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新作歌曲の会 第17回演奏会

2016年08月02日 | pocknのコンサート感想録2016
7月30日(土)新作歌曲の会 第17回演奏会
東京文化会館小ホール


【曲目】
1.高濱絵里子/『銀色夏生の詩による3つの歌曲 ~Trois Chansons for Baritone and Piano~』
~胸があなたにふれた時/野ばら/君のそばで会おう~
Bar:鎌田直純/Pf:高濱絵里子
2.高島 豊/『愛しい人! ~ニキ・ド・サンファルの詩(うた)より』
~愛しい人、どうしてあなたは行ってしまったの?/どうしてあなたは私を愛してくれないの?/愛しい人、あなたは何をしているの?~
MS:小泉詠子/Pf:藤原亜美
3.鈴木静哉/『立原道造へのオマージュ』-「夜想樂」「愛する」からⅠ 
T:横山和彦/Pf:小田切舞美
4.大政直人/『ワイン』より
「ワインの魂」「恋人同士のワイン」「孤独な男のワイン」(詩:シュテファン・ゲオルゲ)
S:平井香織/Pf:藤原亜美
♪ ♪ ♪

5.近藤春恵/「Moh-ashibi」改訂版(詩:沖縄の民謡から)
Bar:石崎秀和/Vc:阪田宏彰
6.和泉耕二/『重吉のうた』より
~空が 凝視(み)てゐる/かなかな/胡蝶~(詩:八木重吉)
S:佐藤貴子/Pf:和泉真弓
7.金田潮兒/失われ市もの ~男声とピアノの為の~(詩:金田潮兒)
T:横山和彦/Pf:前田菜月
8. 野澤啓子/『おおきな木』より「花の店」「驟雨」(詩:長田 弘)
MS:紙谷弘子/Pf:野澤啓子

1年半ぶりの開催となった「新作歌曲の会」演奏会に、有りがたくもまた参加させて頂くことができた。大勢のお客さんが集まってくださり、多彩な作品が優れた演奏で披露され、益々充実した演奏会となった。毎度のことながら、まず拙作以外の発表作について感想を述べ、最後に拙作について書いておきたい。

トップバッターは、この会初参加の高濱さんの、銀色夏生の詩による作品。心地よい色彩感と香りを伴い、生き生きと動き回るピアノの調べに、柔らかくファンタジックな歌がふわりと乗っている感じ。鎌田さんの透明で繊細な歌と、高濱さんのピアノが楽しげに戯れているようだった。

拙作の発表のあとは、鈴木先生の「立原道造へのオマージュ」。道造のデリケートで優しい詩の世界が、鈴木先生持ち前の、繊細でクリアかつドラマ性を秘めた筆致で綴られていた。横山さんの歌唱は、温かく柔らかな美声と美しい言葉の発音でしみじみと語りかけてきた。小田切さんの澄んだ音色のピアノが、その歌に優しく応え、またある時は歌を導き、幸福感溢れるアンサンブルの妙を楽しんだ。

大政さんの「ワイン」は、歌もピアノも熟成したワインのほのかな香りを伴って、軽やかにワインの魅力が綴られていった。藤原さんのピアノは端正な中にフワリと香りたつ魅力を湛え、音楽の色彩感を演出し、平井さんのソプラノの清澄にして繊細な美しい歌唱は、ワインの精のような様相さえ漂わせていた。

後半最初は、近藤さんの沖縄民謡を取り入れた作品。楽器はチェロ1本で、ハーモニクスや重音、ピッチカート等の奏法を駆使して、三線のイメージを醸しながら、歌とは完全に独立した意思を持ち、対峙して行く。そこに発せられる石崎さんのバリトンの朗々とした歌唱が身体の底から沸き上がってきて、素朴に力強く聴き手に訴えてきた。後半で会場に鳴り響いたクラベスの乾いた澄んだ音色が、異世界へと誘うように感じられた。

和泉さんの「重吉のうた」、これはとにかく胸に沁みた。音楽に全く無理させることなく、静かに自然に、しかし底にパワーを秘めて、しみじみと歌いかけてくる。この音楽の格調高い佇まいと親密さはどこから来るのだろうか。佐藤さんの澄みきった美声による、気高さの中に温かさを内包した歌と、真弓さんの慈しみながら歌い上げるピアノによるデュオを聴いているうちに、音が発せられているのに、重吉の詩が描く情景が、無音の中に佇んでいるような錯覚を覚える。マイナスイオンが身体全体に染み渡り、純粋な感動に涙が出そうになる。いつまでも聴いていたい幸福感を味わった。

金田さんの「失われしもの」は、作曲者自身の作詞による作品。一見淡々と歌い継がれて行く歌には、揺らぐことのない生命力に貫かれている。演奏会前半で、体調不良のため出演できなかった小林大作さんのピンチヒッターで既に1曲演奏した横山さんだが、ここでは益々パワーを蓄えて、作品に秘められた力を、前田さんの色彩感と持続性のあるピアノと共に聴かせてくれた。

演奏会最後は野澤さんの作品。野澤さんがこのところ続けて取り上げている長田弘の詩集「おおきな木」への作曲。散文的な詩の描写に合った筆致で綴られた音楽からは、ささやかな感動がふと湧き上がったり、花の色彩や香り、雨のニオイや湿感など、さまざまな場面で五感を快く刺激してくる。紙谷さんのメゾは熱く濃密なものを優しく滑らかに開放する柔軟性があって、微妙に変化する情景や感情を上手く伝え、野澤さんのピアノは叙事的な中にハッとする心の動きを捉えながら、詩が伝えようとしている新鮮なシーンを見事に描いていた。

♪ ♪ ♪

最後に拙作「愛しい人!」の曲と演奏について。これまで6回参加の機会を頂いた「新作歌曲の会」の演奏会では、全て金子みすゞの詩から選んで曲を付けてきた。今回も、みすゞの詩を選んでいたところ、去年の秋、国立新美術館で行われたフランスのアーティスト、ニキ・ド・サンファル展に出かけ、そこで観たニキの版画に書きこまれていた言葉の和訳に、たちまち「これを歌にしたい!」と、みすゞはお休みして作曲を始めた。しかし途中思うように筆が進まず、やっぱりみすゞに戻ろうとさえ思ったことがあったが、最後は、初めに思い描いたものを仕上げることができた。

そして今日の本番。ニキの魂が乗り移ったかのような小泉さんのドラマチックな熱唱を聴き、曲を頑張って仕上げて本当によかったと思った。小泉さんは、原詩にまで遡って詩を読み込み、時々登場する声楽的とは言えない旋律の動きの意味も追求し、詩と音楽を完全に自分のものとして消化し、それを全身で表現してくださった。焦燥、憧れ、愛、怒り、追憶・・・ 目まぐるしく変わるニキの心になりきり、豊かな表現力とダイナミックレンジの広いパワフルな美声で、モノオペラのようにドラマチックに熱く歌い、演じた。まさにニキをリアルに体験している気持ち。

藤原さんのピアノは、繊細さと強靭さを兼ね備え、譜面から読み取ったものと、リアルタイムで進行する小泉さんの歌に瞬時に反応して、歌と共にドラマを作り上げて行った。ピアノの蓋は全開だが、常に歌のパートとのバランスを取り、歌を盛り上げて行く演出力もさすが。自分の曲ということも忘れてお二人の演奏にのめり込んでしまった。

最後に「いとしいひと」とピアノ無しでカデンツァ風に歌うフレーズは、譜面にはない小泉さんのオリジナル。作曲と歌のコラボというこの演奏会シリーズの趣旨を汲んで小泉さんにお任せしたが、これがまた幕切れの感情吐露の効果があり見事だった。

自分の書いた曲が、作曲者の手から飛び立ち、曲が持つ以上の力を蓄え、訴えかけてくるという稀有な体験。これこそ作曲者冥利に尽きることで、小泉さんと藤原さんには感謝の言葉も見つからない。

♪ ♪ ♪

今回の演奏会には、例年にも増してたくさんの友人やお世話になっている方々にいらして頂けました。花束やお菓子など、たくさんのお心遣いも頂戴しました。お越し頂いた皆さまや応援してくださった皆さまに心から御礼申し上げます。


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