空からマリコ「安全第一」

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【オリジナル】「オスプレイ『安全』問題」の見方

2012-09-23 22:11:50 | report

【オリジナル】「オスプレイ『安全』問題」の見方

 

 ここのブログは基本的に「資料収集の場」なのですが、「オスプレイ『安全』問題」の見方を少しまとめる必要があるのかなと思ってメモをまとめてみました。

 

 この問題について、関心を持つのは事故以外で「1機種の航空機の安全性」がこれほどまで「議論」になったこことは日本ではなかったということからです。

 

 まず、「オスプレイ」という機種について基本的なことに触れます。「オスプレイ」は垂直に離着陸できる「へリコプター」と高速で移動でき、重量物を搭載できる「固定翼機」の両方の特性を持つ「ティルトローター」機という新しい形式の航空機です。ヘリにも固定翼機にも互いの弱点(ヘリの場合は高速では飛べず、また、大きな重量=10トン以上程度=の人員や物資を輸送できない、航空機の場合、離着陸のために長大な滑走路が必要)を補おう、いわば「いいとこ取り」をするということで80年代に開発が始まりました。このティルトローター機というカテゴリーは過去の固定翼機やヘリコプターの経験以外、直面すべきことがありました。それが「モードを変換」するという動きです。

 

 これはパイロットの技量というよりもコンピューターソフトの善し悪しという側面が強く、その発達を待って飛行可能になったという側面が見逃せません。

 

 基本的に飛行機は「バランスの乗り物」です。強風や突風など、バランスが崩れる要因を克服して、どんな状態でも安定して空を飛び、離着陸しなくてはなりません。その中でもっとも不安定になるのが「離陸」と「着陸」です。旅客機では俗に離陸3分、着陸8分、合計11分を「クリティカル・イレブン・ミニッツ」(不安定な11分)と航空関係者は呼んでいます。事実、航空機事故の約8割以上がこの時間に集中しています。

 

 ティルトローター機はこれに加えて「モード変換」の時間・・・オスプレイの場合、「ヘリ→固定翼」19秒、「固定翼→ヘリ」19秒(いずれも最短)と、姿勢が安定する数秒間が「クリティカル・タイム」といえるでしょう。

 

 さて、問題となっている2件の重大事故「モロッコ墜落事故」「オハイオ墜落事故」のいずれも「モード変換」に関係した事故です。

 

<墜落事故>

 

(1)モロッコ墜落事故(2012年4月11日)

 

 モロッコ事故の経緯(シークエンス)を報告書でみてみるとこうです。

 

1)着陸して兵員を降ろす。

2)ヘリモードでヴァチカール・テイクオフ(垂直離陸)

3)高度6メートルまで上昇

4)機首を180度転換、モードを「固定翼」に変換へ。

5)高度15メートルで風速8~15メートルの追い風になる

6)バランスを崩す

7)墜落

 

 8~15メートル(15~30ノット)というと日本のスケールでは「風力7」に相当します。気象庁のスケールでは「枯れ葉が飛び、電線が鳴る程度」と規定される。この風速は決してヘリが飛んではいけないという風力ではありません。しかし、ヘリの着陸の最終フェイズでは「注意しなくていけない風力」であることは間違えありません。不安定な状態では、どんな風でも「危険」であり「様子を見ながらモードを変換すべきだった」と報告書でも語られています。

 

(2)フロリダ墜落事故(2012年6月13日)

 

 一方、6月のフロリダ墜落事故もやはり「モード変換」中に発生しています。

 

1)2機編隊での離陸

2)モードを「固定翼」に変換

3)先行機の直後に機が入る。

4)先行機の後方乱気流(タービランス)に巻き込まれる

3)機の姿勢を立て直せずに墜落

 

 こうしたことからいえることは「モード変換」についてどう扱うかがポイントというだと思われます。

 

 バランスを崩す要因はなんといっても「風」です。地上被害を少なくするためには住宅密集地上空での急激なモード変換は避けるべきだし、機を立て直す余裕をもたせるために、かなり高い安全高度を取る必要があると考えます。安全高度を500ft(約1500メートル)と決めましたが、それだけではダメです。もっと細かいマニュアルをしっかり示すことが必要です。

 

<緊急着陸>

 

 オスプレイが問題になってから緊急着陸も話題になりました。まず、最初にお断りしておきますが、緊急着陸自体を悪いことではありません。地上に人的、あるいは物理的な被害が出ない限り、危険に陥った場合、機長は臆することなく「緊急着陸」を実行すべきと考えます。その前提にたって見た場合、オスプレイの緊急着陸には特徴があると考えます。

 

ノースカロライナ緊急着陸(2012年9月6日)

 

 米ノースカロライナ州で緊急着陸した事故

1)基地へ飛行中、警報

2)白い煙を出しながら緊急着陸

 

 原因はオイル漏れといいます。このブログでも書いたのですが、オイルは難燃性ですので、それが即燃え上がるということはありません。白い煙は高熱部にオイルが触れて気化したものと思われます。降りたら、即燃料供給をカットすれば、燃え上がることはないと思います。しかし、問題は降り方です。それは「基地からわずか5キロ」(メディアによっては3キロ~6キロ)で緊急着陸したということです。

 

 オスプレイはヘリモードでは「双発サイド・タンデム型ヘリ」です。サイド・タンデム型とは左右のローターが、同じ回転数で回って力を出す方向とは逆に回る力(作用と反作用)を打ち消しあってバランスを保つ形式です。

 

 これは、両方のエンジンが正常に動いてバランスを保っている間はいいのですが、片方のエンジンが不調に陥った場合、駆動系だけで、そのバランスを取らなくてはいけないことになります。一応、スペック的には片発停止でも、駆動系は動くことにはなっていますが、片方のエンジンだけ動くということは、振動やトルクも片方に集中するといえます。

 

 さらに問題になっていた「オートローテーション」(全発停止状態での滑空)ですが、森本防衛相は国会の答弁で「1分間に1520メートル」ということを明らかにしています。安全高度とされる1500メートルでトラブルが起こった場合、パイロットに与えられる時間は1分間です。操作上1分間でできることは地上に被害のなさそうな場所に機を持って行くことと、異常があって緊急着陸するということを基地に伝えることぐらいではないかと思われます。

 

 ノースカロライナでの緊急着陸ではエンジントラブル(オイルリーク)で5キロしか離れていない基地にも戻れなかったことを考えると、この操作は相当むずかしいと考える方が自然だと思います。

 

 (●墜落事故)と(●緊急着陸)で見てきたようにオスプレイは「難しい航空機」であることは、間違えはないのですが、それが即欠陥機というレベルではないというのが、正直な感想です。そこで日米合同委が「とりあえず」出した結論が「高度の確保」です。一応高度500ft(150メートル)という目安が出されています。民間ヘリの巡航高度は2000ft(600メートル)、最低安全高度は100ft(30メートル)で、日米合同委提案のオスプレイの確保高度は固定翼機の安全高度相当となります。これなら一応、緊急着陸した際には「安全な場所を探して降りられる」というのが説明です。

 

 しかし、離着陸フェイズでのトラブルはどう考えるか・・。ここは各自治体の疑問には答えてはおりません。問題は「数値的信頼性」だけでなく「感情的信頼性」の方が大きいと私は思うのです。

 

<「数値的信頼性」と「感情的信頼性」>

 

 社会的な安全性とは「数値的信頼性」と「感情的信頼性」の2つから成り立っていると私は考えております。

 

 「数値的信頼性」は事故率などの数字です。例えば現代の航空路線に搭乗していて死亡する確率は6万時間に1回という数字があります。事故数を現在、飛行している航空機の飛行総時間で単純に割り算すれば、そのような数字が出てきます。

 

 ですが、現実には毎年、旅客機が世界のどこかで墜落して死者が発生しています。交流が多い国や利用の多いエアラインで死者が発生すれば著しい場合は国際交流やその会社の搭乗者数にも影響してきます。これが「感情的信頼性」の低下ということです。

 

 とはいえ、片方では、現実問題として自分の乗る旅客機が墜ちて、自分が死んだり大けがをする・・と考える人は多くはないでしょう。本日の時点で「日本で旅客機に乗って死ぬ可能性がある」と思って搭乗する人は少ないはずです。いいかえればJALなりANAなりへの「感情的信頼性」は高いわけです。

 

 さて、オスプレイ受け入れ側である沖縄でもっともヘリ輸送に対して「感情的信頼性」を欠損させたのが2003年に起こった「沖縄国際大学CH47墜落事故」だと思われます。2003年に嘉手納基地近くの沖縄国際大学の敷地内に双発のCH47型ヘリコプターが墜落。乗員4人が死亡、大学建物などが炎上した。この際に米軍は「占領軍」さながらに周囲を縄張りし、大学関係者を含む日本人をシャットアウトしました。

 

 この事故の原因を追求する事故調査は日米合同委員会にかけられましたが、現場保存から残骸回収まですべて米軍の手によって行われ、報告書が日米合同委に文字通り報告されただけでした。一方で沖縄県警の捜査も行われ、死亡乗員を送検はしたものの不起訴となりました。

 

 書きましたように、通常、民間機ではICAO(国際民間航空機関=国連の専門機関の一つ)の規約で、外国機でも事故発生当該国が事故調査の主導権を取り、原因が追求され報告書がまとめられます。自衛隊機事故の場合は、事故調査は各自衛隊の調査委員会が行い、その原因と対策は文民である防衛大臣に報告されます。

 

 しかし、米軍機事故では調査はすべて米軍主導で行われ、日本政府まして被害者である地元は置き去りの状態である。これは軍属の事故や事件は「治外法権」的扱いをしているとまったく同じ構図と沖縄の人たちには考えていると思います。

 

 おそらく、今後、政府が単純に「数値的信頼性」を弾き出しても沖縄世論が「安全性を受容することはない」と思われるのは、過去の米軍の行動、日米政府の安全への対応などの「実績」から「感情的信頼性」がゼロに等しいからだと考えます。

 

<総括>

 

 ただ、いままで見てきたことを踏まえるとオスプレイを沖縄が受容する条件も見えてきます。

 

 第一は技術上の安全。嘉手納という住宅密集地での運用については、まず不安定になる「モード変換」をしないこと。高度を高くとっての急角度の進入などです。もちろんこうした措置が「墜落しない」という保証ではありません。しかし、沖縄の人々の人命、財産への被害の確率を少なくすることはできます。これは「事故防止」という危機管理です。

 

 第二に日米安全保障条約の地位協定の航空事故分野における運用変更。具体的に事故調査と補償については日本政府が主導権を取ることです。日本は独立国であり、自国民への被害についての原因調査と補償に主導権を持つのは当然だと考えます。これは「事故が起こった場合」の危機管理です。日本人の多くが起こさないことが前提という議論をしがちですが、実は「起こった時はこうする」ということを決めておくことは信頼性の観点からとても重要だと思います。

 

 第三にやはり、普天間飛行場の扱いについてです。「オスプレイ」というのは単なる象徴、シンボルでしょう。本筋は日米安保体制の見直し、再構築。その意味で普天間基地移転についての話し合いテーブルを設け、移転を推進するべきでしょう。これは、たんに小手先だけではなく昨今の尖閣、竹島など環境の変化に対応して「全体フレームを常に見直す」という姿勢であるべきでしょう。

 

 もちろん、それは同時に現在日本にとって最大の軍事的脅威である中国について対応するか、しっかりした方針を示したうえでのことです。

 

 


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