フランスで夏たけなわになると
『ペッシュ・ド・ヴィーニュ』という果物が
ブルゴーニュ地方からその南のアルデッシュ地方にかけて出回ります
ペッシュ(Péche)は桃
ヴィーニュ(Vigne)は葡。
文字どおり訳せば「ぶどう桃」.....
ブルゴーニュの
丘の斜面にあるぶどう畑の縁取りに植えられていた(自生していた?)
かなり原始的な桃で
パリなどでは実物を見る機会はほとんどありません。
大きさはそれなりに普通の桃くらいはありますが
日本の桃よりはるかに野性味溢れて
髭面と言っていいほどの濃い産毛に覆われています
で
切ってみると「あらまビックリ」なんです。
なんと、中は真っ赤
要するに
ぶどうの身を一粒切ってみたような
別名「Peche sanguine(ペッシュ・サンギーヌ)」とも言います
sannguin(サンギャン)の 女性形で
末尾に "e" がつきます
「血まみれの」とでも訳しますか
グレープフルーツに、中が赤いのがあるでしょう
あれを
フランスでは Pamplemousse Sanguin (パンプルムース・サンギャン)
と言います。
ま
命名の由来はそんな感じ
日本の果物の
非常に甘くて果汁たっぷりな特徴に慣れていらっしゃる日本の方には
硬めでゴリゴリした食感
結構酸味もあってコクのある個性的な味わいです
でも
フランス人
特に中央部出身の人たちにとっては夏の到来を告げる
懐かしいもの
ちょうど「江戸っ子の初鰹」みたいなもの
といえばお分かり頂けるでしょうか。
現地のデザート職人(Patissier パティシエ)たちは
皮もむかずに8つ割か10分割して
溶かしバターの中でソテーしながら砂糖をふってキャラメリゼして皿に並べ、レモンのシャーベットかなんかを添え
ミントの葉っぱを一枚添えたりして素晴らしい一品で
食事を締めてくれたりします。
上の写真は
残念ながら
シャーベットはありませんし生のまま切って並べただけ。。
ところで
このペッシュ・ド・ヴィーニュのリキュールがあるのです
ほんのり赤みがかっている程度のコニャック色で
クレーム・ド・ペッシュ・ド・ヴィーニュ(長い!)と言います
そして、それをシャンパンで割ると
最高の食前酒になるのですよ
実は
ワインの大産地「ブルゴーニュ」のよく知られたリキュールに
「カシス(黒すぐり」のリキュール「クレーム・ド・カシス」
というのがあります
暗赤色のとろりと甘い15度くらいのリキュールで
ケーキの香り付けに使ったりします
これを
ブルゴーニュの『アリゴテ (Aligoté)』という気さくな白ワインで割った
食前酒の鉄板が『キール (Kir)』です
そのキールを
白ワインではなく気取ってシャンパンでわると
『キール・ロワイヤル(Kir Royal)』と呼びます
内証話ですが
くだけたレストランでは普通にキールを頼みますが
もちろんキール・ロワイヤルを頼んでもいいんです。
「ん? なんかいいことあった?」
というような感じ
ところが星付きのような格のレストランでは
当然のごとく「キール・ロワイヤル」しか頼みません。。。
(「ロワイヤルじゃなくて、普通のキールで」と敢えて頼めば
当然礼儀正しく注文を聞いて
丁寧に作ってくるはずですが普通は「ロワイヤル」しか頼まない!)
その
キール・ロワイヤルの「カシスのリキュール(Crème de Cassis)」
の代わりに
『クレーム・ド・ペッシュ・ド・ヴィーニュ』で作ると
これがなんとも言えず美味しいのです。
あまり知る人は多くない
普通の桃より香りが野生的で
その香りがシャンパン(Champagne)で開くと実に妖艶で芳醇な香りに
なります
カシスのリキュールで作る普通のキールより
色が浅くなる
香りが「ミュスク」がかって芳醇
お味の方も
ぐっと濃厚さが増して
もう。。
それを頼む時は
『Kir Royal au Crème de Peche de Vigne』
と言います
または
「Crème de Péche de Vigne au Champagne』
とも。
これ
星付きのレストランなどで食前酒に頼むと
ソムリエは「ニヤッ」と微笑んで
「お主やるな!」みたいな感じで待遇が変わりますよ
あと
ペッシュ・ド・ヴィーニュを使った
デザートを幾つか
ペッシュ・ド・ヴィーニュのタルト薄造り
焼いたペッシュ・ド・ヴィーニュ
の
アール・グレイのシロップ漬け
実は今回
長年暮らしていて初めて「実物」を売っているのに遭遇したので
嬉しくて
つい買ってしまいました。
皆様もフランスにお出かけの際に
レストランでメニューを手渡されて
「食前酒はいかがですか? ( Vous désirez un apéritif ?) と聞かれた際には
是非思い出して
「キール・ロワイヤル・オ・クレーム・ド・ペッシュ・ド・ヴィーニュ
スィル・ヴ・プレ」
と頼んでみてください!
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