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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

岡田博美 ピアノリサイタル

2008年02月29日 | pocknのコンサート感想録2008
2月29日(金)岡田博美(Pf)
トッパンホール
【曲目】
1. ウェーベルン/ピアノのための変奏曲Op.27
2.バッハ/ゴルトベルク変奏曲BWV988


小川典子のリサイタルの感想でも触れた岡田博美は、多分コンクールに出場していた頃から僕が知っているなかでも一番古い演奏家だ。1979年の毎コンと、84年の日本国際音楽コンクールで弾いたブラームスの「パガニーニの主題による変奏曲」の、切れ味の良い研ぎ澄まされた演奏に強い印象を受け、継続して聴いて行きたいと思いつつ随分ご無沙汰してしまった。リサイタルを聴くのはもう10年以上ぶりかも知れない。

久々のリサイタル。プログラムがいかにも岡田らしい。ウェーベルンとバッハ、どちらもピュアな演奏が期待できる。まずはウェーベルンを聴いて、予想していたクリアでクールなイメージの演奏と違って、より練られた柔らかな音色、人間の息の温かみを感じた。

続けての「ゴルトベルク変奏曲」では、ステージ上は岡田に落ちる1本のスポットライトのみで会場の照明もぐっと落とされてプログラムが読めない。変奏の1つ1つ、カノンの形なんかをプログラムで確認しながら聴きたかったのだができない。それほど聞き込んでいる曲でないだけに、何もなしだとその点は暗中模索。もうカノンとかの形式を気にするのはやめ、ただ無心にピアノを聴くしかない。

岡田は譜面を置いての演奏。ゆっくりとしたアリアが始まる。その音はウェーベルンのときの印象に重なるふわっと広がる温かみのある音だ。そして繰り広げられる変奏はゆっくり目のテンポですべてにリピートを入れる。実に90分にも及ぶ長いゴルトベルクだった。

この曲、ある伯爵の不眠症を癒すために作られた一種の「ヒーリングミュージック」と言われているが、一説では趣向を凝らした様々な変奏やカノンの謎解きが、難しい数式を解くのと似た効果で眠くなるのを狙った、というのを聞いたことがある。プログラムの助けを失って、ただ暗い中で聴くことになった今回は、前者の「ヒーリングミュージック」としての効果が働き、聴いていてすっかり気持ちよくなってしまった。でも不思議と居眠りまでは落ちずに、いつでも音ははっきりと聴こえている。半ば催眠術的な世界にときおり誘い込まれる90分だった。

そんな中での感想… 岡田のピアノは、やはり以前のイメージとはいろいろな点で違う。これは明らかな変化であり、円熟と言える気がする。音に養分がたっぷり染み込み味わいがある。ストレートだった表現が上質の包装紙でコーティングされ、様々な色合いを出している。そして全体の姿はミケランジェロの彫像のように美しく気高く力強い。無類の正確なタッチや集中力は岡田の昔からの持ち味で、それに更に磨きがかかっている。腕と才能を持ち合わせた音楽家が常に精進して到達することのできる境地に岡田は立っているのを感じた。

こんな大雑把な感想しか述べられないのは少々残念。プログラムの助けがなくても1つ1つの変奏やカノンについてもっと楽しめるように準備をしておくべきだった… だけど、とても満足感と充実感を得られた今夜のリサイタルだった。

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