パル便り goo

趣味の披露および日常生活の客観的自己観察等々

未来から来た(3)

2013年07月22日 | 小説

ここで時間転移の原理について書いておこう。
私の居た時代では時間転移はできるのだが、それに伴って起こる重大な欠点がどうしても調整できない。論理的にも調整できる見込みは無い。
すなわち時間転移は重力制御法の副産物として偶然できたものなのである。
重力制御の研究で第三軸を成極させれば重力場をゼロにする代わりにこれをマイナスに持っていくことができる。理論的にはそうなのだが実際にはある時間に移動させる対象物は常に2個の対でなければならないのだ。1個は未来へ1個は過去へ。作用反作用の法則である。そして必ず一方は捨て石になる。未来・過去行く方向どちらかを選択できないのだ。


さらに悪いことに未来に行ってしまった場合は戻って来られない。戻って来られるのは過去に行った場合のみだ。

私は幸いにも過去に来た。しかし私のダミーは未来に行ってしまったはずだ。そして未来で生きている。


…続く

 

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約半年ぶりに小説に復帰しました。


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未来から来た(2)

2013年02月12日 | 小説

20世紀くらいまでは美人のパターンがあったようだ。当然それに当て嵌まる者は限られてくる。
しかし21世紀に入ると、精神的にも経済的にも完璧に自立した多くの女性たちの不満を、ひとつの美人のパターンでは抑えきれなくなった。

これと相乗するように、女性の購買力の目覚ましい向上は、女性に特化した市場獲得競争を煽動した。それは企業の生存競争にとって必須の市場原理だ。
ファッション、化粧品、メーク、ヘア、アンチエイジング…これらが巨大市場になるためには全ての女性が美人になり得るという前提をこしらえる必要がある。そこで本来、理論的には欠点であるはずの、平均値から外れたパーツを‘個性’と呼んで尊重するようになった。
こうしてすべての女性が「自分は正統派美人ではないかもしれないが個性派美人なのだ」と自らを納得させることができるようになり、すべての女性が美人レースに参加するようになった。
美人の多様化である。


…続く

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小説 未来から来た(1)

2013年01月09日 | 小説

私は自分の細胞を使って顔の造形の再生をする必要に迫られていた。


再生医療は、自らの細胞を自身の治療に使うオーダーメード性の高い治療法であるが、私が生存している23世紀にはこの治療法が法律で禁止されている。それゆえ私は時間を移動する必要があったのだ。そう、私は未来人なのである。

2012年にips細胞で日本人の医学者がノーベル賞をとり、時代は正に再生医療の産業化へと進んで行った。
各国とも再生医療を従来の医療とは別の分野に位置づけ新産業として発展させるため、伝統的な薬事行政の枠を超えた大胆な取組を進めたからである。
しかし23世紀間近のある時点に起きた重大な医療事故はその後、世界中を巻き込んで、生存権VS.人権の対立となり、この時代の国連にあたる世界人権機構はついに、法律で再生医療における細胞の使用を禁止するに至った。
22世紀後半から力を持ち始めた世界人権機構は、世界平和および人権堅持を目標に各国の法律を管理、調整する権限をも持ち、法律のみならず国際政治の頂点に君臨していたのである。
したがって私の生存する23世紀現在、薬事法では、副作用が無いにもかかわらず、再生医療技術を使った製品も不特定多数の人々が使用し副作用発生のリスクがありうる一般医薬品と同じレベルでの厳格審査の対象となった。
そもそも再生医療も含めた医薬品の認可では、そうでなければ救われない患者の命と、薬害との両方のリスクを考慮しなければならない。正式な手続きで承認された医薬品について重大な事故が生じた場合に、認可当時の知識の制約を考慮せず担当者が刑事責任を問われるような状況は断じて認めるわけにはいかないというのが世界人権機構の言い分だった。


幸いにも22世紀末には時間を移動することが可能になった。23世紀になってからは、しかるべき理由と申請書によって行政による正当な手続きを踏めば誰でも移動が可能なのである。現に私の夫もそうして未来から来た。
スーパーコンピューターは自ら知能を持つやいなや猛烈なスピードで進化することを繰り返した。結果、時間を移動することも、移動した者が元の時間に帰ることも、時間経過中の本来経過との相違の修正も可能にした。行政の発行した許可IDを、帰還時にスーパーコンピューター(23世紀にはエルーガという)に通すことで、経過時相違の修正をし、元の時間に状況を全く変えず、再生医療だけを施術し帰還することが可能だ。
私はこの時代、すなわち、再生医療が産業としてまさに開花していこうという2013年、に移動して来た。自分の再生医療の為、自分の細胞を手に入れることができるのはこの時代しかないからである。


…続く

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小説 昏睡女 -最終回-

2012年08月30日 | 小説

目を閉じ、現実世界から意識を遮断する、じっとそうしていると眠気が訪れる。
そのようにして、小さいころから困ったときにはいつも異次元空間へと私は一種のテレポーテーションを繰り返してきた。シチュエーションはまるで現実のように展開されてゆく。それを目の当たりにすればおのずと回避する道は開け、取るべき選択肢は決まる。そのようにして出した答えに間違いは無いはずだ。予知夢だから。
今まで眠りは私をベストな結論へと、支援、誘導してくれた。
しかしテレポーテーションを使い過ぎたか。最近、睡魔との戦いは抗いようも無く、もはや手の打ちようの無い重傷を呈している。もういけない。こういう恣意的な睡眠は危険だ。
元に戻れなくなるんじゃないか、永遠に時を浮遊することになったらどうしよう、最近は不安におののく。

**************************

「不眠じゃないのよ、過眠なのよ。どんなに睡眠時間を採っても眠くなるの。」
私が訴える。
「近年の研究では脳が自ら能動的に睡眠を起こしていることがわかってきている。君の脳はそれを十分承知したうえで、意思をつかさどる脳からアクションをつかさどる脳へと、眠ってくれって命令を下していると言える。
睡眠中には生命を維持するためのさまざまなホルモンが分泌され、体の成長や回復・修復をしている。大脳を休ませ、記憶を定着させてもいる。君はそういう睡眠の成果のなかでも特化されたものを得ることを目指して自ら誘導し意思で操ることができる。」
縁の太い眼鏡をかけ、髪をオールバックに撫でつけている。学生のころは前髪は鬱蒼と垂らしていたものだ。変わらないのは顔に張り付いている微笑が人為的で誠意が感じられないこと。
「それって特殊能力?」
「かもね。」
僕も経験してみたいもんだな、予知夢、という精神科医を無視し、帰ることにした。

**************************

 私はおそらく一人が好きなのだ。孤独が好きというのとは少し違う。干渉されたくないというのとも少し違う。自分の見ている風景と世界、それと自分だけが現実と乖離した存在としてそこにある、というシチュエーションが好きなのだ。

そして私は今、答えの出ない問題で悩んでいる。これから先、私がどうなるのか、どうすべきなのか、考える必要もないのか、考えても無駄なのか、答えは分からない。
そうこうしているうちにもまた、抗い難い睡魔がやってきた。

 【終わり】

 

 

ご購読お疲れ様でした

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小説 昏睡女 -5-

2012年07月17日 | 小説

前回までの話⇒

 しばらく雨上がりのベランダにいてこの街を眺めた。私の住むマンションは駅前エリアの第一商業地域に立つだけあってワンフロアに高さがあり、用途に汎用性を持たせている。ゆえに7階のベランダはかなりの高さだ。高所恐怖症の私がベランダに出ることは殆ど無い。排気ガスが上がってくるしビル風もある。だが雨が洗った街はきれいだ。デ・ニーロの『タクシー・ドライバー』に、ハンドルを握りながらそんな台詞をはくシーンがあったと記憶している。今このベランダは風の音が聞き取れるほど静かだ。

街全体の風景はどこにでもある東京郊外のベッドタウンだ。駅を中心に再開発が加速度的に進み、今も建設中の高層マンションが空に向かって何本も伸びている。三十代、四十代のファミリー層が一気に増えていた。ここにいるのは大半が新住民たちだ。

CDのボリュームをいっぱいにして車が走り抜けて行ったのだろう。B'zの「 LIVE-GYM 2012」のフレーズが風とともに舞い上ってきた。
この街に来て10年以上になるのに、未だに地域住民の意識が全く湧いて来ない。おそらくそれは、皆が同じ方向を見ていると感じるせいだろう。必要以上に貯蓄することの無意味さを知ったうえで、自分たちのタイムリーな生活部面における‘質’を重視している。その目に映っているのは、すでに入手済みの、比較的贅沢な個のテリトリーの景色、というのが共通点だ。だから交わることが無い。

   ********************************
 駅のコンコースから雨に濡れずに行ける敷設面積の広い全面ガラス張りの新ビル。その3階から7階を占めるのが、友人の精神科医がメンタルヘルスの専門医として週1回来る、最新医療技術の粋を結集させた、財団法人運営の総合医療センターだ。恩師筋からの依頼で断れずアルバイトで来ている、と言っていた。本来の勤務先では夜勤もあるため、むしろここでの仕事は楽勝だとも。
だだっ広いロビーに置いてあるパンフレットには、
‘医療を取り巻く環境の変化に対応し、今後の新しい医療施設のあり方並びに健康診断システムについて、地域及び職域における健康管理のあり方に関する調査、研究、開発への助成とその振興を図るための事業を行い、もって国民の健康保持増進と福祉の向上に寄与することを目的としております。各科専門医・認定産業医・ドック認定医と医療技術職員が、最先端の検査機器や技術を駆使して健康診断を行っております。この施設の機能とご利用結果は、各種の癌や生活習慣病、またその早期発見・早期治療のほか、健康保持や健康づくりの一助となると自負しております’
とある。

この手の総合医療センターは大都市にあると街にひしめくライバルたちと激しい戦いを展開する羽目になるが、平凡なベッドタウンとなると、都会まで出かけなくても最先端技術を施してもらえる、という郊外在住者の中央主義をくすぐるアドヴァンテージを得て、かなり存在感がある。
シンガポールあたりの豪華ホテルでよく見る、高層の最上まで一気に吹き抜けにしたタイプの、空が見えるラウンジのような待合室。受診者はゆったりと雑誌を読んだり、目を閉じたり、携帯に目を落としたり、思い思いにくつろいでいる。背の高い南国系のプランターがソファの合間合間に、バランス良く配置され、我々の姿を適度に隠す。正面には大画面TV、BGMには「アメージンググレース」が静かに流れている。
黒革のソファに沈み込むと体全体が包み込まれる。心地好い。いかん、また眠ってしまう。

そのとき、私の番号が呼ばれた。

   ********************************

「要するにうつ病ってのは‘上司の顔色より、自分の顔色が心配なんだ’ってことだよ。」
友人の精神科医は開口一番こう言ったものだ。さらに、
「TVゲームみたいに簡単にリセットできるバーチャルな世界と違って本当の対人関係では、一度けんかをすると修復作業がすごく必要になる。そういったトレーニングをしていないと、周囲とのコミュニケーションに問題が発生しやすくなる。」
とも。
「でも悩みが形を変えるだけなんだよね。人間て足りなければ足りないことに悩んで、あればあるで、失ったらどうしようって悩むんだよ。」私も件の感想を述べた。
「相変わらず断定的にものを言う。だけど、澄んだ目の奥にいつもゆるぎない自信を感じさせるから相手は圧倒され、納得してしまう。その自信はどこから来るんだろう、って昔も思っていたよ。」

それは予知夢に裏付けされた近未来を私が知ることができるからよ。そう、それが今から君に相談しなければならない私の秘密なのだ。過睡眠とも関係ある、これから君に相談しなければならないこと。

・・・続く

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