デミング博士のニューエコノミクスって

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タグチメソッド(オフライン品質工学)

2006-03-26 17:09:53 | R 統計
 今回は,かなり間が空いてしまいました.一寸野球が面白くてw.オフラインの品質工学についてさらします.

 といっても,この前までにメモ書きでプログラム等をさらしていますし,品質工学は,他の人がいっぱい Web で情報をさらしていますので,ここではあっさりとさらす程度にします.

 本当は,さらしていたメモ書きもまとめたいのですが,うまくまとまりそうも無いので,そのまま放置します.

 ちなみに計算方法の詳細等は「タグチメソッド」でぐぐれば,かなりの情報が手に入りますし,宮川さんの本と田口さんの本をあわせて読めば判りやすいです.(分散分析や直交表の基礎知識は必須ですので,知らない人は鷲尾さんの本とかも必要です)
 田口さんの本だけでは,たぶん私みたいに落ち込むこと必死です.


1.オフライン品質工学について



オフライン品質工学は,下記のような流れになります.
  • その製品に使用するシステムの選択(自動車であれば,サスペンション方式の選択等)
  • そのシステムのパラメータ設定及び評価(選択したシステムに対するパラメータの設定及び実験・解析)
  • その部品等の許容差の解析


 重要なのは,2番目の「システムのパラメータ設定及び評価」です.
ここで直交表の実験及びSN比の算出を行い,どのパラメータ設定が製品の性能のバラツキに対して効果的かどうかの評価を行うということです.

 特に,田口さんが強調している点は,「品質問題の94%は,設計(製品設計・工程設計)が原因である.」という点と,「もぐら叩き」を無くす為には,システムを構成しているサブ・システムもしくは部品,のテストピースの特性のバラツキを極力減少させ,その後,製品の能力・工程能力の向上を図るという「テストピース」での研究及び「2段階設計」が必要という点です.
 この2段階設計がある特定のモデルで効果的なことは,Leonさんという人が,たぶん確率論のモデルだと思いますが,で証明しているそうです.
 証明は,宮川さんの「品質を獲得する技術 タグチメソッドがもたらしたもの」のP. 105~107にわたって示されています.が,私には難しすぎてわかりません…….
 orz 確率もっと勉強しないと…….

 ここでテストピースとは,部品やサブシステムそのものではなく,その部品等を良く表している基本的な事柄があっているものです.(例えば,サスペンションであればバネとダンパの組み合わせですよね.これも共振周波数やら減衰係数やらがあっていれば,小さな模型でも同じような振る舞いをしますので,自動車につくような大きさでなくても実験できますし,コンピュータでのシミュレーションでもOKです.)

2.オフライン品質工学 実際の手順



用語の定義



まずここで,用語の定義をします.

品質とは?



品質工学(タグチメソッド)では,下記のように品質を定義しています.

”品質とは,品物が出荷後,社会に与える損失である.ただし,機能そのものによる損失は除く.”

 ここで,機能そのものの損失とは,「ゲームは楽しいため,子供は夢中になって長時間遊んでしまい,勉強時間が減ってしまうかもしれないが,楽しめる事がゲームの機能なので,その事による損失(勉強時間の減少)は品質問題として考えない」ということです.(これは,宮川さんの「品質を獲得する技術 タグチメソッドがもたらしたもの」の P.11 の内容をまとめたものです.)

各種因子について



因子(Factor)とは,その機能や,品質を決定する要因(パラメータ)の事です.

  • 制御因子:制御因子とは,そのシステムのパラメータであり,設計者が自由に設定できるパラメータです.(例:サスペンションであれば,バネの太さ,バネ係数や材質,ダンパの種類や減衰係数等)
  • ノイズ因子(誤差因子):ノイズ因子とは,そのシステムの使用条件等(サスペンションであれば,路面状態や,カーブの曲率,または部品の老化等によるバラツキ等),設計者が指定できない因子です.
  • 信号因子:ユーザがそのシステムを使用するための指令(信号)の因子です.
  • 標示因子:誤差因子,信号因子ではないが,その因子の効果を測定したい時に用います.(例:重力)  これはかなり画期的なことらしく,今までの統計的な分析では,ノイズの大きさとそのシステムを構築している制御因子とが交絡していて,また,その複数の制御因子同士が交互作用を起こしていて,どうすればいいのか判らなかったそうです.  ところが,SN比で計算すると,誤差因子・信号因子と制御因子間の交互作用(つまりノイズの影響及び,信号が制御因子に与える影響がわかるので,どの制御因子がノイズに弱いのか,どの制御因子がノイズに強く,また,信号に従順に従うのかが判るという事で,この分析方法はかなり役に立つと思います.

    SN比

     SN比とは,信号^2/分散 の事で,信号とそのバラツキを1つの値で評価する方法であり,今までの分析(分散分析等)では,その信号の平均値の分析でしかないものを,バラツキも合わせて分析する事により,より効率的な分析が可能になったとのことです.  大体のシステムでは,信号が強くなると,ノイズの影響も大きくなるため,(アンプで音楽を大きくする時は,ノイズまで大きくなりますよね?),今までの統計的分析法のように,信号とノイズを別々に分析すると,どうしていいかわからなくなります.(だって,信号を大きくすれば,ノイズも大きくなるんですもの.)ところがSN比では,そんな時もSN比が一定になりますし,制御因子の水準によって,SN比が大きくなる(つまり信号の効果の方が大きい)かSN比が小さくなる(つまりノイズの効果が大きい)がわかりやすきなります.  これもかなり凄いです. 具体的な計算は,SN比の計算方法の項を見てください.

    オフライン品質工学の手順の概要

    オフライン品質工学の手順の概要を説明します.

    手順1:システム選択

    システムの種類(サスペンションで例えれば,ストラット,ダブルウイッシュボーン,リーフリジッド等)を選択する.この選択には,市場における使われ方を技術的に検討する事は勿論,その中でもなるべく複雑なもの(調整できるパラメータを多く持つもの)を選択する.

    手順2:因子の選択

    手順1で選択したシステムの因子(制御因子,ノイズ因子,信号因子)を決定する.この因子の決定には,技術的な検討を経て決定する.決定した因子での実験結果が悪い場合は,その技術的検討が適切でないことになる.

    手順3:実験計画を立てる.

    手順2で決定した因子を,制御因子とノイズ因子,信号因子で直積になるように直交表を2つ使用し配置する.(通常は横の直交表を内側直交表と呼び,制御因子を配置し,縦の表を外側直交表と呼び,ノイズ因子,信号因子を配置する)

    手順4:実験実施及びSN比の計算

    手順3で立てた実験計画(直交表)の通りに実験を行い,その結果をSN比としてまとめる.

    手順5:パラメータの決定

    手順4で求めたSN比を分析し,最適なパラメータの決定及び,その最適なパラメータの時のSN比を推測SN比として計算する. また,最適な制御因子のパラメータを用いたシステムを標準状態で信号因子を調整し, そのシステムの機能を最適に調整する.

    手順6:確認実験

    手順5で求めた最適なパラメータを用いたシステムにて,再度実験を行い,そのパラメータが適切であったかどうかを推測SN比と確認実験結果のSN比を比較する事により確認する. 適切でない場合は,手順2に戻る.

    手順7:許容差の解析

    手順6の結果を重回帰分析等でそれらのパラメータの寄与度を計算し,公差等の決定に用いる.

    3.PDCA(PDSA)とオフライン品質工学

     実は,オフライン品質工学って,実験に失敗する事がかなり前提として組み込まれているような気がします.ですからPDCA(PDSA)の考え方が必須です.  デミングさんのPDSAの内容(このブログのどこかにあります)を見ても,何かオフライン品質工学っぽいことが書かれていると思います.  従って,やはり開発や製造のマネージメントに関しては,デミングさんの考え方を取り入れないと,オフライン品質工学の導入は無理でしょう.  特に,「実験1回失敗したから,お前の査定は-1だ!」なんていわれたら,やる気は起きないでしょうし,火消しに成功したら査定は+1と言われたら,初めからタグチメソッドを使う気は起きないでしょう.

    4.SN比の計算方法

    5.参考文献

    • 田口玄一, 品質工学の数理, 1999, ISBN:4-542-51118-9
    • 田口玄一 他, 開発・設計段階の品質工学, 1988, ISBN:4-542-51101-4
    • 宮川雅巳, 品質を獲得する技術 タグチメソッドがもたらしたもの, 2000, ISBN:4-8171-0399-6
    • 鷲尾泰俊, 実験計画法入門(改訂版), 1997, ISBN:4-542-50330-5