F log
ここに一冊の古い文庫本があります。
茶色く変色してる上、あちこちボロボロです。
「 The Eagie Has Landed 」 Jack Higgins
1975年に刊行(日本での翻訳は1981年)された作家ジャック・ヒギンズによる冒険小説で
世界36カ国で翻訳され、1,500万部以上の売上げを記録しています。
十代でこの本を手に入れてから20年以上、何百回読んだかわかりません。
最高傑作です。現在に至るまでさまざまな書籍を読了しましたが、これに優る小説には
出会えませんでした。将来に至るまでないかもしれません。
小説を読んで初めて涙したのもこの作品です。
無人島への一冊には、いささかの躊躇なくこれを選択します。
作家本人が登場するプロローグからしてわくわくします。
再び本人が現れ、驚愕の事実が明らかになるエピローグも深い余韻を残します。
なにが良いって、とにかく脇役も含めて登場人物が魅力的。
クルト・シュタイナ中佐 ドイツ空軍降下猟兵部隊指揮官
リーアム・デヴリン IRA兵士
マックス・ラードル中佐 アプヴェール(軍情報部)Z部第3課課長
戦争、特に第二次大戦物では、ドイツ兵は悪役、敵役(それも無能な)として描写される
場合がほとんどですが、シュタイナやラードルはそういうパタナイズされた人物像には
当てはまりません。
否応なく運命に巻き込まれる中にあって、男の美学が言動の端々に表れています。
(以下水色は本文より一部省略して引用)
「われわれはイギリス海岸の人気のない地域に夜間降下する。
万事計画どおりに 運べば、翌日の夜、回収される」
「それで、計画どおりにいかなかったら?」 ノイマンがきいた。
「当然、死ぬ、だからべつに心配しなくてもいい」
しびれますね~。もひとついってみましょう。
「~彼と部下たちはすでに帰途についているかもしれない」
「いや」シュタイナがいった。「おれはそうは思わない。ケーニヒは必ずくる。
たとえきみから連絡がなくても、彼は必ずあの浜へやってくる」
「どうして、そんなことをするのだ?」
「彼は、くる、とおれにいったのだ」 シュタイナはこともなげにいった。
男はかくありたい、という見本のような人物です、シュタイナは。
ラードルは事件の発端にユングを引用します。
「ユングは彼のいう同時性(シンクロニシティ)について述べている。いろいろな
出来事の発生が、偶然に時間的に一致することがあって、そのために、
より深遠な誘因が介在しているのではないか、と感じる」
最近某blogでシンクロニシティが話題になっておりましたが・・・
人生を斜に構えている皮肉屋だが、一本筋の通ったデヴリンもたいへん魅力的です。
「あまりご気分がよくなさそうだが、ミスタ・デヴリン?」シュタイナがきいた。
デヴリンが呻いた。「ワインは人をからかう程度だが、強い酒は荒れ狂う」
シュタイナはいった。「それでは、これには用がないわけだな?」瓶を差上げた。
「ブラントがブッシュミルズをもう1本、見つけたのだ」
デヴリンがサッと奪い取った。「こいつのおかげでひどい目に会ったが、
他人にもそのような思いをさせることは、良心が許さない」
心憎いとしか言いようがありません。もうひとつデヴリンいってみましょう。
「この世は、万能の神様が、頭がどうかしているときに思いついた下手な冗談事にすぎないんだ。
わたしはいつも、神様はその朝、たぶん二日酔いだったのだろう、と考えている。」
いや、きりがないので止めますが、全編すばらしい台詞のオンパレードで
思春期に与えた影響は、はかりしれません。
小説家を目指していた少年に、夢をあきらめさせたのですから。
男女を問わず、ご一読を強くお薦めします。
特に女性はシュタイナに惹かれるか、デヴリンに惚れるか・・・・
1983年、日本人ゴルファーとして初めて米ツアーで優勝した青木 功氏。
そのハワイアンオープン最終日、最終18番ホール。
ラフからの奇跡的なイーグルで逆転優勝を飾りました。
翌日その快挙を報じた新聞の大見出しは、以下だったそうです。
「The Eagle Has Landed!!」