F & F嫁の “FFree World”

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ガムザッティの恋

2008年01月11日 | Ballet

F log

今シーズン2日だけのマールイ(レニングラード国立バレエ)「バヤデルカ」初日を観てきた。
再確認したのは「バヤデルカ」という演目はやはりおもしろい。


愛と葛藤、華やかであり劇的。ソロと群舞のバランス。音楽。
いずれも飽きさせない。やはりバレエに関してはガチガチの保守本流だな


さてマリインスキーからアナスタシア・コレゴワ&イーゴリ・コールプのペアをゲストに迎えた今回。
yolさん主催「コールプ祭り」 初日でもあるが、詳細かつ包括的なレポは他におまかせして
2時間以上の舞台における局所的に偏った話をしてみたい。




      「エフセーエワ・フェスティバル」 の開催である。




1/4の新春特別バレエ のエレーナ・エフセーエワに感激し、ぜひもう一度観たいと思っていた。
近年、彼女の充実ぶりは各所で語られているが、実際に全幕の役つきで観るのは初めて。


まず「バヤデルカ」だが、以前にも書いたように ガムザッティ という役が大好きなのだ。


大金持ちである藩主のお嬢さま。いってみればお姫さまだな、純正の。
ヒロインであるニキヤと鮮烈な対比。
ここが弱いと「バヤデルカ」は締まらない。
東西そろってこその横綱である・・・とは言い過ぎだろうか。


それなりに美しく、プライドは天を突くほど高い。
清貧の美とは真逆の、こってり金と時間を費やした美しさ。
もちろん自由な恋愛などはしたことがなく天真爛漫だった・・・この日までは。


そんなガムザッティ像をエレーナ・エフセーエワは見事な踊りと演技で造ってみせた。







初登場は第1幕、藩主ドゥグマンタの宮殿。
ドゥグマンタが勇猛な戦士として名高いソロルを館に招く。
愛娘であるガムザッティの結婚相手としてだ。


下手からエフセーエワ@ガムザッティが登場するとパッと舞台が明るくなる。
赤毛に近い金髪の巻き毛のせいだけではない。彼女には独特の華があるように思う。


ウエストまる出しの衣装が多い「バヤデルカ」。
低いヒールつきのバレエシューズで登場したエフセーエワはすごく絞れている。
帰宅後、2002年の「バレエの美神」公演を見直したのだが、やはり着ぐるみを纏っていたようだ。


父親から結婚相手を告げられてはにかみ、ベールを被って登場したガムザッティ。
サッとベールが外されソロルを見た瞬間・・・ガムザッティも恋をしたのだ。


であるならば、父親と大僧正がソロルの「恋人」について話しているのを立ち聞きしたときの
衝撃も倍化されよう。
ソロルの肖像画を見ながら悲嘆に暮れることになる。
もうこのあたりからエフセーエワにフォーカスした双眼鏡から目が離せなくなる。


召使がやってくると悲しんでいた顔はスッと高貴な表情に戻る。
彼女に命じてバヤデルカ(神に仕える舞姫)であるニキヤを館につれて来させる。
ほんの短い時間であるが、ニキヤを待つ間ひとりになったガムザッティの表情が見事。
暗黒の不安がその眉根から読み取れる。


座っている椅子の横にニキヤが傅くと、ゆっくりと振り向きアゴに手をあてニキヤの顔を上げさせる。
ここで初めて両雄(笑)の目が合うわけだが、目を見つめたまま(ニキヤの美しさに)ハッとした
ボリショイのアレクサンドロワに対し、エフセーエワはスッと目を逸らした。


これは両者におけるガムザッティの造形にも関わってくるように思う。
アレクサンドロワのガムザッティは、お嬢様ではあるがある程度自己を持っていて父の権力にも敏感。
対してエフセーエワは本当に庇護されてきた箱入りのお姫様。
ソロルに恋したことで様々な感情が吹き出てきた。・・・・・まぁ素人の勝手な解釈であるが。


いずれにしてもここで潰しておかなくてはと決意したガムザッティは、壁にかけられた
ソロルの肖像画にニキヤを導いた後、私は彼の婚約者であると高らかに宣言する。
この第2場のクライマックスであるニキヤとガムザッティの対峙(対決とは呼びたくない)は、
数多い見せ場で知られる「バヤデルカ」の中で、F が最も楽しみにしているもの。


ガムザッティは周囲の宮殿と自身の高価な身なりを指し、私こそがソロル様にふさわしいと誇示。
ニキヤに対しては「おまえは神に仕える身であろう」と攻め立てる。


ニキヤはたじろぐも、私たちは聖なる炎の前で誓い合った仲であると抗弁する。
ガムザッティはプライドもなにも捨て、身に着けた宝飾品をニキヤに差出し懇願する。
ここでのエフセーエワの演技は本当に見事。
なにしろ中年オジが感情移入してしまうのだから(爆)
そのオジの筆がその演技のクオリティーに追いつかないのが悔しい。


表情が刻々と変り、怒ったかと思うと情けない顔でニキヤにすがりつく。
何度も転がされお嬢のプライドはズタズタに。
終いにはブチ切れ、自身のネックレスを引きちぎり「これが最後よ」とばかりニキヤに迫る。


ソロルと別れるくらいなら死んだほうがましと考えるニキヤはとうとう精神的に追い詰められ、
テーブルの上の短剣を手に取る。
ガムザッティに刃を振り上げるも召使に阻止され我に返る。


ニキヤが走り去った後、ゆっくりと舞台中央に歩んだガムザッティの顔は怒りで蒼白である。
それはそうだろう。
たった今まで自分に表立って逆らった人間はいなかった。
刃物で襲われ、ましてや色恋沙汰であるなら渦巻いた感情が右手に宿るのもしかたあるまい。


トップ写真に戻ってご覧いただきたい。


第1幕の最後だが、怒りに震えたガムザッティが右手を力強く握って下に降ろす。
バレエのマイムでいうところの「殺してやる!!」である。


前述のアレクサンドロワ@ボリショイは、双眼鏡で腕と顔がプルプルと小刻みに震えているのが見え、
衝撃を受けた。本当にものすごい力が入っていたのだ。
エフセーエワはそこまでいかずとも、充分に怒りが伝わってくる。


ただ惜しいのは最後に幕が降りてきた瞬間、音楽に合せクッと顔を上げて見栄を切ってしまったことだ。
そこは真正面を見据えたままでいて欲しかった。
最後の最後で演技が見えたしまったのは、ここまでが本当に良かっただけに残念。


とはいえガムザ・マニアの F は大満足。
劇的な音楽、丁々発止のやり取り。本当に「バヤデルカ」は芸達者にかかるとおもしろい。
これは第2幕の宮殿庭での婚約式も相当に楽しみなのである。





おっと、気づけばまたこんなに長文に。ま、いいか。フェスティバルだし






そんなこんなで第2幕。
宮殿の庭で賑々しく催されるガムザッティとソロルの婚約式。
クラシックチュチュで登場のエフセーエワはめちゃ綺麗である。
金の縫取りがある白のチュチュが良く似合う。
第1幕で伸ばしてあった巻き髪は外されており、キラキラ輝くティアラとともに踊る気満々。


上手側に用意された3つの椅子に座ったドゥグマンタとガムザッティ、そしてソロル。
奉公人としては仕方ないこととはいえ、ソロルの悩みっぷりには同情を禁じ得ない。
ガムザッティが視線を投げるたびに、オドオド、ソワソワ。


舞台ではお祝いの舞が繰り広げられており、それぞれ見応えがあるのだが双眼鏡が3人から離せない。


ここでのコチュビラ、コシェレワ、ミリツェワら、ソリストクラスを加えたグラン・パはお見事。
いかにも祝典的な音楽の中、晴れ舞台のガムザッティが踊りを支配する。
見もののイタリアンフェッテも素晴らしかった。
アチチュードの両手はアン・オーだったね。


エフセーエワの身体からキラキラしたオーラがあふれて会場に広がる。
グラン・パのダンサーを周囲に従えて大団円を迎えたとき、おもいっきり 「ブラヴォー!!!!!」
叫んでしまったのも無理からぬ事といえよう







華やかなガムザッティたちの舞を見てもソロルの気が晴れるわけはなく、あいかわらず
あさっての方を向いて考え込んでいる。


それは肝心のニキヤ悲しみの舞でも同様だった。
いや直視できない、と言ったほうが正確か。


ここでドゥグマンタがガムザッティに耳打ちする。
エッ? というガムザッティの表情。
一瞬ソロルに視線が流れる。
しかしすぐに自分の怒りを思い出す。
「止めて・・・」とは言わない。
ここはほんの一瞬だが、センターよりふたりを見てほしかった。


ニキヤ毒殺の主犯は誰か、ということについては様々な解釈があると思う。
もっとも容疑者はふたりしかいないわけだが・・・


ドゥグマンタは大僧正からソロルの想い人について密告されて激怒した。
しかし愛娘ガムザッティを思い、密かにニキヤの抹殺を決意した。


実行直前に娘に打ち明けた心境はなんだろう。
おまえの為なんだ、という偽善か。


計画を知ってからのエフセーエワの表情がこれまた見事。
人を殺めるということに抵抗を感じつつ、これでソロルがこちらを向いてくれるというように
期待せずにはいられない複雑な演技。
ああ、これまた伝えきれないのが悔し過ぎる。


団や個人の解釈によっては、ガムザッティが主導して殺害にまでいたる場合もあるが、
エフセーエワの場合、最後の部分で悪人になりきれない可愛さが残っているように思う。
よって F はそういう印象を持った。


ニキアが倒れると思わず駆け寄ろうとするソロル。
その動作を見つめるガムザッティの瞳が悲しい。


ニキアが解毒を拒んで息絶えると、ガムザッティはドゥグマンタの胸に顔をうずめるように立ち去る。
己が招いた惨劇を見たくないかのように。






エフセーエワのガムザッティ。
彼女自身が楽しみつつ、自信を持って演技しているのが素晴らしい。
この駄文ではその魅力の一端すら伝えられないが、機会があったらぜひご覧いただきたい。
ソロルに恋した(精神的に)幼いともいえる少女の葛藤と逡巡が観るものの心に染みるから。







「コールプ祭り」共催と謳っていながら、肝心のコールプ様についてほとんど言及せず、
yol様の腕がピクピクしながら下で握られないか心配である。


1/26「ドン・キホーテ」のチケットを確保できたので、次回コレゴワも含めて触れさせていただきたい。
「コールプ祭り」の千秋楽。
自身初役というバジル。
ニキヤよりコレゴワ向きのように思うキトリ。
さぞかし弾けた舞台になるだろう。
楽しみである。







調子に乗って少々書き過ぎた。

この場面に興味を持たれた方は以下の You Tube をご覧いただきたい。
パリオペラ座とボリショイという素晴らしいカンパニーによる白熱のシーンである。
どちらも3分少々。出演の4名は時代こそ違えど超一流。お楽しみあれ!!




Nikiya & Gamzatti



Isabelle Guérin (Nikiya) Elizabeth Platel (Gamzatti)





Alexandrova vs Lopatkina - Gamzatti vs Nikiya




Uliana Lopatkina (Nikiya) Maria Alexandrova (Gamzatti)





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11 コメント

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フェスタもあったのか、、、 (yol)
2008-01-13 00:43:38
そんなフェスタもあったのですね(笑)。
これをネタに、私も新たに一本レポを追加しておきました。

しかしそれにしてもFセーエワの成長は恐るべし、と言ったところでしょうか?

正直、他のダンサー達が伸び悩んでいるように感じている私としては、是非この三人目のFさんがこの先先頭に立って、ぐいぐいと若手を引っ張っていって欲しいとも思いますね。

ガムザッティの嫉妬の炎メラメラ光線は怖かったですね~。
静かに「ぶっ殺します」という雰囲気が伝わって来ると同時に、彼女もやはり歪なやり方ではあるのだけれど、ソロルのことを愛しているのね、、、、と同情してしまいました。

そう言えば、私も「コールプ祭り」共催と謳っていながら、肝心のコールプ様についてほとんど言及されていない、Fさんのレポに、思わず、、、
ということは全くありませんのでご心配なく。

ドンQでお会いした時に、ガムザッティのような微笑でご挨拶させていただくことにします、ふふふ。
返信する
エフセーエワのガムザッティ (naomi)
2008-01-13 00:53:51
Fさん、こんばんは。「バヤデルカ」ではお目にかかれて嬉しかったです。本当に素敵なご夫婦ですね!
26日にも行かれるとのことで、そのときにもまた。

エフセーエワのガムザッティは去年のバヤデルカでも観たのですが(そのときはニキヤはシェスタコワ)、一段と進化したような気がします。去年は、もう少しお嬢様のワガママというところが強かったのですが、今回はより女の強さや一途さを感じました。それにしても、衣装が良く似合うこと!色白にオレンジっぽい髪、青い目と本当に可愛いんですよね。

「ドン・キホーテ」では森の女王を踊るみたいなのでそれも楽しみです。

私は金曜日も見たのですが、ステパノワのガムザッティはアレクサンドロワタイプでしたね。
返信する
ひっそり開催 (F)
2008-01-13 18:00:31
yolさん、こんばんわ。

「コールプ祭り」本筋のレポを拝見しました。
偏りバンザイ ってなもんで、実に素晴らしい。
今後も見事に偏向したレポを心がけたいと思います。
そちらにも後ほどお邪魔いたします。

Fセーエワ(←爆笑)の存在感は凄いですね。
身体が小さいので余計にそれが目立ちます。
ステパノワとの比較は贅沢な楽しみ方ですね。
彼女の舞台をもっともっと観たくなりましたよ。
26日は森の女王、期待してるんですけどねぇ

こうしてどんどん成長する姿を見続けられるのは幸せです。
ますますマールイを応援したくなります。
最終日のドンQは場も暖まっているでしょうから、コレゴワ、コールプともに思いっきり弾けて欲しいです。



>ガムザッティのような微笑でご挨拶させていただくことにします、ふふふ。

もちろんコールプ様のマネをして目を泳がせていただきます





返信する
ご挨拶 (F)
2008-01-13 18:13:39
naomiさん、こんばんわ。

先日の会場ではお会いしてご挨拶も出来てよかったです。
わざわざこちらの席までお運びいただきありがとうございました。
今後も夫婦ともどもよろしくお願い申し上げます

各方面からもれ聞こえる感想でも、ニキヤはシェスタコワでエフセーエワのガムザと観たかったという声が多かったです。
来年またバヤを持ってきてくれることを期待します。
自前のソロルをなんとかして欲しいですが、もちろんコールプの再度ゲストも大歓迎です。
26日は森の女王を期待しているのですがどうでしょう。

仰るとおりステパノワには以前からアレクサンドロワと似た雰囲気を感じていました。
両者とも強靭なテクニックをお持ちですよね。
グラチョーワとのコンビでボリショイのバヤを観たので、彼女のガムザッティは大好きでした。
私も金曜日行きたかったです~


では26日の祭り千秋楽でまたお会いしましょう。
返信する
まもなくドンQ (yol)
2008-01-23 06:43:05
終演後、特に急ぎの用事がなければ軽くお食事でもしませんか?
返信する
あ、、、 (yol)
2008-01-23 06:44:23
26日(土)のことです(失礼)
返信する
ぜひぜひ (F)
2008-01-23 08:10:35
yolさん、おはようございます。

相変わらずgooはコメントのリカバリーができなくて申し訳ありません。

26日は大丈夫です。ぜひご一緒しましょう!!
F 嫁ともども楽しみにしています。
返信する
では、、、 (yol)
2008-01-23 18:50:54
神楽坂は不便ですか?
返信する
チャット状態 (F&F嫁)
2008-01-23 20:57:37

江戸市中どちらでも行きまっせ

お手数かけてすみません!!

返信する
そう。 (yol)
2008-01-24 00:07:06
パブリックなチャットです(笑)。

では当日!
返信する

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