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経済なんでも研究会

激動する経済を斬新な視点で斬るブログ。学生さんの就職準備に最適、若手の営業マンが読めば、周囲の人と差が付きます。

新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-11-04 07:33:10 | SF
第6章 ニッポン : 2070年代

≪57≫ 3つの目標 = マーヤと並んで寝ながら、こんどはぼくの方から話しかけた。
――ちょうどいい機会だから、ぼくが考えている日本再生の方法論を説明しておこうか。

こう言った途端に、マーヤはすっくと立ち上がり照明を明るくした。
「そんな大事なことを寝ながら言ってはダメ。いまコーヒーを持ってくるから、ちゃんと起き上がって説明してください」

マーヤはテーブルに2つのカップを持ってきた。もちろん彼女は呑まないが、そうした方が雰囲気がよくなると考えているに違いない。最近はぼくの心情も、よく読み取ってくれる。ほんとうに素晴らしい嫁さんだ。

――君も知っているように、いちばん先に造ったのはガードマン型ロボットを生産するための工場だ。いまは月に300体のロボットを造って出荷している。博物館や宝石店だけでなく、銀行やデパート。最近では小さなコンビニ、警察にも納入した。海外への輸出も多くなってきている。

ぼくが日本に戻って感じたのは、治安の悪さだった。景気が悪くて失業者も多い。若者は将来に希望が持てない状況だから、仕方がないのかもしれない。だが治安が悪いと、日本はどんどん住みにくい国になってしまう。そこで、まず安全と安心を取り戻すことから始めようと決心したんだ。

「そう、昔の日本は世界で最も安全な国だったんでしょう。ダーストン国ほどではないにしてもね」

――日本をよくするために、もう1つ必要なのはエネルギーの安定供給だ。日本はそのほとんどを原油やLNG(液化天然ガス)の輸入に頼っている。しかし世界の原油埋蔵量は明らかに減ってきたし、逆に世界の消費量は急速に伸びている。だから原油価格は1バレル=250ドルにも跳ね上がった。

こんなに高い原油を輸入していたら、日本企業のコストは上がるばかり。家計も電気代やガス代の支払いが増えて、ほかにはおカネを使えない。消費が増えないから、景気はよくならない状態が続いていたんだ。それが君の尽力もあって、あの太陽光発電装置が普及し、状況は目に見えて改善しつつある。

「日本では、なぜ太陽光発電が普及しなかったのかしら」
――政府がエネルギー政策で、失敗を繰り返したからだと思うよ。でもウラノス博士の好意で、この問題は解決した。もう1つ大事なのは、食糧問題だ。治安とエネルギーと食糧。この3つがよくなったら、日本はきっと素晴らしい国になる。

                           (続きは来週日曜日)

新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-10-28 07:35:00 | SF
第6章 ニッポン : 2070年代

≪56≫ 大活躍 = 名古屋の銀行に3人組の強盗が拳銃を持って押し入り、人質を取って立てこもった。ところが、この銀行のフロアには、マヤ工業製のガードマン型ロボットが配置されていた。強盗が「床に伏せろ」と威嚇しても、ロボットは言うことをきかない。そこで犯人の1人がロボットに向けて拳銃を発射。その瞬間、ロボットの頭から光線が出ると、強盗団はみな意識を失って倒れてしまった。

オランダのアムステルダムでは、夜間に有名な宝石店のガラスが破られ、軽機関銃を持った男たちが侵入した。だが、ここでも店内に配置されていたロボットが、光線で男たちを眠らせてしまう。ロボットは軽機関銃の乱射もはね返したと、現地の新聞は大々的に報じていた。

2070年代の初め、世界中の国が治安の悪化に悩まされていた。長く続いた不況のために、人々の心が荒れてしまったためだろう。日本も例外ではなかった。しかし高齢化の進展で、若い警察官は集まらない。財政も苦しいから、警察力の増強もままならない。

ある晩、マーヤがこんなことを尋ねてきた。「貴方はなぜ、ガードマン型と農水産型のロボットしか造らないの。ダーストン国のように、医療型や教育型のロボットも造れるのに」

――いまの世相をみていると、人々がいちばん求めているのは治安の回復だと思うんだ。それで、まずガードマン型の普及に力を入れる。銀行や店舗に配置するだけでなく、街のなかを巡回する“お巡りさん”ロボットも増やせば、犯罪だけでなく、事故や火災を早く見つけて通報できるだろう。

「海外ではマヤ製ロボットの内臓プログラムをコピーして、同じようなガードマン型を造り始めたらしいわ。特許を取ってないから、仕方がないけれど」

――ああ、ぼくらの生産台数には限りがあるからね。海外でも独自に造れば、それだけ治安の回復が早くなるだろう。ただ海外の製品には、ダーストニウム合金が使えない。だから機関銃や手りゅう弾でやられれば、ロボットの方が負けてしまう。結局、日本製の方が品質がいいことに、いずれ世界中が気付くだろうね。

「素晴らしい。でも貴方も相当の悪になったみたい」  こう言って、マーヤはぼくの腕のなかに飛び込んできた。

                            (続きは来週日曜日)  

新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-10-21 07:28:14 | SF
第5章 ニッポン : 2060年代

≪55≫ 使命感 = マーヤはJRリニア新幹線会社と協力して、相変わらず寝食を忘れて働いていた。と言って、ぼくが遊んでいたわけではない。ダーストン星での経験を活かして、どうしたら日本をもっと素晴らしい国に変えられるか。最近はそれがぼくの天職だと、ひしひしと考えるようになった。

まず手を着けたのは、ヒト型ロボットの量産化だ。山梨県の実験工場の隣に、ロボット製造工場を建設した。2069年春のことである。そのころの日本では、各方面でロボットが活躍していた。ホテルやデパートでの受付や案内。事務所や家庭の掃除。だが、その形態は可愛い人形や動物に似せたものが多く、ヒト型ロボットはあまり発達していなかった。

ぼくが造ったのは、身長170センチの人間の形をしたロボット。断わっておくが、マーヤのような人間性を持ったロボットではない。人間と見分けが付かないようなマーヤ型のロボットは、人間のDNAを移植しなければ造れない。それには医療技術の発達が必要だから、地球では200年後の子孫たちが取り組む課題になるのだろう。

そんなロボットが出現すると、ダーストン星でみたように人間とロボットの結婚問題など、別次元の問題が生じる。ぼく自身がマーヤと結婚しているくせに言いにくい話だが、そんな世界が必ずしもいいとは思っていない。地球でも200年後には、そんな問題に直面することは確かだが。

と言うことで、ぼくが造ったのは機械的ロボットの究極版。見た目は人間に近いが、金属製であることは一目瞭然だ。もちろん、設計図はマーヤの記憶から取り出した。体内のプログラムを入れ替えれば、いろいろな用途に適合するからとても便利だ。ぼくは3種類のプログラムを使って、ガードマン用、ロボット製造用、そして農水産業用のロボットを量産し始めた。

ガードマンは試験的に、この工場と例のダーストニウムを保管した倉庫を警備させた。するとイノシシが近づいてもカラスが飛んできても、頭から光線を発射して完全に追い払ってしまう。広告を出したら、博物館や宝石店から注文が殺到した。

ロボット製造用ロボットは、ぼくの工場に配備してロボットの製造を無人化した。さらに農水産用ロボットは、農作物の栽培や魚類の養殖に当たる。人手不足に悩む長野県の農家と静岡県の養殖業者と提携して、もう基礎的な実験は終えた。来年になれば、本格的にロボットだけでコメや小麦の栽培、マグロやタイの養殖を始めることが出来るだろう。

                                (続きは来週日曜日)

新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-10-14 08:10:30 | SF
第5章 ニッポン : 2060年代

≪54≫ 神の粉 = ある日、JRリニア新幹線会社のお偉方がやってきた。革命的な新素材の話はあっという間に海外にも広まり、共同生産したいという申し込みが相次いでいるのだと言う。そこで海外にも、あのダーストニウムを供給してもらえないかと頼みに来たのである。

その辺のことになると、ぼくには何とも言えない。同席したマーヤの方を見ると、彼女は「結構です」ときっぱり返事した。ただ「海外の会社と共同で建設する工場の場所と生産規模を教えてください。ダーストニウムは、こちらから必要な分を直接送ります」と付け加えていた。もう立派な女性経営者である。

2068年のうちに、海外企業との合弁工場はアメリカ、フランス、中国、タイ、そしてサウジアラビアにも建設された。このころになると世界的に原油の埋蔵量が乏しくなり、産油国も太陽光発電には大きな関心を持っていたからだ。

マーヤは国内の工場だけでなく、海外にもダーストニウムを発送する仕事に追われるようになった。ダーストニウムはドラム缶に入れて、海外には航空便で送る。ドラム缶に入れる量はそれぞれの工場の生産量に合わせて、正確に計量される。だから工場で、この粉を使い残すことはない。

ダーストニウムは、見たところ何の変哲もない黄色い粉である。手のひらで掬うと、指の間から砂のように零れ落ちる。だが、その魔法の力は想像外だ。鉄やプラチナなど数種類の金属を一定の比率で混ぜ合わせた合金に、この粉を入れる。すると合金の強度と磁性が極端に高くなる。また、この合金で造った細い繊維を特殊な強化ガラスに織り込むと、きわめて発電効率がよい太陽光発電基盤が出来上がる。

合金に混ぜる量は、ごく僅かだ。1キロメートルの路床を製造するのに、カップ1杯ほどで十分。だから東京ー福岡間のリニア路床を敷くのにも、ドラム缶1つで足りた。

違う日、またJRリニアの役員が飛んできた。「外国の企業が科学者を集めて、ダーストニウムの分析を始めたそうです。特許も取っていないそうですが、大丈夫ですか」

マーヤは落ち着き払って、こう答えた。「どんな天才が研究しても、あの粉を製造できるまでには200年かかるでしょう」

じっさい、海外でダーストニウムが生産されることはなかった。そして科学者たちの間で、この物質は“神の粉”と呼ばれるようになった。

                             (続きは来週日曜日)

新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-10-07 08:08:11 | SF
第5章 ニッポン : 2060年代

≪53≫ 主婦業 = マーヤは完全に、日本の主婦になった。ぼくの食事を作るために、町へ買い物に行く。そのために車の運転も始めた。自動運転車だが、まだ人間の補助が必要だ。ダーストン星のように、道路と側壁が車を誘導するシステムにならなければ、完全自動車にはならない。そうなるまでには、200年ぐらいかかるのだろう。

ときにはマヤ工業の専務として、ビジネス相手とも付き合っている。明るく頭の切れる女性経営者だと、評判はいいらしい。なにしろ、よく働く。日本には「寝食を忘れて働く」という表現があるが、もともと彼女には寝も食も必要ない。

ぼくの方は反対に、だんだん世間から逃げている。テレビや雑誌記者に“空白の5年間”を追及されるたびに、ウソをつかなければならない。政治家と違って「記憶にありません」と答えることに、嫌気がさしたからである。

それでも仕事の用があったりして、2人で都心に出ることもある。そんなとき電車に座っているぼくたちは、仲のいい中年の夫婦に見えたに違いない。ただ困ったことに、2人で食事はできない。夫だけが飲み食いし、妻は水にも手を着けないという光景は、きっと変に思われるからだ。

仕事の方は、きわめて順調。鉄道はリニアから在来型の新幹線へ、高速道路も全国の幹線から支線へと、急速にマヤ路床が普及して行った。それどころではない。学校や病院、それに一般の家庭からも、引き合いが来るようになった。なにしろ新しい太陽光パネルは、発電効率が従来型の20倍も高い。

製造・販売を一手に引き受けたJRリニア新幹線会社は、工場の拡張・増設に大わらわ。2年もしないうちに、本業のリニア鉄道より路床生産の売り上げが大きくなってしまったほどである。こうした奇跡とも言える業況は、海外の新聞やテレビでも大々的に報道された。

ぼくたちのマヤ工業は、この生産に全く関係していない。見学者が来れば最初に建てた小さな工場に案内し、実験データなどを専用のロボットに説明させるだけ。ただし新合金の製造に欠かせないダーストニウムだけは、わが社からすべて供給している。

そのダーストニウムはわが社の倉庫に厳重に保管されているが、常に補充されていた。不思議に思っていたが、あるときマーヤに聞いてみると・・・。

「UFOのロボットたちが、深夜に運び込んでいるの。あの山梨工場は人里離れているから、決して見つかりません」

                               (続きは来週日曜日)        

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