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読書レビュー 上田早夕里 夢みる葦笛

2022-06-29 06:53:00 | 書評 読書忘備録

「夢みる葦笛」 上田早夕里 325頁

「夢みる葦笛」/「眼神」/「完全なる脳髄」/「石繭」/「氷波」/「滑車の地」/「プテロス」(*未発表作品)/「楽園(パラディスス)」/「上海フランス租界祁斉路三二〇号」/「アステロイド・ツリーの彼方へ」
2009年から6年をかけてSFやホラーのアンソロジーに掲載した9本に未発表の1本を加えた短編集

表題作が一番古く書いた作品、
いきなり読者の脳髄を鷲掴みます
ある日突然町中に現れたら真っ白なヒト型の生き物
目鼻口が無く頭にイソギンチャクのような触手を揺らめかせています
遠巻きに好奇の目で見つめる人々の前でその生き物は触手の口から奇態な見た目には全くそぐわない美しい歌声と旋律で群集を魅了します
イソアと呼ばれるようになったその生き物は目的も出所も不明のまま増殖し、人々は無気力と多幸感に満ちて世界は静かに壊れてゆきます





そんな世界のなかでマイノリテイとなっってしまった女性ミュージシャン、
「イソアの歌声も、存在も、それに取り込まれた世界も
私は認めない‼ 」 
短編なのに濃密、イソアの歌声を直接脳内に注ぎ込まれたようなプレッシャーに浸れる作品です

彼女の描き出す世界はこの作品のように激しいシーンが盛られていてもどれも奇妙な静けさを孕んでいます。JGバラードかタルコフスキーの空気感に通じるものがあります
あくまでも主人公たちは、やや異能でありながらも人間でありそこには魔法も神々も存在しません

従って世界は我等のものと違っていながら別世界ではなくファンタジイでもないのです
アプローチは各作品で異なっていますが共通して感じられるのは人類の進化、世界の変様への視点です
ストーリーよりも世界観とかスタンス、視点の転換の呈示といったものに作者は重きを置いているようでした




閉塞感を味わったりこの先の展望に不安をいだいたりしている我等の現実に、
このような転換期はどうでしょうか? とか
こんなパラダイムシフトはどうでしょうか?
と次々に魅力的なウインドウを開けてくれるのです

テクノロジーによる新たな知性の創生やヴァーチャル現実に代表される知覚が進みそれをヒトの感覚器に取り込むことによって産まれる新しい世界の見え方といったもの
自分達が展望台を登ってきた階段がある地点で踊り場でくるりと向きを変えて違った視界が開けてる地点に立ったときのように、現実と繋がっていながらも一段ステージが上がったような精神的高揚感に巻かれた感覚

世界って変わるんだ、変わる可能性を持ってるんだ 
そんな明るい目線が一読静かでおとなしい彼女の短編の様々な世界の中に共通して存在しているような気になりました


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