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足繁く通う演奏会の感想等でクラシック音楽を追求/面白すぎる台湾/イタリアやドイツの旅日記/「ドイツ留学相談室」併設

ミシェル・ダルベルト ピアノリサイタル

2020年02月07日 | pocknのコンサート感想録2020
2月5日(水)ミシェル・ダルベルト(Pf)
~ドビュッシー前奏曲集~
王子ホール

【ドビュッシー:前奏曲集 全曲】
<地>
♪ 枯葉
♪ 亜麻色の髪の乙女
♪ ヒースの荒野
♪ 奇人ラヴィーヌ将軍
♪ ピクウィック殿をたたえて
♪ 交代する三度
♪ ミンストレル
<風>
♪ 野を渡る風
<エーテル>
♪ 妖精たちはあでやかな踊り子
<水>
♪ 水の精
♪ 沈める寺
♪ ♪ ♪

<地 / 風>
♪ デルフィの舞姫
<風 / エーテル>
♪ パックの踊り
♪ 夕べの大気に漂う音と香り
<地 / 水>
♪ 雪の上の足跡
<地 / 火>
♪ 花火
♪ とだえたセレナード
♪ ヴィーノの門
<地 / エーテル>
♪ 月の光が降り注ぐテラス
♪ カノープ
<地 / 水 / 火>
♪ アナカプリの丘
<風 / 水 / 火>
♪ 西風の見たもの
<風 / 水 / エーテル>
♪ 霧
♪ ヴェール(帆)

【アンコール】
♪ ラヴェル/夜のガスパール~オンディーヌ


古今のピアノ作品の代表作の一つに数えられるドビュッシーの前奏曲集だが、1巻と2巻の全曲をやるリサイタルにお目にかかることは滅多にない。これをミシェル・ダルベルトが王子ホールでやるとなれば聴かないわけにはいかない。ダルベルトのリサイタルは5年ぶり2回目。前回のピアニズムが冴え渡った演奏はよく覚えている。ただ、盛りだくさんなプログラムでリサイタル全体の焦点が少し曖昧に感じもした前回に対し、はっきりと焦点が見えたリサイタルとなった。

当日のプログラムを見て意表を突いたのは、「デルフィの舞姫」から順番にやると思っていたのが1巻も2巻も関係なくシャッフルされ、見たこともない演奏順になっていたこと。ダルベルトの記したプログラムノートによれば、24曲をエンペドクレスが唱えた四大元素である地、火、水、風に、アリストテレスが唱えたエーテルを加えた5つの元素を各曲につなげるアイディアで全曲の並びを再構成したと云う。こうした明確なコンセプトによって提示された前奏曲集は、1曲1曲が強烈なインパクトを持って聴き手に訴えかけてきた。

5つの元素に結びつけたダルベルトの意図の全てを理解できたわけではないが、とりわけ「地」と「火」の曲が強烈だった。「地」にカテゴライズされた「奇人ラヴィーヌ将軍」や「ミンストレル」での、大地を力強く蹴りつけるような勢いからは、土の臭いと人間の熱い吐息が感じられ、「枯葉」や「亜麻色の髪の乙女」は、穏やかでたゆたうような抒情ではなく、大地からのエネルギーが伝わった。

これらに限らずどの楽曲からも「鼓動」や「躍動」と云った人間の生命力が強く感じられた。「地/火」に分類した「花火」は、筒から火を噴いて天空に放たれ、凄まじい熱と勢いをリアルに伝え、「地/水/火」の「アナカプリの丘」は、南の島の陽気さよりも強い日差しの下での血沸き肉躍る情景が浮かんだ。「夕べの大気に漂う音と香り」のような曲も含め、どの楽曲も淡い色彩の風薫る柔らかな感触とは異なる、魂に直に触れるような赤裸々な姿が見えるよう。

ダルベルトの鋭く強靭なタッチから生まれる音は実に良く鳴り響き(今夜はベヒシュタインD282を使用)、ホールを揺るがすような大音響にもなる。ドビュッシーの音楽にしばしば貼られる「印象派」というレッテルをドビュッシーが嫌っていたことをダルベルトはプログラムノートに記し、「象徴主義者という言葉を強く気に入っていた」と紹介している。ダルベルトが奏でるドビュッシーは、そんな強靭なタッチと鮮やかなテクニックでヴェールやロマンティシズムを取り払い、まさしく対象を象徴的に強い意志と方向性で描き、生命力と躍動感に溢れたドビュッシー像を打ち立てた。

そんな明確な意志を伝えるダルベルトだが、最後の音の響きをダンパーペダルに任せて鍵盤から両手を離してハンカチで汗を拭うなど、音が消える前に演奏から現実の世界に戻っている様子をしばしば見かけた(最後の曲も)のは不思議だった。

ミシェル・ダルベルト ピアノ・リサイタル 2014.10.16 紀尾井ホール
♪ブログ管理人の作曲♪
「星去りぬ」~フルートとギターのための~
Fl:佐々木真/G:岩永善信

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