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東京・春・音楽祭「ローエングリン」

2018年04月09日 | pocknのコンサート感想録2018
2018年4月5日(木)東京春祭ワーグナー・シリーズvol.9
東京文化会館

【演目】
ワーグナー/「ローエングリン」(演奏会形式)

【出演】
ローエングリン:クラウス・フロリアン・フォークト/エルザ:レジーネ・ハングラー/テルラムント:エギルス・シリンス/オルトルート:ペトラ・ラング/ハインリヒ王:アイン・アンガー/王の伝令:甲斐栄次郎/ブラバントの貴族:大槻孝志、髙梨英次郎、青山 貴、狩野賢一/小姓:今野沙知恵、中須美喜、杉山由紀、中山茉莉
【演奏】
ウルフ・シルマー指揮 NHK交響楽団/東京オペラシンガーズ

今年で14年目を迎えた東京・春・音楽祭は、すっかり東京の花見の時季の一大音楽イベントとして定着した。その音楽祭での目玉が、世界から名歌手を迎え、N響と東京オペラシンガーズがオケと合唱を担うワーグナーのオペラの上演シリーズだ。

「ラインの黄金」以来ご無沙汰していたが、今回は「ローエングリン」をやるというので出掛けることにした。と言うのも、「ローエングリン」は、元々は2011年にやるはずで、その時チケットを買っていたのだが、東日本大震災に伴う原発事故の影響で、外国の演奏家の来日が悉くキャンセルとなって演奏会の中止が相次ぎ、「ローエングリン」も中止となってしまった。その後ワーグナーオペラシリーズは再開したのに、「ローエングリン」は上演されず仕舞いだったが、今年ようやくその出番が回ってきた、ということで、リベンジとしてもこの公演は是非聴いておきたかった。

公演は、ソリスト、オケ、合唱、どれもが充実した、ハイレベルの上演となった。まずは、純国産のオケと合唱を称賛したい。ウルフ・シルマー指揮のN響は、天国的な前奏曲から幕切れに至るまで、息切れすることなく、充実した豊かな響きを保ち、高いテンションで雄弁に語り、歌い、時に叫び声を上げた。バンダも臨場感を高めた。コンマス席には、昨年からN響のゲストコンマスに就任した元ウィーン・フィルのライナー・キュッヒルが座り、積極的にオケを先導。オケの響きそのものを変えるまでではなかったが、とりわけ甘美で柔らかな語り口が、陶酔感を伴って聴き手を魅了した。東京オペラシンガーズの合唱は、パワー、密度の濃さ、響きの艶といった合唱の魅力を全て具え、奥行きのある表現力で聴き手を魅了、2015年にウィーンで聴いたシュターツオーパーの合唱よりも強いインパクトがあった。

シルマーの指揮は、目も眩むような陶酔や、心を鷲掴みにするような激情といったアグレッシブさには欠けたものの、堅実で的確にドラマの核心と、その移り変わりを捉え、オーケストラと合唱から、雄弁な表現を引き出していた点で、職人的な巧さを感じた。

歌手陣は、世界の歌劇場で活躍するワーグナーを得意とする歌手の選りすぐりだけに、レベルは総じて高かった。とりわけ期待が大きかったのは、ローエングリン役で高い評価を得ているフォークト。柔らかな美声が持ち味で、とろけるような繊細で甘美な表現力は、女心を捉えるに相応しいとは思ったが、「ヘルデンテノール」と言われていることからイメージした、燦然と輝く神々しいパワーよりは、ちょっと女たらし系のいい男という感じで、強烈に圧倒するタイプではない。

強烈という点では、オルトルートを歌ったペトラ・ラングが群を抜いていた。怒りや憎しみ、焦燥などを、感情剥き出しの、凄味と張りのある声でリアルに表現して、場のテンションを盛り上げた。ハインリヒ王を歌ったアイン・アンガーの貫禄と包容力、テルラムント役、エギルス・シリンスの人間臭い深みのある声と表現力も印象に残った。エルザ役のハングラーは、器の大きさを感じたが、少々歌唱に不安定さを感じた。そんな海外勢に交じって、王の伝令役として出演した甲斐栄次郎も存在感抜群。ピュアで芯の通った声が、ホールに堂々と響き渡った。

総じてハイレベルの公演だったが、エルザがローエングリンに素性を訊くやり取りでの緊迫感や、ローエングリンが自らの素性を明かす場面での神々しさなど、このオペラでの最大の聴かせどころで、オケも含めてもっと「極限のパフォーマンス」を聴きたかった。

東京・春・音楽祭「ラインの黄金」 ~2014.4.7 東京文化会館~
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さびしいみすゞ、かなしいみすゞ ~金子みすゞの詩による歌曲集~

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