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読書レビュー 腐れ梅 澤田瞳子

2022-08-05 20:36:00 | 書評 読書忘備録
腐れ梅 澤田瞳子 装画 大竹彩奈

腐れ梅、とは主人公の綾児:あやこの白い胸に浮かび上がった紅い五つの紅梅のような痣のことだ。
平安京の外れの貧民街のあばら屋に根付き、わずかな銭で、託宣を降ろすという名目で色を売って、その日を暮らす似非巫女の綾児。
男勝りの気性と、どん底生活から這い上がらんとする激しい欲望を抱きながら、見目は天女のような美貌と白く滑らかな肌を有している。
ある日、同じ境遇の巫女、阿鳥から胡散臭いたくらみを持ち掛けられる、二十年前に失脚して遠い左遷先で死んだ菅原道真を自分たちで御霊、天神様として新しく祀り上げて、自分たちが巫女頭として差配し、男たちを見返してやろう。。。というものだ。
最初は誰も馬鹿にして顧みられることの無かった菅原道真の祀社だが、やがて灯火に集まる蟲蛾のように貴族や坊主、薬師や地働きの男共が集まってきて、大きな新興の宗教が盛り上がってゆく。
その管公の巫女として担ぎ上げられながら、実体は貴族同士の利権の競り合いの対象として好き勝手にされている新社を自分のものにしようとして全編を疾走する綾児の存在感と熱こそ、この物語の肝だ。
自分の胸に浮かびあがった紅い痣、じつは淫蕩による性病の徴なのだが、それを御霊菅原公のゆかりの梅の花が神降りた、と宣し信者たちを一気に宗教的熱狂の渦に巻き込む場面は、最高に読みテンションが上がる、上がる!!
正直感想を言うと、装画の大竹綾奈の美しく清純そうな女性の日本画は、確かに日本画として素晴らしく、美しい作品だが、この綾児の存在感に対しては微妙にミスリードされてしまうようでベストマッチとは言えない気がする。
むしろ本編ははかなく幽遠な平安恋愛物語ではなく、激しく生と欲望を叩き付け合うアツくて汗臭く、時に滑稽で哀しい人間群像劇なのだ。澤田瞳子により生き生きと生を得て動きだしたこの物語の人物造形は管公同様に神様となった手塚治虫の往年の傑作「火の鳥」の黎明編や鳳凰編の画面がピッタリと合致する。胸の痣に苦しむ綾児は卑弥呼そのものだし、菅原公新社に群がる欲まみれの貴族たちは鳳凰編にわんさか出てくる手塚キャラそのものだ。何より、火の鳥と管公という目に見えないものに引き寄せられ己の欲望と情熱で物語を縦横に動き回る人間の造形こそ漫画と小説というメディアを超えて繋がった創造の稀実ではないか、と思った。
手塚治虫の新作が読みたい、と焦れていた読書人の貴方、オススメです!







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