「絵金闇を塗る」 木下昌輝 327頁
丁度先週末、七月の三週目は土佐の赤岡町では絵金祭りだったのですね。
ギャラリーフェイクで一躍有名になった絵金祭り。
小さな南の漁師町の真っ直ぐな通り、夜が更けるとどの家も明かりを消し百目蝋燭の火だけが並んでいる。
揺らめく蝋燭の灯りに照らし出されるのは各家の軒先に並べられた極彩色の血みどろの芝居絵。
血走った眼、見栄を切った異様な立ち姿、乱れる黒髪、
そして絵金の血赤と呼ばれる水銀朱で彩られた鮮血と業火。
闇夜だからこそ揺らめく蝋燭の火に生命を得たように蠢く残酷絵、無惨絵の数々。
今年の絵金まつりは豪雨災害の後の熱帯夜と湿気を得て、更に妖艶、凄壮なものであったことだろう。
いつかは行かねばならぬ私の夢の祭りの一つである。
そして、その絵師、絵金を題にあの木下昌輝が連作短篇を書いた。
時は幕末の土佐、江戸、大阪、そして土佐、更に赤岡。
絵金が絵金と成る前の幼少時代から随時トピックを追って語られる。
だが物語は絵金の成長物語というよりは、初めから妖異なまでに卓越した絵師である絵金が、その絵が動乱の幕末の時代の人物たちの運命の引き金となってゆく様相を描いている。
主役は絵金の絵であり、それに踊る男たちなのだった。
八代目團十郎を感応させ、岡田以蔵を人斬りに狂わせ、
武市半平太も坂本龍馬も絵金の絵に触発されて己の運命の役どころを取り憑かれたように演じてゆく。
以前より絵金を知る者も、この物語で絵金を知った者も
この登場人物たちのように読後に己の内の何者かに出逢い
何者かに変曜するかもしれない。
謎の絵師を謎のままに留めながら読者にこのように傷跡を刻むとは、流石は宇喜多サーガの語り部、我が命名の木下サーカス団の団長である。(笑)
最後に嬉しいお得情報をお知らせしよう。
現在書店では、小説すばる8月号の企画に、あのジョジョの奇妙な冒険の荒木飛呂彦と木下昌輝の豪華対談が10ページに渡って掲載されている。
同じ絵師として荒木飛呂彦が木下の絵金を読んでどのように対抗心を燃やし、こだわりに共感し、製作者ならでは作品見処のツボなどをノリノリで語っていた。
更には岸辺露伴と絵金がスタンド能力で邂逅するエピソードを着想するなど、両者のファンである自分にとってはまさに垂涎の、オイシイネタ満載の対談であった。
時期を逸することなく本書と対談、この二つの夏の課題は早々に片付けることをお奨めする。
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