこの演出の妙味。

寺院に駆け戻ったニキヤは、黄金の像にすがりついて悲しみと後悔ををぶちまける。

ニキヤの亡霊が舞う結婚式で意味不明に踊ることが多かったブロンズアイドルは、傷心のニキヤを慰め勇気づけるという

大事な役割を担うのだ。

これもこの演出に説得力があるところ。

黄金の像を踊った山科諒馬さんは、高さのある跳躍、安定した回転が印象的。

像が鎮座する台が高いので、飛び降りる瞬間と終わりに再び座るときは観ている方が緊張したが。











GXR / GR LENS A12 50mm F2.5 MACRO








場面はそのまま第 2 幕の婚約式へと移行する。






毎回 「 ラ・バヤデール 」 を観るたびそうなのだが、お祝いの踊りもそこそこに玉座の人間関係から目が離せない。

今回は上手側に左からドゥグマンタ、ガムザッティ、ソロルと並んで座っていた。

バラモンは下手にひとりで座っている。

要するに舞台の端と端にいるふたりの男の視線が中央のニキヤで交錯するようになっているのだ。

なるほど巧み。




ニキヤの悲壮な舞の最中、この場でニキヤが命を落とすこと以外すべて知っているガムザッティの表情が痛々しい。

ドゥグマンタは玉座から舞台中心後方までゆっくりと移動し、花かごに毒蛇を仕込むようガムザッティの召使に命じる。

同時に下手ではバラモンが苦行僧に命じて解毒剤を持ってこさせる。

花かごを受け取り一瞬の幸せの中、激しく踊るニキヤのかごから蛇の頭がチラッと飛び出してしまっのはご愛嬌。

これは前列でなければ気づかなかったようだ。




ニキヤが毒蛇に噛まれて倒れると思わず駆け寄りそうになるソロルの腕をガムザッティがつかむ。

プログラムのあらすじには、ドゥグマンタとガムザッティは計略の成功に満足する…とあったが、

この演出でのガムザッティは知っていたのだろうか。

ニキヤの 「 毒蛇を忍ばせたのは貴女ね!! 」 のアクションがあまりに大きかったので、うっかりガムザッティの反応を見逃した。

もっともそのときガムザッティは観客に半ば背を向けていたので表情まではうかがい知れなかったかもしれない。














GXR / GR LENS A12 50mm F2.5 MACRO


前日が F 嫁の誕生日ということもあり、幕間にシャンパンで乾杯。

50mm F2.5 の開放でロビー天井照明の丸ボケ。












第 3 幕はニキヤの死に打ちひしがれたソロルが自室で阿片に逃避する場面。

そこから影の王国へとつながりそのまま終幕となる。

楽しみにしていた妹尾河童氏の背景画は、緞帳が開いた時点からそこに存在していた。

最初は照明が抑制されており、モノクロまではいかないが色調が抑え気味である。

比較的広い踊り場を備えた三段のスロープ。

そこを 32 人のバヤデール達がゆっくりと下ってくる。

ここは 「 ラ・バヤデール 」 を象徴する白いバレエの名シーンであり、谷桃子バレエ団の演出においてはクライマックスでもある。





2006 年に観たボリショイの公演 では 32 人が揃ったところで鳥肌が立ったものだが、今回はそこまで集中できなかった。

というのも統一された動きの内、アラベスク~パンシェに時間をかけすぎ ( が原因かどうかは素人故わからないが ) で、

次のポワントタンデュでアンオーするポーズへの移動過程が速すぎるような気がしたのだ。

スロープが急だからだろうか。

ここは音楽も素晴らしいので、アームスはできるだけ優美な動きをして欲しいのだが。

あくまで一バレエファンの個人的な感想なので、技術的、経験的な裏付けは皆無で的外れな批判かもしれない。

土曜日マチソワで翌日曜日に 3 回目となる公演で、全員かなり疲れていたのは確かだろう。





気づくと抑えられていた照明が徐々に、本当に少しづつ明るさを増してきていた。

それと同時に色調も明確になってきた。

この照明は本当に巧い。

ニキヤの持つヴェールを追ってスロープを昇るソロル。

この時点で自室にあるのはすでに亡骸なのであろう。

死者の列であるバヤデールを追ってニキヤのいる世界に旅立つソロル。













最後の最後、このポーズで終幕となる。

なるほど、これを一幅の絵として魅せようという演出なのだと実感する。

舞台美術がこれほどダンサー ( 静止画的だが ) と一体になったのは初めてかもしれない。

本当に美しいシーンだ。




そして死後もニキヤとソロルの距離は縮まっておらず、ニキヤが最終的にソロルを許したのかどうかも不明なままだ。

ただヴェールを掲げるニキヤとその終端を持つソロルが、降り注ぐ光とともに昇天するというイメージは充分だ。

これは余韻を楽しむ終わり方だろう。

いままで結婚式~寺院崩壊のない演出は物足りないと思っていたが、谷桃子バレエ団の舞台、演出はたいへん気に入った。




代表者である往年のバレリーナの名を冠したバレエ団を観るのは、小林紀子バレエシアター についで 2 団目である。

両団ともそれぞれ特徴的だが、谷桃子バレエ団の王道を行きながら細かな改訂を怠らない姿勢は好ましい。

各種のソロ、コール・ドも含めダンサーの層も厚そうだし、壺の踊りで登場したスクールの子供たちも上手かった。

機会があったら別のプロダクションも観たいと思わせたカンパニーの公演だった。




























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4 コメント

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長年の母さん、こんばんは!! (F)
2011-02-10 21:07:26
コメントありがとうございます。
まぁプラテル/ゲランといっても映像なんですけれど…
上手いカメラアングルもあり、とても劇的に感じました。
(おかしなカメラワークには殺意さえ覚えます)

今回はプロダクションについて多くを割いてしまいましたが、
カンパニーの個々のダンサーも好印象でした。
大きな団と比べて資金的にも苦しいところもあるかもしれませんが、
歴史あるバレエ団として今後も頑張ってもらいたいです。
また別の演目も観たいと思っています。

返信する
Aさん、こんばんは!! (F)
2011-02-10 21:02:00
懐かしいですね、2006年のボリショイ。
谷さんとこのバヤデールは初めて観ましたがプロダクションとしてとても気に入りました。
カンパニーの情熱を感じられる舞台でした。
他の演目も観たくなりましたね。

Aさんもガムザッティ好きとは心強い。
またどこかのバヤでご一緒して幕間、幕後に解釈をぶつけ合いましょう(笑

返信する
RE:バヤデール+ (長年の母)
2011-02-09 20:37:44
うーん、プラテルとゲランを観てしまっていると
ですが、谷も男性陣に充実があり楽しみになって
きますね。
背景の荘厳さは、前回にかなり感動しました。
進歩は、ダンスだけではなく、新人たちの足先にも
見られると思いますよね。

音楽との協調性、親和性など、ますます大きな課題と
希望を持って、拍手側に座りたいと。
返信する
絵のように (A)
2011-02-09 11:37:21
Fさんこんにちは。

谷のバヤデールは前回(2-3年前だったかと)観に行ったときに、気に入った演目でした。
知り合いの団員に「背景が凄く綺麗で...」とあまりバレエらしくない謳い文句で誘われたのですが、実際に観てみて納得でした。

あのラストシーンは、アシュトンのシンデレラと同じぐらい気に入っています。アシュトンのシンデレラは、主役が観客に背を向けてポーズをとるラストシーンに、二人の幸せそうな未来を想像せずにはいられませんが、谷のバヤデールは、天上から射し込む光へ向くニキヤとソロルのポーズが、Fさんが仰るとおり、ソロルの昇天を暗示させつつもニキヤがソロルを許したのかどうかの結論はわからず、観る側は想像するしかありません。その余韻が、妹尾氏の背景をしょったこのシーンの絵のような美しさの中に込められていて、グランドバレエのラストシーンに相応しい演出でした。

バヤデールは大好きな作品で、どちらかというとニキヤよりガムザッティを重要視している私です。(ちなみにロメジュリならマキューシオとティボルトです)Fさんのレポ、頷きながら一気に読んでしまいました。そしてコメントがこんなに長くなっちゃいました。

いつか、ご一緒に「バヤデール」しましょう!
返信する

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