経済なんでも研究会

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新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-10-07 08:08:11 | SF
第5章 ニッポン : 2060年代

≪53≫ 主婦業 = マーヤは完全に、日本の主婦になった。ぼくの食事を作るために、町へ買い物に行く。そのために車の運転も始めた。自動運転車だが、まだ人間の補助が必要だ。ダーストン星のように、道路と側壁が車を誘導するシステムにならなければ、完全自動車にはならない。そうなるまでには、200年ぐらいかかるのだろう。

ときにはマヤ工業の専務として、ビジネス相手とも付き合っている。明るく頭の切れる女性経営者だと、評判はいいらしい。なにしろ、よく働く。日本には「寝食を忘れて働く」という表現があるが、もともと彼女には寝も食も必要ない。

ぼくの方は反対に、だんだん世間から逃げている。テレビや雑誌記者に“空白の5年間”を追及されるたびに、ウソをつかなければならない。政治家と違って「記憶にありません」と答えることに、嫌気がさしたからである。

それでも仕事の用があったりして、2人で都心に出ることもある。そんなとき電車に座っているぼくたちは、仲のいい中年の夫婦に見えたに違いない。ただ困ったことに、2人で食事はできない。夫だけが飲み食いし、妻は水にも手を着けないという光景は、きっと変に思われるからだ。

仕事の方は、きわめて順調。鉄道はリニアから在来型の新幹線へ、高速道路も全国の幹線から支線へと、急速にマヤ路床が普及して行った。それどころではない。学校や病院、それに一般の家庭からも、引き合いが来るようになった。なにしろ新しい太陽光パネルは、発電効率が従来型の20倍も高い。

製造・販売を一手に引き受けたJRリニア新幹線会社は、工場の拡張・増設に大わらわ。2年もしないうちに、本業のリニア鉄道より路床生産の売り上げが大きくなってしまったほどである。こうした奇跡とも言える業況は、海外の新聞やテレビでも大々的に報道された。

ぼくたちのマヤ工業は、この生産に全く関係していない。見学者が来れば最初に建てた小さな工場に案内し、実験データなどを専用のロボットに説明させるだけ。ただし新合金の製造に欠かせないダーストニウムだけは、わが社からすべて供給している。

そのダーストニウムはわが社の倉庫に厳重に保管されているが、常に補充されていた。不思議に思っていたが、あるときマーヤに聞いてみると・・・。

「UFOのロボットたちが、深夜に運び込んでいるの。あの山梨工場は人里離れているから、決して見つかりません」

                               (続きは来週日曜日)        

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