A5-PROi
A5-PROiは「いわゆる低音強調DJヘッドホン」ではない。そもそも「DJヘッドホン=低音強調」というのが誤解ではあるのだが、DJ用とは別に「低音強調ヘッドホン」の流れもあり、それと混同されがちな面が強いのかと思う。
DJヘッドホンは“プレイヤー”であるDJが自らの演奏をよりクリアにモニタリングできることが第一。対して低音強調ヘッドホンは、一部のリスナーの好みを意識して作られている。とはいえ低音強調されているDJモデルもあるし、その方がモニターしやすいというDJもいるとは思うので、明確な境界線があるわけではない。
音質
女性ボーカルとアコースティックギターの二人だけによるシンプルな編成の曲を聴いてみる。FAKiE「(They Long to Be)Close to You」「Ride on Time」だ。フラメンコ用のギターを力強くピッキングする、その音のスパッとした立ち上がりの再現性が光る。アタックが鈍らず、そのあとのボディ鳴りの中低域が膨らみすぎることもなく、リズムのキレがバシッと秀逸。DJプレイにおいてリズムの正確な把握は生命線のひとつであろうから、そこの確かさは当然なのかもしれない。しかしここまでのレベルで実現できているヘッドホンは、実際にはあまりない。
■空間表現と密度の高い再現を両立している点にも好印象
ボーカルの透明感や伸びも見事。高域側の歪みや濁りは感じられない。ボーカル自体の再現のクリアさもそうだが、その後ろで鳴っているギターとの分離のクリアさや、さらに背景の空間性のクリアさや広さといった要素も貢献しているだろう。またダイナミクス、歌や演奏の抑揚も豊かに表現されている。
この感触なら相性が良いはず、と次に聴いてみたのは喜多村英梨さん「掌 -show-」。プログレッシブ・メタルの影響を感じさせる複雑で高密度な曲だ。下手なヘッドホンで聴くとゴチャゴチャ詰め込んだだけの曲にも聴こえてしまうが、しっかりとしたヘッドホンで聴けば、その緻密な構築を感じられる。A5-PROiはその期待に応えてくれた。
この曲でオーディオ的に難しいところはまずは、複雑に踏まれるバスドラムだ。アタックをしっかり出さないとリズムのその複雑さがぼやける。アタックばかりで胴の響きが出てこないとヘヴィさが足りない。その響きがボワンとした低音になってしまえばリズムの明確さやスピード感が失われる。A5-PROiはそれらの要素をバランスよく満たし、中低音楽器においてもリズムを正確に把握できる音を実現。実に期待通りだ。
こうした「バスドラムの胴鳴りの低音がタイトかつ豊かに響く」という点にも関連するが、密閉型ヘッドホンにしては空間に余裕があることもポイント。様々な音が詰め込まれた高密度なアレンジでも音と音が重なりすぎることなく、「ゴチャゴチャしない高密度」として成立。情報量が綺麗に詰め込まれているといった印象だ。