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経済なんでも研究会

激動する経済を斬新な視点で斬るブログ。学生さんの就職準備に最適、若手の営業マンが読めば、周囲の人と差が付きます。

新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-04-08 07:46:35 | SF
第3章  経 済 が な い 世 界 

≪27≫ ロボットの実力 = 「初代の賢人会議長に選ばれたのは、バックさんという人でした。ほら、ここに肖像画が飾ってあります。この人はとても評判のいいお医者さんであると同時に、ロボット工学の専門家でもありました。このため議長に就任すると、ロボットの能力を人間並みに引き上げることに全力を挙げたのです。

科学者や技術者、医者を集めて、ロボットの人間化を研究させました。ロボットの頭脳はコンピューターの回路にほかなりませんが、そこに人間の神経回路とDNAを写し込む作業です。この画期的な研究はバックさんが亡くなったあとも続けられ、いまから100年前にほぼ完成しました。

バック議長は初め、労働力不足を補うことを目的に研究させたのです。しかしロボットの精度が上がるにつれて、生産や流通の仕事はほとんどがロボットによって肩代わりされました。その結果、多くの人々が職を失いましたが、食料や衣料などが無料で配られたので大きな問題は起こっていません。

――バックさんの政策が功を奏したわけだ。いまの“経済のない世界”が見えてきたことになりますね。それで肖像画が飾ってある。

「そう。とても偉い人だったと、国民のみんなが考えています。さらにバック議長は、各家庭にもロボットを配置するよう指示していました。これで人々は家事や育児からも、しだいに解放されたのです。そして重要だったのは、この家庭に配属されたロボットが、賢人会と国民の間の意思疎通に活用されたことでしょう。

つまり、賢人会の決定事項はすぐにロボットを通じて、各国民に伝えられた。また人々の意見は、逆にロボットから賢人会のコンピューターに集められたのです。これで政治に対する国民の不満も、ずっと少なくなりました。言い方を変えれば、いつでも国民投票が実施されているようなものですね。だから時間ばかり浪費する議会などは、完全に必要なくなってしまったのです」

――なるほど、なるほど。究極の民主主義とも言えるわけだ。そして250年も、その体制が続いているのはロボットのおかげでもあるわけですね。

「この次の部屋では、そのロボットの進化の歴史をご覧になれますよ」

ショッピー館長は、こうしたダーストン国の歴史を誇らしげに説明してくれた。ラフマは相変わらず、館長にぴったり寄り添っている。ぼくのマーヤは少々くたびれ気味だ。

                          (続きは来週日曜日)


新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-04-01 07:59:10 | SF
第3章  経 済 が な い 世 界 

≪26≫ 貧富の格差  = ショッピー館長の熱心な講義が続く。ラフマはうっとりした表情で聞き入っているが、マーヤは大忙し。いろんな経済用語が出てくるから、大変なのだろう。

「マネー経済領域にある株式とか貴金属の価格は、どんどん上がりました。中央銀行が大量のおカネを放出したからです。コンピューターに任せておいても、莫大な利益が転がり込む時代でした。でも、この流れに乗ってお金持ちになったのは、ほんの一握りの人たち。人口の9割近い人たちは、相変わらず古典的経済領域のなかでモノ作りやサービス業に従事していました。マネー経済領域に入って儲けようとしても、投機に必要な資金を持っていなかったからです。

もちろん、古典的経済領域で働いていた人のなかにも、大成功を収めて大金持ちになった人はいました。でも、こういう人たちは大変な努力の末に成功したのです。ですから一般の人からは羨望の目で見られましたが、尊敬もされたのです。
しかしマネー経済領域での成功は、元手になる資産とコンピューターの知識さえあれば可能でした。仕事なんかしなくても、寝ているうちにコンピューターが稼ぎ出してくれる。そのおカネで、人々が汗水流して働き大きくした会社の株式を買い占めてしまう」

――貧富の差が拡大したのですね。その結果、人々の不満が鬱積して行く。
「その通りです。不満の矛先は政治に向けられました。そんな社会を創ってしまった政治が悪いというわけですね。そこで政府は低所得者に補助金を支給したりして、大衆の怒りを鎮めようとしました。しかし結局は財政が破たんして増税。貧富の差はいっそう拡大したのです」

なんだか、ぼくが宇宙に飛び出す前の日本の状況に似ているなあ。それから、どうなるのだろう。
「たくさんの政党が乱立し、みな有権者の支持を得ようと独自の政策を発表しました。減税だとか、生活費補助の引き上げだとか。なかには医療費や教育費、さらには交通費の無料化まで。けれども議会では互いに足を引っ張りあって、何も決めることができません。そこで数人の賢人による政治制度の方がいい、という世論が一気に高まったのです」

――国民投票で賢人会のメンバーが選ばれたのは、いまから350年ぐらい前のことだと聞いています。それから賢人会による政治がずっと続いているわけですが、うまく機能しているのですか。
「なにしろ決定が素早くなりました。ですから国民の多くは満足していると思います。そして、この賢人会による政治が成功した裏には、ロボットの存在が大きいことを忘れてはなりません」

                             (続きは来週日曜日)


新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-03-25 07:38:16 | SF
第3章  経 済 が な い 世 界 

≪25≫ マネー全盛期  = 再び動く歩道に乗って、いちばん奥の部屋に戻る。そこでラフマが天井の一角を指さすと、部屋の雰囲気ががらりと変わった。展示されていたコン棒や弓矢が美しい色の貝殻や石に変わり、壁の大きな絵も古代人がウサギと貝殻を交換する図柄に一変した。

「こんどは通貨の歴史です。貝殻や石などの自然物から、人間が鋳造した金属のコイン。さらに近世に入ると、中央銀行が発行する紙幣が使われるようになります。地球では、どうだったのでしょうね」

ショッピー館長の言葉に、うなずくばかり。そう、中学や高校で習った通りだ。地球の人間もこの国の人たちも、全く同じ道を歩んで進歩してきたんだ。不思議だなあ。

そんなことを考えているうちに、ショッピー館長は急ぎ足で行ってしまう。まるで「この辺の歴史はよくご存じでしょうから」と言っているようだ。この人はぼくの知識を、どのくらい知っているのだろう。頭のなかをすっかり見透かされているようで、ちょっと気持ちが悪い。

「この辺りからは、400年ほど前の展示が始まります。機械経済時代が成熟期に入り、社会や経済や政治までがものすごい勢いで変わり出しました。私たちはここからチャイコ星が放射能で汚染されるまでの約80年間を『滝つぼ前時代』と名付けました。つまり河の流れが滝つぼに近づいて異常に速くなり、最後にはこのダーストン星への脱出となるわけです。
そのころの政治体制は、選挙による議会制民主主義でした。政府は景気を悪くすると、選挙で負けてしまう。ですから財政・金融面からの景気刺激策をとり続け、中央銀行には超金融緩和策を継続するよう要求したのです」

この話も、ぼくが飛び出す前の地球の状況によく似ているなあ。日本でも、ぼくが生まれたころ『異次元緩和』とか『ゼロ金利』なんていう言葉が流行っていたらしい。この国では300年以上も前に、そんな経験をしたんだ。

「景気対策が長いこと続き、財政・金融の両面から大量のおカネが世の中に供給されました。その結果、おカネを中心とする新しい経済領域が誕生したのです。私たちはこれを“マネー経済領域”と名付けました。経済の歴史は3000年以上も前にさかのぼりますが、ずっとモノを作ったり運んだりすることが中心の“古典的経済領域”にとどまっていたのです。
そこにマネー経済領域が加わり、猛烈な勢いで膨張しました。株価や貴金属の値段が高騰し、景気の好調が持続したようにみえました。ところが結局は、これが社会や政治に大変動を惹き起こすことになります」

                              (続きは来週日曜日)


新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-03-18 08:05:36 | SF
第3章  経 済 が な い 世 界 

≪24≫ コン棒からコンピュータ―へ = 歴史博物館は石造りの宏大な建物だ。天井が高い真ん中のホールは、運動会が開けるほどの広さ。そこから四方に幅広の廊下が突き出しているから、空から見ると大きな十文字型をしているはずだ。その1つの廊下の左側に経済資料館の部屋が並び、右側は科学資料館になっている。相変わらずラフマと腕を組んだままのショッピー館長と一緒に、動く歩道に乗っていちばん奥の部屋まで進んだ。

古びたコン棒やヤリ、弓矢などが所狭しと並べられていた。壁には畑を耕したり、動物を追いかける古代人の大きな絵。ここでショッピー館長が説明を始めると、珍しくマーヤが口ごもった。
「この部屋は『自然・・経済の時代』だと申しておりますが、それで意味が解りますか」と聞いてくる。
――あゝ、農耕や狩猟など自然だけを相手にしていた時代という意味だろう。

地球だって、昔はそうだったんだから判っているよ。こう言いたかったが、黙っていた。するとショッピー館長が「地球人もわれわれと同じような環境で進歩してきたはず。そうですよね」と、鋭く指摘した。その通りと言うしかない。

「この自然経済時代は、3000年以上も前から始まりました。終わったのは、いまから550年ほど前。圧縮空気によるポンプや蒸気機関が発明されて、機械経済時代に入ったのです。その時代の様子は、次の部屋に詳しく展示されています」

頭のなかで、めまぐるしく計算する。地球の産業革命はたしか1760年代だった。いまから300年ほど昔ということになる。ということは、この星の方がその時点で250年も進んでいたということか。

「自然経済時代の進化は、とてもゆっくりでした。でも機械経済時代には進化が加速し、電力がエネルギーの主流になったのです。そしてコンピューターが発明され、すべての機械が電脳化されました。これが350年ほど前のこと。つまり、われわれの先祖がこのダーストン星に移住してくる直前です。

そのころまでに、ロボット工学も高いレベルに達していました。人間の代わりに工場などで働くロボットは、完全に仕事をこなすようになりました。ただ当時のロボットは、人間の形をしたコンピューターだったと言えるでしょう。私たちは、この時代のロボットを機械的ロボットと呼んでいます」

――そのロボットが350年ぐらい前から、一大進化を遂げたんですね。
「その通り。ロボット工学と医学がドッキングしたのです。その結果、ロボットの頭脳構造のなかに、人間のDNAが組み込まれました。機械経済時代は終わり、人間は働く必要のない経済レス時代が始まったのです」

ショッピー館長はそう言うと、いとおしげにラフマの肩をやさしく抱いた。

                            (続きは来週日曜日)


新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-03-11 08:24:32 | SF
第3章  経 済 が な い 世 界 

≪23≫ ボランティア = 銀色のローブに身を包んだショッピー館長とロボットのラフマは、ぴったり身を寄せてテーブルの向こう側に座っている。こちら側のぼくとマーヤの間は、やや離れている。距離を詰めようかと迷ったが、思いとどまった。

――でも館長、働いている人の給料はどうしているのですか。病院のブルトン院長や科学大学院のメンデール教授、それに貴女も。

「この国では約3割の人たちが、たしかに働いています。でも、みんな報酬など貰っていない、いわゆるボランティアですよ。正確に言えば、お医者さんや大学の先生、大工場の責任者などは決まった仕事を毎日こなしています。ほかに道路の清掃をしたり、子どもの勉強をみたり。こういう人たちは不定期なボランティア活動をしています。

みんな欲しいモノは何でも手に入りますから、報酬などは必要ないのです。自分で世の中のためになることをしたい。そう考えて仕事をしているんです。子どものときからやりたいことを決めて、専門コースで知識や技術を身に着ける人も少なくありません。医師や学校の先生、ロボット工学の技術者などですね。だから、おカネは必要ないんです。お解りでしょうか」

――ということは、約7割の人が遊んで暮らしている?
「そう言えないこともありません。しかし大抵の人は、趣味に没頭しています。たとえば鳥や虫や植物の研究。大きな望遠鏡で夜空の星を観察したり、なかにはカビの培養に精を出したり。その成果を発表することに、生きがいを感じているわけです。
ところで申し訳ありませんが、きょうはこれから子どもたちに歴史の話をしなければなりません。明日また来ていただければ、ゆっくり館内をご案内しましょう」

最初から気が付いていたが、ショッピー館長とラフマの胸には≪29≫のプレートが。だから2人とも71歳ということになるが、とても若々しい。2人が地球にいてテレビのニュース・キャスターになったら、大評判をとるだろうなんて考えてしまった。

その晩、マーヤとこんな話をした。
――あの2人は、どういう関係なんだ。すごく親しそうだったね。
「私も女性とロボットのラブラブ関係を見たのは初めてです。男性とロボットが兄妹か夫婦のように親しくなっているのは、ときどき見かけるのですが。そういう人たちが、正式に結婚できることを望んでいるのは間違いないでしょう。賢人会の議論は、どうなっているのでしょうね」

――ショッピーさんとラフマも、そうかしら?
「ご自分で、お聞きになってみたらいかが」

それはちょっと遠慮しておこうと思った。同時に「マーヤはどうなんだ」という質問も、呑み込んでしまった。

                           (続きは来週日曜日)


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