冥土院日本(MADE IN NIPPON)

次の世代へ語り継ぎたいもの

旧暦のお盆が近づいた。子供の頃、お盆になると普段は静かな我が家がにぎやかになった。親戚縁者が集まりささやかな宴を囲んでは、様々な話題に花が咲いた。そ大人たちの話の中で子供心にも深く印象に残る話題があった。それは戦争の話であった。父が語る極寒のシベリヤ抑留の話。叔父が話す悲惨を極めたビルマ戦線。まだ幼かった兄と姉を連れ、ソ連軍の銃弾の下を逃げ回った、母が語る満州からの引き上げ体験談。遠縁の人が語るB29による恐怖の大空襲の話などであった。戦時中の話もさることながら、戦後の食糧難と貧困の中での苦労話も忘れられない。

各々の体験が大変であればあるほどそれらの危機と苦難を乗り越えて、よくも生き残ったものだという感慨と、失ったものは大きかったが、生きて今の暮らしが送れる幸せという、ささやかな幸福感で話は結ばれた。私は戦争の怖い話が始まると、決まって近くにいる父や叔父の膝の上に逃げ込んだ。父や叔父の身体のぬくもりを感じる事で、少しは安心して話を聞くことが出来たからだ。

私が物心ついた頃は、終戦から既に十年あまりが経過していた。しかし格好の遊び場であった裏山にはまだ防空壕や高射砲陣地跡が残っていた。家の周りの地面を掘れば焼夷弾やら不発弾が出て、大騒ぎとなったこともあった。また当時は、玄関の横に菊のご紋入りの「遺族の家」と書かれた小さなプレートが貼られている家を数多く見かけた。最初はプレートの意味が分からなかったが、垣根越しに見える座敷に軍服姿の遺影が掲げられているのを見て、何となく事情を察した。戦争を知らない戦後生まれの私にとっても、戦争はまだつい昨日の出来事であったし、他人事ではなかった。こうして、まだ読み書きもろくに出来ない幼い子供心にも戦争はしてはならない、あってはならないものという意識がしっかりと植え付けられていった。

今、日本は前の戦争を知る世代が本当に少なくなった。もし周囲にその世代の方がおられるのなら、もう一度話を聞いておきたいものである。そして父母や祖父母から戦中、戦後の話を聞いたことがある方は、是非とも自分の子や孫にその話を語り伝えて頂きたいものである。一部の歴史本やテレビで語られる歪曲された戦争史ではなく、身近な人々が体験した嘘偽りの無い生の声を・・・。

コメント一覧

フォトン
私もそう思います。
戦争体験者の話の中には、混迷の時代を生き抜く知恵と勇気のヒントがたくさん含まれていると思います。

多くの先人達の苦労の上に今の平和があるのですから、その苦労を無にしないためにも、私達の責任は重大です。

お祖父様の記録があるのですか!大変貴重な記録ですね。いつか、ももべえさんのブログでお祖父様の記録をご紹介していただければ、嬉しいですね。

ももべえ
今だからこそ
お盆のころ、親戚が集まった席で亡くなった祖父が戦争の話をするのを、子供の私は居心地の悪い思いで聴いていました。最近になって妹と「もっとおじいちゃんの戦争体験をきちんと聞いておけばよかったね。こどものころはおじいちゃんの話を受け止める器がなかった」と話したところです。世界情勢が不穏な昨今、生きるか死ぬかの戦火をくぐりぬけた体験者の話が貴重なのだと今になってよくわかります。まずは誰もまともに読んでいない(はずの)祖父が残した戦争の記録を、今年のお盆は手にとって読んでみたいと思っています。寡黙だった祖父の思いの丈が記されていると思います。

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