彼女との邂逅はあれで終わり。そう思ってた野々野国人である。出会いは最悪だった。けどそのあとの食事はとても楽しい時間だったといえる。彼女はとてもサバサバとしてた。
けどそれを自覚はしてなさそうというか? いや、もうなんか諦めてるというか? 仕事の電話に出た時は彼女は一気に雰囲気が変わった。それこそ最初あのカフェで待ち構えてたときのような『できる女』――感がその時にはでてた。
だから多分、本当に彼女は普段はあっちが彼女の普通なんだろう。周囲にはきっと彼女は『できる女』を演じてるのだ。じゃあなんで野々野国人には気の良いお姉さんみたいな、いや姉御……とでも言えるような感じなのか? それはやっぱりもう情けない姿を見せてしまったから……なんだろう。
実際、野々野国人もバリバリのできる女の人と話すよりも気さくな感じの女性の方がやりやすかったからありがたかった。それにきっとこれで終わり……という気持ちもあったから、気が楽だった……というのもあった。
楽しいひと時……それは間違いなかった。これで終わり……そのはずだった。いや別にそういった会話をしたわけじゃない。国人もそして彼女もただ楽しく食事をして会話をして「それでは……」と社会人らしく別れたのだ。
その後ももちろん野々野国人は会社で上司にガミガミいわれた。どうやら国人は上司に目をつけられてるようだ。そうやって嫌な上司に捕まって残業やら押し付けられてすっかりいつもの23時過ぎに家に帰ってスマホを確認すると、彼女から連絡がきてた。
『今日は楽しかったです。ありがとうございます』
まるで業務連絡のようだった。女性なら無駄に動くスタンプとか色がチカチカする文字を使ってメッセージを送って来そうだけど、そんなのは一切なかった。でもだからこそ、特別な感じなんてなかった。
「いえいえこちらこそ。ありがとうございます」
そんな風な返しをして、野々野国人は終わったと思ってた。けど……
「あら、偶然ですね」
次の日も野々野国人は彼女に会った。おにぎりを食べようとした公園のベンチ。飲み物は公園の蛇口からひねった水を添えて――をお供にしてた時、ぴっちりとしたズボンに白いシャツに身を包んで髪の毛もまとめた彼女がいたんだ。
それからも彼女は野々野国人の前に現れるようになった。野々野国人はその意味……を考えるようになっていく。
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