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経済なんでも研究会

激動する経済を斬新な視点で斬るブログ。学生さんの就職準備に最適、若手の営業マンが読めば、周囲の人と差が付きます。

新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2017-12-31 07:45:46 | SF
第2章  ロ ボ ッ ト の 反 乱 

≪13≫ クーデター = メンデール教授の講義は淡々と続いた。
「ダーストン星には、この島以外に陸地はありません。つまり、バカげた領土争いをするような相手国がないのです。このため私たちの祖先は武器や弾薬をいっさい作らないことに決めました。それでロボット戦争も、工事用の鉄棒を短く切って振り回すだけでした。この様子を見て、当時の人々はロボットがちゃんと働いてくれる限り、放置しておいても大きな危険はないと判断したのです。

ロボット戦争から15年後のダース65年の秋に、一人の若い研究者が書いた報告書が科学院に届きました。ロボットが夜間に使用する電力量が異常に増えているという内容でした。当時の科学院長だったワーグネル博士がこれを重視。秘かに探らせたところ、ロボット同士の夜の通信量が激増していたのです。さらに調べてみると、ロボットのヤクザ集団がますます勢力を拡大し、秘かに人間に対するクーデターを計画していたことが判明しました」

当時の記録によると、あるマスコミがこのことをスクープしたために、世の中は大混乱。政府は議会を召集して対策を講じようとしたが、議論ばかりで何も決まらない。そのうちにロボット側は食料と飲料水の製造工場を占拠、人間を日干しにする作戦に出た。これに対してワーグネル博士は6人の賢人を集めて秘密の委員会を組織。素早く数百人の若者を動員して、北部と南部の2か所にある中央蓄電所だけを管理下に置いた。

そして全国への送電をストップ。この蓄電所はロボット軍団に取り巻かれたが、高い塀に囲まれていたので何とか守り切った。また電気を止められた国民からも苦情が殺到したが、ワーグネル博士らは頑として停電を強行。約3週間の停電で、ロボットはすべてバッテリーが上がって動けなくなった。

メンデール教授は、フーっと息をついて、こう断定した。
「あのとき、もしロボット側に負けていたら、人間はロボットに支配されることになったろうね。なにしろ彼らは人間並みの知能を有している。体力では、人間は敵わない。だから本当に危ないところだったんだ。そして250年前の祖先たちは、この事件を教訓にいくつかの改革を断行したのです」

――そんなことがあったんですか。危ないところだったのですね。
ぼくは地球の冷却化が本当に止まったのかどうかを聞きたかったが、メンデール教授の熱心な説明を妨げることが出来なかった。

「改革の1つは、議会制民主主義を停止し、賢人会による統治制度に改めたこと。もう1つは、男性ロボットを製作せず、すべてのロボットを女性だけにしてしまったことでした」

                      (続きは来週日曜日)
   

新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2017-12-24 08:16:53 | SF
第2章  ロ ボ ッ ト の 反 乱 

≪12≫ 関ケ原の合戦 = まるで子どものときテレビで見た関ケ原の合戦のようだった。手に手に棒のようなものを振りかざした無数の戦士たちが、広い草原を埋め尽くし殴り合っている。初めは人間だとばかり思ったが、よく見ると敵も味方もロボットだ。殴り倒されたロボットが、次々と草原に横たわる。音は消してあるが、怒号や悲鳴が聞こえてくるようだ。

5分ほどで壁に映された戦闘場面は消え、室内が明るくなった。ここは40階建てビルの最上階。天井がガラスのように透明な材料で作られているから、とても明るい。広い部屋には、いくつもの机や機械類が置かれている。壁や机の上には、訳の判らない数式が落書きのように。ずっと向こうの端では、何人かの人間とロボットが黙々と作業をしていた。

机をはさんで、科学大学院の学長メンデール教授が微笑んでいる。最初に両手を触れ合って挨拶したときに判ったのは、身長がぼくと同じ170センチぐらい。この国の男性としては小さい方だ。痩せ形で、顔は意外に小さく、なんだかアインシュタインに似ていなくもない。胸のプレートには「45」と書いてあった。

メンデール教授がゆっくりした口調で話し出す。
「賢人会のウラノス議長からは、できるだけ何でも説明するようにと言われています。で、きょうはロボットについて、お話ししましょう。その前に、時系列的なことをはっきりさせたいと思います」

さすがに、この人は科学者なんだと感心していると・・・。
「われわれの祖先が初めてこのダーストンの土を踏んだのは、いまから315年前のこと。そのときをダース元年と定めましたから、ことしはダース315年になります。宇宙船で運べた人は年に10万人程度でしたから、人口はなかなか増えず、新しい国の建設も進みませんでした。

そこで最初に到着した人々は、人間並みの能力を持つロボットの製作に全力を挙げたのです。ロボット技術はチャイコ星の時代に相当進歩していましたから、ダース20年のころには人間と全く同じ運動能力と知力を持つロボットの量産に成功しました。ところが後になって判ったことですが、当時の科学者たちは重大なことを一つ見落としていました。

ロボットの脳を設計する際、優秀な能力を有する人間の若者の脳を選んで細胞と神経回路をコピーしたのです。たとえば判断力、創造力、指導力などで優れた人の脳内構造を精密に移植しました。しかし、これだけ人間に近い能力を持つと、ロボットは自分でその能力を向上させることに気が付かなかったのです。

――要するに、自己学習するわけですね。
「その通り。その進展は非常にゆっくりなのですが、何年か経つとロボットの性格が変化して行くのです。特に支配欲が強くなったロボットが出現し、それが人間の知らないうちに大昔のヤクザのような組織を作り上げていました。そして、そういう組織同士が衝突した。それがさっきの映像です。ダース50年夏のことでした。私たちは、これをロボット戦争と呼んでいます」

                      (続きは来週日曜日)


 プ レー ト

2017-12-17 07:57:30 | SF
第1章 ダ ー ス ト ン 星 (6-11回通読版) 

≪6≫ ノアの方舟 ウラノス博士の話は続いた。「実は、われわれの祖先も300年ほど前に、同じような経験をしたんじゃ。君の星、地球は海底のメタン・ハイドレードを掘り過ぎて、メタン・ガスの噴出を止められなくなったことが原因だったね」

よく知っているなあ。UFOで集めた情報なのか。それとも、ぼくの頭脳から記憶を抽出したんだろうか。もしそうなら了解も得ないで、他人の記憶を勝手に取り出すなどとは、けしからん話だ。だが命を助けられたのだから、文句も言えないか。

「われわれの祖先は、ここから70光年離れたチャイコ星からやってきた。そのチャイコ星では300年ほど前、大変なことが起こったんじゃ。原子力発電で使った放射性廃棄物を、各国は共同で海底深くに埋めて処理していたが、大地震で海底のマグマがこの廃棄物処理場を飲み込んでしまった。その結果、いくつかの活火山が放射性物質を噴き出すようになり、人間は住めなくなってしまったんじゃ。

そこで先祖たちは超大型の宇宙船を大量に建造し、国ごとにいくつかの星に分散移住した。地球人の言う“ノアの方舟”じゃね。こうして、われわれの祖先が、この星に到達したというわけだ。そこのところを、きちんと知っておいてほしい」

われわれ地球人から見れば、ウラノス博士たちは宇宙人ということになる。でも“ノアの方舟”まで知っているし、外見は地球の人間とあまり変わりはない。不思議だ。

地球人がこのプロキシマb星を発見したのは、2016年のこと。観測機器の性能がが飛躍的に向上したため、ほかにも数多くの惑星が発見された。しかし地球との距離は、近いものでも39光年。プロキシマb星だけが、4.2光年で格段に近かった。ただし、この星には致命的な欠陥があると、科学者たちは指摘していた。それは恒星であるプロキシマ・ケンタウリが暗く、プロキシマb星は人間が住むには温度が低すぎると考えられたのだった。

それでも国連が調整して、主要国は5機の宇宙船で5つの惑星を探査することになり、日本はプロキシマb星を担当することになった。そして、ぼくがいま、ここにいる。そこで、明るい太陽のような恒星ケンタウリを指さして。

――この恒星は、もっと暗いと思っていたんですが。
「あはは、地球人がやってくると困るから、宇宙空間に特殊なバリアを張って、地球から見ると暗い星に見えるようにしたんじゃよ。君の宇宙船は、それに衝突した。宇宙にバリアを張る技術は、やっと30年前に完成させたんだよ」

ウラノス博士は豪快に笑ってみせた。

≪7≫ 驚くべき寿命100歳制度 = 帰りの車のなかで、ぼくは目を閉じてウラノス博士の話を反芻していた。隣のマーヤも黙りこくっている。そっと腕をつつくと「私も初めてあんな話をお聞きしました」と言って、うなだれてしまった。ロボットなのに、人間的な感情を持っているのかしら。

博士は最後に、ダーストンの建国にまつわる話をしてくれた。声が低くなり、顔つきも悲しげになったのが印象に残っている。そして、その内容は実にショッキングなものだった。博士の長い物語を要約すると・・・。

博士たちの祖先が住んでいたチャイコ星では300年前、放射性物質が拡散する事故が発生した。そのころまでに科学技術は非常に発達していたので、人々は国ごとに大型宇宙船をいくつも建造。それぞれ遠くの星を目指して脱出し始めた。博士たちの祖先も続々とこのダーストン星に移住してきたが、100年近くかかっても運べた人数は100万人足らず。残る900万人はチャイコ星とともに滅亡した。

ダーストン星に到着できた人は、第1級の知識や技術を持った人たち。しかも若者が中心だった。彼らは力を合わせて、新しい星での国造りに励む。まず労働力を確保するため、人間と同じように考え働けるロボットを量産した。そしてロボットや機械を動かすための電源エネルギーの確保。さらに高度な医療技術の開発にも、全力をあげたのだった。

その結果、100年ぐらいの間に素晴らしい国を建設することができた。ところが、そこで起きたのが人口問題。完璧な医療技術のおかげで人が死ななくなったために、人口は1000万人に接近するほど急増してしまった。ダーストン星は地球の3分の2ほどの大きさだが、ほとんど全部が海なのだ。陸地は面積が北海道と九州を合わせたぐらいの、この島だけ。いくらロボットたちが農耕に精を出しても、1000万人以上の人間は養い切れない。

チャイコ星で暮らしていた祖先たちは、子孫を守るために自らが犠牲になった。その崇高な精神を受け継いで、われわれもなんとかしなければいけない。そう考えた200年前の賢人会は、常識では思いつかない決断に踏み切った。人々の寿命をすべて100歳にするという提案である。この提案は直ちに国民投票にかけられた。結果は51%の賛成で可決された。

「この国の憲法第1条を見てごらん。そこには『ダーストン国民は平和で満ち足りた生活を保障される。すべての国民の寿命を100歳と定める』と書いてある」

ウラノス博士はこう言って、長い物語を終えた。

≪8≫ 胸番号の秘密 快適な20階建てマンションの最上階。今夜はぼくの手術をしてくれた医師ブルトン氏の招待を受けている。ぼくがこの国のことを理解できるようにと、ウラノス科学院長が配慮してくれたのだそうだ。

テーブルの上には、肉と野菜の料理。グラスには、ワインに似た液体も注がれている。電燈のようなものはいっさいないが、天井や四方のカベそのものが発光していた。40畳ほどの部屋には、戸棚もテレビも置いていない。ただ窓際の角に小さな机があって、その上に真っ赤な大輪のダリアのような花が活けてあった。素っ気ない感じだが、光線の柔らかさが心地よく落ち着く。マーヤもぼくの隣に座っているが、彼女は飲んだり食べたりはしない。

ブルトン氏は病院で見た白衣姿とは違って、柔和な紳士。茶系のガウンに光るプレートの数字は「48」だから、いま52歳ということになる。隣に座った奥さんを紹介してくれた。ぽっちゃり系の美人で、黄色のガウン。赤いプレートの数字は「52」だ。乾杯のあと、ブルトン氏がゆっくりした口調で話し始めた。

「ウラノス院長とお会いになって、どうでしたか。立派な人物だったでしょう」
――ええ、300年前の祖先がチャイコ星から移住してきたときの話。200年前の国民投票で全国民の寿命を100歳と決めたこと。ほんとうに驚くと同時に、深い感銘を受けました。

「私たちは幼いころから家でもその話を聞かされ、学校でも歴史として習います。妻や子どもたちを宇宙船に乗せるため、チャイコ星に残った夫や親の言動など。この国の人々は、決して忘れません。その証しとして、みんなが胸にプレートを付けているのです。これも200年前に、当時の賢人会が決めました」

――でも、なんで年齢ではなく、100から年齢を引いた数字になっているのでしょうか。
「まあ、食べながらお話しましょう。やはり昔の賢人会が、そう決めたのです。理由はいろいろありますが、寿命はだれもが100歳。残りの人生を大切にするため、あと何年生きるのかを常に意識するようにしたのだと言われています。人生設計を立てるのにも、とても役立ちますね」

――100歳で死ぬのはイヤだという人は、いないのですか。

そう尋ねたとき、目を大きく開いた夫人が会話に割り込んできた。

≪9≫ 幸せな100年の人生 = 「私たちは物心がついたときから、お前の寿命は100年だと教えられてきました。そのとき子供たちは『100年しか生きられないから悲しい』なんて、誰も思いませんよ。みんな『100年も確実に生きられるんだ』と喜びます。その喜びを、大人になっても持ち続けているんです。だから昔の賢人たちが決めたことに疑問を持ったり、反対を唱える人は誰もいません。

もっと昔の人は、病気や怪我でいつ死ぬか判りませんでした。可愛い子どもを病気で亡くしたり、幼い子どもを残して事故で死んでしまう若い親たち。考えただけでも、ほんとうに可哀そうですね。そんな悲劇にいつ襲われるかしれない人生と、100年の寿命が安全に保障される人生と、どちらが幸せかは明らかでしょう。もしいま国民投票をやっても、95%以上の人が賛成すると思いますわ。ねえ、あなたも同感でしょ」

最初に顔を合わせたときは、何やら野蛮人でも見るような目付きだったブルトン夫人だったが、いまは興奮の面持ちで喋りまくる。マーヤもいつもより早口で、通訳してくれた。水を向けられたブルトン院長は、うなづいて話を引き継いだ。こんどはマーヤの口調もゆっくりになる。

「人口は1000万人ですから、毎年10万人が100歳になる計算です。そして子どもを欲しがる若い人には、年間10万人の赤ちゃんが授かるようになっている。だから人口はいつも1000万人に保たれるのです。もう1つ医学的に補足しておきますと、この国の人は満100歳に近づくと、自然に静かな休息を欲するようになる。遺伝子操作で、みな生まれたときからそうなるようにプログラムされているんです。

ですから死ぬことに対する恐怖感はありません。みんな満100歳の10日前ぐらいになると、いそいそとして特別な病院へ向かいます。そこでは宗教的な行事も何もありません。ただ100年を無事に生きたことを感謝し、子どもや孫へと世代交代する喜びを噛みしめるのです」

胸に「50」のプレートを付けた女性ロボットが、皿を運んだり片づけたりしている。マーヤと似たような感じだが、どこか違っている。それにロボットの場合は、年齢差が感知できない。マーヤとそのロボットの顔を見比べながら、聞いてみた。

――ロボットも胸に番号を付けていますね。ロボットも100歳で死ぬんですか?
「あゝ、それには別の理由があるんです。でも私が話すよりは、メンデール教授に聞いた方がいい。科学大学院の学長で、この国の科学技術を取り仕切っている人です。ご紹介しますから、会いに行ってください」と言って、ブルトン医師はロボットたちに目くばせした。

≪10≫ 天涯孤独 = 実を言うと、ブルトン夫人の「子どもを残して病気や事故で死んでしまう親の悲劇」という言葉は、ぼくの胸にぐさりと突き刺さった。忘れようとしていた25年前の記憶が、一気によみがえったからである。そんな悲劇が起こる世界よりは「100年間を確実に生きられる方がいい」という夫人の主張にも、説得力を感じてしまった。

その夜、ぼくはその日の出来事をノートにメモしながら、物思いに沈んでいた。そう、ぼくが5歳のとき、両親は事故で死んだ。高速道路で大型トラックに追突され、車が前のバスに激突したのだ。ぼくは後部座席にいて軽傷で済んだが、その瞬間から天涯孤独のみなし児に。擁護ホームに引き取られ、そこから学校に通った。

いまは病室から出て、別棟の個室に住んでいる。ベッドと机があるだけで、カベにテレビは映るけれども面白くないのであまり見ない。もっとも個室といっても、マーヤはいつもいる。隣り部屋にいることが多く、ときどき食事や飲み物を運んでくる。でも食事を作るわけではない。食べ物も飲み物も、いつもどこからか運ばれてくるようだ。

「今夜はとても悲しそうな顔をしていますね。なにか、いやなことでも」
傍にきたマーヤがそう言った。こいつロボットのくせに、ぼくの精神状態を読み取れるのか。一瞬そう思ったが、嬉しくもあった。それで25年前の出来事を聞かせてやると・・・。

「まあ、それは大変でしたね。1人で学校に行って、それからどうしたのですか」と聞いてきた。そんなことまで話したくはなかったが、だれかに聞いてもらいたい気が急に湧いてきた。

――大学まで進んだが、友達は出来ない。ぼくの気持ちのどこかに、素直になれないところがあったのだろう。好きな女性も見付けたけれど、想いを打ち明けられずに終わってしまった。これではダメだ。21歳になったとき、そう思って大学を辞めて航空自衛隊に入ったんだ。いろいろ鍛えなおそうと考えてね。

そのころ日本では、月に宇宙基地を建設する計画が進行していた。そこで、ぼくは宇宙飛行士の訓練を志願したが、特訓中に地球の冷却化が大問題になったんだ。光速宇宙船に乗れたのは、ぼくの技量が優秀だったからではない。だれも4.2光年先の未知の星なんかに行きたがらなかったためだよ。そこからの話は、君ももう知っているだろう。そしていま、ぼくはここにいる。全く夢のような話だ。

「そして、私もここにいる」と言い返して、マーヤはちょっと微笑んだ。これにはぼくもびっくり、思わずつられて笑ってしまった。

「笑顔が出たところで、おやすみなさい」と、マーヤは礼儀正しい。

≪11≫ マーヤの激励 = あくる朝、ぼくはまだ憂鬱な思いを引きずっていた。宇宙船が壊れてしまったから、もう地球には帰れないだろう。地球は、日本はどうなっているのだろう。凍り付いてしまったのかしら。ほかの4人の宇宙飛行士は、ここよりずっと遠くの星を目指したのだから、まだ飛んでいるはずだ。いろんな思いが、頭のなかで交錯する。

そのときドアが開いて、マーヤが朝食を持って現れた。「お早うございます」の挨拶も忘れない。

――お早う。この食事は、どこから来るの?
「食事を作っている工場に注文すると、車かドローンですぐに届けてくれます。なんでも冷めないうちに届きますよ」

――どうやって注文するの?
マーヤは自分の頭を指さして「ここから工場のロボットに通信を送ります。車を呼ぶときも、だれかとの面会を予約するときも、私が相手の担当ロボットと通信すれば完了してしまいます。そうそう、先日ブルトン医師から紹介されたメンデール教授との面会は、明後日の午後2時に決まりました」

――それは有難う。要するに君はスマホでもあるわけだ。だから、この国の人はロボットが傍にいるから、スマホを持っていないんだ。ロボットは人間以上に優秀だね。
「でもロボットはロボットで、いろんな問題を抱えているんです。あさって会うメンデール教授は、科学技術全般とロボット問題の最高責任者ですから、私も興味津々。ロボット仲間が、いまから話の内容を教えてほしいと言ってきていますわ」

――ロボット同士の通信網も発達しているわけだ。
マーヤの顔が急に明るくなった。「いまちょうど、ウラノス科学院長の秘書ロボットから情報が入っています。彼女が言うには、地球の冷却化は止まったそうです。賢人会が3年前に冷却化を止めるよう指示を出し、最近になってその成功が確認されたと言っています」

――えっ、本当かい。どうして冷却化が止められたんだろう。

「詳しいことは、メンデール教授に聞いてください。でも私たちが情報を流したとなると怒られますから、上手に聞いてくださいね。とにかく、よかったじゃないですか。元気を出しましょう」

とうとう、ロボットに励まされてしまった。でも明るいニュースを聞いて、ぼくの気持ちも明るくなった。心のなかで「マーヤ、ありがとう」と言う。

(第2章 は来週日曜日)
        

 プ レ ー ト

2017-12-16 07:53:13 | SF
第1章 ダ ー ス ト ン 星 (1-5回通読版) 

≪1≫ 2050年7月 気が付いたとき、目に入ったのは真っ白な天井だった。疲れている。頭が少し痛い。再び意識がかすんでしまった。
 
次に目が覚めると、白衣の女性看護師の顔が見えた。卵型で整った顔立ちの美人だ。白衣の左胸に黄色のネーム・プレートを付けている。名前を見ようとしたが「71」という数字しか書いてなかった。
 
「もう大丈夫ですよ。気分はどうですか」と、やや甲高い声で聞いてくる。やっぱり、ここは病院なのだ。でも、どこの病院なのだろう。美人の看護師は日本語で話しかけてきた。だから日本なのか。いや決して、そんなはずはない。眠っているふりをして、一生懸命に思い出そうとした。

ぼくはたしかに種子島の打ち上げ基地から、宇宙に向けて発射されたはずだ。2050年7月31日の早朝。そのときのことは、はっきり覚えている。あの日の空は、ドス黒い雲に覆われていた。上空に積み重なったメタンガスが太陽の光を遮っているためだ。

猛烈な加速度。それに耐えて数秒後に振り返ると、わが地球はもう満月の大きさにしか見えなかった。この宇宙船は1人乗り。各国の科学者たちが技術の粋を結集して造り上げた、5機の小型宇宙船のうちの1機である。最大スピードは秒速30万キロ。つまり光の速さと同じだ。あらかじめセットされた目標に向かって、宇宙空間を突き進む。

それでも目標に近づくまでには、4年以上かかる。その間、ぼくはぐっすり眠っているだけでいい。目標に近づいたとき、ひとりでに目が覚めるように設計されていた。そして目が覚めた直後に、宇宙船は予想外の大きな磁気嵐に遭遇。自動操縦装置が故障してしまったのだ。あわてて手動に切り替えたが、うまくコントロールできない。さあ、大変だ。汗がどっと噴き出したことは覚えている。

だが、そこから先はどうしても思い出せない。また眠気が襲ってきた。

≪2≫ マーヤ あくる日の朝、ぼくは車いすに乗せられた。きのう見た胸番号「71」の女性看護師が、車を押してくれている。廊下に出ると、風景は日本の大病院とそう変わらない。患者とおぼしき人や女性看護師、それに医師らしい白衣姿の男性も廊下を歩いていた。気が付いたのは、男性の左胸につけられた青いプレート。そこには「48」と書かれていた。

「外へ出てみましょうか」と、女性看護師「71」が言う。車いすは自動で動き出し、ミズ「71」は車いすに全く手を触れずに歩いている。やっぱり、ここは地球じゃない。広大な庭が広がり、コスモスのような花も咲いている。遠くには低い山も見える。日の光が降り注ぎ、気温は20度ぐらいか。とても気持ちのいい朝だった。

思い切って、聞いてみた。
――いったい、ここは、どこなの?
「ダーストンという星です。人口はおよそ1000万人。別の星から移住してきた人たちの子孫です。ダーストンはベートンという大きな星の周りを回っている惑星で、1年は168日です」

――どうして、ぼくはこの病院にいるんだろう?
「貴方の宇宙船がこの星の近くで事故を起こしたそうです。あやうく地上に激突しそうになったとき、この国の宇宙救援隊が出動して保護したと聞いています。しかし大気圏に突入したときのショックで、貴方は重傷を負いました。この病院に運ばれ、手術を受けたのですよ」

――貴女はどうして日本語をしゃべれるのですか?
「貴方の救出を決めた科学院の命令で、この病院の医師が貴方の言語中枢から日本語の記憶をコピーし、私の頭にインストールしたからです。ですからダーストンのなかで日本語ができるのは私だけ。ダーストン語と日本語を、瞬間的に同時通訳できる機能も植えつけられました」

――えっ、どういうこと?
「もう、お気づきだと思いますが、私はロボットです。名前はマーヤ。貴方の世話をするために改造されました」

≪3≫ ブルトン院長 本当にびっくりした。たしかにロボット的な感じもしなくはなかったが、すました顔の愛くるしい目。それに健康そうな小麦色の肌は、とてもロボットとは思えない。喋るときには、表情さえ変わる。

「きょうの午後は、貴方の手術をされたブルトン院長の回診があります。とてもいい方ですから、何でも聞いてみてください。私が完全に通訳しますので、ご安心を」と、マーヤがにこやかに告げた。

ブルトン院長は長身で、見るからに信頼できそうな紳士だった。白衣には「48」の青いプレートが付いているから、きのう廊下で行き違った先生に違いない。面長で整った顔立ちは、地球でいえば北欧系に似ている。これも白衣を着た2人の女性看護師を引き連れて、病室に入ってきた。

「やあ、すっかり元気になりましたね。ちょうど一週間前、貴方はこの病院に運び込まれました。宇宙船の事故で全身打撲、特に頭部の損傷が激しかった。私とここにいる2人の看護師で手術をしたのです。もう心配ありませんよ。明日からは外出もできるでしょう」

――えっ、たった一週間で、こんなに良くなったんですか。
「この国の医療技術は、究極の水準に達しているのです。骨折などは1日で治せます。貴方の頭は脳細胞を培養して元通りに作り直しました。完全復旧ですから、記憶や神経系統も事故前の状態に戻っています」

――本当に素晴らしいですね。心から感謝します。
「どんな病気でも怪我でも、完全に治せます。たとえば病気になった人も大けがをした人も、すべて元の体に戻せるのです。極端なことを言えば、自殺をしてもムダというわけですね。ですから、この国の人間は死ななくなってしまったのですよ。医学的にみれば大変な成果ですが、別の大問題も発生しました。要するに人口問題です」

――そうか、人口が増え続けてしまうのですね。
「はい。それが大問題になりました。でも、その話は近いうちに詳しく説明しましょう。きょうは明日からの外出に備えて、ちょっとした手術を受けてもらわなければなりませんから」

≪4≫ 胸番号の意味 卵型の小型車に、マーヤと乗っている。病院の玄関から幹線道路に出て、8車線の高速道路へ。すべて自動運転だ。だいいち、この車には運転席がない。きょうは科学院長に会いに行くのだ。高速道路では300キロぐらいのスピードで走った。だから100キロほど離れた隣町の科学院に、アッという間に到着する。それでも、マーヤにいろいろ質問する時間はあった。

まずはきのう受けた手術で、ぼくの左胸に付けられたプレートのこと。病室に戻って鏡を見ると、ガウンの上に緑色のプレートがくっきり。番号は「66」だった。驚いたのはガウンを脱いでも下着のシャツに同じプレートが。下着を脱ぐと、こんどは肌の上にプレートが現われたではないか。

――マーヤ、このプレートはなんなのだ。ぼくの「66」という番号は、何を意味しているんだ?
マーヤは平然とした口調で、こう答えた。
「数字はその人の年齢よ。男の人は青色。女の人は赤。私たちロボットは、みんな黄色です。貴方のような異星人は緑色。お判りですか」

――では、ぼくは66歳になったってこと?
「いいえ。この星では、みんな100から引いた数字で年齢を表します。だから、いま「71」の私も、もうすぐ「「70」に変わります。貴方は34歳。私より5歳上のお兄さんということになりますわ。なぜ、そんな面倒な数字を使うのかは、もうすぐお会いになるウラノス博士に聞いてください」

――ふーん、判った。で、そのウラノス博士は、どんな人?
「この国の重要事項を決める機関が賢人会議です。6人で構成されていますが、ウラノス博士はそのうちの1人です。科学院の院長さんを兼任し、科学や技術の最高責任者。とても博識で判断も間違わないので、国民の間でも人気が高い人ですわ。私にはよく判りませんが、賢人会議でも議長のような役を果たしているのではないでしょうか」

――でも、そんなに偉い人が、なぜ僕と会ってくれるのだろう。
「それも私には判りません。ただロボット仲間から聞いた情報によると、貴方の宇宙船が事故を起こしたとき、素早く宇宙救援隊に出動を命じたのはウラノス博士だということです。昨夜、博士から病院に連絡があって、きょう私がお連れすることになりました。さあ、もう到着します」

≪5≫ UFOの正体 そのウラノス博士は、大きな声をあげながら両手を前に突き出した。そう、この星では両手を重ね合わすことが挨拶だと、車のなかでマーヤに教わったばかり。ぼくも慌てて両手を差し伸べる。
「元気になったようじゃね。結構、結構。まあ、そこに座ってくれたまえ」

白髪で丸顔、広いおでこに鋭い眼。でも声は柔らかい。小太りの身体を黄色いローブのような衣服で覆っていた。まるでギリシャ時代の典型的な賢者に見える。左胸には青いプレート。数字は「12」だ。えっ、ということは88歳か。とても、そんな歳には見えない。顔や手にも皺がなく、つやつやしている。

ウラノス博士が低い声で、ゆっくりと話し始めた。隣に座ったマーヤが、即座に通訳する。
「われわれは、地球のことをかなり知っておるよ。だいぶ以前から、地球の周辺にUFOを飛ばして情報収集はしているんだ。ふだんは地球人の目に触れることはないんだが、緊急連絡のときに出力を上げると船体がどうしても光ってしまう。それで地球人に見られることもあるんじゃ」

なるほど、UFOというのはこの国のスパイ宇宙船だったのか。
「貴方の記憶も分析させてもらったよ。メタン・ガスが成層圏に滞留して、気温が低下したんだね」
――はい。最初は温室効果で気温が上昇しましたが、その後は太陽の光が届きにくくなり、赤道の真下でも雪が降るようになったのです。
「それで食料に困り、人間が大量に脱出できる別の星を探し始めた?」

――その通りです。5機の高速宇宙船を造り、見当を付けた5つの星に向かって、各国の飛行士が飛び立ったのです。私はケンタウルス座の方向にある4.2光年離れた恒星プロキシマ・ケンタウリの惑星プロキシマb星に向かいました。
「地球人がプロキシマ・ケンタウリと呼んだ恒星は、われわれの言うべートンじゃよ。ほら、あそこに輝いておる。だから君は計画どおり、この星に到着したわけだ。宇宙船は壊れてしまったがね」

そうだ。宇宙船が壊れてしまったから、ぼくはもう地球に帰れない。でも命を助けてもらったんだから、お礼ぐらいは言っておかないと。
――言い遅れましたが、救助していただいて有難うございました。
「いや、礼には及ばんよ。困ったときは、お互いさまだ。それに君にはやってもらいたいことがあるんじゃ。いずれ、だんだんと説明するが、とにかくダーストンのことをよく勉強してほしい」

博士の目が妖しくキラリと光った。

      ≪15日の日経平均 = 下げ -141.23円≫

      【今週の日経平均予想 = 3勝2敗】
                               
                             (続きは明日)       

新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2017-12-10 08:06:43 | SF
第1章  ダー ス ト ン 星 

≪11≫ マーヤの激励 = あくる朝、ぼくはまだ憂鬱な思いを引きずっていた。宇宙船が壊れてしまったから、もう地球には帰れないだろう。地球は、日本はどうなっているのだろう。凍り付いてしまったのかしら。ほかの4人の宇宙飛行士は、ここよりずっと遠くの星を目指したのだから、まだ飛んでいるはずだ。いろんな思いが、頭のなかで交錯する。

そのときドアが開いて、マーヤが朝食を持って現れた。「お早うございます」の挨拶も忘れない。

――お早う。この食事は、どこから来るの?
「食事を作っている工場に注文すると、車かドローンですぐに届けてくれます。なんでも冷めないうちに届きますよ」

――どうやって注文するの?
マーヤは自分の頭を指さして「ここから工場のロボットに通信を送ります。車を呼ぶときも、だれかとの面会を予約するときも、私が相手の担当ロボットと通信すれば完了してしまいます。そうそう、先日ブルトン医師から紹介されたメンデール教授との面会は、明後日の午後2時に決まりました」

――それは有難う。要するに君はスマホでもあるわけだ。だから、この国の人はロボットが傍にいるから、スマホを持っていないんだ。ロボットは人間以上に優秀だね。
「でもロボットはロボットで、いろんな問題を抱えているんです。あさって会うメンデール教授は、科学技術全般とロボット問題の最高責任者ですから、私も興味津々。ロボット仲間が、いまから話の内容を教えてほしいと言ってきていますわ」

――ロボット同士の通信網も発達しているわけだ。
マーヤの顔が急に明るくなった。「いまちょうど、ウラノス科学院長の秘書ロボットから情報が入っています。彼女が言うには、地球の冷却化は止まったそうです。賢人会が3年前に冷却化を止めるよう指示を出し、最近になってその成功が確認されたと言っています」

――えっ、本当かい。どうして冷却化が止められたんだろう。

「詳しいことは、メンデール教授に聞いてください。でも私たちが情報を流したとなると怒られますから、上手に聞いてくださいね。とにかく、よかったじゃないですか。元気を出しましょう」

とうとう、ロボットに励まされてしまった。でも明るいニュースを聞いて、ぼくの気持ちも明るくなった。心のなかで「マーヤ、ありがとう」と言う。


Zenback

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