空からマリコ「安全第一」

おそらのともだち。安全のこと、空のこと、時々経済、ところによって時事ネタ

ANA:リアル「ミス・パイロット」の実像とは

2013-12-08 00:16:36 | 定期航空

<ANA:リアル「ミス・パイロット」の実像とは>
2013年11月23日(毎日新聞)

ANAの女性パイロットの柴田さとみさん=東京・羽田空港で、米田堅持撮影

 堀北真希さん主演の人気テレビドラマ「ミス・パイロット」(フジテレビ系)でも取り上げれらている女性エアライン・パイロット。ドラマでは制服姿で颯爽(さっそう)と空港を歩く姿が強調されるが、実際はどうなのだろうか? 

 本物の旅客機に乗務する女性パイロットにその「実像」を聞いてみた。【黒川将光】

 ◇きっかけは「YS−11」

 「まもなく(より大型の)ボーイング767へ操縦士としての移行訓練に入ります」というのはANAのボーイング737型機の副操縦士を務める柴田さとみさん(32)。現在、国内線を飛んでいる。全日空グループ全体のパイロットの数は約2400人。そのうち、女性パイロットは24人で1%ほどだ。

 柴田さんがパイロットを目指したきっかけは、小学校3年生の時の八丈島への家族旅行。その際に乗ったのがYS−11だった。「当時はコックピットが見学できて、機長や副操縦士の方が丁寧に説明してくれて、こんな仕事もあると思った」という。実家は航空公園がある埼玉県所沢市で、そのYS−11が展示されており、それを見ながら育った。高校生となり進路決定の時期が来て、教師に「パイロットになりたい」と相談したものの「それは無理」と言われ、勧められたのがキャビン・アテンダント(CA)の道だった。CAは英語が必須なことから明治大学英文科に進学した。

 明大ではチアリーダーを務め、東京六大学野球の応援ステージで踊った。3年になり仲の良かった仲間が「なんとしてもアナウンサーになる」と宣言して放送局の入社試験に取り組む姿を見て「自分の夢は何だったのか」と思ったという。答えは「パイロット」だった。

 ◇忘れられない洞爺湖の光景

 そして受験したのが、パイロットを養成する独立行政法人「航空大学校」(宮崎市)。学科、心理試験、身体検査、そして実際のシミュレーターを使った適性試験を経て、入学が許された。航空大では約2年間で、旅客機の操縦士に必須の事業用操縦士(旅客を乗せて飛ぶことのできる資格)と計器飛行証明(旅客機はほとんどが計器飛行で飛ぶため)を取得する。2003年1月から訓練を開始。まず、操縦のために知識の基礎となる学科を3カ月行う。パイロット志望の学生はほとんどが理系出身の中、柴田さんは高校時代から文系。学科教育では「必須の物理と数学でとても苦労した」という。

 3カ月を経過すると、本校のある宮崎を離れ、帯広分校へ。ここでは単発機の米ビーチ社製ボナンザを使って自家用操縦士免許相当の訓練に入る。そこでは、誰の力も借りず一人で飛行機を離陸させ、飛ばし、着陸させる単独飛行…ソロフライトの能力が求められる。柴田さんも快晴の日を選んでソロフライトに挑戦した。「教官に緊張をほぐすためにチョコ菓子を渡され、終わったら(よくやったと)またチョコ菓子を渡された。チョコ菓子でソロフライトに成功したかも」と笑う。

 帯広では空を飛ぶ喜びも味わった。「教官が洞爺湖上空を飛ぶコースを選んでくれた。空から見た、その光景の美しかったことは忘れられない」

 帯広分校での半年の訓練が終わると一旦、宮崎本校に戻り飛行経験を積み重ねた。最後の訓練地は仙台分校(仙台空港)。ここでは双発機の米ビーチ社製キングエアという、より旅客機に近い機体を使って事業用操縦士免許と計器飛行証明の取得に挑戦する。「双発機は単発機とは比べられないほど力強く、それを制御するのに苦労した。訓練の中でこれが一番むずかしかった」と柴田さんは振り返る。

 航空大での2年間の訓練を終え、所定の資格を取得して05年3月に卒業したものの、当時は不況で航空会社には就職できなかった。そこでアルバイトとして選んだのはヨガのインストラクターだった。1年間、アルバイトで生活し、やっと翌年06年4月に全日空に入社することができた。

 ◇パイロットの男女差

 航空業界での女性パイロットの評価は「男性より離着陸がソフト」(あるベテラン機長)という声もあるが、おおむね「男女で差がない」という意見が主流だ。特に大型機は飛行の大半がコンピューターで制御されており、コンピューターを使いこなすレベルでは、性別による差はなくなると考えられている。柴田さんも「男性の機長から『女性は違う』といわれたけど、具体的には何が違うのかは説明が得られなかった」と話して「性別による差を特に感じない」と話した。

 しかし、目に見えて違う部分がある。それはパイロットとしての「ライフサイクル」だ。柴田さんの飛行時間は約1800時間。同年代のパイロットとしてはやや少ない。航空大の同期生と結婚、3年前に娘の出産を経験したからだ。出産前後2年間、操縦はできなかった。復帰しても一定時間の復帰訓練が必要だ。

 「パイロットの価値は鞍数(飛行経験)」という風潮は航空界では根強い。今までのパイロットの「ライフサイクル」はコンスタントに訓練生→副操縦士→機長→教官…と飛行時間を伸ばして経験を積み重ねていくものだった。これを、出産する女性パイロットもいることを前提にどう変化させるか。今後の航空界全体の課題だ。

 ◇娘が乗っていると思って操縦する

 柴田さんの夫は、国際線に乗務する副操縦士で、あまり家にはいない。また、柴田さん自身も最大2泊3日で家を空けることもあり、自宅近くに住む母親が子育ての応援にきてくれている。最初はお母さんと離れられなかった娘も3歳となり「あれがお母さんの操縦する飛行機」と教えることで、最近は出かけるときも、ぐずらなくなったという。

 「なんとしても機長になりたい」という柴田さんが、体調管理などのほか、安全のために心がけている“基準”がある。それは「娘を乗せている」と思って操縦することという。「そう思うことで、安全に対して厳しくなれる」。今日も柴田さんは「母親のこころ」を秘めて日本の空を飛んでいる。

 ◇女性エアラインパイロットの数は世界で約4000人

 アメリカの女性エアライン・パイロット団体「インターナショナル・ソサエティ・オブ・ウイメンズ・エアライン・パイロット」のHPによると、全世界のエアライン・パイロット約13万人のうち、女性は約4000人(うち機長は約450人)で約3%。ローコスト・キャリア(LCC)の出現など世界的な航空運送の伸びで、現在、パイロットは不足気味。運航会社側は女性のコックピット進出への大きな期待を寄せている。柴田さんも「日本でも、もっと多くの女性がパイロットになってほしい」と話している。

最新の画像もっと見る